しあわせバニー
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大学生元親×えっちなうさぎさんバイト元就。
18禁描写があるので、18歳以下の方は読まないでください。



 そもそも、あまり誉められたバイトではないことくらい承知の上だった。
 ただ、勉学の時間をできる限り確保できて、それでいて実入りがいいとなると、少々職業の幅が狭まってしまっただけだ。短期バイトや即日バイトも考えたが、できれば週に何回だとか、一日に何時間だとか、拘束時間が決まっている方がありがたい。そんなわけで、風俗店でのバイトを始めたのは、大学入学とほぼ同時だった。
 基本は、40分間に渡るボディタッチと、手や道具による擬似的性行為が仕事だ。口淫や特殊プレイには相応の追加料金がかかるし、客がオーガズムに達すれば、時間が余っていても終了するので、慣れた客はこういったライトな店ではなくもう少しコアな風俗へ行く。その分、客層も安全なわけで、慣れてしまえば、想像していたよりもずっと仕事内容は楽だった。ただ、あまりにも早く相手を追い詰めて、追い出すようなやっつけ仕事ばかりすると、指名がもらえなくなるのが難点程度だ。
 学費と生活費の自己負担は、自身が言い始めたことだった。高等学校に通わせてもらったこと自体、義母には申し訳ないと思っている。妻を失って以来、独身を貫いた父親の恋人だった人だが、元々ハウスキーパーとして働いてくれていたので、あの人をもう一人の母と呼ぶことにためらいはなかった。戸籍上、親類縁者でもないのに、早世した兄の葬儀代まで肩代わりしてくれた女性に、それ以上の負担は掛けたくなくて、大学も、私立ではなく国立を目指した。奨学金で、ある程度は免除されても、資格の試験費や諸々の費用はそれにあやかれない。だから、彼女の庇護から抜けることは、自身ができる唯一の恩返しでもあった。
「ね、元就。やっぱり女は玉の輿よ! 私だって、元々あなたのパパに近づいたのはそれが目的だったんだから。まさか、あんなに本気で愛しちゃうなんて思いもしなかったけど、女の幸せは、やっぱり愛か玉の輿ね!」
 あっけらかんとそんなことをいう彼女が、自身を守るためのお金を、どうやって調達してくれたのかよく知っていた。だから、水商売や風俗に対する偏見も、持つはずがなかった。彼女はいつだって男を手玉に取っていたし、時折、いたずらっぽく笑っては、「あなたが家で待っていてくれるから、今日は早く帰ってきちゃったわ!」と抱きしめてくれた。
 そんなわけで、義母との関係は、家を出た今でもすこぶる良い。というよりも、毎日絵文字交じりのメールが届き、「帰って来てよ」と泣きつかれている。文面だけ見れば、自身よりも若いのではないかと疑うが、自分で決めたことだからとやんわり彼女を慰めるのが日課となった六月のある日だった。
 身の破滅というのは急にやってくる。多分、そういうことだったのだと思う。
「あ、やっぱ毛利さん?」
 いつもの店内、いつもの服装(ちなみにバニーガールだ)、いつものマネージャーのコールを受けて、指名のあった小部屋に向かった。最近は指名数も安定していたから、始めて見る客の名前に首を傾げた程度だろう。ちなみに、こういった風俗店に来る男たちは、なぜ揃いも揃って似たような偽名を名乗るのだろうか。偽名自体は構わないのだが、山田だとか佐藤だとかが多すぎる。実際問題、自身の顧客には田中がすでに4人いる。どの田中なのか部屋に行ってみないとわからないので、もうちょっと個性を出した偽名にしろと言いたい。
 多分、そんなことを考えたのは相応に混乱したためだろう。にこにこと笑って、不躾にもこちらを指差した相手に見覚えがあったのだ。時折、キャンパス内で見かける男で、学部こそ違うが、出で立ちが目立つ分すぐに思い出せた。銀髪隻眼で、意外にも図書館でよく顔を見る。確か、一週間ほど前にも、地下書庫で一番上の棚にあった資料を取ってもらった。踏み台がなかったのだ。不可抗力だ。
「店の前の写真見たときにさー、異様に似てるよなって! 本人だっていうのはやっぱびっくりだけど」
 顔見知りに似ている風俗嬢を選ぶな! と怒鳴りつけてやりたかったが、それも躊躇われる。というよりも、これはある意味で現場を押さえられているのだろう。バイトは自由だが、何せ奨学金を受ける立場だ。ゼミの教授にでも知らされた暁には目も当てられない。
 一瞬にしていろいろなことを考えてしまって、処理速度が追いついていなかった。言い換えれば、部屋に入ってからこの方、自身は呆然として相手を見つめている。そんなこちらを怪訝に思ったのか、男は首を傾げると、おもむろに立ち上がった。
 マネージャーは、確か「ながそわれべ?」とか言っていた。なんのことだと思ったが、そのあと漢字を教えてもらって、やっと苗字のことだと知れた。だが、どちらにしろ読み方がわからない。
「毛利さん? あれ、もしかして覚えてねぇ? 同じ大学の、ほら、こないだも図書館で会った……」
 と、そこまで能天気に続けた相手が、「ああ」と得心したように頷く。やはり反応できず固まっているこちらの顔を見下ろして、朗らかに笑った男は、まるで春の陽気のような口調を続けた。
「俺長曾我部っていうんだ。長曾我部元親。で、やっぱ思い出せないか?」
 本名か貴様!! どんな素人だ!
