412

月の無い空の下で 前編



目の前に欲しい物があるのに

それは 凄く遠くて 

何も届かなくて

手を伸ばす事もできず

ただ 目をそらす事しか―


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


暗い海の上で一瞬辺りが明るくなり、すぐまた元の暗闇に戻る。今夜は晴れていない為、月が雲に隠れてしまい闇を一層深めていた。

「ったく最悪な日だぜ。」

くわえていた煙草を手に移し溜め息をつく。

「ついてねぇよな…。何が悲しくて野郎と二人で寝なきゃいけねぇんだ。」

サンジは一人不満を吐き捨てた。そして煙草をくわえ二度目の溜め息をつく。
今日は何だか盛り上がった。みんな飲んで、暴れて、そのままキッチンで眠ってしまっている。。ナミは夜更かしは美容に悪いからとビビを連れて部屋に戻っていった。サンジは、後片付けやら明日の準備をして、やっと落ち着いた所だった。キッチンではすでにルフィとウソップとチョッパーが寝ているし、鼾がうるさくてとても休める感じがしない。なら部屋に行けばいいのだが。

「何であいつはキッチンにいねぇんだよ!」

サンジの声はすぐに静かな海へと消えていった。
酒に強いゾロは酔いつぶれる事なく部屋で休んでいた。
ただでさえあわねぇ奴なのに…。
短くなった煙草を消し、二本目の煙草に火をつける。本当はもっとうまいはずなのだが、月は出ていないし、休めないしで気分最悪な為少し苦く感じた。

「チッ。ほんとに最悪だぜ。」

サンジは力なくズルズルとその場に座り込んだ。まだ長い二本目の煙草を消す。

「…ゾロ…。」

月の無い空を見上げ無意識に男の名を呼ぶ。そしてそのままゆっくりと目を閉じた。




次に目を開けたのはそれから二時間後。相変わらず月は出てなく、真っ暗な海だけがあった。

「げっ、俺眠っちまったのか。」

まだはっきりしない頭をおさえながら煙草を取り出し火をつけようとする。

「ん?」

ふと何かに気づき一点を見つめる。人がいる。それが誰だかわかるまでに時間はかからなかった。サンジは取り出した煙草を元の箱の中に戻し立ち上がった。

「ゾロ?」

近づきながら名を呼ぶと、男は振り返った。

「よぉ、目ぇ覚めたか。」

やはり思った通りだった。しかし何でこいつがここにいるんだ?

「お前、寝てたんじゃないのかよ。」
「ん?…あぁ…。」

少し困ったような顔をしサンジから目を逸らすと、近くに置いてあったボトルを手に取った。

「急に目が覚めた。それで、酒でも飲もうと思ってよ。」
「てめぇは、あれだけ飲んどいてまだ飲むのか?」
「あんなの飲んだうちに入んねぇよ。」

呆れ顔のサンジに涼しい顔で答える。

「こんな月も出てねぇ日に飲んでうまいのか?」

サンジは大袈裟に空を指しながら言った。

「まぁ、暗い海ってぇのも悪くねぇ。」

そう言って海を見つめながら酒を飲むゾロがなんだかいつもと違って見え、サンジは不思議な気分だった。

「…それに、船長にお前を探せって命令されたしな。」
「ルフィが?」
「あぁ。」

何故だかわからねぇがどうせルフィの事だ。腹が減ったとかいう理由だろ。

「その船長さんは?」
「…さぁ、寝てんじゃねぇのか。」

あいつの言う事はあまり信用できねぇが、うるさくねぇし多分寝てるな…。さすがに夜は食欲より睡眠欲の方が勝ったみてぇだ。しかし、こいつが船長の命令とはいえよく従ったものだ。俺を探せなんて命令聞きそうにねぇのになぁ。

「何でだ?」
「お前…たくさん言葉が抜けてるぞ。」

サンジの問いなんて理解できるわけがない。当然ゾロは悪くないわけだが、この話し方が余裕に見えてサンジにはカチンとくる。

「別になんでもねぇよ!」
「何怒ってんだ?」
「あぁ?!折角一人でいたのに、俺の静かな時間が台無しだ!」

俺とこいつはあわねぇ。喧嘩をするたびにサンジはそう思った。

「悪かったな。でも、うるさくしてんのはてめぇの方じゃねぇか。」
「何だと!!」
「耳元で叫ぶな。だからうるせぇって言ってんだ。みんなが起きるだろうが。」

自分が負けたようで面白くなかったが、ゾロの言葉に従うしかなくサンジは口を閉じた。
沈黙が続く。ついに耐え切れなくなったサンジがこの場から去ろうとすると、強い力によって後ろに引っ張られる。

