332

月の無い空の下で 後編

「―い。…おい…。」
 
頬を軽く叩かれ重い瞼を開ける。まだだるい体を無理に起こすと、額から、生ぬるくなったタオルが落ちる。外はまだ暗い。

「今何時だ?」

自分の頬を叩いた人物に問い掛ける。

「1時になった所だ。」
「…一日寝てたのか、俺は…。」

まだ気分はいいとは言えないが、大分楽にはなっていた。熱もひいていた。辺りを見まわしていると、溜め息をつきながらゾロが煙草を投げる。

「ほどほどにしとけよ。」

ゾロの言葉に答える代わりに煙草に火をつけ吸う。

「これ飯だ。少しくらいは食っとけよ。後、チョッパーに頼まれた薬。」

サンジが息を吐きながら笑う。

「てめぇが優しいと気持ち悪いな。」
「悪かったな。もうしねぇよ。」

ゾロが不機嫌そうにサンジから顔を反らす。

「ああ、そうしてほしいね。」

今一番話したくない人物。そんなサンジの気持ちを知らないゾロの動きが止まる。

「お前なぁ、人が折角…。」
「折角…何だ?」

静かな時間が二人の間を流れた。

「…何でもねぇよ・・・。」

そう言ってゾロはドアのノブに手をかける。
イライラする。

「折角見に来てやったのに…か?今度はルフィに何て言われたんだ?サンジを見てろとでも言われたのか?」

何も言わないつもりだった。なのにうまく感情がおさえられない。
こんな事言うなんて自分でも馬鹿だと思う。

「お前…何言って…。」
「そうだよな。ルフィに言われちゃ断れねぇよな。例え嫌いな奴を探せって言われても…。」

弱い自分が居る事に気がついた。嫉妬している。情けなかった。見とめたくなかった。なのに一度出た言葉と涙は止まらなかった。
頬を涙がつたいシーツの上に落ちていく。

「…イライラする。…俺はお前が大ッキ―。」

その時扉が開いた。
サンジの口から出ようとしていた言葉は、そのまま飲みこまれていった。二人の視線が扉を開けた人物へと向かう。

「よぉ、どうしたんだ二人とも。」
「…ルフィこそどうしたんだ?」

ゾロが問い掛けると、ルフィは、んっと頷いてサンジの側へ寄る。

「サンジが心配で見に来たんだ。うぉっ!サンジ、どっか痛いのか!?」
「はぁ?何が?」
「泣いてるからさぁ。」

そう言われ、サンジは泣いている自分に初めて気づき、慌てて袖で涙を拭った。

「ゾロ、ちゃんとうちのコック見てなきゃ駄目だろ!」
「あ、ああ…。」

二人が話している姿。今までどって事なかった。なのに、今は心臓が壊れるのではないかと思うくらい痛い・・・。

一度自分の気持ちに気づいてしまったら、もうそれを抑える事も、隠す事もできない。
だから、嫌だった。ゾロと一緒にいるのはずっと嫌だった。
好きになったら待っているのはバッドエンドだけだから。気づかないでいた方が幸せだった。

サンジは二人から目を反らし、それでもわからないように無理して笑って見せた。

「そういやルフィ、ありがとな。」
「何がだ?」
「俺を探すよう、そいつに言ったんだろ?」 
「ゾロに?」

ルフィがゾロを見る。急に焦り出したゾロを無視して、ルフィが言葉を続けた。

「そんな事言ってないぞ。」
「は?…どういう事だ…?」

サンジが吸っていた煙草を消し、ゾロを見る。

「いや…それはだな…。」

ゾロが何か言おうとするのだが、先が進まない。気まずい空気が流れる。
しばらく黙りこんでいたルフィが突然、おおっ!と手を叩いてから、ゾロに笑いかけた。

「それで、サンジは見つかったのか?」
「…ああ…まぁな…。」

何となく難しい顔をしてゾロが答える。

「おお!良かったな。…昨日の夜、ゾロがキッチンに来たから、俺、てっきり食いもんあさりに来たと思ってたんだけど…。何だ…あれはサンジを探してたんだな。」

ゾロの背をバシバシと叩きながらルフィは笑った。

「お前起きてたのか…。」
「ウソップが肉とられたくなかったら、死ぬ気で寝た振りしろって。」
「…あいつ…。」

ルフィがまだ全てをのみこめずに、ぽかんと口を開けているサンジに近寄り、耳元で一言呟く。

「じゃ、俺寝るから。」

驚きの目で見るサンジに笑顔を向け、ルフィは部屋を後にした。

『俺は、サンジもゾロも大切だからな。』

かなわねぇよな、全く。全部お見通しって事か…。苦笑し煙草に手を伸ばす。しかしそれに届く前にゾロに手をつかまれる。

「それくらいにしとけ。体に悪い。」

見上げると、いつもの不機嫌そうな顔がそこにあった。

「離せよ。」
「断る。」

見つめられ、目を反らしながらサンジが問い掛ける。

「お前、俺を何で探してたんだ?」
「別に・・・。」
「つまみを作ってくれってか?」

つかまれた手を振りほどき、冗談っぽく笑ってみせる。

「・・・お前ずっと無理してただろ。熱あるのに、みんなに飯つくって。」
「・・・知ってたのか・・・?」

驚いた顔で見ると、ゾロは頭をかき、観念したかの用に口を開いた。

「てめぇは、危なっかしい。自分を犠牲にしすぎだ。そんな事して、こうして倒れてちゃ世話ねぇよ。」
「なんだとっ!!あんときお前が部屋で寝てなきゃ、俺だって倒れてなかった!!」
「あ?なんで俺のせいになるんだよ!」
「うるせぇ!だいたい、何でルフィに頼まれただなんて、嘘ついたんだ?」

