わんことくらそう
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わんわん元親(けも耳)×OL元就。
18禁描写があるので、18歳以下の方は読まないでください。



 「犬を飼っているのか」と言われると、ひどく抵抗を感じる。
 「犬」と言っても、自身が共に暮らしているのは、四足歩行の愛玩動物ではなくて、「人型動物」のことだし、どちらにしろ、彼らとの生活は、「同居」と定義するのが正しい。それが理由のすべてではないのだが、「飼い犬」という表現には、どうにも反発心を持ってしまう。
 いまだに誤解の多い問題だが、「人型動物」は「飼育対象」ではない。人間と同じように、幼児期はそれなりに手がかかるが、ちゃんと人語を理解するし、喜怒哀楽の感情や、理性を持つ。
 つい二十年ほど前までは、「人型動物」は、他の動物たちと同じように、日本では「器物」扱いだった。けれど、動物愛護の運動や、「人型動物」が「人間」と同等の知能を持つことが証明され始めると、「人型動物五原則(人間で言う基本的人権のことだ)」が認められるようになって、今では、独り立ちしている「人型動物」を「野良」と呼ぶのは、名誉毀損の罪にもなる。
 自身の職場でも、そのことを勘違いしている人間は、いまだにいる。獣の耳や、尾を生やしている「人間まがい」というイメージが、払拭し切れていないらしい。だから、「元親」の話をすると、「飼い犬」と時折言われる。そのたびに、同じことを説明する羽目になるので、最近は元親のことを、他人にあまり話さなくなった。自身と同様に、人型動物と暮らしている人間とは、情報を交換し合ったり、お互いの同居人について話をしたりもするが、やはり、初見の相手に、その話題を振ることはない。
 こういった消極的な姿勢のせいで、いまだに誤解が拭いきれていないという意見もあるし、いくらかは同意するが、それでも、会話の最中元親のことを「犬」と表現されるのは不愉快だ。人間が、人間以外に、同等の価値を認めたがらない良い例だと思う。
 「人型動物」は、人間よりも肉体能力が優れているので、その点での危険防止措置はある。しかし、それはいうなれば、プロボクサーの拳が「凶器」と判断されるのと同じことだ。
 元親は大型犬種の人型動物なので、そういった様々な条例もうるさい。何か一つ作業をするにも、一々特定の資格がいる。女の一人暮らしだから、防犯や護衛の点で、何より心強いのに、政府の方もまだ理解が不足してるように思ってしまう。しかし、そういうと、元親は決まって「そりゃ欲目だ」と返す。単純な腕力が、人間よりも勝るので、防止策は必要という話らしい。
 元親が構わないというのだから、自身が必要以上に怒る事でもないのだが、恋人が、出自を理由に行動を制限されていると、やはり文句も言いたくなる。
 多分、自身が「犬」や「飼育」という単語に、過剰に反応してしまうのは、これが原因なのだ。「同居」というのも、自身と元親の場合は、微妙に違う。あけすけな言葉を使えば、「同棲」だ。
 珍しいことではない。
 欧米では、すでに人型動物との婚姻はイレギュラーでなくなっているし、その気風は、日本にも十分流れ込んでいる。以前の「常識」が抜け切れていないだけで、人型動物との恋愛は、自由恋愛の一種だろう。
 元親は、人型動物保護団体から、六年前に自身の家へやってきた。その時点で、彼は、軽作業従事資格と簡易警護資格を持っていたから、元々は、警視庁などの行政機関に働き口が見つかっていたらしい。
 人型動物との同居は、兄が言い始めたことだった。兄は、過保護の気があるので、一人暮らしを始めた妹に、十分な防犯をと言い張ったのだ。その頃の元親の見目は、まだまだ大人とはいえないもので、可愛らしい顔立ちだったから少女にも見えた。
 それが、何がどうなってあんな図体になったのだろう。
 可愛がった自覚はある。栄養バランスも運動量も、自身にしてみれば信じられないほど気を遣ったが、まさか己の身長を越す巨躯に育つとは思ってもみなかった。大型犬種は、そもそも大きくなるものらしい。外見年齢は、人間の二十代半ばで止まってくれたが、そのあとも身長は伸び続けて、手のひらを合わせると、指の長さが一関節分違う。
