僕の彼氏は変態かもしれません
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天然パイパン、生理、タンポン、素股
上記の単語が多発します。



 そもそも、なぜこんなことになっているのか、帝人は今一つ納得できずにいるのだ。
 流され易いだとか、押しに弱いだとか、自身の性格にそういった面があることは否めないが、それだけでもないと思っているし、要所要所、自身で判断し、分かれ道を選んだからこその今があるわけで、目隠しの状態で手を引かれ続けたなどということはないはずだった。
 しいて言うなら、両親を人質に取られて、無傷で解放して欲しければ、おたふく風邪のウイルスと、発癌性物質と、狂犬病ウイルスのいずれかに罹れと脅されたような心情だ。おたくふく風邪のウイルスを選んだのは自分自身で、選択の自由もあったし、両親が無事であったことに安堵こそすれ不満はないけれど、納得のいく選択肢ではなかったというかなんというか。
 折原臨也という「先輩」の、「彼女」になってからというもの、そんな未消化な感情が、胸の内にたまっていくことが増えた。いわゆる告白をしたのは帝人のはずだったが、そもそもなぜそんな告白をする気になったのかが思い出せない。唯一、告白をした瞬間に浮かべられた臨也の顔だけはよく覚えている。すごい笑顔だった。びっくりしたものだ。
 帝人は、まかり間違っても自身の彼氏のことを、おたふく風邪だとか、発癌性物質だとか、狂犬病ウイルスだとかと言いたいわけではない。帝人は臨也のことが好きであったし、臨也は臨也で、帝人のことを彼女として扱っていると知っているからだ。嫉妬をして喧嘩をすることもあれば、臨也の部屋で隣に座り、手をつないでくだらない話だってする。
 友人や親しい人たちからは、おおむね「捨てられる」「利用される」「危ない目に合う」といった意味合いの説得を様々な形で受けた。むしろ受けている。ただ、帝人自身はあまり危機感がない。というのも、あまりに臨也がそんなにひどいのだと感じれば、別れればいいと思っている節がある。
 好きだと伝えて付き合うことも、ひどい人だといって別れることも、普通のことだと帝人は思っているが、ただ、それを伝えると、多くの人は妙な顔をした。そして反対に、「確かにそうだけど……」と、まるでこちらが狐にでもなって、相手をだまくらかしているような顔つきをするのだ。相手が臨也だという時点で、確かに帝人には緊張感が少々足りないのかもしれなかったが、反対に、臨也が帝人にとって、あまりにも酷な事態を招くとも思えなかった。帝人と臨也の共通の知り合いは多く、そして、帝人に取戻しのきかないようなことをすれば、臨也にとっても面倒なことは数多く起こるはずだった。
 打算的だと言われればそれまでだったが、帝人は、保身に関してはある程度の観念を持っている。恋愛と自己防衛は全く違う目的をしているのだから、その点に関しても、帝人は至って一般的なことをしているに過ぎないはずだった。
 唯一面倒なことがあるとすれば、そういった帝人の内面が滲むと、大概は臨也と喧嘩になることぐらいだ。「俺はこんなに愛してるのに、帝人君は全然俺のことを愛してない」「ちゃんと好きですよ、好きじゃなければ付き合いません」「違うよ、確かに好きだから付き合ってるのかもしれないけど、別れてもいいと思ってるんだ」「別れたくないですよ、もしもの話です」「もしもの話でも冷静にそんなことが考えられるんだ、やっぱり愛してなんか」、字面にすればただのバカップルだ。
 臨也は本当に手間のかかる男で、そして口が達者だったから、帝人はよくそんな風に、駄々や我儘を直球で投げつけられて困ることがあった。だから、膝枕をして欲しいだとか、手をつなぎたいだとか、そんな要求はまったくもって可愛いもので、帝人も、二人っきりならばいいかと、基本的には是と答えるようにしている。
 ただ、やはり納得ができない状態というものはある。今現在が、まさにそんな状態である。



 「デートして帰ろう」と、メールが来たのは、二時限目が終わった十分休憩のときだった。明日は第一土曜日なので休校日であり、そうであれば、臨也からの誘いは珍しいことではなかった。
 帝人の通う高校は、第一と第三の土曜日が休日に充てられている。ただ、この場合そのまま連れ込まれる予感しかしなかったので、「生理中だからできませんよ」と、帝人は先手を打った。「いつもそんなこと考えてるの? えっちな子だねぇ」と返事が来て、イラッとしたものだが、臨也と金曜日や土曜日にデートをして、そういった展開にならなかったことの方が少ない。互いに一人暮らしであるせいか、一線を越えた後の無遠慮さは目を覆いたくなるものがあった。ただ、月曜日に体育があるため、日曜日の臨也は紳士的だ。だから、帝人は日曜日のデートが好きだ。単純に、愛されていると実感できる。
 「いいよ、一緒にかえろ」と、さらにメールが届いたのは昼休みになってからで、帝人は、ちょうど杏里や正臣と昼食を摂っていた。「わかりました、掃除が終わったら、そちらの教室に行きます」と返信をして、携帯から顔を上げると、正臣はやはり複雑そうな目でこちらを見ていた。反対に、杏里は、とりあえずは様子を見る心積もりのようで、過剰な反応はない。
 二人から向けられる好意は心地よいので、帝人は気分よく食事を終えることができた。正臣には、心配をさせて申し訳ないと、胸中で苦笑する。ちなみに、メールが途切れた理由は、三時限目の間中、上級生のクラスがある四階から、怒号とガラスの割れる音と哄笑と何かがぶつかり合う音が聞こえていたので気にしなかった。多分、帝人の通う学校は、スルー検定会場になれる。
 日中は、晴れれば暖かい日和が続いているが、暦を見ると、すでに秋口を通り越している。枯葉が通学路へ落ちるごとに、冬の寒気が近づいてくるような頃合で、朝方はぶるぶると震える日も近い。そう考えると、帝人は少々憂鬱になった。暑さや寒さに対して、帝人は耐久力に優れているが、耐久力があることと、寒いと感じたり暑いと感じたりすることは全く別物なのだ。そこには、耐えられるけれどもつらいという、どうしようもない現実がある。
 多くの下級生にとって、上級生のクラスは居心地が悪いものだ。ただ、帝人が放課後、二階分の階段を上って恋人のいる教室まで行くと、それとは別の居心地の悪さを感じる。皆、人でなしで有名な男の彼女が気になるようで、あまり隠す気のない視線を感じるのだ。ただ、それでも臨也本人が、帝人の教室に訪れるよりはずっといい。
