春宵奇譚・後
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ひそやかな夜であったので、彼女の僅かに乱れた呼気は、その夜気の中、常以上の違和感を持った。それがわかるのか、上唇と下唇をきつく結び合わせる様が、やはり生娘めいていて、妙に自身の中の庇護欲を刺激する。正面から抱き込んだまま、するすると、彼女の肌の上の単衣を退かせる。そうして、背中の中ほどまでを無防備にしてしまうと、指先で辿った。
肩口に寄せられた小さな頭部が、むずがるように擦り寄せられる。他者が触れない部分をくすぐられて、居心地の悪いような、遣る瀬無いような、そういった心持ちらしい。実際、場所が場所であるので、ここでどこまでいじっていいものか悩む気持ちもあるのだ。彼女にその気があったのなら、部屋ぐらい用意されていそうなものだったが、縁側から移動する気配も見られないので、さてどうしたものかと元就を見下ろす。
女の右の乳房は、肩から滑り落ちた着物のせいで、すっかり露出してしまっている。肌寒さからか、尖るというよりも縮こまっている乳頭は小さい。二の腕の中ほどや、胸の下や、腹の脇に、切り傷や矢傷の名残があった。こちらの視線に気付き、その部分を同じように見下ろした元就が「昔の傷ぞ」と小さくこぼした。
「ん、でもやっぱ、痛そうだよな」
元就が傷を負うたびに、過去の自身は、それは嫌な思いをしたものだ。若い肌に覆われている痕を見るにつけ、当時、元就が味わった苦痛を想像してしまって、あまり意味がないとは理解できるのだが、僅かに傷つく。こちらにできることがないから、至極勝手に、無力感を感じる。
そういった自身の機微を、元就は、思えばいつも不可思議そうにしていた。彼女が理解できないのは、元就と元親の差であったので、仕方ない部類のものだった。元就は、元親の傷を見ても、大した感慨は持たないだろう。傷を覆う肌も、武具を持つ手のひらの肌も、彼女にとっては、そう差異のあるものではない。
「……妙なことを言う。今更痛むはずもないだろうに」
時折、元就がこちらに向ける不透明なものを眺める視線を、下方から感じた。しかし、それには答えず、胸の下部に手のひらを這わせると、蛇のように残る痕をなぞる。
人差し指ほどの長さの切り傷だ。親指から中指までの三本の指で、相手の白い乳房を押し上げ、その傷痕に薬指の先を押し当てた。慰撫なのか、愛撫なのか、自分自身判断のつかない触れ方だが、若い皮膚はその部分だけ、妙に滑らかだった。
元就が、微かに息を詰める。困惑したように寄せられる眉根が艶っぽくて、そのまま、胸と胸の間を左手で覆う。胸元から腹までを撫でさすると、両方の乳房が、手の動きに合わせて僅かに揺れた。それを、じいっと眺める。少しずつ、冷たかった元就の腹の肉が温かくなり、凝視されることで、いくらか熱を持った彼女の身体をみだりがわしいと感じた。ただ、そのみだりがわしさは可愛かったし、自身の中の凶暴なものを、少なからず煽った。
「ッん」
背筋を辿り、時折背後からあばらの骨の浮き上がりを撫でる。左の胸を、柔らかく掴むようにして絞ると、指先の間の乳頭が右のものよりも少しだけ膨らんでいた。素直な様子に、自然と笑みがこぼれる。
表情を隠すために伏せられた顔へ、一筋二筋、髪がかかった。その隙間から、耳殻が覗いている。背中を引き寄せて耳に舌を這わせれば、こちらの着物と乳首がこすれたらしく、ひくりと相手の肩が震えた。左の胸から手を離して、同じように着物に押し付けられているもう片方へ触れる。潰されている先端の部分を見つけて、指先で捏ねると、鎖骨へかかる元就の息は俄かに熱くなった。