 なんにしろ、好きになったのはしょうがない。そう開き直るのに、自身は随分な時間を要したが、こちらが決死の勢いで告白まがいのこと(今考えても、あれは告白「まがい」だったと思う)を言った途端、元親はあっけらかんとした顔と口調で「やっと言ってくれた」と大いに尻尾を振って喜んだ。そのときは、すっかり混乱していたが、むしろ我慢の期間が長かったのは元親の方だったらしい。
 そんなわけで、「同居」が「同棲」に変わったのは二年ほど前だ。元親は在宅ワークが主だが、時折警備サービスの企業でバイトをしている。自身は商社に勤める社会人なので、家の中のことはほとんどすべて、元親が請け負ってくれている。
 菜の花が咲き始めて、凍てつき澄み切っていた冬の冷気は、段々と甘い匂いをまとうようになった。桜前線は、ゆっくりとした歩みであるけれど、確実に西から東へ移動してきている。
 春だった。



「ただいま」
 そう呼びかけると、マンションの廊下を歩く音で、すでに自身の帰宅を知っていたのだろう元親が、玄関まで向かえに出ていた。それでも、その姿に常の元気がなく、どこか視線がぼんやりとしている。
「おかえり」
 こちらの身体を腕に収めて、肩口に擦り寄ってくる。今朝、出社するために家を出たときよりも、さらに症状が悪化しているように思えて、常ならば突っぱねてしまうスキンシップにも、対応が甘くなってしまう。
 一応、元親の胸に両手を置いて、相手の身体を押し返すのだが、そもそもあまり力を入れていないので、どうしたって牽制にならない。
「つらいなら、出迎えなくてもいいのに」
 可愛くないことを言っている自覚はある。「無茶をせずに寝ていろ」と、案じるだけの言葉が言えない。
「んー……」
 それでも、元親はぎゅうぎゅうとこちらを抱きしめて、少しの不機嫌にだってならないのだ。張り付く元親に嘆息して、靴を脱ぎ部屋に上がる。こちらがリビングに向かうと、元親は背後に移動して、やはり抱きついたままついてくる。
 春は、犬猫の恋の季節だ。「人型動物」は、その生殖能力も人間とほとんど変わらないし、衝動も耐えられない代物ではないという。しかし、それでも春と秋は、常よりずっとうずくらしい。一シーズンに三日から一週間ほど、どうしても体調の整わない日がある。
 元親は、その期間がやってくると、大体ソファーかベッドで蹲っている。発散させてやるのが一番いいとわかっているのだが、その期間の元親の相手は、自身の手に余ると予想がつくので、元親の努力に甘えてしまっている。常の行為も、こちらにしてみれば体力の面で非常につらいのだ。多分、元親もそれを慮っているのだと思う。だから、春と秋は、甘えたがる元親に、鉄拳を加えにくくなってしまう。
「元親、少し離れろ。夕飯が作れない」
 食卓椅子に鞄を置く。スーツの上着を脱ぐために、身体の前へ回されている元親の両手を軽く叩いた。拘束はゆるくなったが、それでも元親は離れない。どうしたものか。
「元親」
 再度、呼びかける。
 去年の秋と同じなので、あまり気にせず、脱いだ上着を食卓に置いた。そして、キッチンに足を向けようとしたのだが、緩まっていた元親の両腕が、急にきついくらいに身体に巻きついた。
「元親っ」
 思わず、声を荒げる。身体をよじり、相手の顔を見ようとしたのだが、左の肩口に元親の頭があるせいで、思うようにいかない。むしろ、頭部から生えている元親の耳が首筋にあたってくすぐったい。
 ずっと沈黙して、こちらを抱きしめていた元親が、小さく唸った。そして、僅かに顔を上げて、鼻先を肩に擦り付ける。
「ムリ。本当、今回ムリ。元就、エッチしたい。なぁダメ?」
「……は?」
 思わず、素で声を上げてしまった。元親は一気に言い終えて、もう一度喉で「うぅ…」と鳴く。
「ちょ、待てっ。だって、去年の秋は」
「耐えられたけど。あれって、まだ完璧に成体じゃなかったからだし。今回はきつい。襲いそう」
 不穏な単語が聞こえて、すうっと背筋が寒くなった。というよりも、状況だけ見ればすでに襲われている。