 思わずそう言いかけた口を閉ざして、覗き込む男を睨む。客と風俗嬢という以上に、この状況はひどくまずい。
 相手がまったく見も知らない相手だからこそ、胸元や足をこうも露出できるのだ。その場限りの関係だと最初から線引きされている安心感。この男にはそれがない。自然と、肩に力が入って、思わず身を引く。ただ、相手から目をそらすのはそれ以上に危険に思えて、眼差しだけで威嚇した。
「えーと……覚えてる?」
「……覚えている」
 一言、そう返す。しらを切りたかったが、と内心で続けて、「よかった」と息を吐く相手に顔をしかめた。どうにも、男の意図が読めなかったが、まずは口止めをしなければいけないし、何より、指名を変えさせるべきだろう。明日キャンパスで会うかもしれない相手と、仕事とはいえ、そういうことをする度胸はさすがにない。
 室内で、ドア付近にお互い立ったままというのも妙な状況だが、息を落ちつけて腕を組む。そして、こちらの仕草に、再度不思議そうな顔をする相手を見上げる。
 長曾我部は、こちらの頭部に生えている耳を興味深げに見やり、指先で突いたりしていた。その邪気のない様子に、どう反応したものかわからなくて、一瞬言葉に詰まった。触れるなと軽く顔を振れば、長曾我部は簡単に指を引く。その頓着のない仕草に僅かにほっとして、口を開いた。
「その……このことを、口外しないで欲しい」
「バイトのこと?」
「そうだ」
「なんだ、やっぱまずいのか? こういう仕事」
 体面というものがある。端的にそう答えると、長曾我部は、わかったのかわからないのか、「ふぅん」と曖昧な返事をした。そして、ちらりと自身の顔や、胸元を見る。肌の上を這ったその視線が耐えがたくて、思わず顔を背けるが、しかし、その途端左の手首を掴まれ、あまつさえ引き寄せられた。驚いて、咄嗟に身を捩ったのだが、そうすると下着を着けていない乳房がたわんで、常なら気にもならないそれが、異様に羞恥を誘う。
「ちょ、離せ…っ」
「なんで?」
「なんでもなにも」
「あ、ラッキ。乳首見えた」
「見るなっ!!」
 もみ合う内に、そもそも生地面積の少ない衣服がずれる。そうして、僅かに覗いた左の乳突起を、長曾我部は楽しそうに見下ろす。思わず叫ぶと、相手の笑みが深まって、腰を掴まれた。身体の前の部分が密着して、押し潰された胸の谷間に向けられる男の目が恥ずかしい。
 上着を着たままの相手の身体は、衣服の上からでも大きさがわかる。女と男の違いもあるだろうが、そもそも長曾我部は偉丈夫だ。拘束されれば、逃れるのは困難で歯噛みする。ただ、そんなこちらの臀部を、兎のしっぽごと撫で回しながら、相手はやはり笑ったまま言った。
「なあ、店の説明って部屋で店員さんがしてくれるんだろ? 40分間無駄にしたくないし、早くしてくれよ」
 その言葉に、さっと顔が蒼くなったのがわかる。そもそも、風俗店に来ているという時点で、相手もいくらかの羞恥を感じていいだろうに、この男にはまったくそれがない。そのことも恐ろしい。
「……指名を、変えないつもりか?」
「だって俺、毛利さんとエッチなことしたいし」
「恥はないのか!!」
 叩きつけるように叫べば、僅かに眉をひそめた相手がこちらを見下ろす。怒るというよりも、まるで子供が拗ねたような風情だ。
「好みの子を選んでくださいって言われて、選んだだけだろ。今更女の子変える気ねぇよ?」
 くらりと、何かが目の前を回った気がした。


「時間は40分。ただし、貴様が達すればその時点で終了だ。基本は手と道具だが、本番行為でなければそれ以上もやぶさかではない。ただし、追加料金が加算される故オプションには気を付けよ」
 口調がぶっきらぼうになるのは、いたしかたないと思う。その様子を眺めて、客である男はにこにこと笑いながら「わかった」と答える。恥ずかしい思いをしているのも、状況が芳しくないのも自身のみだという現状が腹立たしい。ただ、一悶着あったおかげで残り時間はせいぜい30分というのが、救いと言えば救いだった。
 安っぽいパイプベッドに腰かけた相手の上着を、仕方ないので備え付けのテレビの上に置く。フロントにクロークがあっただろうと言えば、そういうところに預けるのは嫌だと返された。潔癖なのかそうでないのかわからない相手だ。
「なぁ、俺が一回で終わりってことはさ、毛利さんがイっても終了なわけ?」
「……店員の回数条件はないが」
 そもそも、客を相手に本気で感じたことはない。そう答えると、長曾我部は僅かに上半身を乗り出して、顔を輝かせる。そして、それこそクリスマスの夜の小学生のような顔つきで「じゃあさ」と意気込んだ。
「毛利さんがオナってんの見たい」
「申し訳ありませんお客様。松寿にはそういったオプションがございませんので、可能な店員を紹介いたします」
 ちなみに松寿というのは自身の源氏名だ。そもそも、店員のことは本名ではなく源氏名で呼べ。
 これ幸いとマネージャーに連絡するため室内電話へ歩み寄る。しかし、受話器を持ち上げる瞬間に、背後から手のひらごと電話を押さえつけられた。そして、相手のもう片手が右の乳房を下から寄せ上げると、こぼれるように覗いた乳首を摘み上げる。
 瞬間的に頭に血が昇り、振り返りざまに相手を叩くため手を振りあげる。ただ、それは予想がついていたのか、今度は両手首を掴まれた。
「俺は、毛利さんの一人エッチが見たいんだって」
 長曾我部は、変わらずににこにこと微笑んでいる。それなのに、こちらを捕まえている腕力は恐ろしいほど強大で、びくりと肩が揺れた。おもむろに、長曾我部はこちらに顔を寄せると、露出したままの乳房に舌を這わせる。ぬるりとした感触に乳頭を包まれて、耐えられず首を振った。
「毛利さんが、うさぎさんの格好して、男にエッチなことするバイトしてるって、ばれたらまずいんだろ?」