 廊下の窓ガラスは、三枚ほどが段ボールで塞がれていた。意外と今日はおとなしかったのだなと帝人は思ったが、臨也のクラスに入ろうとして、その教室が立ち入り禁止になっていた。隣の空き教室の引き戸に、臨時のプレートがかかっている。マジックで乱暴に書かれた「3-B」という文字に、教師の苦労が透けて見えるようで、帝人はなんだか申し訳ない気分になった。
 開いたままの出入り口から、様子を窺うように少しだけ顔を覗かせると、ちょうど顔をこちらに向けていた新羅が、帝人へ手を振ってくれた。知った顔にほっとして、手招きされるまま教室へと入り込む。やはり、ちくちくとした視線が刺さる。帝人は、注目されることに大して慣れてはいないので、こういったときにどう反応するのが正しいのかよくわかっていない。だからこそ、一番簡単な「無視」という手段にしか出ることができない。ちなみに、「それで正解だよ」とからから笑ったのは、今帝人の前で人好きのする笑顔を浮かべている岸谷新羅である。臨也と「友人」だという、ある意味で帝人以上に奇特な人物だ。
「岸谷先輩、こんにちは」
「うん、こんにちは帝人君。臨也ならいないけど、どうしたんだい?」
「え」
「え、って……え? 待ち合わせでもしてたのかな? あいつなら、昼から見てないけど」
 新羅は、彼の思い人に関することでなければ、多くの場合無害だ。毒にも薬にもならないとも言う。その点、帝人も同じような評価を得ることが多いのだが、他者に与える存在感には雲泥の差があるので、彼女は案外、新羅と会話をするのは好きだった。彼は、臨也とはまた違った分野に博識で、想像力があるのだ。
「メールは? つながるの?」
「送ってみます」
 帝人が片手でメールを打つ合間にも、「どっかで寝てるのかもねぇ」と、新羅は興味も薄そうに呟く。
「あり得ますね」
「何なら帰ってしまえばいいよ」
 携帯から顔を上げた帝人に、新羅は口調の柔らかいまま友達甲斐のないことを言った。ただ、それに関しては、帝人は曖昧に笑った。帰った後、臨也がどうなるか想像がつくので、「放置」という選択肢は、帝人には最初から存在しない。
 新羅も、すでに帰るつもりだったようで、荷物のまとまった鞄を持つと、どうするのかと尋ねてくる。帝人は、臨也の机まで小走りで近寄ると、大して中身も入っていない鞄を左手に下げた。右肩にかかっている彼女自身の通学鞄に比べて、受験生であるはずの恋人の鞄は薄っぺらく、そして軽い。ならばなぜ持ってきているのかと過去聞いたことがあったが、咄嗟の折の盾にしているらしい。鞄を盾にする「咄嗟の折」に関しては、帝人は言及しなかった。
 教室に二つある出入り口のうち、後方の引き戸の脇に立って、新羅はのんびりとした空気のまま笑っている。彼は、帝人の様子に、僅かに苦笑したようだったが、特に何かを言うことはなかった。新羅は、帝人の見る限り、概ねそうだ。たぶん、臨也との恋愛事情に関して、賛成とも反対とも言わない帝人の知り合いは、新羅くらいのものだった。
「とりあえず、心当たりを探してみます」
 新羅に合わせて教室を出ながら、狭い選択肢から、帝人は無難なものを選ぶ。狭いというよりも、二者択一であり、さらに言えば、結果は一つしかないようなものだ。探すか、もしくは待つか。それならば、返信が来るまでの間、校内を回っている方が、幾分気がまぎれるに違いなかった。
「図書室にでも行って暇を潰せばいいのに。帝人君は、臨也のことが好きだねぇ」
「それ、あの人が癇癪を起してるときに言ってやってください」
「癇癪を起してたら、俺の言うことなんかあいつは聞かないよ」
 ちなみに、新羅が帝人のことを「帝人君」と呼ぶのは、臨也の呼び方にそのまま倣っているだけだ。
 新羅は階段をおり、帝人は上る。まずは屋上を覗いてみるが、日が落ちかけ、肌寒いふきっさらしのコンクリートの上で、寒がりな臨也が寝ているはずもなかった。夕日の目に痛い茜色が、段々と西に追いやられている。帝人は小さく息をついて、デートはおじゃんかなぁと内心で呟いた。



 放送室に足を向けたのは、すでに校内をぐるぐると回って、帝人も、もうそろそろ諦めてもいいのではないかと思い始めた頃だった。
 廊下に伸びる帝人の影は、落ちかけの夕陽に比例して長いものになっており、黒いストッキングをはいた脚にも、夕刻のひんやりとした空気がまとわりつく。タイツを履くのはまだ早いかなと、せめて10月後半まで待つ心積りだったが、元々の冷え症も相まって膝下が寒い。
 校庭からは、部活動の掛け声が聞こえている。先ほどまで、微かにブラスバンドの管楽器の音色が、帝人の耳に届いていたが、音楽室は校舎の端にあるので、それらの和音はもう遠かった。
 人気がなく、寒さをしのげて、眠れるスペースがあり、臨也が気に入りそうな場所というと、そう多くもないはずだった。ちなみに、あの男が気に入るというのは平和島静雄が近寄らない場所というのと同義だ。
 保健室と、図書室の奥まった席を見て回り、被服室の鍵がかかったままであることを確かめる。視聴覚室は真っ暗だったので、一応スイッチをつけてみたが、埃よけを被せられた黒い機材があるだけで、少々不気味なほどだった。メールの返信もないので、帝人はうんともすんとも言わない携帯を片手に、次の場所に居なければ帰ろうと、「見つからないので帰ります」という文面を作成しながら歩いていた。
 鞄を預かっていると送ってしまえば、臨也は不機嫌になりながらも、大して必要ではないそれを受け取りに、帝人の部屋まで来るだろうとも思った。帝人の生理は軽い方で、鈍痛や頭痛や、精神的な負担も少ない。かといって、三日目に長々と歩き回りたくはないと、長々歩き回った後で考える。この時点で、帝人は大いに、臨也のことを特別好いていると自身のことを分析できる。そして妙に恥ずかしくなるのだ。
 学生が委員会として使用する放送室は、別棟の三階にひっそりと存在している。教師たちは、職員室と隣接する簡易の呼び出し部屋(と生徒たちは言っている)から校内放送をかけるので、昼の休憩時間の自由放送時以外は、ほぼ無人になった。放送部として部活動でもあれば、部室として使われるのだろうが、委員会なので、放課後にまで職務に打ち込む学生は少ないという現状もある。体育祭や文化祭では、放送委員はそれこそ砦にこもって出てこないが、あとは毎週木曜日にある定例朝会のおりにマイクを用意するくらいだろう。帝人は中学まで地元の公立校に通っていたが、そこは放送部が比較的活発的な学校だったので、その温度差に驚いたものだ。
 ドアノブを下げると、鍵がかかっているような固い抵抗はなかった。防音処理のされているそれは重く、鞄を両手に持っている帝人が外開きのドアを開くのは結構な労力だったが、彼女の恋人は果たしてそこで呑気に寝こけていた。