 言われてみれば、密着している元親の体温は高い。自身の平熱が低いから、相手の体温を感じるときはいつもこんなものだったので、元親の興奮に気付いていなかった。血の気が引いていることだけはわかるのだが、対処の言葉が見つからず、どうにも次の行動に移れない。
 硬直してしまったこちらに焦れたのか、元親がうなじの髪を唇でのけ、キスをしてきた。びくりと、身体が勝手に震えて、固まっていた思考も一気にめぐり出す。むしろ、急に回路が回りすぎて、今度は何を口走っているのか自分でもわからない。
「元親っ、待て。待て。明日は……っ」
「土曜じゃん」
「そうだがっ、色々、しないと」
「俺がするし」
 元親の右手が、こちらの腰をしっかり押さえつけている。手加減なしに肘で背後の元親を打つのだが、大した妨害にもならないらしく、左の指先が器用にこちらのボタンを外していく。
「元親っ!」
 本気で叫んだ。
 悲鳴じみた声に驚いたのか、僅かに正気が戻ったのか、元親の左手が小さく震えて、くつろげられた胸元から引いた。そして、逃げようと思えば逃げられるしおらしい力加減で、きゅうっとこちらを抱え込む。多分、それだけなら、いくらでも元親に禁欲を強いることが出来た。
 頭頂部に、元親が頬を寄せてくる。そして、くすんと鼻を鳴らした。
 気付いたのだが、最近、元親はいらぬ知恵をつけたと思う。
 多分、去年の暮れくらいからだったろうか。翌日が、休日のときに限って、比較的強引にねだってくるようになったし、甘え方が一々こちらの気を引く方法になった。今だってそうだ。見なくてもわかる。耳と尾をしょげさせて、困りきった顔で、行為の許可を待っている。
 こちらも、元親とのそれに抵抗があるわけではないのだ。ただ、体力の釣り合いが取れないだけで、こんな憐れっぽくされたら、少しだけならいいかと思ってしまう。
「なァ、だめ?」
 耳元で囁かれる。甘えた声を出すな、可愛くなんてないぞ。
 こちらの心情が、ゆらゆらと揺れていることに勘付いて、元親は再度、鼻先で耳の裏側を擽る。そして、肉厚の舌が、背後から首筋を舐める。欲火をあおるための愛撫だ。多分、ここで断固拒否すれば、元親はしゅんとうなだれて、それでもやめてくれるだろう。だが、それがわかる分、妙に愛しくなってしまう。愛しくなると、なんだかもう、諦観に似たような感覚で、元親としたい気持ちでいっぱいになる。
 舐められ、唾液で濡れた箇所に、尖った犬歯がゆっくりと沈んでくる。皮膚を裂くようなものではない。いわゆる、甘噛みというもので、行為の最中に、元親はよくこちらの肌に歯を立てる。首という急所に与えられる小さな痛みに、震える吐息がもれた。
「頼むから、……手加減せよ」
「頑張る」
 喜色を含んだ声色が返されて、本当だろうなと疑わしくなった。
 竦めた身体を、ゆるゆると元親に預けてせめてシャワーを浴びたかったと思った。ただ、さすがにこんな明るいところで、事に及ぶのは嫌だ。寝室に移動するために、僅かに身じろぐ。しかし、腹部のあたりで交差していた元親の片腕が、するするとスカートの上から足を撫でた。
「……元親」
「うん?」
 右の太ももを、スカート越しに中指が伝う。元親の指先が、タイトスカートをつまみ、引っ張り上げる。ストッキングと裏地の擦れる衣擦れの音がひどく卑猥で、両手で元親の片手をつかんだ。
「待て。まさか、ここでするつもりか?」
「え、ダメなの?」
「当たり前だ!」
 なぜ、食事をするべき場所で情事に耽らねばならないのだ。
 こちらとしては、真っ当なことを言ったつもりだった。だというのに、元親は一瞬の逡巡のあと、捲ったスカートの中に片手をもぐりこませる。
「っな、ちょ……こら!」
「ムリだって。我慢できない。なぁ、少しだけ」
 その「少し」というのは、どれくらいの「少し」を指すのだ。
 不埒な元親の右手が、スカートの中で左脚の内側を撫でた。覚えてしまった行為の感覚のせいで、たったそれだけなのに、ひどく恥ずかしい部分がきゅうっと窄まる。
 爪が、ストッキングの弱い生地に立てられる。プツッという小さな音を立てて、元親の右手がそれを裂く。脹脛のあたりまで、伝線が伝ったのがわかった。