喉の奥で殺されている彼女の声は、泣いているようにも聞こえる。ただ、そういった声音にすら段々と高ぶるので、どうしようもない。
「っ、ァ」
背筋から臀部まで滑り下ろした手のひらが、彼女の奥への方へ向う。すると、僅かに驚いたのか、明確な声が上がる。湿り気を帯びた局部のふくらみは、ひっそりとその奥を隠しており、本当に、いろいろな意味合いで女の身体をしている元就に、よくこれで男と偽ったものだと呆れたような気持ちになった。
指先で、ぴったりと閉じたままのそこをくすぐると、上半身が押し付けられる。逃げたいのか、擦りつけたいのか、どっちつかずに腰を揺らして、元就はこちらの情欲ばかりを開く。
ほんの少し、いじっただけだ。それでも、彼女の肉は揺れて、女の体液を滲ませていた。それを指先に絡め、手のひらを表へ取り出してみると、そこから微かな匂いが漂い、大きな月の光の中で、自身の指先はてらてらと輝いていた。
元就が、腹の部分にあたる男のものに気付いたのか、一瞬視線を下げて、膨らんだ部分を見止める。そうして、着物の上からそれの頭を撫でた。催促をされているのか、彼女なりに可愛がっているつもりなのか、その仕草では読めない。ただ、正直なところ、相手の行為はひどく歯がゆいものだったので、元就の腰を引き寄せると着物越しに互いの性器をくっつけた。そのまま抱え込み、自身にしてみれば冗談みたいに小さい体躯の腕や、太ももや、首筋をなでる。それこそ、耳を食めば、一口で食べてしまえそうだとも思う。
「どうする、ここでするか?」
人の気配はない。それでも潔癖な女なので、あまり野外めいたところでの行為を好むようには思えなかった。ただ、そう持ちかけると、元就は僅かな時間黙り込み、室の方へ視線をやる。そのまま、躊躇いというよりも逡巡の間を置いて、相手は一言「いい」と呟いた。何がだと問い返す前に、腰を揺らされる。密着している部分が擦れて、擬似的な快楽が走る。
「戦続きで、していない。……ここでする」
そちらもだろうと眼差しで問われて、その通りである分答えに困った。
女は、男ほどそういった生理的な部分に困らないというが、それでも、うずくということはあるらしい。商売女に話を聞いた時には、そんなものかと大した感慨もなかったが、好いた相手に欲情していると仄めかされると、少々話が変わってくる。食い散らかしてやりたい気分にもなるし、ひどく意地の悪い態度を取って、泣かせるように相手を抱きたいとも思う。男が一般的にそうなのではなくて、多分、これは自身の性癖なのだろう。そういった面を見せずにいたので、元就が知らないのは無理からぬことだったが、相手が初だとわかる分かわいそうになった。
「あんましそういうこと言うなよ。ひどくしたくなる」
「悪鬼め」
「とりあえずは、お前が泣いて困るようなことをしたい」と言うと、眉をひそめられた。
抱えている相手の身体を倒して、仰向けに寝転がす。その体勢は予想ができていたのか、あまり抵抗もない。板張りの床が居心地悪いようで、それでも、身じろぐ様子は月明かりの下で色っぽく映る。
「していないってことは、下の世話をさせる相手がいたのか?」
ないだろうとわかっていて聞くのは、それが睦言の一種だからだ。笑いながら問いかけると、やはり、元就は面倒そうに否定してみせた。こちらが、不必要な問いかけを自覚的にしていることを知っているので、その無意味さが嫌であるのに違いなかった。無造作な姿勢の足の間に指を忍ばせて、先ほど撫でた部分を僅かに広げる。寄せられた眉根はそのままだというのに、うっすらと乗った色欲の色が、それだけで表情を柔らかくする。