 相手が話すたび、唇や歯が突起を掠める。朗らかで明るい口調だ。それこそ、代わりに本を取ってくれたときと同じ声音であるのに、要求してくることはひどく不健全で、相手の舌先はこちらの胸を嬲る。
 尖った乳頭に歯を立てられる。出もしない乳を吸うように愛撫されて、自身が肯定するまでこれが続くのだと思うと、なんの解決にもならないのに頷くしかなかった。
「わかった…わかったっ、から」
「あ、マジで?」
 「言ってみるもんだなー」などと、相手は笑う。その相手の顔を蹴りつけたい衝動に駆られたが、今度こそ理性でそれを押しとどめた。
 ぐいぐいと腕を引っ張られ、ベッドの上へ上がらされる。安いスプリングが音を立てたが、それも気にならないのか、相手は無造作に正面へ座ると、こちらをじいっと眺めた。咄嗟に胸元を隠すものの、それには何も言われない。どうせ、すぐに手をどけることになると、相手も分かっているせいだろう。
「貴様は?」
「ん、だから、見てる」
 相手の眼差しに笑みが乗っているのがいやで、極力、視線が合わないよう顔を俯けた。そして、すでに露出している乳房に乗せた自身の手を、ゆっくりと這わせる。ふくらみを掬いあげて、たわむそれを揉みしだきながら、指と指の間に乳首を挟んだ。
 40分間の間に、客が達しなければ時間は自動的に延長される。それを考えると、さっさと自分のこの作業を終わらせなければならない。であるから、焦らしもせずに乳頭ばかりを集中的に愛撫する。指の側面できゅうきゅうとつねるのも辛くなって、人差し指で捏ねまわした。外気に触れ、硬くなっていた先端は、引っ掻くとむず痒いような心地になる。息が詰まって、そろそろともう片方の胸も、衣服を擦り下ろし露出させた。男の目の前で、自ら乳房を取り出して、刺激する。すでに、耐え難かった。
「…ぅン…っぁ」
 微かな声を漏らして、乳突起を潰したり、摘み上げたりする。それをじっと見ている視線があって、視界の隅に、相手の膨らんだ股間が映った途端、背筋をぞくぞくとしたものが這い上がった。
「毛利さん、胸だけでイける人?」
「ち、がぅ…っ」
「じゃあ、いつもどこいじってんの?」
 ひどい淫乱だと言われた気がして、思わず否定の言葉を返す。しかし、相手の要求していることがわかって、頬がさらに熱を持ったのがわかった。急かすような言葉はないが、それでも、相手に従わなかったときのことを想像すると恐怖が勝って、右手をするりと下肢へ伸ばす。
 足の付け根は、汗によって既に僅かに蒸れていた。左右に広げろとは言われなかったから、極力手のひらが入り込むだけの隙間に留める。そして、布地の上からクリトリスを撫でた。
 肉襞から漏れ出た愛液で、自身の局部は少しだけ濡れていた。勃起している神経を、かりかりと指先で引っ掻くと、それだけでひどく気持ち良い。もともと、自身は直接触るよりも、下着の上からいじる方が好きだ。普段、布団の中でしている行為が思い出されて、一瞬、ここがどこかを忘れる。
「直接触んない方が好きなんだ?」
「…ん、ぅん…ッぁん」
「毛利さん。毛利さんの、見たいなー。だめ?」
 呼ばれて、拒否権などないくせにと、相手を睨んだ。ただ、それにもにこにこと笑う口元が返されるばかりなので、仕方なく股間の布地を指に引っかけると右側へ寄せる。クリトリスの表面を擦られる感覚が堪らなくて、思わず息が漏れた。
 服を寄せても、直接いじっていなかった自身の性器は、いまだ肉に覆われている。ぬるぬるとした液体こそ漏れ出ているが、相手の見たいといったものはまだ隠れているので、左の指先でその割れ目を開く。それこそ、自身ですら見たことのない部分だ。曝した瞬間、微かに鳴った水音が、そこの様相を伝えているようで死んでしまいたかった。真赤に熟れ、愛液を垂らすその入口や、尿道口まで覗かれている。ぽろりと涙がこぼれたが、それと同じように、膣からも液体がとろりと漏れ落ちた。
「ぅわ…すげ。毛利さん、すげぇえろい」
 相手の言葉を聞かないようにして、皮の剥けた突起を人差し指で擦る。普段、刺激が強すぎてなかなかしない愛撫だったが、もう、早く終わらせたくて、昇り詰めるためだけにそこをぐりぐりと押し潰した。
「っンぁ……ぅんん、ァんッ…ぅア」
 うまく動かない左の指先で刺激するたびに、性器の入口が窄まるのがわかる。ぐうっと押し上がってくる衝動に、極力抗わないようにして、かりかりと繰り返し引っ掻き、自身を追い詰めていく。
 クリトリスでの絶頂は、ほとんど一瞬だ。ひくひくと、体内の管が痙攣し、含んでもいない異性の性器を絞り取るように蠢く様子を感じながら、荒い息を繰り返す。他人の前で達したことも、店でこんなことをしたのも初めてで、若干、靄がかかったような思考の中、「毛利さん、イき顔可愛いのな」という相手の言葉を耳が拾った。泣きたくなって、それでも眦だけで抵抗する。
「いいな、毛利さんの。入れたら気持ち良さそう」
「人を、呼ぶぞっ」
「冗談だって。この店、本番はなしなんだろ?」
 それこそ、大学側にばらされようが拒否するつもりで返すと、相手は簡単に引き下がった。思わず安堵したが、長曾我部は遊びを考えるように「じゃあ、どうしようかな」などと呟く。達して、力の入らない四肢を持ち上げながら、残り時間を考えた。相手も、同じことに思い至っていたのか、こちらの顔を眺めると、ふんわりと笑う。
「な、毛利さんさ、フェラとかできる?」
「……追加料金がかかるぞ」
「いいよ、それで。俺の舐めて」
 頬を撫でられ、そのまま、相手の指先がこちらの唇を辿る。手淫で済むならばそれが良かったが、さすがに元々のオプションを断ることもできなくて、相手のジーンズに手を伸ばした。