「服を、破くな……っ」
「ごめん」
 「でもムリ」と、元親が続ける。がっつくなと思う反面、優しい元親が、こんなになるまで我慢してたのかと妙な思考に飛んだ。今まで、一方的に元親の忍耐力に甘えていたのは事実なので、なぜか申し訳ない気分になる。
 作られた裂け目から、大きな手のひらが入り込み、内側の肌を覆うようにして撫でる。足の付け根から下方へと指先が向かい、また戻ってくる。前戯にもならない、それこそ遊びのような接触だが、このあとにいじられるだろう部分は過敏に反応して、じんわりと液体を滲ませる。理性とは別のところで、肉だけがとてもみだりがわしい。
 腹部に置かれていたもう片手が、中心をなぞりながら胸元へ上がってくる。先ほど広げられたワイシャツの隙間から、下着が僅かに覗いている。中途半端に開かれていたボタンを、みぞおちまで外して、元親は右の乳房を掬い、露出させる。自身の胸は、小さい部類なので、元親の手がその上に置かれるとすっかり隠れてしまう。多分、手のひらが余っていると思うのだが、なぜか胸に触れるとき、元親は嬉しそうだ。
 膨らみを、下から上へ押し上げられる。外気に触れたせいで、乳首が硬くなっているのが見えた。どんどん、情事のための姿に変えられていくのがわかって、ぎゅうっと目を閉じた。元親のいう「少し」を、信用するしかない。



 食卓に両手をついているのだが、乱雑に乱された衣服のせいで、体勢が安定しない。背中の中ほどまで剥かれたシャツの袖が、肘の関節でたわんでいる。
 こちらの身体を、背後から覆っている元親が、背筋を舌で舐め上げた。くっと身体に力が入り、テーブルへと胸部を押し付ける。そうすると、胸がいじりにくいと文句を言うように、大きな左手が乳頭をつまんで、捻り上げてくる。
「ゥん、……ぁ、ァ、あっ」
 かゆみのような、痛みのような、どっちつかずの感覚に、それでも快楽を覚える。離して欲しくて、僅かに身体を持ち上げると、人差し指が円を描くように膨れた乳首をこね回した。痛みがない分、さきほどよりもさらに気持ちが良い。口が悲鳴を上げるのと同じように、両足の間から、愛液が漏れ出る。
 ストッキングは、足首までずり落とされている。ショーツも、膝に引っかかっているだけで、性器はすっかり露出していた。元親の右手が、いいようにそこを犯す。中指が陰核をこりこりと引っ掻いて、もう十分、恥ずかしい液体が溢れているのに、さらにその分泌を促す。
「俺、元就のこのやらしい匂い、すごい好きだわ」
 うなじに鼻を寄せて、汗で濡れた後れ毛ごと、舌で愛撫される。それと同時に、指が二本、中に入り込んだ。
「ァんっ、ぅあ……ぁ、や、ぃヤ」
「うん?」
「っやだ……いャ、いや、引ッ、…掻くなぁっ」
 かぎ状に指を折り曲げて、内壁を広げるために擦られる。いつもはぴんと立ち上がっている元親の耳が、忙しなく震えている。その柔らかい毛先が、こちらの肩を擽るので、両肩が縮こまってしまう。
 元親の指が出入りするたびに、ぬめりが音を立てる。はしたなくて、涙が出そうになるのだが、それよりももっとどうしようもない状況に追い込まれてしまっていて、恥辱を感じる部分がどこか麻痺している。乳首をなぶっていた元親の左手が、するりと脇腹を撫でた。痙攣でも起こしているように、身体が震え上がる。
 捲られ、腰にまとわりついているスカートの中に、左手がごそごそともぐり込んだ。そして、先ほどまで右手がいじっていた陰核を、親指が押し潰してくる。ぷっくりと勃起して、丸出しになっている神経を、何度も擦られる。
「んヤぁァ、っあ…ァうっん、や、ヤだぁ!」
「嫌?」
「や、ぃや、も、とちか…ぁ、ぁっ」
 目じりにたまっていた涙の粒が、ぽろぽろとこぼれてきた。それに気付いて、元親が慰めるようにこちらの頬を舐める。その度、乱れて顔にかかっていた自身の髪が、元親の耳に当った。
 いやだといっているのに、元親の両手は、こちらの性器をずっと虐めている。いじられている所から、ぐうっと登ってくる衝動がある。それが、肺の辺りまでくると、もう耐えられなくなって、食卓の上の両手を握り締めた。