 カーペットが敷かれているので、上履きを脱ぎ、そろそろと室内に入り込む。カーテンのかかった窓際に、ホワイトボードが置かれており、数個のパイプ椅子が立てかけられていた。機材なのか机なのか、帝人にはよくわからない黒い平らな機器の向こう側には、ガラス窓を挟んでもう一つ小部屋がある。後程臨也に教えてもらったが、窓ガラスの向こう側がスタジオで、こちら側を調整室というらしい。「役割としては副調整室にあたるんだろうけどね」と言われて、ならば「主調整室」はどこにあるのだと疑問を抱いた。ちなみに学校の放送室には必要ないそうだ。
 臨也は、放送機器の前に置いてあるパイプ椅子に腰かけている。脚を上げていないのは、彼の良心なのか、それともミキサーのつまみやボタンにあたって、脹脛が痛むからなのかよくわからない。多分後者だと、帝人は思う。
 彼の脇にはペットボトルと携帯が置かれていた。文庫本は伏せられたままで、この男が、午後を有意義にサボっていたことが帝人にもわかった。カーペットのおかげか、そもそも足音はしなかったが、思わずすり足になる。覗き込むと、臨也の瞼が痙攣した。起きなければ、鼻でもつまんでやろうと帝人は思っていたので、少しつまらない気分になった。
 きれいな顔の臨也を見ていると、僅かに目が開いて、帝人へ視線を寄越す。そして、まだ鈍いらしい頭の動きをゆっくりとならすようにあくびをする。自分から誘っておいて、寝ていた男とは思えない滲み出る余裕があった。帝人は、やはり少しだけイラっとした。
「おはようございます先輩」
「……うん、なんか寝すぎて頭が重いよ」
「いつから寝てたんですか」
 「帝人君から返信が来て、すぐくらいかなぁ」と、臨也は言いながら伸びをする。そして、脇に立っている帝人を手招き、一歩近づいた相手を抱きしめた。腹部と胸の間あたり、しいて言うなら胃がある部分になつき頬ずりするので、帝人はその頭に鞄を押し付ける。
 臨也は、「はいはい」とでも言いたげに頬ずりをやめると、帝人の腰へ左腕を回したまま、携帯の画面を確認している。むしろ、帝人としては鞄を受け取ってもらいたかったのだが、多分臨也はわかった上でしているので、小さく息をついた。パイプ椅子の足元に相手の荷物を置き、臨也の作業が終わるのを待つ。
 帝人が送ったメールを読み終えたのか、臨也は折り畳み式の携帯をポケットにしまうと、再度帝人のことを見上げた。もうすっかりと、眠気の払われた双眸だった。
「探させて悪かったね、放送室にいるよ」
「そうですね」
「鞄もごめんね」
「お気になさらず」
 帝人の声が平坦になり、不機嫌であることを伝えている。臨也は楽しげに笑う。すでに五時を回ろうかという時間で、あと一時間もすれば日が落ちてしまう。部活動や委員会は六時までが原則なので、校門が閉まるまでにはまだ余裕があったが、わざわざ校内に残る理由もない。
 帝人が、「帰りましょう」と言いかける前に、臨也は機嫌良さそうににこにこと笑うと、帝人の右手を握ってくる。そして指を絡ませて、いわゆる恋人繋ぎをする。そういった接触に、不慣れな帝人は眉をひそめるが、理由は嫌悪ではなく羞恥である。手のひらと手のひらがぴったりとくっつき、臨也の指が帝人の手の甲をくすぐる。手を払うほどでもないが、どう反応すればいいのかわからず、帝人は空いている左手で、スカートの端を握った。
「なんですか?」
「彼女の手を握ってるだけだけど?」
「そうじゃなくて……」
 途端、帝人の身体が引っ張られる。舌を噛みそうになり、思わず息をつめた帝人を膝に乗せた臨也は、「柔らかいなぁ」と気持ちよさそうな声を出している。右肩に下げていた鞄がずり落ちて、少しだけ痛かった。それなのに、手をつないだままでいる臨也に、帝人はなんだかどうしようもないような感情が芽生える。杏里からは「母性じゃないんですか」と言われた。妙な説得力があった。
 肩掛け鞄の紐が邪魔で、帝人が右手を振ってみせると、反対の左手を捕まえられた。臨也の右手と帝人の左手がぴったりとつながり、そうすると右手がほどかれる。どこかしらを捕まえていないと逃げられるとでも思っているような仕草だった。
 臨也の黒い学ランの上に、帝人の青いスカートが広がる。帝人は、ブレザーも、リボンタイもシャツも、きっちりと規定通りに着ているようなタイプだったが、そこから僅かに覗いている首筋に臨也の鼻が当たり、耳までをなぞった。そのまま、臨也は顎と頬にキスをする。
 唐突な襲撃だったので、帝人はどうしたものかと悩んだ。いちゃいちゃしたいのだろうとは思ったが、場所を弁えると止めるべきだったし、鍵をかけていない扉も気にかかった。ただ、その件を出せば「鍵をかける」というフラグが立つ。帝人はそのフラグを回収する気はなかった。というより、そもそも立てる気がない。
「午前中、胸の悪くなることが起きて、そのまま寝ちゃったからさぁ」
「ああ……」
「寝起きに帝人君見て、今すごいいちゃいちゃしたいんだよね」
 帝人にしてみれば、「そうですか」としか言いようがない。同時に、多少の嫌な予感が芽生えた。臨也の左手は、帝人の背中に回っていて、ブレザー越しの背筋をゆったりと撫でている。愛撫している仕草だ。時折、襟足をくすぐるようにいじられて、妙な感覚が走る。
「あの、先輩」
「うん?」
「僕、生理中だって言いましたよね。終わりかけじゃないんです、三日目です。まだだらだらです」
「帝人君はデリカシーをどこに置いてきちゃったのかな?」
「主に先輩が盗んでいきました」
 「でも俺も持ってないなぁ、売っちゃったかも」と軽口を返される。なら買ってきてほしいと帝人は思う。
 臨也は、上機嫌の笑みを浮かべたまま、帝人の上半身を撫でている。相手の脚を挟んでいる帝人の両膝に、思わず力が入った。加えて、握られた手のひらに、嫌な汗が滲んでいる。
「うん、だから本番はなしで」
 血の気が引いたので、帝人はそれこそバネ人形のように臨也の上から飛びのこうとした。そしてがっちりとホールドされる。傍から見ていれば、それは本気で嫌がって逃げようとしている猫を捕まえるときに似ていた。わめいている姿も猫に似ている。ただ臨也は、人が嫌がることも喜んでするタイプだ。文字通りの意味だ。
「やめてください血みどろなんて! しかも学校ですよここ!」
「そもそも生理中はできないなんて誰が決めたモラルなんだろうねぇ、学校でしちゃいけないっていうのもさ。モラルやマナーっていうのは一辺倒な規律とは違うんだ。人間が他人に不快感を与えないために、自然と起こる良心的行動。それがモラルやマナーなわけで、時代や状況によってそれらは変容してしかるべきだろう? 明らかに体調の悪そうな学生に席を譲り、孫に体力自慢をしている老人は進んで立つ、それがマナーだ。なのに、モラルやマナーをまるで明文化された規約のようにとらえ、それに従わない人間を見ると鬼の首を取ったように槍玉にあげる……日本人はどうなっていくんだろうねぇ」