 這い寄り、膨らんでいるそれに引っかからないよう金具を下ろす。長曾我部の足の間に収まると、下着の上から、そこを手のひらで撫でた。男性器は、それこそこの仕事を始めてから何度となく目にしたので、触れることや見ることに嫌悪はないと思う。しかし、長曾我部が、それに触れている自身を眺めているのだと思うと、常なら感じない恥辱で押し潰されそうだった。
 口で布地を引き下ろし、鼻先に現れた先端をちろりと舐める。そして、幹の側面を唇で辿って、頬ずりをする。
 根本の袋に吸いつくと、頭の上で、相手が息を詰めたのがわかった。はむはむと甘噛みをして、裏筋をつっと舐め上げると、亀頭を口の中に含む。
 じゅるりと卑猥な音を立てて吸い上げると、それだけで起き上がっていた性器に芯が通る。他愛ないと思わなくもないが、生理現象なのだから当たり前でもある。ごりごりと、口内の天井に先端を擦らせると、女性器の中の凹凸を思い出すのか、苦い腺液が漏れた。
 くびれた部分に舌先を押しこんで、剥けた皮の襞を舐めしゃぶる。そのまま、口から外して舌の表面で舐めあげると、溢れた体液が鼻に垂れてきた。拭うために、幹へ鼻筋を押しつけると、ぶるりと弾かれた肉棒で右頬まで汚れる。
 息を吐いた相手のそれに、吸われる方が好きなのだと判断する。だから、指先で根元や幹を揉み込むだけで、あとは口の中の愛撫に切り替えた。
「っは……ぅ」
 喉の奥へ吸い込むように口の中を狭めると、またとろりとしたものが溢れた。僅かに目を開き、自身の愛撫している相手のものを見る。こちらの両手に覆われている幹はすでに太く、そして熱い。ただ、妙に肌質は滑らかで、すべすべしている。それが、唾液や腺液で、ぬちゃぬちゃと音を立てている。
「ん、ッく……ぁぷ」
 少しだけ、無防備になっている相手の先端が見たくなって、口内から取り出すと亀頭の側面を舌で擽った。言っておくが、一応、自身は処女だ。こんなバイトをしてはいるが、本番行為がないことが前提にあるからこそなわけで、異性を受け入れたことはない。
 だというのに、ふと、目の前のものが、自身の中に埋められるのを想像して、きゅうっと身体の中が締め付けられるような思いをした。
 先程、一度高みを覚えた自身の性器が、もう一度、たらりと愛液をこぼしたのを感じる。飲み込んだ性器の柔らかくて、それでも硬い先っぽが、足の間の肉を掻き分けるのを想像して、ふっと、思わず息をもらす。
「…ぁ、っン」
 長曾我部の性器を啜りあげながら、自身がひどく卑猥な妄想をしていることに気付いて、また泣きたくなった。こんな風に興奮するのは、バイトをし始める以前にもなかったことで、思わず、両膝をぎゅっとくっつける。
「……もーりさん?」
 若干、夢見心地のような口調で、長曾我部がこちらを呼ぶ。何も言わせたくなくて、僅かに穴へ歯を立てたのだが、押し殺すようなうめき声が上がっただけだった。腺液も十分溢れていると思うし、今にも達して不思議ではないのに、意外と我慢強いのが憎たらしい。
「毛利さんも、気持よくなってきた?」
 「なら、触ってるのまた見してくれよ」と、長曾我部が言う。店員に回数制限はないのだろうと続けながら、乳房を揉まれる。驚いて、思わず睨んだが、その途端ぽろりと目尻から涙がこぼれたので、まったく威嚇にもならない。
「っはぁ、…ンんぅ……ッ」
 右手を伸ばして、足を開く。ぐしょぐしょに濡れている衣装の隙間に指先を潜り込ませて、先ほどのようにクリトリスを引っ掻く。口に含んでいる相手のもののでせいで、それこそ擬似的に受け入れているような気分になって、人差し指を膣へ押し込み、抜き差しをする。
「毛利さんさぁ、処女? 指、二本とか入れるときつい?」
「ア、ぁっぷ……んくッぅンン」
「それにしちゃ、…っ巧いし、えろい」
 ぐちゅぐちゅと鳴っている水音が、どこから聞こえるのかよくわからない。ただ、僅かに開いている視界の中で、長曾我部の性器が膨らんでいる。唇の薄い皮越しに、相手の脈が響いて、それにすら愛液が漏れた。
 ぐうっと、長曾我部の腹筋に力が入ったのがわかる。察してじゅるじゅると吸い上げれば、そのまま口の中に吹き出す飛沫がある。僅かな時間硬直して、そして、ゆっくりと柔らかくなる性器を舐めながら上体を持ち上げた。
 左手を口元へやり、口内の精液を吐き出す。どろりとしたものが、一筋の糸を引きながら舌の上から離れていく。
「んぅ、っァあ! ア、ぅあ、ッンぁあ!」
 見られているとわかっていた。こちらが、口から男の白濁を零したのも、見られていてなお、自身の性器に這わした指先を動かして慰めるのも、やはり、相手は楽しそうに見ていたし、顔こそ伏せていたものの、視線だけは局部が感じていた。
 勃起したクリトリスを人差し指と親指できゅっとつねる。加減をしているので、被虐的な快楽が痛みよりも勝って、もう一度達する。呼吸を乱して泣いているこちらを眺めて、長曾我部は、「延長ってできるっけ?」と尋ねてきた。


 そんなことがあったのが、つい五日前だ。そして、むしろ忘れたい出来事を意図的に回想したわけでもない。自身の曝した痴態が、今目の前にある小さな画面の中、動画で繰り広げられたのだ。
「そんなわけで、最近の俺の目覚まし動画」
「死ねぇえええええええええ!!!」
 持っていた資料を思わず取り落とす。そして、相手の携帯へ両手を伸ばすが、長曾我部はひょいっと腕を高く上げると、届かないこちらを笑うように見下ろす。
「いや、これがマジよく起きるんだって。まあ朝勃ちがそのまんま本気勃ちになっちまうのが難点だけど」
「録画機器の持ち込みは厳禁だ馬鹿者!」
「え、そうなのか?」
 「よかったー聞いてたら撮れないもんな。ラッキーラッキー」と繰り返す信じがたい男の脛を蹴りつける。