「んだよ。離せ!」

ゾロにつかまれた腕を大きく上下させる。

「お前も飲まねぇか?」

ゾロの思ってもみない言葉に一瞬自分の耳を疑う。驚きが大きすぎて反抗する声も出てこない。
わけわかんねぇ…お前は俺が苦手なんだろ?よくわかんねぇ…わかんねぇけど、一緒にいちゃまずい気がする。

「遠慮しておく。何で俺がてめぇと二人きりで酒を飲まなきゃいけねぇんだ!?」

やっと出た反抗の言葉。これだけ言えれば十分だ。ゾロは腕を組み少々呆れてサンジを見た。

「一つ聞いていいか?」
「な、なんだよ。」
「お前、いつも怒ってるけど、俺の何が気にいらねぇんだ?」

こいつは何言ってやがる。真剣になって聞く事かよ…。そういう所がむかつくんだ。

イライラする…。

「全部だよ。」

どうだ。
いつでも喧嘩を受けられるように構えていたサンジをゾロは見つめた。

「…そうか…。」

そう一言呟いて、ゾロはボトルを持ち背を向ける。肩透かしをくらったサンジは、そのままゾロの背を見つめていた。
んだよ、いつもは食って掛かってくるくせに…クソむかつく野郎だ。

「おいっ!」

呼び止めようと肩に手を伸ばした時、バンッと勢いよくドアの開く音と同時に、大声が二人の耳に届いた。

「サンジ!肉!!」

二人が見上げると、そこには一人の男が両手を挙げて立っていた。

「ルフィ…」。
「あの馬鹿、寝ぼけてやがる…。」

ゾロが言った通り、それだけ言うとルフィはその場に倒れ、再び鼾を掻き始めた。ルフィの元にゾロが駆け寄る。

「おい、ルフィ。風邪ひくだろうが。」

何度揺すっても起きる様子がないルフィにゾロが苦笑する。

「ったく…困った船長だな。」


あ…今こいつ笑った…。


目の前の光景は特別な光景ではなかったが、ゾロたちを遠くから見ていたサンジは、そこから動けなくなっていた。


やべぇ…俺……嘘だろ…?


『それに船長にお前を探せって―』
そうだよ。おかしいと思ったんだ。あいつが俺を探すなんて。あーそういう事か…あいつはルフィが―。
心臓の音がやけに大きく聞こえてくる。


そういや、あいつ俺の前で笑った事なんてねぇよな。笑う所か名前すらまともに呼んでもらってねぇ…。最悪だ。


それでも月が出ていれば少しは気が楽になれただろうか。そんな事を考えながらサンジは煙草を取り出し、火をつけそれを胸いっぱい吸い込む。ゆっくりと息を吐くと、煙が冷たい空気と混ざり消えていく。
一番気づきたくなかった事に気づいちまったかもしれねぇ。何か頭が痛てぇし体が熱い。吐きそうだ。

「気持ち悪りぃ。」

足の力が急に抜けサンジはその場に倒れた。遠くの方で自分を呼ぶ声がする。

んだよ…。今頃呼ぶんじゃねぇ。

よく聞こえねぇじゃねぇか


…クソ野郎。
取り合えずここまで。よく読んでくれました!感謝。誤字脱字はきにすんなっ!

[mente]

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  • No.1
  • 柚城 悠
  • 2006-07-31T19:00
うおおぉぉーーー;;超絶切ねェー;;
いやー・・続きが気になるな・・(笑)

ゾロの気持ちはいかに!そして倒れたサンジに一体何がッ!
次回「俺の名前は耳元で叫べクソ野郎!」をお楽しみにw(勝手に次回予告作るな;)
次回を是非とも期待してるよw

mente

  • No.2
  • コロン・リバーユ
  • 2006-08-01T10:30
きゃー;切ない!せつな過ぎる!
もう続きが気になる;
さすが緑夜様・・・・
私もまけてはいられないわねv
じゃ、次回を期待して今ーースv(手ヒラ

mente

  • No.3
  • 緑夜
  • 2006-08-01T20:14
おお〜!!2人とも感想サンキュウ〜〜〜!!

次回「俺の名前は耳元で叫べクソ野郎!」をお楽しみに(爆笑)
冗談です(笑)でも、それはそれでいいな。

コロンのも楽しみにしてるぞ!!俺もあんな青春なのを書いてみてねぇなァ(無理だって;/笑)

mente

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