膝を押し広げて、四肢を引き寄せる。そうして、相手の薄い腹部に手を伸ばした。
「ンぁッ、…ぁ、アッ」
ひどく、甘い花の匂いが漂っていた。
春の風に乗って、木蓮の香りはふんわりと庭を覆っており、真白な花弁は輝くようにして夜闇の中に浮かび上がると、そこはそれこそ、置き去られた過去のものと寸分変わらぬ景色だった。池に映った月は白く、水のように冷たい。そして、清廉で、穏やかな春の夜に、時折葉擦れの音が響く。美しい夜だった。月が中天を過ぎるまで、ただ眺めているにも飽きない風情だった。
こちらの足の間で、元就がひどく無防備に喘いでいる。膝を立てて、常とまるで変わらないように座っている自身の前で、元就だけが卑猥な姿にされている。そこに舌を這わせると、また彼女が泣く。羞恥と困惑と、僅かな屈辱の綯い交ぜになった表情をして、泣きながら首を振った。床に擦りつけられるむき出しの肩が痛そうだったが、自由にすると腕で顔を覆ってしまうので、右手で抑え込んでいる。
左手で相手の乳房を握ると、こちらの肩にかけられた膝が揺れた。頬に内腿の滑らかな感触が触れて、それに笑う。ただ、呼気が当たるだけでもつらいのか、元就はまた声を上げて、施される愛撫にはしたない粘液を漏らす。
直接的で、不健康な体勢だ。元就は、仰向けのまま背中までを浮き上がらせ、こちらの肩に両膝を掛けている。彼女の背中は、すっかりこちらの腹部に凭れていて、自身の口元に相手の性器が広げられていた。吸いつくと、体躯は大げさに震えたが、相手を欲しがっている密やかな入口は、幾度もひくついて痙攣する。薄い茂みを鼻先で擽って、肉芽が上唇に当たると、相手の悲鳴を聞きながらそこを食んだ。
初め、こちらの意図を察したときの元就は、嫌がって身を捩じらせながら、それでもどうにかして逃げようとした。そういった姿は単純に可愛いと思うし、だからこそ捩じ伏せたくもなる。
曝されている元就の女の部分は、月明かりでも十二分にわかるほど熟れていて、舌で押し広げれば発酵物めいた匂いが漂う。肉ひだを舐めながら、彼女が一人でその部分に触れている姿を想像すると、こちらの性器にも欲火が回った。
「なぁ、自分でするときは、いつもどこいじってる?」
「…ッや、し、ゃべる…なっ」
「やっぱここか?」
「ァ、あッ、んぁ! ィあッあァ!」
膨らんだ小粒ほどの女の亀頭を、舌の腹で覆うように舐める。陰核を守る薄皮を剥いでしまうと、その感覚が堪らないのか愛液が溢れ出た。あられもない声を出す元就の表情を眺めなら、相手のものを啜りあげる。そうすると、弱弱しい顔つきで、元就は双眸を潤ませる。
「うん?」
下半身が浮き上がっている体勢のせいで、彼女の胸の先端は鎖骨の方へ向いている。日の光を浴びない乳房の下側は、もともとの肌の白さをそのまま保っていて、妙に目にまぶしい。外側へ寄っている肉を寄せ、乳頭に親指の腹を置く。先を掠めるようにして愛撫すると、自身の胸が目の前でいたぶられる様子に耐えられないのか、きゅうっと元就は目を瞑った。男のいいようにされている様が、ひどくいとけない。
「自分で指とか入れたことあるか? ないなら、きついと思うぞ」
「……ン、ぅっ…」
こちらが話すたび、陰核に唇が当たるので、元就は腰を震わせながら耐える。一人でしているというのが、どの程度のことなのかわからないので、丁重に扱って過ぎるということはないだろう。