 結局、金を湯水のように使ったこの男のせいで、職場だというのにあのあともう一回達した。しかも延長のせいで再度相手の性器を舐める羽目になった。口外しないと言ったものの、翌日大学へ向かうのは少々勇気がいったが、暴露写真が掲示板に貼られているわけでもなく、教授や学校長から匿名の連絡があったと呼び出されることもなかったので、正直なところ油断していた。油断していたのだ。
 文献のコピーを取るために降りた地下書庫で、やはり踏み台がなく両足と右腕を必死に伸ばしていたこちらの背後から、他人の腕が伸びた。そして、自身の求めていた資料の背表紙を指に引っかけると「どうぞ」と差し出してくる。受け取って、相手の顔を見ずに逃げればよかった。どうせ、捕まったのだろうが。
 蹴りつけられた足を庇いながら、長曾我部は恨みがましくこちらを見る。しかし、むしろそんな視線を向けたいのは自身の方だ。
「今は客じゃないからってひどくねぇ?」
「貴ッ様、な…んの、つもりで……!」
 汚点としか思えないものを録画されていた上に、毎朝おかずにされていたのだ。たまったものではない。しかし、こちらが噎せるような勢いで罵っても、長曾我部はどこ吹く風といった具合のまま首を傾げる。そして、やはりにこにこと微笑むと、折りたたみの携帯をしまい、上着のポケットに両手を突っ込んだ。
「ん? 店は本番禁止って言うからさ、学校ならいいかなって」
 何度目かわからないが、くらりと脳震盪でも起こしたような眩暈を感じた。
「だからさ、毛利さん処女?」
「待て、貴様……まさか、ここで?」
「俺は別に、どこでもいいけど?」
 「空き教室行く?」と、まるで昼食の場所を決めるかのような口調で言ってのける男の脇を抜ける。逃げなければ駄目だと、本能と理性で判断した結果だが、自動書棚を三つほど抜けたところで腕を掴まれた。背後へぐっと引き寄せられ、尻もちをつきかけたところで腰を支えられる。
「こないだは見られながらすげー気持ちよさそうだったじゃん。松寿ちゃん何で逃げるよ?」
「離せ死ね焼け焦げろ貴様のものなどもげてしまえぇ!!」
「綺麗な顔なのにえげつねぇこと言うなぁ」
 まあ、その綺麗な顔ですごいしゃぶってくれたし。とのたまう長曾我部の足を踏みつける。渾身の力で踏んだはずなのに、相手は身じろぎもせず棚と棚の狭い隙間に入り込んだ。
 背後から羽交い絞めにされて、プリーツのスカートをたくし上げられる。そして、柔らかい布地の上から、まだ起きていないクリトリスを引っ掻かれた。
「下着の上から擦る方が好きなんだっけか?」
「ンやぁっひと、ひとを…呼ぶぞッ」
「1限の地下書庫にはさすがに誰もいないだろ」
 長曾我部は、こちらの言葉に苦笑交じりで返す。ただ、言われてみれば確かにそうで、「毛利さん勉強好きだよなぁ」と笑う相手の腹へ肘を打ち込もうと手のひらを握った。ただ、実際に打ち込む前に、ショーツの中へ入り込んだ指先が突起の皮を剥き、こりと擦る。
 息を詰め、神経が指の腹で刺激されるのに耐える。しかし、集中的にそこばかりいじられると、両膝が少しずつ笑い始め、シャツのボタンが四つ目まで外された。相手の腕へ爪を立てるが、それには呼気のみの笑みが返される。
「処女なら、すんごいすけべな身体だよなぁって思って。コアなプレイもイケるんじゃね?」
「やっ、ぃや…」
 シャツの下から、胸元のレースが覗く。それも引き下ろされ、ふるりと揺れながら乳頭が現れる。突起は外気に触れ、長曾我部が見ている前できゅうっと硬くなった。
「ぁ、ッあ……ぁ」
 腕一本で、みぞおちのあたりを両腕ごと抑えつけられている。こちらを愛撫する手つきに迷いはなく、相手は問答無用でクリトリスを嬲った。抵抗のしようもないと思うが、薄暗いとはいえ、古い紙の匂いの中に、自身の性の臭気が混ざり始めるのはひどい羞恥だった。
 押し潰され、引っ掻かれ、摘まれる。ただ、こちらを登り詰めさせるためだけに与えられる刺激は容赦なく、愛技というよりも責め苦だ。二度ほどは衝動を流すことができても、続けられればそれも難しい。痺れるように広がる感覚が強くなって、哀願するように首を振った。こんな状況下にも関わらず、イってしまいそうだった。
「っだめ…ィやっ…やァ! ッあ、ぃあ! ンッぃ、ァあぁあ!」
 ぎゅうっと目を瞑り、その瞬間をやり過ごすために身体を小さく折り曲げる。しかし、こちらを拘束していた腕が顎を掴むと、顔を上へ向けさせられた。喉が妙な方向に開いて、泣き声のような声を出してしまう。股にある肉を左右に割れば、多分、そこは愛液を滴らせるだろう。むしろ、すでに長曾我部の指を汚しているかもしれない。
 目を開くと、長曾我部がにこにこと笑っている。無邪気な笑顔だった。それこそ、こんな無体をするとは思えないほど、この男は笑顔が幼い。
 疲れて、それでもどうにかして相手の腕から逃れようともがくと、左腕で、先ほどと同じように相手の腹と自身の背中を密着させられる。するりと滑り落ちたスカートは先の通りで、ただ、乳房が露出していることを除けば、それこそ恋人が戯れているようにも見えるかもしれない。
「毛利さんさ、やっぱ、イき顔可愛いよな。すごく」
 頭の上から降ってくる相手の言葉に、殴られているような気分になる。かちかちとキーを押す音がして、また撮られたのかと思った。しかし、次の瞬間周囲に響いた声にびくりと肩が震える。
『…ん、ぅん…ッぁん』
 自身の声が、頭上から聞こえる。何事かと目を見開いて、相手を呆然と見上げると、視線で「どうした?」と問いかける相手が、こちらの顔を覗き込んだ。
「ほら、こないだの。自分のイってるときの顔とか知らないだろ? めっちゃ可愛いから、見ててみろって」
「……ゃ、ぃやあ!」
「松寿ちゃんがさ、すんげぇやらしいの。イき顔見たさで、最近この時点で俺起きてるから、遅刻しなくなったな」