 何を否定したいのか、嫌がっているかもわからないが、首を左右に振って、こちらを追い詰める一瞬を迎える。
「ィ、んァああっ、あ、ァあっ……、ァ! ぅん、んん……、ヒ…ぅ」
 埋められている元親の指を絞り上げて、身体の中が蠢く。達した瞬間の締め付けと、そのあとのひくつきのせいで、爪の硬さまでリアルに感じ取ってしまう。晒された肩を震わせ、絶頂に意識を持っていかれているこちらの背を、じいっと見つめている元親の視線を感じた。
「元就、気持ち良さそうだなァ」
 崩れ落ちた上半身の下に、元親は、愛液で濡れている両手を差し込む。そして、少しだけ持ち上げて、こちらの身体を、一度ぎゅうっと抱きしめてくる。汗で濡れている背中と、元親の胸が合わさって、ほっと息を吐いた。快楽という責め苦を与えられているとき、それでも、縋れるものは元親しかいない。
「いれてェんだけど、いい?」
 言いながら、いまだ衣服をまとったままの元親が、ジーンズ越しでも膨れているのがわかるその部分を押し付けてきた。
「っぅ、…少しと……言った」
「ん、だから、少し」
 どこが「少し」だと、殴りたくなる。耳元に吹きかけられる元親の吐息は熱くて、どう考えても、その言葉は嘘だ。わかっているのに、身体はぐったりとしたままで、元親のファスナーの下ろす音が、遠いところの物音のように聞こえる。
 すっかり興奮して、硬くなっている元親の性器が、どろどろにほぐされた場所に擦り付けられる。垂れ落ちていく愛液を先端に塗りつけて、元親がゆっくりと腰を進めた。
「ふぅ、……ん、ん、ぅ」
 ずるりと入り込んでくる肉槐を、まるで喉が水を嚥下するように、自身の性器が飲み込んでいくのがわかった。足の間の淫らな肉が、もぞもぞと動いて、元親のそれを喜んでいる。
「っは、やば……気持ちいい」
 背後で、元親が何か言っている。だが、腹部がいっぱいになっていて、聞こえているのに意味を汲み取ることができない。達して、いくらも経っていないのだ。正直なところ、呼吸をするのが精一杯だった。
 奥まで収められた元親のものが、引き込もうとする自身の内部に逆らって、引き戻される。温かい棒が抜け出ていく感覚に、ぞくぞくとした快楽が、背筋を這い上がっていく。
 すっかり食卓に懐いてしまったこちらの身体に、元親がぴったりと覆いかぶさってきた。そして、握り締めたままの手のひらを、優しい左手が暖める。元親の右手が、自身の太ももに添えられた。そのまま、中途半端にひっかかっていたショーツとストッキングを落として、右脚をテーブルへと押し上げる。
「ぅア、…ふ、あ、ぁう、っ元ち、か……ぁ」
 両足を開かされて、ぱっくりと広げられた秘裂に、元親が腰を押し付けてきた。中を隙間なく満たして、ずぶずぶと欲を沈めて、熱のこもった深い溜め息を、一つ吐く。
「はァ……元就の中、すごいな。ぎゅうってしてくる」
「っぅん、ん…ぁんっ」
 くんと、身体を揺さぶられた。怒張している元親の先が、奥を突く。汗ばんでいる右手で、食卓に乗せたこちらの右脚を、元親は何度も撫でる。膝から太もも、そして、受け入れている部分の肉ひだを、指先で擽っていた。
 振られている元親の尾が、時折、左脚の脹脛を掠める。ふさふさしている感触が、性交の途中なのに、そこだけ、妙に可愛らしく感じられて、また愛しくなった。下半身は、もうぐちゃぐちゃにされて、さっぱりわけがわからないが、そんなところだけ、いつも通りだ。
 真っ赤になっている耳殻を噛まれる。それに泣き声を上げると、元親は、こちらの頭頂部に、宥めるようなキスをした。元親の指先が、ゆるゆると左指の一本一本を撫でて、愛情深く慰撫している。
 こちらの体内の感触を、味わうようだった突き上げが、段々と、攻め立てるものになっていく。舐められて、噛み付かれて、なぶられて、それでも、優しく慰められて、そういった物事をうまく頭が処理する前に、犯されている管が、性器を擦り付けられて収縮する。
「っ、もとなり」
 名前を呼ばれると、どんな状況でも、それにだけは敏感に反応してしまう。首を持ち上げて、できる限り、振り返る。そうすると、気付いた元親もこちらに顔を寄せてきて、口と口を合わせる。こちらの唇を舐めた舌が、そのまま口内に入り込んだ。けれど、一舐め二舐め、舌の表面を味わって、すぐに出て行く。呼吸が苦しいから、ありがたいはずだが、少し寂しい。