彼女の腕を拘束していた手を離して、僅かに問うような視線に笑い返す。そうして、巻き込まないように床へ散っている髪筋を撫でた。額からかき上げ、手のひらで幾度か慰撫する。そうすると、元就は先ほどよりも困惑の色が濃い顔つきをして、両腕で目元を覆ってしまった。
苦笑をこぼすが、すでにひどい恥辱を与えていることは自覚しているので、今回はそれを止めずにおく。そうして、こちらも自由になった右手で彼女の太腿を撫でた。
「ッ、ぁ…や、ぃヤっ……も、とち…かっ」
「どうした?」
「や…ッひろ、げるなぁ……!」
「ん、ちょっと我慢な」
暴れようとする足の内側へ口づけ、両手の指先で彼女の肉を広げる。先ほどまで、こちらの舌になぶられていた部分はとろとろに溶けていたが、ことさら性器の部分だけを見られて元就は悲鳴を上げた。右手の人差し指を潜り込ませると、入らなくもないが、やはり狭く、異物である他者を締め上げる。
「んぅ…っ、ん…ぁ、あン」
幾度か抜き差しをすると、指と一緒に掻き出された体液が彼女の臀部の方へ流れていく。ただ、試しにもう一本入れようと、指の第一関節が二本入り込んだあたりで、呻き声が上がった。
「ごめんな、痛かったか?」
「ん、んぅ…ぅう」
顔を隠してしまっているので、相手の頬を、指先の背で慰撫する。何ともいえない罪悪感がじんわりと胸中に滲むが、滲んだ先から、とつとつと雄の欲も湧き上がる。愛している女の痴態は、本当に、おいしそうだとしか言いようがなくて、たぶん、男が女を犯す業と同じように、男をこんな風な獣にしてしまうのは、女の業なのだろうと思った。
もう一度、秘部の割れ目を指先で開く。小さい粘着質な音が立ち、膣を隠す左右の襞が、愛液の糸を引いて広がる。会陰をたどるように陰核までを舐めると、その途中、尿道口のあたりで元就が首を振った。
元就が見せたくないだろう部分を、じっと眺める。そうすると、その視線を感じるのか、わななくように唇が開いて「見るな」と懇願する。元就が、自身の施すことに泣いている様子は、妙に胸の内を満たす。だから、精々口ばかりの謝罪を繰り返すことしかできないのだが、そうすると、解放されない辱めに彼女が震える。
「ぁ、ッん…ぅあ、ァ……ぁ!」
ぬるりと、相手の膣へ舌を潜り込ませた。指よりも、ずっと容易に彼女自身を犯したものを、狭い体内の管がぎゅうっと握るようにした。上の方を舌先でこすれば、元就は腰を浮かせて、臀部をこちらの胸元へ擦りつける。円を描くように中で蠢かせると、肩に乗せられた膝が内側へ寄せられ、熱をもった足に両頬を挟まれた。首を絞められそうだと苦笑が浮かぶが、その間も、元就の踵は背中の中ほどを擦る。
そんなに奥の方まで馴染ませることはできないが、指よりもいくらか楽なようで、元就の声色には苦痛がない。それよりも、彼女が身じろぐと相手の背中に当たっているこちらの性器もこすれるので、どちらかというとそれが苦しい。
「ァッ…あ! ァんっ……ッャ、ぃやっ…あッ、ァ」
漏れ出る元就の粘液を飲み込む。そのとき、ぷっくりと膨れた陰核へ歯が当たったのか、声が上がった。ふるふると揺れる乳房が視界の隅に映って、何の気はなしに乳頭を摘み上げると、更に元就の中はぎゅうぎゅうと舌を締め上げた。
「んぁっ、ひぅ…ン、ぁん! ゃ、ヤぁッ、ひァ!」
ひゅうひゅうと、元就が苦しげな呼吸をする。相手が高みへ昇り詰めかけているのを察し、そこから口を離して様子を窺うと、半開きになった口腔の中が僅かに覗いていた。悦楽を感じていると、一目でわかる風情であるから、もう少し乱してやりたくなって、片手は胸に触れたまま右手の人差し指を膣の中に押し込んだ。そのまま、愛液をほじり出すように管を擦る。