 こちらの頭部に顎を乗せながら、長曾我部がからからと笑う。そして、腕の自由にならないこちらの目の前に先日の動画をつきつける。胸を露出させて、乳頭を自分でいじっている女が、男の台詞に頷くように局部へ腕を伸ばす。首を振って目を閉ざしても、スピーカーから漏れ出る声は自身のもので、それをかき消すためには悲鳴を上げるしかなかった。
「や、ぃや、いや…!」
『っンぁ……ぅんん、ァんッ…ぅア』
「フェラしてくれてるときもエロかったし。あ、また興奮してきた」
 耳元に吹きかけられた息が熱い。身の危険に、身体が硬直する。
 見ていろと再度言われて、そのまま耳殻を噛まれた。続けざまに耳の裏を舐められ、ひくりと震えながら思わず目を開けると、眉根を寄せた自身が長曾我部の性器をしゃぶっていた。口の中に亀頭を含み啜りながら、その手が下肢に伸びる。そして、頬や首筋を赤くしながら、よがるような声を上げる。
 気持よくなった瞬間を身体が思い出して、自身の膣が痙攣した。そして、愛液がくぷりと、割れ目から滲み出たのがわかる。
 携帯からは、まだ自身の喘ぎ声が聞こえていたが、それを拘束するための手に持ち替えると、長曾我部は再度、こちらの性器に指を伸ばした。足を開くまいと膝を合わせても、人差し指が潜り込み、勃起したクリトリスを撫でる。僅かに力の抜けた瞬間に手のひらを性器全体に這わせ、蒸れて熱を持った肉を長曾我部が開いた。
 ショーツは、太ももの中ほどまで擦り下ろされる。そうして、濡れた入口を、男の指が様子を見るように揉む。
「っャ、……ッん、ァ……あ」
「……なぁ、毛利さんって、処女?」
 この先が見えて、こくこくと首肯した。それで、何が変わるかもわからなかったが、慣れていると思われて乱暴にされてはたまらない。
 乳頭は、いつの間にか尖るだけではなく膨らんでいて、それが、さらに自身の身体の状況を知らしめていた。


「ンッ……んぅ、ぁっ」
 この男の前に、性器を曝すのはすでに何回目だろうかと考える。しかし、そんな思考よりも先に、ぐちゃぐちゃとまとまらない衝動が先に来て、びくりと足を跳ね上げた。その様子を、胸や首筋に噛み痕を残している男が笑う。本当に、にこにこと楽しそうに笑うので、もうわけがわからなくなる。
 書棚と書棚の間は狭い。それこそ、人一人分よりも僅かに余裕がある程度で、並べられた分厚い資料の背表紙を背もたれに座り込めば、自然と膝を折り曲げることになった。
 中指を膣に潜り込ませ、先ほどからそこを捏ねましている。ぐちゅぐちゅと音を鳴らしながら、抜き差しをして入口を拡げる。長曾我部に犯されるために、自身で入口を解しているのだ。ひどい凌辱だと思うのに、相手の性器を思い出すと、なぜか愛液が漏れ出た。
「人差し指も入れてみろって。指一本で擦ってても、あんまし意味ねぇよ?」
「…っん」
 こちらの右足を支え上げながら、長曾我部が覆いかぶさるようにして乳頭を噛む。右手の中指を埋め込んでいるそこへ、左手の人差し指を寄せるが、僅かに押しこんだ時点でぴりっと引きつるような痛みが走った。自身の処女膜だとわかって、実際の痛みというよりも、混乱している感情を吐露するように悲鳴を上げる。
「ぃ、た…ぃたい…ッや、ぃや……!」
「んー、やっぱきついんだなぁ」
 「身体がちっちゃいと、その分狭いのか?」と言いながら、長曾我部は、こちらの左の乳房を揉み上げていた手のひらを這い下ろす。そして、茂みの中でぷっくりと膨らんでいる突起の表面を微かに撫でた。
「ンぁ!」
「じゃあ、中で気持ちいいところ探してみ?」
「アんっ…ゃ、ンン……ッひぅ、ァあッああ!」
 汗ばんだ乳房の谷間を舐め上げて、長曾我部は断続的にクリトリスを擦る。思わず、そのまま快楽を追おうとすると、叱るようにきつく押しつぶされた。痛くて泣き声を上げれば、「ほら」と再度促される。
 気持ちのいいところなどと言われても、中で達したことがないからよくわからない。実際問題、膣を擦っても、クリトリスをいじるほどの悦楽を得られないので、内壁の凹凸を押すくらいしか愛撫の方法などないのだが、とりあえずは、言われたとおりに中を撫でたり、窪みや出っ張っている部分をこりこりと引っ掻いたりする。
 長曾我部が、鼻先を乳房のふくらみの下へ潜り込ませ、すんと鳴らす。そして、動物のような仕草で、柔らかい肉を食む。
 ぐるりと中で指を回転させ、さらに、僅かに奥へ指先を押し込むと、軟骨とも違う妙な硬度を持つ部分があった。そこを擦ると、どちらかといえば尿意を催したときのような感覚が生まれて、思わず、そこから指を離す。
「ん、……ぅん、っン」
「気持ち良いわけじゃなくても、妙な感じになるとこ、ないか?」
 偶然なのだろうが、まさしく味わった部位のことを言われて肩が震えた。悟られたくなくて首を振る。しかし、相手は相槌を打つと、すでに指を飲み込んでいる膣へ、唐突に長曾我部自身の人差し指を潜り込ませた。
「ぃっ、……ッぁ! ぃ、た…ッ」
「Gスポットって、ない子もいるって聞いたけど。毛利さんありそうだけどなぁ?」
「ぁ、ンンぅっ……ん、ッぁ!」
 自身の指が擦っているのと、また違う感覚に戸惑う。太さの異なる他人の指が、体内の肉襞をかき分け、擦り、そして奥へと進む。相手の爪先が、先ほどの部分にあたってびくりと腰が震えた。長曾我部は、支えているこちらの太ももの裏側を撫で、鎖骨にキスをする。
「あ、やっぱある」
「ンぁ、っめ……そこ、そこ、ッいぁ!」
「てか毛利さんの中、ひだひだたくさんあるのな。早く入れてぇ」
 ごりごりとそこを引っ掻いたり、突いたりする指を止めたくて、自身の指を相手のそれに絡めるのだが、体液でどろどろになっているから滑るばかりだ。
 快楽ではなく、むず痒いような、じんわりとした疼きが、その部分をいじられると段々と広がっていく。それ以上に、こんなところで、あらぬ失態をしそうで怖い。今にも、尿道の口が開き液体が漏れ出そうで、本当に泣きたくなった。