「先輩が日本の未来を真面目に憂えているのはわかりました、言い方を変えます。僕は今したくありません離してください」
「問題の簡略化はいいことだね。俺は帝人君のことを愛してるから君に合わせよう。俺は今したいよ離したくない」
「言い方を合わせただけじゃないですか!」
 言い合う間にも、腰を上げた帝人の身体を臨也の左腕が押さえつけ、そのまま臀部を撫でまわしている。握りあったままの指先で臨也の手の甲に爪を立てるが、その腕ごと持ち上げられ、指先にキスをされた。「痛いよ」と、まるで宥めるような口調なのが腹立たしい。臨也の肩に空いている右手を置き突っぱねても、大して距離は開かず、頭部を近づけた臨也が鼻先をシャツの間に突っ込んだ。
「ちょ、やめてくださいっ」
「なんで?」
 心底不思議そうな顔つきで返されたものだから、帝人はもういっそのこと椅子ごと倒してやろうと体重を振った。驚異の40キロ台を行く帝人だったが、遠心力を使えば臨也自身の体重も重なって、諸共に昏倒するくらいならできる。ただ、それに気付いたらしい臨也も帝人の腰を撫でていた手をほどくと、互いの両手を繋ぎあわせた。帝人の息が荒くなければ、向かい合って両手を恋人繋ぎしている恥ずかしいカップルだ。
「なんでそんなに嫌なのかなぁ」
「そりゃ嫌ですよ! スプラッタ苦手なんです!」
「ああ、帝人君はホラーも嫌いだよね」
 わかったようなわからないような、のらりくらりとした会話だった。そして、帝人の左手を掴んでいた臨也の右手が、その掴んでいるものを彼自身の左手に渡す。そして、帝人の両手首を掴み直した男は、やれやれと息をついて見せた。「だから本番はしないって言ってるのに」と零しながら、ストッキング越しの太ももを撫で上げる。
「……え、は?」
「帝人君、ちゅーしよう。君も好きなことをしよう?」
 そう言って、臨也は帝人の唇を舌先で舐める。上唇をペロリと辿っていく相手のそれに、帝人の頬が反射的に赤くなり、避けるように顔を離す。ただ、離したところでそれは一瞬の抵抗でしかなく、臨也の右手が帝人の小さな頭部を掴むので、次の瞬間にはキスをしていた。
 少しだけかさついた唇同士が重なり、離れる。そして、唇の端にもう一度臨也のそれが触れ、また重なる。帝人が唇を強く合わせていると、耳の後ろを撫でられた。ひくりとわなないた瞬間に、ヌルついたものが口内に入り込む。
「……っ、ん」
 舌先をこすり合せられ、上あごを舐められると、帝人は口の中にたまる唾液を一度嚥下した。喉が小さく上下すると、臨也の手が頭を撫でる。どうやって逃げようかと腕を暴れさせてみても、今度はうるさいとばかりに下唇を甘噛みされた。そのとき、小さな水音が鳴って、帝人はなんだか居たたまれなくなった。
 頭部を固定している臨也の手が外れ、帝人は呼吸と文句のために勢いよく口を離す。ただ、何かを言おうとした矢先に相手の指が足の間を撫でたものだから、思わず悲鳴を先に上げてしまう。
「いい加減にしてくださいっ」
「帝人君こそ、いい加減に観念しなって」
「ちょっと、っも」
 ストッキングと下着の上から、泣き所である陰核の部分をぐりぐりと指先が押してくる。逃げるため片足をカーペットにつくが、足が滑ってしまい踏ん張りもきかない。むしろ、椅子から立ち上がった臨也に機材の上へ仰向けに押さえつけられ、背中にあたる機器の凹凸が地味な痛さだった。
「大声あげますよ!」
 この時点で、帝人は放送室が防音施設であることをすっかり忘れていたのだが、その脅し文句を聞いた臨也は、一瞬不思議そうな顔をしたあと、嫌な目つきで笑った。
「いいよ、じゃあ俺は、放送開始のスイッチを入れよう」
「……え?」
「そこにあるマイクが音を拾うくらい、大声で叫んでね」
 臨也が視線で指した先を見て、帝人は再度「え?」と、無意味な声を出す。それを聞きながら、臨也はにこにこと笑った。
「叫んでいいよ、それで、マイクのスイッチを入れたまましよう。帝人君、喘ぎ声ちゃんと我慢しないと、みんなが聞いちゃうよ」
 「ああでも、邪魔されないよう先に鍵をかけないとだめだね」と、恐ろしいことをつらつらと言いながら、臨也は帝人のブレザーのボタンを外していく。
 臨也の恐ろしいところは、帝人と違い、その発言に冗談の割合が存在しないことだ。多分、帝人が拒絶の言葉を叫ぼうとすれば「仕方がないなぁ」という顔つきで、何のためらいもなく放送ボタンをオンにするだろう。
 部活動で残っている生徒はいまだいるはずで、もちろん教師だって何人も残って仕事をしている時間だった。放送室の鍵は臨也が持っているに違いなかったが、スペアキーだってあるはずだ。ただ、万が一のことを考えても、あまり帝人にとっていいようには転ばないに違いない。そもそも、若干混乱しているので、帝人はさぁっと青くなった顔のままぐるぐると思考を巡らせる。
「校庭まで届く放送で、泣き喘ぎたい? いいよ、俺はちゃんと、「帝人君」って呼んであげる。帝人君のえっちな場所がどうなってるか、事細かに実況中継してあげるよ」
 もしも、おたふく風邪と、発癌性物質と、狂犬病ウイルスのいずれかに、必ず罹らないといけないとしたら、誰だって迷わずおたふく風邪だろう。



「っん、……ぁ」
 たとえ不本意な状態であっても、好きな相手に身体をいじられれば段々と盛り上がるのが若さというものだ。帝人は、ぎゅっと目をつぶると、臨也の愛撫に耐えるよう唇をかむ。ただ、そうすると執拗に乳首を揉み込まれるので、かたかたと震える肩がひどく気恥ずかしかった。
 帝人が陥落すると、臨也は一度、相手の髪を撫でた。そして、「可愛いね」「好きだよ」「愛してる」と囁きながら、何度もキスをした。帝人は、それこそこういったセリフを、掃いて捨てるほど臨也から与えられている。臨也は、言葉や態度に関して、与え惜しみをしないので、その点は、「良い彼氏」なのかもしれなかった。
「帝人君て、乳首小っちゃいよね。可愛いなぁ」
 真っ赤に染まり、ぷっくりと膨らんだその部分を、男の人差し指がつんつんと突く。先っぽばかりをぐるぐるとこね回され、痺れるような痛みがじんわりと広がる。
 パイプ椅子に座った臨也に、背後から抱えられている。相手を背もたれ替わりにして体重をかけ、帝人はひくひくと身体を震わせた。もたれかかっているのは、帝人にできる不満を訴える仕草の一つだったが、所詮は蟷螂の斧だ。くっくと喉で笑う臨也は、「ストッキングおろして」と、耳元でささやく。
 破られるよりはいいかと、帝人が膝のあたりまで脱ぎおろすと、露出した左胸を揉んでいた手のひらが、素肌の太ももを撫でた。