「ャ、も…とちかッ、だめ、だめ…ッンぅ、……ャあっ!」
「気持ちいいか?」
問われて、頷くことも首を振ることも出来ずに、元就は喘ぐ。人差し指を飲み込んだ性器に、中指の先を押し込むと、先に比べてずっと抵抗もなかったが、入れる最中、粘液の泡立つ音が絶えず鳴っていたので、それがひどく卑猥だった。舌を伸ばし、勃起した陰核の先端を舐める。そこをいじられるのが一番慣れた快楽だからか、元就の身体がびくりと震える。
「ァ…ッあ、ぅンン……ィッく、ぁんッ、ァ! ぃ……っちゃ」
「ああ、いいな。俺も、いくときの元就のここ、見たい」
「っ……やぁ! ぃあ、ャ…っや、…ぃるなァ……ッ!」
「気持よくなって、ひくつくの見せてくれよ」
かわいそうなくらい真赤に腫れた局部は、男の指を飲み込んだ穴から、てらてらとした体液を溢れ出させている。時折、指を引き抜いて尿道口を揉むようにいじると、元就は整わない息ばかりを漏らして、首を何度も左右に振った。丸出しになっている突起へ歯を立てれば、元就の両脚はこちらの背中を引き寄せるように縮こまる。瞬間、押し殺された悲鳴が上がる。
こちらが見ている目の前で、元就の膣は何度もその口を痙攣させると、埋め込まれた指を飲み込むように蠢いた。指を拡げて、中を覗く。可愛らしいその管は懸命に閉じようとするが、壁を擦ると、達したばかりの四肢が反射だけでびくりと跳ね上がった。
「…っぅ、ン…ひぅ、ッ! ひぁアあっぁあ! ゃ、ッア! あ!」
達した瞬間、また薄皮の下に隠れた陰核を舐めると、過敏になっている身体には、それだけで痛いほどの刺激になったらしい。今度こそ抑えられずに泣き喘いで、元就の下半身はぐったりとした。ずるずると右足が滑り落ちて、足首がこちらの肩から転がるように落ちる。庭の方へ広げられた足の指先に、小手毬の白い花弁が触れているが、彼女はひくりと時折身体を震わせるだけで、たぶん、柔らかなその感触に、気付いてすらいないだろう。
愛おしくて、かわいそうで、無防備な姿だった。他人の目の前に裸の腹部や、胸や、恥部をさらして、そこを隠そうする思考すら失って、身を委ねるというよりも、奪われている。覆いかぶさり、みぞおちに口づける。そうして、相手の腕を自身の首へ回させると、ゆっくりと染み入るような満足感が胸のうちを満たした。
「…ぃ、ッあ」
外へと投げられた元就の右足が、小さな花を蹴り上げる。月明かりの下で乱れる白い影が、庭石の上へ散る。相手の左の膝を捕まえて、再度自身の肩へ乗せると、こちらの先端を押しつけた入口が僅かに開いた。
押し入ると、亀頭だけ飲み込んだ入口が引きつる。含まされたものに嘔吐いたそこが、中の肉をもぞもぞと動かし、必死に押し戻そうとするのがわかった。溶かすように可愛がった膣口だったが、それでも切れただろうかと思う。しかし、そこを眺めることもできなかったし、どちらにしろ、元就の苦痛は変わらないに違いなかった。
雁首を締め上げられ、こちらも呼吸が乱れる。ただ、混乱と驚愕に息を止めた元就が腕を縮こませたので、互いの顔の位置がひどく近い。耳元に吹きかけられる呼気は熱いほどで、こめかみに口を寄せると、浮かび上がった汗が唇を濡らした。
たぶん、何を言ったとしても、この瞬間は、自身は元就にとって加害者だった。だから、それでも縋るように伸べられる腕が、自身へと向けられることに悦びを感じる。それは、こちらがずっと元就に対して抱いていた下心や、獣欲を宥め、慰める。
