銅系材料の腐食について 事例4


銅は実用上多くの金属の中でもっとも活用頻度が多い。それだけに多くの分野で銅特有の現象も見られます。この経験談を整理してみました。
次の腐食例は 水中での銅の腐食事例です。
@ 冷却水中による腐食事例 4 (酸素腐食)
銅管は多くの冷却系統機器に使用される。冷却水中で銅は溶解して悪さをする場合がある。
この事例を示しましょう。一般的には 冷却水中の酸素(冷却水中に溶解する酸素の事で溶存酸素といいます。DO/DISSOLVED OXYGEN)
冷却水中での銅の溶解腐食速度は 溶存酸素(DO)に関係します。
この現象は 欧州では以前から気にしていたことで その一例情報は以下の図 でも明確です。
(引用文献 : 火力原子力発電 : Vol.48 No.1 p82-97 Jan.1997)
50ppb から 1000ppb の溶存酸素濃度のときに 腐食しやすい傾向にあります。 従って腐食しにくい工夫は 
 1) DOを 極端に少なく管理する (低 DO方式)  又は
2) DOを 1000ppb以上に確保する。できれば飽和濃度に確保する
の2つの方法があります。
これに関しては EPRI: Steam Turbine Generator Notes- September 2002 を参考にするとさらに詳しい事がわかります。
1)については 従来の古典的な考え方で 銅の地肌を絶えず露出させて 冷却水中の酸素をなくして 銅と酸素の 冷却水中での電子のやいとり すなわち 酸化還元による 銅の溶解を抑制する方法です。理論的にはこの方法が成り立ちます。
一方
2)については 冷却水中の溶解酸素を多くして 銅の表面を酸化第一銅(Cu2O)で留めずさらに 酸化を進めて 酸化第二銅(CuO)の 腐食に強い皮膜を絶えず形成させる方法です。
これらの 1)と 2) のどちらの方法採用が適切かは 採用する人の運転条件等で異なります。
低DO管理方式では 極めて小さいDO値管理となる事から 大気との遮断工法が必要です。
冷却水中の 酸素濃度は 冷却水温度が高くなると  小さくなります。
常圧では 室温(25℃)で DO=8000ppb 、 60℃あたりで 4500ppb相当です。
沸点の100℃近くでも1000ppb以上になるので 2)方式では大気開放方式をとれば かってに酸素は大気から冷却水に溶解してくれることになります。便利ですね。
ここで 注意すべきことは 水への酸素の溶解度は 水の温度が高くなると 減少することです。従って 水の温度が変化する場合には 最高温度の水の時の 酸素の溶解度(DO) の管理が重要です。
銅管内径が小さいと 銅の腐食生成物が 詰まる事があります。 これcloggingといいますがその原因は 酸素不足の冷却水中で酸化第一銅(Cu2O)の主体形成にあります。
この酸化第一銅は色相が茶褐色、電気的形態が酸素不足ゆえのP型半導体である面での導電性です 。 物理的な形態が 粒子状の結晶体でコロイダルで これが銅管の内部の目つまりの原因になります。
これに対して 酸素豊富な状態では まず酸化第一銅を銅の表面に形成し、その上に酸化第二銅(CuO)が形成されます。この酸化第二銅は  色相が黒色、 電気的形態が絶縁体で 物理的な形態が針状結晶体からどんどん緻密な形態を進めて 平滑な皮膜を形成します。
絶えず酸素が供給されるとこの皮膜は形成維持されて強い腐食防止膜を形成します。酸素豊富な冷却水は 古典的な腐食理論では 特に隙間腐食では 酸素と銅の酸化還元作用で銅の溶出を促進するなどの懸念事項はあるので 今 EPRI等の研究機関で調査中です。
 しばらく 結論が出るには時間がかかるでしょうね。 期待しましょう。