誘電材料への宇宙環境の影響について 目的 絶縁材料等の誘電材料は放射線等のエネルギー履歴を受けて物性量が変化する。 ![]() 図1 誘電材料の耐放射線性評価 シリコンゴムは種類によっては 悪いものもあるので 実用化にあたっては 実力把握が大切です。 エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(Tefzel)は テトラフルオロエチレン(テフロンの化学名です)の耐放射線性 を改善したものです。材料4でも示しましたね。このようなフッ素系材料の耐放射線性の研究は日本でも日本原子力 研究所等でなされています。 この後に整理しておきますので見てくださいね。 2) 材料物性の寿命限界値 それでは 放射線劣化した場合 や 一般的な熱的な劣化、環境変化による劣化等での物性 の変化の度合いはどのように限界評価するのでしょうか。 これには 電気学会 電気規格調査会標準規格(JEC-6151)や 目安が示されていますので 参考にすると良いでしょう。 一例は図2 塩化ビニルの伸びと5wt%減量温度との関係 ; (電気学会技術報告 第463号 から引用)です。 ![]() 塩化ビニル材料を各種線量率で放射線劣化させた後にその材料の引っ張り伸びとそのときの 物理化学分析(熱重量分析TGA)による5wt%減量時の温度を見たものです。 なかなか良い直線関係にあります JEC-6151などでは重量減少10%程度が劣化の目安としており、物性の寿命も5〜10wt% 減量時点を限界とするのは経験的に妥当と思われます。 この図2からは次の事などが 考えられます。 @ 線量率の大小、温度の影響度については さらに詳細情報が必要ですがTGA 5w%時温度が低いほど (劣化が大きいほど)伸びも直線的に低下する。 これから 伸びに実用上の限界値を決めれば時間ごとにサンプリングした材料の TGAの5w%温度を測定する事によってその寿命値に近づく様子を管理する事にて 予防保全が可能になる事です。 ここで TGA 5wt% 時点の温度というのは以下のモデルで理解してください。 図のT5が5wt% 時点の温度になります。 3) 材料構成の耐放射線性 誘電材料は放射線エネルギを 其の構成材料の結合部の一部が吸収して励起されて振動し、 変質します。一般に耐熱性が 良い材料は対放射線性も優れています。 それはその分子結合状態によって異なり、此れが耐放射線性の良否を決めるのです。 ではどのような化学結合が強いのでしょう。図3 で見比べてください。 分子構造に ベンゼン環 や イミド環 を有するものはこのすぐれた部類に属します。 ![]() 図3 一般的なプラスチックでは -(-CH2-CH-)n-は架橋型 で 放射線を受けると 架橋と崩壊の競合で分解しにくい状態を形成して 耐放射線性は ある程度維持する。 上の構造に対して -(-CH2-C-)n- は崩壊型のようです。 テトラフルオロエチレン(テフロン)がこの例で 崩壊するのみで耐放射線性は極めて 悪い。 これが テフロンの唯一の欠点 といえます。 これを改良したのがこれとポリエチレンとの共重合体 テフゼルです。 図1を見ると大分 改善されていますね。 4)原子状酸素による損傷 耐宇宙環境材料の実験 の 一環として原子状酸素による誘電材料の劣化調査として 東工大 小田原教授による 情報がある。 以下はその例で地球からの高さによって その大気中の酸素は原子状になり、 その濃度分布が異なる事である。当然 高くなる ほど 真空にちかくなるので 酸素分子の数は減少する。 ![]() 以下はNASAによる試験結果の報告で シャトルによるフライト実験による結果である。 耐熱性の良い ポリイミドのカプトンでさえ、NASAの試算では 10年で0.3mm、30年で 1 mmも 膜厚が減少するとしている。 ここでも テフロンは 膜厚減少が小さく ,優れものである事がわかります。 ![]() この原子状酸素による劣化が 身近に起きています。 例の宇宙観測船関係で 地球資源衛星1号(JERS-1)の機能停止原因についてという NASDAの報告があります。 この原因推定として以下の事が記されています。 推定原因 ; (NASDA見解) 太陽電池と結びつく一部の電源系電線の一部が宇宙空間に露出されていた可能性があり、 設計寿命の2年を大幅に上回る約6年半にわたる運用の結果、この部分の電線被覆が原子状酸素 及び放射線により絶縁劣化を起こして電線間で短絡し、これが拡大したことによると推定された 使用している電線はポリイミド焼付フッ化エチレンプロピレン(FEP)絶縁電線であり、0.16mm厚 のFEP樹脂の上に対放射線を高めるためにポリイミドワニスを3μm厚程度焼き付けしている。 原子状酸素に対するポリイミドの反応率は3.3×10-24cm3/atm、またFEPの反応率は 0.05×10-24cm3/atm以下であり、JERS-1のように軌道が低い(570km)場合、ポリイミドが 減少し易く(5×1019atm/cm2/year)、2年間で3.3μm減少すると推測され、ミッション期間 終了時にはポリイミドはほぼ無くなっていたものと考えられる。 また、FEPの放射線耐性は1×106rad程度であるが、4.5年で1.3×106rad程度の放射線を あびたと考えられ、放射線劣化によって脆くなったFEPが温度サイクルにより損傷したことは 十分推測される。 このように 誘電材料もその性能影響は計り知れないところに使用されています。 材料の 本質を理解して その用途先まで 眼を通して診る気持ちが大切ですね。 |