 下着を、上下でそろえるようになったのも、中学を卒業して、池袋に出てきてからだ。最初は、杏里と一緒に美香にお店を紹介してもらったが、臨也と付き合うようになってからは、なぜか彼氏と買い物に行くようになった。恥ずかしくないのだろうかと、帝人が臨也に関していまだ引いている部分の一つである。ちなみに、正臣は沙樹に付き合って買い物に行く際、エスカレーターを上った目の前にインナーショップがあると、目の遣り所に困るという。それが通常の反応だろう。多分臨也がおかしい。
 最近は、「全部知っている下着というのも味気ないでしょう?」と、帝人自身が味気も何も理解せずに言ったセリフに納得して放流してくれるが、それまでに連れまわされた際のインナーも数点あるわけで、今回のサニタリーショーツはそのうちの一つだった。サニタリーショーツはあまり可愛いデザインのものがないので馴染みも薄かったが、「最近はそうでもないよ」と彼氏に教えられたのだ。なんだか思い出すだに帝人は泣きたくなる。
 薄いピンクの生地に、レースと茶色のリボンがあしらわれたそれを、男の手がいじる。擦り上げられた胸元は、カップが鎖骨のあたりにたわんでいて、ひどくみだりがわしい。ショーツの内側にある生理用品のごわついた感触を指先でなぞりながら、臨也はもう片手で帝人の乳房を楽しげに触った。あまり立派なものでもないので、帝人は明るい場所でさらされるたび、コンプレックスを刺激される。
「……っふ、んく……ゃンっ」
「何かに似てるなぁって、前から思ってたけどさ」
「は…ぃ?」
「バレンタインとかの、チョコの包装を思い出すんだよね」
 リボンと同色のチェック柄の入った生地を指して、「包装紙を開けてる気分?」と、臨也は言う。白い乳房を左手で掬うと、臨也は手の中で柔らかな肉を揉み遊ぶ。「このいたいけな感じがすごく帝人君ぽくて好きだよ」とは、帝人の胸に対する臨也の感想である。言われた当初は、褒められている気がしないので殴った。
 先ほどからいじられているので、胸の先端は両方とも赤く膨らんでいる。興奮している証拠だ。最初は、ひんやりとした外気のせいで固かった乳首も、弛緩した乳輪の中で立ち上がっていれば言い訳のしようもない。指で摘み上げられ、きゅうきゅうと苛められる。脚の間がむずむずするような掻痒感が走り、帝人は泣き声を上げる。
「んぃ……っさきっぽ…、さきっぽ…ぃヤァ」
「俺は好きだけど?」
 恋人の指に摘まれ、可愛らしいことになっている胸元を見ながら、臨也は酷薄ともいえるようなセリフを吐く。そして、男の手がたわんだスカートを払い、ショーツの中に入り込んだ。腹部から撫で下げるように触れられて、帝人は大げさに震える。
「いつ触ってもつるつるだねぇ」
「……ぃわないって、っやくそく」
「ごめんね、だって可愛いからさ、帝人君のここ」
 帝人は、年相応の繁みを持たない。それはもう、体質的なことでどうしようもないのだが、彼女が自分の身体に自信を持てない理由の一つでもある。高校に上がっても、帝人のそこは、いまだ小学生のような陰部だった。白く、体毛の生えない両足の間から、ぬるぬるとした体液ばかり溢れる。何度も体験しているとはいえ、それはどうしようもなく倒錯的で、帝人の中の何かを傷つける。ただ、そのたび臨也は、優しくぬるま湯のような言葉をくれた。多分、帝人が臨也との性行為を受け入れることができるのは、その身体的特徴を、相手が気負わないからだった。
 付き合った当初、帝人は無毛を隠したいがばかりに、臨也との行為を拒否し続けていた。その割に、帝人のことに関してはストーキングとしか言えないようなことをしている臨也から、「知ってるよ、天然パイパンでしょう。男のロマンだよねぇ」と簡単に言われて泣いたものだが、それもすでに過去のことだ。後にも先にも、帝人が臨也に言われたことで号泣したのはそのときしかない。同じく、感情も露わに大泣きした恋人に対して、臨也も空前絶後の慌てぶりだったのだが、帝人はよく覚えていなかった。悲しくて悔しくてつらくて、でも臨也が知った上で行為を望んでくれていたのだとわかって、キャパシティを超えた情動から、常では考えられないような錯乱状態だった。
「すべすべでぐちゃぐちゃで、俺だけのえっちな帝人君のまんこ、好きだよ」
「……よく、っ…そういう卑猥なことばっか、……いえますよね」
「言われると感じるだろう?」
 臨也は、帝人の小さな入口から垂れるタンポンの紐をいたずらに引っ張る。そして、下着の中のとろとろとしたものを陰部全体に塗るようにする。確実に生理の際の汚れが付着するのでやめてもらいたかったが、クリトリスを一撫でされて帝人は息を詰めた。
 ただ、そういって帝人のことをからかう臨也も、ショーツから取り出した右手がありていに言えば血みどろだったため、さすがに、「うわ」と、若干引いたような声を出した。まったくもって失礼な男だ。
 制服のスカートの裏地までが汚れそうで、帝人は身じろぎする。二日目の出血量に比べれば、昼にタンポンを入れ替えたこともあり、そこはまだマシといえる状態だ。しかし、見慣れない臨也には比較的大きな衝撃だったらしく、「え、ねぇ、これ本当に大丈夫?」と、帝人の頬を綺麗なままの左手で撫でる。こんな仕草に、きゅんとするのだから帝人も自身のことが読めない。大丈夫だと答えるのも癪で、帝人は臨也の手に、僅かに頬をすり寄せた。すると、そのまま上向きに引き寄せられ、こめかみと額にキスされる。
「帝人君、スカートめくっててよ。タンポン入れ替えてあげるから」
 正直、意味が分からなかった。
 臨也は、帝人の血液と愛液の混ざった指先のぬるつきを舐め取りながら、「生理用品どこ?」と、帝人の鞄を漁っている。勝手に開けるなと言う前に、某オリエンタルランド発信のテディベアの顔をしたポーチを取り出され、「これ?」と再度尋ねられた。「はい」とも「いいえ」とも言わずにいると、あたりがついていたのだろう臨也は勝手に取り出して「へぇ」と興味深げにそれを眺めている。
「いえ、ぁの……意味が分かりません」
「うん? だから、もう吸収性がなくなってるから、入れ替えてあげる」
「……えぇ?」
 意味を理解したくないというのが帝人の正直なところなので、臨也の言葉はいくら言われても脳の中枢に浸透しない。臨也は、歯でタンポンの袋の端をくわえると、小さな音を立てて封を開ける。そして、中身のつるつるとしたプラスチック製の筒を手に取り、不可思議そうにしながら見ている。
 通常、筒の中には吸収材が入っており、それを膣道のごく浅い場所に差し込むのだが、さすがの臨也もタンポンの使用方法など知らないのだろう。もしかしたら、新羅あたりならば医学知識と合わせて知っていたかもしれないが、いつまでたっても身体を固くしたまま怯えたように沈黙する帝人へ、臨也はにこりと笑いかける。