「っあ!」
 中を埋めているものが、ぐりっと内壁を抉った。膣内のでこぼこを押し広げ、そして、擦りながら、ず、ずと出入りする。
「んぁ、んん……ぁ、あ、アっ」
 身体が、もう一度絶頂を味わおうとしている。背が反り返って、元親のものを、自身の肉が、締め付けているのがわかった。体内の感覚が直に拾う元親の性器の形に興奮して、また、どろりと粘液が伝い落ちていく。
「あ、ぁああァあっ」
 びくりと、腰が大きく跳ね上がる。そして、痙攣を起こして震えた膣に愛撫され、元親のものも精を吐き出した。勢いよく放たれたものが、自身の内部の壁にぶつかっているのがわかる。その感覚がたまらなくて、ひくつきが中々収まらなかった。
 元親の、荒い呼吸が聞こえる。もう一度、名前を呼ばれた気がした。答えようとしたが、首を傾げるのすら億劫で、肩口を這う舌の感触に震える。
 突然、元親が、上り詰めたばかりの性器を中で上下させた。ぼうっとしていた分、衝撃は激しくて、喉が悲鳴を上げる。目を見開いて、逃げるために腰が前に出た。しかし、芯を持ち直したそれは、じゅくじゅくと熟れているこちらの肉を引きずり戻し、再度楽しみ始める。
「ヒぁッア…ぁあん、あ……ま、てっ! ぃ、ぅアあんっ」
「ごめんなぁ、もう少し」
 元親は、性器を内側に収めたまま、何でもないことのように倒していた身体を持ち上げる。中の天井部分を穿たれて、呼吸が止まった。そして、腕の一本だって動かないこちらの上半身を、ひょいっと抱えると、丁度、元親の顎の下に来る自身の頭を撫でて、額にキスしてきた。
 身長の差がありすぎるせいで、片足しか地についていない。それのせいで、深い場所に入り込む肉の棒に、涙を零して声を上げる。
「もぅ、もう、や、ぁ……ヤぁ」
 左の膝裏を持ち上げられて、後ろ髪を元親に擦り付ける。元親は、こちらの身体を支える右手で、まるで子供にするように、腹部を何度も撫でてきた。
 顔中に口付けられた。けれど、そのすぐ後で、ぷつんと意識が途切れた。



 ふと、顔を上げると、いつもの食卓が目の前にあった。食事をするとき、いつも見ている風景だ。よく状況が理解できない。
 背後から、見知った両腕が伸びていて、自身を抱いている。ダイニングチェアに腰掛けている元親に、優しく抱きとめられている。ほとんど衣服を纏っていないのに、暖かだった理由が知れた。そして、段々と前後の記憶を、飛んでいった意識から取り返す。
「あ、起きたか?」
「……ぅ」
 答えようとして、喉がすっかり渇ききっていることに気付いた。唾液を飲み、どうにか首をめぐらして、元親を見る。
「ぅ、…そ吐きめ」
 全体重を、元親に預けている状況で、どんなに憎まれ口を叩いても、多分効果はないだろう。けれど、何か文句を言わなければ気がすまなくて、それだけ呟く。
「んー」
 肯定なのか否定なのか、よくわからない返事を返して、元親は、帰宅したときのようにこちらの肩に懐く。額を摺り寄せて、匂いをかいでいる。やめろという意思を持って、右肘で元親の身体を小突いた。元親は顔を上げる。そして、素肌を晒したままの首筋にキスをしてきた。強く吸い上げて、行為の跡を残す。驚いて身体が固まると、片手が、再び乳房を揉みしだく。
「っ、…いャ、もとちかっ…はァう、んっあん」
「嘘吐きでいいからさ、もう少し」
 もう、「少し」?!
 どうにか押し止めようと、振り返る。途端に、口を覆われて、先ほどの穴埋めをするように、舌を吸い上げられた。元親の片手が、身体をなぞって、あらぬ場所へと進んでいる。
 唇を離して、唾液に濡れている口端も拭わずに、元親に懇願する。
「むり、むりだっ……もぅ、ぁ、あっ」
「うん。元就、体力ないもんなぁ」
「だ、からァ、や、ゃン…っん、やぁ!」
「だからさ、あと少しだけ」
 女なのに、腹上死を覚悟する羽目になるとは、思わなかった。


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