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闇の影 影の船【麦わらミステリー劇場】





 町を歩いている時、前から自分とまったく同じ姿をした人間が歩いてくるのを見た男はこれ以上ない程の恐怖を感じたという。


 何故人は、自分の姿に恐怖を覚えるのだろう。誰よりも知り尽くしている自分の姿だというのに。


 いや。


 だからこそ人は怯えるのかも知れない。誰も知らないもう一人の自分に……。










 ふー……とサンジは窓の外に向けて、タバコの煙を吐き出した。サニーサウザンド号の一階、アクアリウムバーの廊下で一服しているところだ。

 この大きな水槽はフランキーの力作の一つで、サンジのお気に入りの場所だった。目の前にも天井にも魚達が悠々と泳いでいるから、まるで自分まで海に浸っているようだった。

 と、向こうからばたばたとやかましい足音が聞こえてきて。

「おー、ルフィ。なんか釣れたかー?」

 声をかけるが、ルフィは何も答えず走り続けている。サンジが怪訝に思ったところで、すれ違いざまルフィがこぶしを振り上げる。

「……はっ!?」

 思いもよらない行動に、サンジは反応しきれない。顔をかばおうと腕を上げるが、ルフィのこぶしはみぞおちに打ち込まれる。

「ぐ……!」

 ふざけてやったのではないルフィの本気の一発。それはサンジの体を吹っ飛ばすのには十分だった。

 床に倒れこんで、サンジは呻く。

「あのヤロウ……! 一体何のつもりで……!!」

 顔を上げると、ルフィは甲板の方へ走っていく。クソ、と悪態をつくと、サンジはその姿を追いかける。










「ロビンの花、綺麗ね」

 花壇に咲いている花を見て、彼女は笑う。

 ぱっちりとした黒い瞳、同色の長い髪は潮風にさらさらと揺れている。歳はナミと同じ18だが、それよりずっと幼く見える。

 少女の名はリリー。先日海で拾った漂流者だ。困っているレディーを放っておけないサンジの騎士道とルフィの判断によって、次の島まで送ることになっている。乗り込んだ船が海賊船であることすら初め気付かなかった彼女は、真実を聞かされて失神するほど驚いた。だがだんだんとクルー達にも馴染んでいき、今はこうしてみんなに囲まれて笑っている。高額の賞金首が揃うこの船で、なかなかの度胸の持ち主だ、とナミは思う。

「しかし釣れねェなぁ……」

「お前そればっかりだな、まだ釣り始めたばっかだ」

「俺はでっかい魚が食いたいぞ……早く釣れないかなぁ!!」

 ルフィ、ウソップ、チョッパーの会話を聞いて、ナミは海を見る。波も風も穏やかで、まさに航海は順調。

「おいルフィ!! どこ行きやがったぁッ!?」

「ん?」

 みかんの木の手入れをしていたナミは手を止めて、声のした方を見る。甲板からの階段を上って、サンジが現れた。

「サンジくん? どうしたの?」

「ナミさん、クソゴム知らねぇか!?」

「る、ルフィならここにいるけど……?」

 すごい気迫だったのでナミは驚いてしまう。何か怒っているようだった。サンジはずかずかと大股に、こちらに向かってくる。その足取りからも彼の怒りが見て取れる。

 サンジはナミの前を通り過ぎると、ルフィに向かって怒鳴りつける。

「おいルフィ!! お前いきなり殴るとはどういう了見だ!!」

「あ? 何のことだ?」

 サンジはルフィの胸倉をつかみあげる。

「とぼけんじゃねぇ!! お前がそこまでフザけたやつだとは思わなかった! 悪戯が過ぎるんじゃねぇのか、ああ!?」

 覚えのないルフィはただうろたえるばかりだった。他の仲間達も驚き戸惑う中、ナミは慌てて静止の声をかける。

「ま、待ってサンジくんっ。ルフィは私達とずっとここにいたのよ? そのルフィを見たのはいつなの?」

「……ついさっきだ。殴ったあとすぐ逃げたから、追いかけてきたんだ」

 少し間を置いて、落ち着きを取り戻したサンジが手を離す。とりあえず緊張から開放されたその場は、だが別の空気に包まれる。

「ねぇ、ほんとにそれはルフィだったの?」

「ああ、間違いねぇよナミさん。確かに顔も見た」

「でもルフィはずっとここにいた。……ってことは、“また”みたいね」

 はぁ、とナミは溜息をつく。それを聞いてウソップが口を挟んだ。

「また、って……おいおい、これで何度目だよ?」

「分からないわ、数えてるわけじゃないもの」

「ナミ、私気味が悪い……なんだか恐いわ……」

 リリーが不安そうにそばによってきて、ナミの服の裾をぎゅっと掴む。

「ルフィ、どうする?」

「どうするって言ったって、別に放っといてもいいだろ」

 ナミは危機感のまったくない船長の後頭部を、ゴン!と一発殴った。

「――こうなったら、緊急会議を開くわよ」





こちらの場所長い作品があんまり見られないので大丈夫でしょうか;
続けて投稿するので続きが気になった方はどうぞ♪

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