「俺にやり方教えるのと、自分でして見せるの、どっちがいい?」
 臨也の手が、帝人のショーツをストッキングと同じように膝上まで下ろし脱がせてしまうと、生理用シートは赤黒いものと一緒に、ぬるついた体液でてらてらと光っていた。ずり落ちたスカートを咄嗟にとどめたせいで、帝人は幼い部分を臨也の膝の上で晒してしまう。露出癖はないつもりだったが、帝人の性器に重だるいような熱が走る。それは、膣口の入口をひくつかせ、そんな自身の身体の反応に、帝人の耳がさあっと赤くなった。
 帝人の白い股の間は綺麗な無毛だ。ただ、その奥まった部分から紐が垂れており、それは根元が赤く染まっている。臨也がいたずらをしたせいで、付け根の部分や下腹部は、掠ったような血のあとがあったが、その光景は男の興奮も煽ったらしく、帝人の尻の下にある感触が先ほどよりも固くなった。
「帝人君だんまり?」
「……ぇ、や、……ヤだぁ」
「なにが?」
 くすくすと笑う相手の唇が帝人の耳を食む。タンポンを抜きやすいように帝人の片足を広げたまま抑えつけ、臨也が紐をくんと、一度引っ張る。あられもなく、ひどく猥雑にされた部分を、じぃっと眺める相手の視線を感じて、帝人が微かに悲鳴を上げた。ただ、その悲鳴には甘ったるい喘ぎが入っていて、被虐趣味があると言われても否めないようなものだった。
「ほら、抜いちゃうよ。帝人君、俺が抜き終わる前に決めてね」
「っや、やァ……せんぱ、や」
 ずるずると、少しずつ抜き取られていく生理用品に帝人は首を振る。臨也の首筋に額を押し付け、浅い息をつく。あさましく感じて、膣は愛液をこぼしていたから、管をこすられる間隔に痛みはなかった。だが、常であれば何でもないその動作を、臨也が性的交渉の最中に行うせいで、背徳感と性的興奮が妙に入りまじり、帝人のことを苛む。
「ん、……ッン、ひんっ」
 ゆっくりとした仕草だったが、吸収材の根元が足の間から僅かに覗いた瞬間、紐を引いていた臨也の指が陰核の頭を撫でた。動物めいた悲鳴を上げ、スカートをたくし上げる帝人の指が震える。そして、帝人がなす術もなく性的な姿をあらわにするのを、心から歓迎するように、臨也は相手の身体を撫でながら笑う。
「帝人君、抜けちゃうよ。どうするの?」
「……ぅ、んぁッ…ゃ、ゃあ、ッふ」
「可愛いなぁ、帝人君」
 もう一度、紐を引かれた。帝人は、自身の性器から半分ほど覗いている生理用品を一瞬だけ確認し、再度臨也の首筋に顔を埋めた。直視に耐えなかった。



 結局、帝人は息も絶え絶えに臨也にそれの使い方を教えた。自身の体内から、タンポンが抜き取られていく姿を鑑賞された上に、自ら入れていく姿を見られるというのが耐え難かった。そもそも、自分でするとなると、自慰よりももっとひどい姿をさらすことになる気がしたのだ。
 臨也は、帝人の膣から抜き取ったそれを、放送室に置かれたままになっていたティッシュに包んでいる。体温が移り、ぬるい筒を適当にカーペットの上へ放りながら、新しいタンポンを引き伸ばし、15センチほどの棒状にする。
「当たり前なんだろうけど、出したばっかのあれってあったかいんだね。入れたくなっちゃったよ」
 帝人の痴態に、口調ばかりはいつも通りだったが、双眸にはしっかりとした肉欲を乗せて臨也がいう。僅かに紅潮した頬が、相手の興奮を教えていて、帝人は臨也の腕に爪を立てた。
「ウソ、本番はしないって約束したしね」
 臨也の口から出る「約束」ほど、信用から遠いものもなかったが、帝人は一応は去った危機に胸をなでおろした。臨也は、そんな帝人の人差し指と中指の腹をぺろりと舐め、頬に口づける。
「んぁっ」
「スカート上げててね、マジで汚れるよ」
 ぬるるるっと、プラスチックの容器が帝人の性器に入り込む。生理用品だと頭でわかっていても、思わず喘いでしまった帝人は、自身の声に固く目をつぶった。ただ、恥ずかしく、その羞恥にすら性的快感を見出している自身の肉欲が卑猥で、とんでもない淫乱になった気がした。
 開いた脚の間から垂れる愛液と血液のまざったそれは、臨也の学生服を汚していたが、臨也は大して気にしていなかったし、帝人は気にする余裕がなかった。黒い生地であるので、血の汚れは目立たないというのもある。帝人は、こういった状況に陥ってしまうと、恋人のことをうまく観察できなくなる。与えられる快感に対して、処理能力が追い付かないのだ。ただ、臨也にしてみれば、腕の中で震える帝人を見ていると、嗜虐欲と保護欲の両方を満たせるので、幸福感を感じるらしい。臨也本人の言葉であるが、妙な変態性は否めないと、帝人は思う。
「っぃ、あ、あ、…っぁん」
「タンポン入れるだけであんあん言ってさぁ、帝人君、いつもそうなの?」
 違うと、首を左右に振る。喘いでしまうのは、吸収材の部分をゆっくりと押し込みながら、臨也がもう片手でクリトリスの薄皮を剥いだからだ。敏感な部分を露出され、爪の先でちょんと触れられれば、膣は収縮する。その入口をずりずりと擦られ、足の間の快感に慣れた身体を抑えろという方が酷だ。
 タンポンの外装をずるりと抜き取り、白いままの紐を垂らす入口を臨也の指が撫でる。そして、勃起し尖ったようになっている陰核を、愛液のついた指先で撫で擦った。ずっとじんじんとする熱を注ぎ込まれていた帝人の管は、ただ気持ちいいだけのその刺激に、入れられたばかりのタンポンをきゅうきゅうと締め上げる。
「んっ…ァン! …や、ぁッあぁん……あん!」
「クリトリス、弄ってもらうの好きだよねぇ。ね、帝人君、タンポンおいしい?」
「せんぱ、……ゃだ、ゃアっや!」
 「大丈夫、先にイかせてあげるよ」と、優しい声音が帝人の耳元で吹き込まれる。
 実質、帝人はクリトリスを、ぐりぐりと指で擦られるのは、たまらなく気持ちいいので好きだ。ただ、それを口に出して言えるかといえば別問題で、多くの場合、そういった恥ずかしい告白に関しては臨也に媚びて回避する選択を取る。今回は、臨也の方にも無理に言わせる気がなかったようで、帝人が相手の胸元に頬を擦り付けると簡単に退いた。臨也は時折、帝人に、それこそアダルトビデオにでも出てくるような卑猥な単語を叫ばせるようなセックスをする。そのたび、帝人は調教を受けているような気分になる。「気分になる」、で流してしまうのは、帝人の悪癖だ。帝人は、自身の自覚よりも遥かに、危機感が足りないのだ。
 放って置かれたにも関わらず、まだぷっくりと膨らんだままの乳首を、臨也がきゅうっとつねった。胸の先端から下腹部に落ちていくじんわりとした性感が、陰核をくすぐる指に満足感を得て、帝人の細い腰を勝手に浮き上がらせる。