ゾロがぐっと、口を閉じ苦い顔をする。珍しく顔が赤い。

「・・・・・・言えるわけねぇだろ。お前が心配で探してたなんて。」

心配?こいつが俺を?・・・嘘だろ・・・。
思ってもみないゾロの言葉に心臓が大きくなる。

「何でだよ…。」
「お前が嫌がると思ったんだ。俺の事嫌ってるみてぇだったしな。」
「そっちだろ!?嫌ってんのは!」
「んな訳ねぇだろ!嫌いな奴心配するほど俺はできた人間じゃねぇよ!」

耳まで赤くなったゾロがサンジから顔を反らす。
こいつでもこんな顔するんだな。
今まで見たことのないゾロの姿が新鮮で、じっと見上げていると、急に手を引っ張られ、抱き寄せられる。

「のわっ。何すんだ!離せっ!!」

暴れるサンジを抱きしめるゾロの手に力が入る。

「悪かった。泣かせちまって…。」

いつになく低い静かな声で話すゾロに暴れていたサンジの動きが止まる。
抱きしめられていた手が緩められる。

「泣いてんのか…?」

顔を見ようと覗き込んだ瞬間、唇が塞がれた。

「…んんっ…。」

乱暴な激しいキス。何度もキスをされ、ようやく唇が離れる。

「悪い、我慢できなかった…。」
「馬鹿野郎っ…。」

見つめあい、再び唇が重なる。

「サンジ。」

名前を呼ばれ、驚いて閉じていた目を開ける。顔を確認する前に、抱きしめられゾロが小さな声で囁く。

「――――。」

「あ?何?きこえねぇよ。」
「二度といわねぇ。」

なんだそりゃ、と思いながらサンジはふとゾロの後ろにある窓に目をやる。
何もない真っ暗な空だけがそこにはあった。

「あー・・やっぱ、月がでてる方がいいかもしれねぇなぁ。」
 
窓の外を見ていたサンジの耳元でゾロがぽつりと呟いた。
不思議そうに首を傾げているサンジに、キスをしながらにやっと意地悪そうに笑う。

「お前の身体がちゃんと見えるからな。」
「なっ・・・馬鹿じゃねぇの!!?」
 
くくっと喉の奥で笑うゾロに、真っ赤になって怒鳴りつけ、慌てて離れる。

「クソッ、もう俺は寝るぞ!」

がばっとシーツをかぶり真っ赤な顔を隠すサンジの後ろでゾロが笑う。

「あぁ、おやすみ。」

そういって、ゾロは部屋を後にした。


部屋からゾロがいなくなった事を確認し、シーツから顔を出すと、煙草をくわえ再び窓の奥を見つめる。そこには何時のまにかさっきまで隠れていた月が姿を見せていた。サンジはすった煙を吐き出し、苦笑する。

「月ねぇ・・・。」

そして、タバコをもみ消すと深い眠りについていった。


END
完結です!甘すぎず辛すぎずをテーマに(ぇ)書いてみました。好きだ!俺もだ!みたいのが無いため、煮え切らない感じですが、いいんです。奴らはこれで(勝手にキメ/笑)
読んでくれてありがとう!

[mente]

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  • No.1
  • 柚城 悠
  • 2006-08-11T10:12
おおーーーこれはいいなァw今回ルフィが二人に気使ってくれてるのがどことなくこう・・・クルー愛ってのも見えるw

サンジがやはり可愛いですw
まぁようはこの二人は・・・・言わなくても分かり合える存在って感じっすよねw


やっぱ緑夜すげェなw
後編楽しませて頂きましたw超満足ですw

mente

  • No.2
  • 緑夜
  • 2006-08-16T16:00
感想ありがとう!!前半よか、ちょっと展開が速いかもとか・おもいつつ・・・。
しかし、満足w
ルフィめちゃいい奴だな。今度はルフィの小説も書いてみたい!もちろんサンジと、切ない系で(笑)

満足といってくれてマジありがとな〜!!

mente

  • No.3
  • コロン・リバーユ
  • 2006-08-17T09:14
うきゃーーーーーーーーーー!
きたーーー!(なにがだ;ってか落ち着け)
これだこれ!こういうのが読みたかったんだvサンジとゾロ最高だあんたらーーー!v(うるさい;)さっすが緑夜さまv
私も負けじとどんどんとうこうさせていただきますvいつかきっとシリーズ完結したんでよんでくださいませvvv

mente

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