「だ、め…ンッぁ! あ、ァあ! ア!」
 いつもとは違う窮地へ、少しずつ追い込まれていく。高みは遠いようでいて、気を抜けばすぐに達しそうでもある。何より、自身で行うときは自然としている加減を、まったくされない。
 ぬるりと、長曾我部の中指が入り込む。自分自身の指を含めて三本が出入りをするので、足の付け根はひどいことになっているだろう。というよりも、地下書庫の廊下にぬめった水たまりができているのが想像できて、その想像にも、背筋を這いあがる快楽があった。
「あ、ァあ…ッあ、ンぁ! ゃ、やめ……ッい、ぁアぁあああ!」
 叩きつけるような水音が響く。ぐうっと背をそり返した瞬間、達したと同時に噴き出たそれが、長曾我部の足もとまで濡らした。透明で、さらさらとしているそれは常の愛液とも違う何かだったが、自身が、なんだか耐えがたい痴態を曝した気がして、ぼろぼろと勝手に涙がこぼれた。
「っぁ、……ん…ぅ、…ッく」
 唇を噛みしめると、喉の奥で声が潰れる。それを聞いた長曾我部が、こちらの頬を撫でたり、胸を揉んだりした。乳首を人差し指で捏ねられて、ぬるい愛撫に、眉間の皺が僅かにほどける。
「……毛利さん、泣いてる声も喘いでるように聞こえる」
「…ッ……しね…!」
 頬を伝い落ちる涙が悔しくて、未だこちらの中に指を入れている相手を睨んだ。しかし、睨んだ途端にまたあの箇所を擦られて、思わず全身がびくんと過剰に反応する。
「気持ちよくなって、潮吹いただけだろ? 泣くことねぇって」
「…貴、様がッ……言うな!」
「てか処女で潮吹きってすごくねぇ? 毛利さんやっぱえろいなー」
 ぐったりしている四肢には、すでに力も入らなかったが、ずるりと指を引き抜かれて、自身の指まで入ったままだったことに気付いた。手のひらまで濡れているこちらの指を、長曾我部が咥える。そして、愛液を啜り、舐め取ってみせる。荒い息を吐きながらその様子を見ていると、膣口がひくついた。
「こん、な…こと」
「んー?」
 金具の下りる音がして、長曾我部が性器を取り出したのだとわかる。つい先日、自身が二回も口で愛したものだ。膨れた先端や、付け根にあるふにふにとした袋も、いまだに鮮明に覚えている。
「貴様が、するから…っこんなじゃ、なかったのに」
 バイトを始める前も、始めた後も、自慰行為くらいした。そのときは、ただ自身の指先がもたらす局部のうずきに、身を任せればよかった。それなのに、つい二日前に耽ったとき、思い出していたものが泣けるほどに悔しくて嫌だ。
 言葉になっていないこちらの言い分をどう感じたのか、長曾我部が、不思議そうに顔を覗き込んでくる。右手を奪い返して目元を覆うのに、その腕を頭上へ押し上げられた。ぐすぐすと鼻を鳴らすと、涙ごと目尻にキスをされる。まるで恋人にでもするような所作だ。
「なに? なんだって?」
「……ぅ、ッぅう」
「毛利さん、もう一回」
 しつこく促され、貴様がするから。と、再度繰り返した。こんなに、すぐに反応するような身体でもなければ、他人の前で性器をいじるような恥知らずでもなかった。恨み事をとつとつと呟いて、その途中に、またぽろりと涙がこぼれる。それを見下ろしていた長曾我部が、またきらきらと顔を輝かせて笑った。
「つまりさ、毛利さんがこんなえろいことになってるのって俺のせい?」
「さっきから…っ、そう言っている!」
「他の客じゃならなかった?」
「なるはずがない…っ」
 同じことを繰り返し聞くので、もう最後は、腹立たしさをそのままぶつけるように言い返した。すると、今度はぎゅうっと抱きしめられる。何事かと両手を相手の胸につくが、こちらの背に回された相手の腕は強く、押し返すことができなかった。
「よかったー! 毛利さんマジすけべだからさー、誰でもいいのかと思った!」
「はぁ?!」
 ひどい侮辱に眉がつり上がる。しかし、首筋に頬を擦り寄せられてきゅうきゅうと抱き込まれると、精々膝で脇腹を蹴りつけるだとか、背中を手のひらで叩くくらいしか抵抗のしようがない。そして、長曾我部はそんなこちらの乱暴も気にせずに、耳の下へ吸いついたり鎖骨を噛んだりする。
「ッぁ」
 長曾我部の身体で左右へと広がっている足の間に、擦り寄せられるそれに気付いて、思わず声を上げた。こちらの背筋を左手でするすると撫で辿りながら、男は、もう片方の手で陰部の肉を開く。膣口どころではなく、臀部の方にまで愛液が伝っているそこは、亀頭で会陰をなぞられるとひくひくと震え、また体液を漏らした。
「長曾我部、ゃ、…ッ」
 ぬぷりと、そこに入り込む異物がある。すべすべとして、赤黒くて、それでもどくどくと血を通わせていたそれが、自身の管を押し広げ奥までを満たす。間近に見た長曾我部の性器を思い出し、そして、それが己の膣の中を這い進む感覚に背筋がそれた。
「ぁアあ……ッンぁ、あっ! あ、ッァあ! ぁン、……ッゃあ!」
「うぁ、ざらざらしてんのがすげぇ」
「やぁあッぁ、……ッめ、ンぁア! あァッ」
 膣の肉襞一枚一枚をずりずりと擦り上げながら、それが進み、引き戻される。亀頭が体内のあの場所を擦り、またあらぬ場所がきゅうっと反応する。もうほとんど水に近いような愛液が、長曾我部が腰を動かすたび膣から漏れ出るので、スカートにも大きな染みができているように思えた。
 ちゅうっと、乳首を吸われる。左の乳房に与えられるそれに、とろりとしてきた眼差しを向けると、やはり、どこか恍惚とした表情の長曾我部が視線を返した。
「右の乳首、自分でいじってみろって。毛利さん、見られながらするの好きみたいだし」
 ふるふると首を振ったのが先か、そろりと指先を乳房に伸ばしたのが先か、よくわからない。けれど、確かに長曾我部の目の前で自身の乳首を抓ったり、引っ掻いたりするとひどく気持ちよくて、深く息を吐いた。