「あ、ッア、ぃっちゃ……せんぱぃ、僕…ィっちゃ、う」
「うん、イく顔見せて」
 臨也の人差し指は、かわりなくクリトリスの先端を突いている。くるくると、剥かれた皮も一緒に円を描くように愛撫され、帝人はスカートを握っている指先をきゅうっと縮こませた。我慢もできず、唇を噛んで声を抑えようとした瞬間、帝人にしてみれば唐突に、乳房を揉んでいた臨也の手のひらが帝人の頬を撫でる。そして、そのまま顎を上向かせた。
 驚いて開いた帝人の目と、見下ろしている臨也の目が合う。じぃっと、臨也の指で性器をいじられ、すっかり気持ちよくなってしまった潤んだ双眸と、耳まで赤く染まった顔を眺められ、ひゅっと息をのむ。半開きになった唇の中に臨也の指を含まされ、くぐもった声を出す帝人へ微笑みながら、臨也はもう一度、「イく顔見せてね」と囁いた。
「ん……ッぅんん、ふぅッあ、あぁア、あッぁ!」
 きゅうっと、帝人は目を瞑る。そして、ただただ押し上げられるばかりだった場所から、やっと落ちることのできたような妙な安心感を覚えるとともに、圧倒的な性的興奮が、じんわりと腰回りから足の指先まで広がっていくのを、震えながら味わった。
 オーガズムに達してなお、可愛がられているクリトリスからの緩い刺激が、じっと耐えている帝人の口を開かせる。小さくこぼれる細かな喘ぎ声に、やっといくらか満足したのか、臨也は陰核から手を離すと、ひくひくと跳ね上がる帝人の細腰を慰撫した。
「っァ、ん……」
「帝人君、可愛い」
 帝人の額にキスをしながら、臨也はいつものセリフを吐く。そして、熱を持った帝人の乳房を軽い仕草で揉み、火照った頬は指の背で撫でる。絶頂後のけだるさから、相手に寄りかかったままの帝人を抱え直すと、臨也はほんのついでとばかりに、ショーツへ新しい生理用シート貼り付ける。苛められすぎてじんじんするクリトリスに、もぞもぞとした感覚を覚えながらも、ぼうっとその行動を見ていた帝人は、臨也の両手が、なんだか当初よりも手馴れていることに気付き、自分の彼氏の変態的な精神部位に、それまでのものとは違う種類の自失の状態を味わった。
 気持ちよくなったばかりの足の間を、引き上げられたショーツが覆う。その感覚に、僅かに腰を揺らした帝人へ笑いかけ、「今度は俺の番」と臨也が言った。
 耳慣れたジッパーを下す音がして、帝人は再度、頬を赤くする。膨らんでいる相手の性器を、ずっと臀部で感じ取ってはいたが、帝人は人並みの羞恥心を持っているので、やはり相手のそれに対しての気恥ずかしさは消えなかった。
 帝人の小さい臀部の狭間を擦り上げるように、臨也が勃起した性器を取り出す。彼にとって、帝人を性的な快楽へ落とすのは一種の楽しみだったが、愛した相手の痴態を見れば、肉欲の飛び火は仕方のないことだ。
 相手の性器の感触に、思わずといった体で帝人が腰をずらす。そうすると、下腹部までめくれたスカートの下で、少女の足の間から臨也のペニスが覗く。帝人の下着と太ももに擦れて、すでに固くなっていた性器から、抑えようのない快楽が走ったらしく、臨也の顔が僅かに歪んだ。それを見上げ、帝人は乾いた喉で唾液を嚥下する。
「え、と……どうします?」
 手淫をするべきかどうなのか、帝人は判断つかずに指先を軽く握る。戸惑い、臨也の顔を見つめてみても、「今日はしなくていいよ」と、相手の手のひらに指先ごと包み込まれた。
 臨也の片手が、帝人のショーツの股間の部分の布地を、僅かに引っ張る。そして、何かしらの声を上げる前に、左足の後方から性器を押し込まれ、帝人は、濡れた股間をこする感覚に指を噛んだ。臨也の両腕が慣れない感触に跳ねた帝人の身体を抱き込み、彼自身も、快楽を感じている息をつく。
「っぁ、…ぅんん」
「素股してみようよ。どんな感じなのか、さぁ」
「ゃ、ぁあ……ンっゃ、下着…、ぬぎたぃ」
 このままだと確実に汚れると、帝人は必至に臨也の腕をたたく。臨也は、ちょうど手のひらに触れた、帝人の右の胸の乳首を押し込むようにしていじりながら、腰を緩く揺らした。陰毛のないぬるついた会陰を、臨也のペニスが擦る。すると、膨らんだ亀頭が帝人の陰核を僅かに掠った。
「ゃだ、……これ、恥ずかし、ィッあ……ぁ、あん!」
「なんか変な、感じだなぁ。やっぱ、入れたくなってくるしさぁ」
「ゃああぁ、ぁ、あん、あ!」
 臨也が腰を動かすと、帝人のショーツがその形のままテントを張る。異様な光景に羞恥を煽られ、帝人は泣き声のような喘ぎ声を出すが、与えられる乳頭からの刺激と、擦れていく陰核の快楽が彼女の脚をはしたなく開かせる。
 臨也とて、さすがにタンポンの入っている帝人の性器へ押し込みはしないだろうが、それでも恐怖感は拭えなかった。帝人にとって、この擬似的な性交渉は中途半端で、ちゃんとした愛撫を拾えない分、発散されない熱がたまるのだ。
 帝人が耐えられず臀部を臨也へ押し付けると、耳元で聞こえていた呼吸音が、深く息を吐き出した。興奮したように、臨也は帝人の耳朶を噛み、耳の裏を舐め上げる。「淫乱な仕草だね」と、笑うように言われて、帝人はかたかたと震えた。自覚している分、臨也に口にされると、よくわからない何かが、お腹の中で芽生えるような心地がした。
 動きにくかったのか、唐突に臨也が立ち上がる。当然、膝下にたわむストッキングのせいで、うまくバランスの取れない帝人は姿勢を崩した。そのまま、目の前にある放送機材に帝人が手をつくと、両手を後ろから包まれる。臨也の手のひらも僅かに汗ばんでいて、背後にあるであろう首筋に頭部を擦り付けた。
「ぁ、ァう」
「っは、もうちょっと……ね、帝人君」
「んッんん、……は、ぃッあ」
 臨也が漏らした声はひどく気持ちよさそうで、帝人は首を上下に振ると、擦りつけられる相手のペニスに甘ったるく喘ぐ。つるつるの場所を、芯だけは固い肉の棒が擦る感触は、常の体内の肉を押し広げられる感覚を思い出させるのに十分で、帝人の膣は僅かに痙攣した。
 帝人の腰が、ペニスによってクリトリスを刺激してもらえるように微かに動く。そして、細い太ももを擦り合わせ股間の窄まりが小さいものになると、背後から覆いかぶさる臨也の余裕が、大幅に削げ落ちたことを感じ取れた。ただ、帝人に残っている体力はもう僅かなものでしかなく、臨也の変化を察したところでどうしようもない。
 前傾姿勢になるまま、帝人は、自身の手を握る臨也の右手の甲に口づける。そして、中指の付け根の関節部位に唇だけで噛みつき、ちろりと舐め上げた。ちゅうっと、小さな可愛らしい音が鳴る。
「あ、ぃッせんぱ……んぎっぁ、あ! ひ、ッきゃ!」
「みかどくん、かわいいっ……ぅ、っ」
「ぁあ、ぁ、だめ、だめッこすれて……ァんッあ、あッぁあああ!」
 膣の中が、入ってもいないペニスから噴き出る精液を飲みたがるように、奥の方を痙攣させる。帝人が、タンポンの紐の出ている性器の入口をひくつかせていると、その絶頂から僅かに遅れて、温かな体液が下着の中を満たした。とろとろとしたそれは臨也の吐き出したもので、一瞬、自身が粗相をしたような感覚に陥り、帝人はかたかたと下半身を震わせる。
「っんぁ、……はぁ、ァ、んん」
「……帝人君も、ちゃんといけた?」
「ぁ、は……ぃ」
「そう、よかったね」
 臨也は、ちょうど帝人のつむじのあたりに口づける。そして、襟足と、乱れたワイシャツから覗く白い背中にキスをして、気に入ったのだろう数か所へ強く吸い付いた。キスマークを残されていると、帝人は気付いたが、いまだ両足がぶるぶると不安定なままであったし、止めるような気力もなく、結局、臨也の好きにさせる。
 ずるりと引き抜かれていくペニスに、思わず目を瞑った帝人へ、臨也は呼気だけの笑みをこぼす。それを感じ取って非難がましい眼差しで臨也を振り返れば、ちょうど、ペニスについた血と愛液を拭い取っているところだったから、なぜか帝人が恥ずかしい思いをする羽目になった。
「帝人君、大丈夫?」
「……下着が気持ち悪いです」
「ふぅん。生理用品って、吸収率とかよくコマーシャルで言ってるけど、実際はそうでもないの?」
「デリカシーを買ってきてください」
 足の間のぬるぬるとした感覚に、眉をひそめた帝人の身体を、臨也は再度抱えあげ、そして膝の上に乗せてしまう。性器を仕舞い込んだ臨也の制服は、ズボンの太もも部分が隠しようのない情交のあとで汚れていたが、帝人がそれを言うと、「ロッカーに着替えがあるから大丈夫」と、確信犯的なことを返された。
「帝人君、脚上げて」
 そこの機材に乗せちゃっていいから、と放送委員でもない男が言う。帝人がおとなしく片足を上げると、ぐったりとした相手の頭を撫で、臨也は太ももの内側を軽く拭った。もう片足にも同じことをして、うつらうつらと疲労から目を閉じ始めた帝人のストッキングを右足から引き上げる。
「え、ちょ…いざやせんぱい」
「うん?」
「何して」
「履かせてるけど?」
 見ればわかることだったが、せめて生理用のシートを替えたかったので、帝人は臨也の腕を両手で押しとどめる。しかし、気恥ずかしさに耐えながら要望を伝えても、臨也は帝人のこめかみに頬ずりをし、そして耳にキスをするばかりで引く気配がない。
「ストッキングはいちゃえば、垂れては来ないよ。大丈夫」
「ぐちゅぐちゅしてて嫌なんです!」
「わー、股間がぐちゅぐちゅなんてえろいねー」
 馬耳東風だとか暖簾に腕押しだとか、あとは糠に釘といった、そんな口調と態度だった。



 結局、ショーツの中の惨状を封じ込めるように履かされたストッキングのせいで、臨也の吐き出した精液や帝人自身の愛液のぬかるみが、ぴったりと会陰部分に張り付き、その妙な感触に、帝人はしきりに腰をむずむずとさせる羽目になった。
 臨也が制服を履きかえている間に、こっそり替えてしまえばよかったのだろうが、「鞄は持っててあげるから、ちょっと休んでて。待たせてごめんね」と、流れるような動作で生理用品の入っている自身の鞄を取り上げられた。帝人のことを気遣っている口調であるのがさらに腹立たしい部分だったが、うまく立ち回ることも許されず、帝人はすっかり日の落ちた池袋を、臨也に手を引かれて歩いている。
 歩くたび、下着の中の体液がくちゅくちゅと音を立てている気がして、帝人自身は気が気ではないのだが、臨也の方は上機嫌だ。というよりも、あれだけ好き勝手にしておいて、機嫌が上向かなければはっ倒している。
「帝人君、どこ寄って帰りたい? それとも、夕ご飯食べる?」
「え、もう帰りたいんですけど」
「デートして帰ろうって言って、帝人君も了承したでしょう。嘘はだめだよ」
 恋人繋ぎをした右手を持ち上げ、「ねぇ?」と首を傾げる相手に、帝人はげっそりとした。少しだけ落ちくぼんだような双眸で、地面を見下ろす彼女に、臨也はにやにやと笑いかける。
 ちなみに、取り上げられた帝人の鞄は、そのまま臨也が持っている。しかし、それは多分、帝人を逃がさないためであるとか、生理用品を替えさせないようにするためであるとか、そういったどうしようもない理由が付随しているだけで、好きな彼女に重いものを持たせたくないという、至って一般的な彼氏の心情が根底にあるのだと、帝人は何となく感じ取っている。そうでなければ、臨也は帝人が彼の鞄を持ってきたときに、「ありがとう」と言えばよかったのだ。
 臨也は頭のいい人であるからか、自分が起こす行動一つにも、たくさんの利点があることをわかってしまうのだ。それを理解してしまっているが故に、まるで好意すら愉快犯に見える男だったが、それは、彼の短所だろうと帝人は思っている。もう少しバカであったなら、臨也は、普通の人よりも優しいに違いない。
 ただ、そんなこと言うと、また新羅には「臨也のことが好きだね」とからかわれたろうし、多くの帝人に好意的な人々からは、苦笑いだけで同意が得られないと知っている。帝人自身、その拙い臨也への観察結果が、正しいのかどうなのかわからないので、言うつもりもないのだ。
 ただ、臨也は相応に、頭がいいがために悪い人間だとは思っている。人は、自分の秀でた部分を使わずにいられない生き物で、だからこそ、歌のうまい人は歌わずにいられないのだろうし、足の速い人は走らずにいられないのだと、帝人は思う。努力が先なのか才能が先なのかは、置いておくとしてもだ。
「ごはん、奢ってください。お金ないので」
「いいよ、食べたいものある?」
「知り合いのいそうな店は避けてください」
 帝人だって、顔の知っている人々を妙なプレイに巻き込みたくはない。
 車道側を歩いていた臨也が、前方から近づく自転車から帝人をかばう。そのとき、ショーツの中からぬるついたそれが僅かに漏れ出そうになって、帝人の両膝がきゅっとくっついた。気恥ずかしさから、帝人の頬が微かに赤くなる。握っていた指の先に力がこもり、すがるような仕草になる。
 臨也が、何食わぬ顔で再度歩き始めた。引っ張られ、帝人はとことこと、小さな歩幅で臨也の横に並ぶ。空気は少しだけひんやりとしていて、帝人は、段々と温かいものが食べたくなった。今からリクエストしてもいいものかと、相手を見上げる。すると、臨也の赤い目も帝人のことを見ていて、急に合ってしまって視線に、少しだけ心臓がどぎまぎした。
「来月は、録画しながらしようか」
 そういえば、罹るタイミングによっては、おたふく風邪でも人って死ぬんだっけっと、帝人はなんだか遠い目になった。



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