「…ぁ、アッん…、ひぁ! あ、あ、ンぅっ……ゃア! あぁッ!」
 水音と、それと似たようなリズムで揺れている足が視界の隅にちらつく。何回目か、性器の中のたまらない場所を擦られて、また吹き出す感覚とともに達した。そのすぐ後に、体内に叩きつけられる液体の感覚があって、中に出されたことに気付く。
 ひきずるようにして這い出て行く感覚に、ふるりと腰が揺れる。膣から漏れ出たのが、自身の愛液なのか、それとも相手の精液なのかはよくわからなかったが、たぶん、両方なのだろう。


「毛利さん偉いのな。だから風俗嬢やってんだ」
 事が終って、何だかもう精神的にも肉体的にも疲れ果ててしまった。根掘り葉掘り尋ねられるまま返事をしていたのだが、基本的に、長曾我部は水商売や風俗に向ける偏見がないらしく、なんともあっけらかんとしている。
 正気に戻って、認識したこの一角は本当にひどい有様だった。そもそも、明らかに何があったのかわかる臭気がこもっていたし(元々地下書庫なので匂いはこもる傾向にある)、廊下はぐしゃぐしゃのべとべとだ。ちなみに服も。やっていられない。
 長曾我部が、運動系のサークル用にシャワールームがあるというので、あとでそちらに厄介になるつもりでいる。というよりも、これでは授業に出るのも難しい。そして気付いたら2限が始まっていた。授業を休んだことなど初めてのことで、これもまたショックだった。
 元凶がにこにこと笑っているのが許せなくて、ぎりぎりと相手を射殺さんばかりに睨みつけているのだが、どうにも堪えた様子がない。しまいには、もう少し休んだら服と下着買ってきてやるよとか言い出す始末だ。何なんだ貴様はと殴り倒してやりたかった。ランジェリーを大の男が買いに行くな! 余計な世話だ!
「なぁ、学費や生活費俺が出そうか?」
「はぁ?」
「だってさぁ、仕事とはいえ、やっぱ好きな子が違う男にああいうことすんのイヤだろ」
「……はぁ?」
 さっぱり言っている意味がわからん。
 思わず心境のまま声を出すと、「うん、決めた」と勝手に決められた。
「前からさー、パ○ソニックが欲しがってる特許があんだよ。あれ売れば多分毛利さんが住むマンションとか学費とか遊行費とか賄えると思うんだよな」
「ちょ、待て、貴様…何? 何だ?」
「俺、中学出るくらいまでずーっと引きこもりだったんだよな。家ん中で好きなことしてたんだけど、そしたらなんか特許とかいうの異様にたくさんもらって、そんでネットで友達もできてさ」
 結局、周囲の大人やインターネット媒介の友人たちに進められて、大検を受検後この国立校に落ち着いたらしい。若干絞め殺してやりたいと思う話だが、そんな相手がこちらの払うべき費用をすべて肩代わりする気満々でいる。まったくもってわけがわからない。
 確かに、何か生き甲斐を持って就いている職ではないし、体力勝負の面もあるので、もっと都合のいいバイト先があれば鞍替えするつもりではいた。であるから、バイトを辞めたり変えたりすることに抵抗はないものの、相手の言い分が意味不明すぎる。
「いや、落ち着け、待て。そんなことをしてもらう理由が」
「俺が毛利さんのこと好きだから勝手にするんだって。気にすんな」
 勝手にするなそんなこと!!
 というよりも、さきほどからさらりと言われていて気付いていなかったが何だ? 好き? そりゃもう勝手にこちらを犯したいだけ犯しておいて好きとは何事か。
 ぐるぐると回る思考の中で、ぱやんと花が咲くような感情が生まれる。それがまた耐えがたい。どう反応したものか悩み、座り込んだまま呆然としていると、じいっとこちらを見ていた長曾我部が、妙に神妙な面持ちになる。
 元々、笑い顔ばかり見ていた相手だから、その表情に何か胸の内が引っ掛かるような気分になって、「どうした?」と聞いてしまう。すると、僅かな時間沈黙して、長曾我部は眉間に皺を寄せた。
「なぁ、それじゃあさ」
「何だ」
「毛利さんは? 俺とさ、何の予定もない日とか一緒に出かけて、遊んでご飯食べて、またこういうえっちなことしてもいいかなーとか思える?」
 問われて、想像する。えっちなこと、というのは加減によるだろうが、長曾我部と一緒に過ごすこと自体には嫌悪感はなかった。そして、ないという事実に愕然とした。
 返事に窮したのがいけなかったのか、長曾我部はみるみるうちに、顔をくしゃりと歪めてみせる。にこりと、やはり笑ってはいるが、「やっぱ客扱い?」と悲しそうに呟かれた。
「や、違う。別に、嫌と言うわけではないッ」
「マジでー?!」
 泣いた烏がもう笑う。
 まざまざとその様子を見せつけられて、騙されたのか、それともこれがこの男の素なのか判断がつかなくなった。そして、総じて子供のような相手に、若干の諦観が生まれる。
「なら、俺と恋人すればいいんじゃね? 彼氏が彼女のために何でもするのって普通だろ」
「……普通なのか、それは」
「普通そうだって」
 多分、普通の彼氏は彼女の住むマンションまで買いはしないし、学費や遊行費まで出したりしない。
 一瞬、義母の明るい笑い声が聞こえた気がした。「ね、元就。女の幸せは、やっぱり愛か玉の輿ね! 両方揃ってれば言うことないけど!」。
 にこにこと笑う長曾我部を見上げて、何度目か分からない眩暈に襲われる。そして、そのまま溜息をつくと、頬に口付けられた。驚いて見返せば、そのまま唇にも同じことをされる。
 とりあえず、今日義母と交わすメールでは、恋人が出来たと報告しようと決めた。たぶん、あの人は見てみたいと騒ぐだろうから、長曾我部にも聞いてみよう。この男が、どんな反応するのかわからなかったが、それも楽しみのような気がして、ふんわりと、口元が弧を描いた。


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