苦しいとも、痛いとも言わない彼女が、未通の場所を犯したそれを、ただ受け入れることしかできないとわかるので、ことさらゆっくりと埋めていく。誰も入り込んだことのない元就の管を広げ、そうしてその奥に進む行為は、それだけでひどく自身を興奮させた。何より、それを望んだのが元就自身だというのが、嬉しいのだと思う。
きゅうっと、さらに狭い部位へ差し掛かる。とろとろとした女の液体にまみれた先端が、ぬるりと窄まった箇所を通ると、犯しているのはこちらなのに、むしろ、甚振られているような気分になった。元就の体内の不規則な肉ひだは、男の性器の先端に吸いついて、そのぶよぶよとした感触で愛撫する。ただ、そういった場所を広げられ、擦られるのは、元就にとっても、気持ちいいことらしい。
「ぅん…っん、……ッ、あン…ん」
「ん?」
「…ィッ、か……も、とぃ…ッぁ」
名を呼ばれたのがわかったので、口と口を合わせ、舌を吸い上げる。小さな唇から、赤い舌先が僅かに覗いて、こちらの口づけを懸命に受ける姿はいじらしかった。彼女自身が散らしている過去の春の白い花は、ゆったりとした風に吹かれている。足の指先に若い葉は握り潰され、下草に落ちた小さな花弁は、月明かりの下、濡れたようなその色をまとったままである。
自身の性器の根の部分と、相手の入口が密着する。ようやっとすべて飲み込んだことがわかったのか、相手の膣は、それを確かめるように押し込まれたものをぎゅうっと握りこんだ。たまらず、吐息をもらすと、それにひそやかな忍び笑いが答える。
艶っぽい相手の性技が、意図的なものなのか、偶然だったのか、それとも反射的な肉の動きなのかはわからない。ただ、引きずり出し、また押し入る。それを繰り返して、犯されることに慣れない場所へ、肉体的な欲を教え込む。
「お前の中に、そりゃもう、俺はずぅっと、吐き出したかったんだろうな」
乱れた息の合間に、そんな言葉を落とすと、まさに中を汚されようとしている女が、こちらに視線を合わせた。欲しがるように、両足は内側へと擦り寄せられ、忙しなく膣が痙攣した。
「ン…ッく、……ぁあ! んぁあッあぁ! ァん! …ぁっア……ぅん、んン…ッふ」
腹部に男を咥え込んで、泣いている元就の顔を見る。そして、耳の穴に落としこまれた呂律の回らない鳴き声に、煮立った欲の熱がぐうっとせり上がった。衝動が、もうしがらみのないところに達すると、そのまま放り投げるように手放す。自身の精が、元就のさらに奥へ噴き掛けられて、その動物的な充足感に手足から力が抜ける。
身体の下で、痺れたように身体を震わせながら、元就は、体内だけを過敏にひくつかせていた。柔らかくなった性器を引き抜くと、僅かにこちらの管に残っていたらしい白濁がこぼれて、彼女の足の付け根を濡らす。元就の恥部は、すっかり自身の精にまみれていて、それを見下ろすと、どうしようもない愉悦だけが残った。
抱きかかえた相手の意識が、眠りから覚めるように戻ってきたのは、それから半刻ほどが過ぎた頃だった。
放り投げた猪口を、わざわざ取りに行く気にもなれなかったので、時折、相手の肌を撫でながら春の月を眺めていたのだが、気が付いた元就は、いまだ乾かない板間に染み込んだ体液のあとを見つけて、微かに顔をしかめて見せた。たぶん、彼女が想像していたものよりも、行為が生々しかったせいだろう。
風の通る場所であるから、汗と精の匂いは僅かなものだ。けれど、そもそも着物自体が、互いの体液を多分に吸い込んでいるので、すでに着られたものではなかった。
相手の脇へと置いた右手を動かし、乳房へ手のひらを這わせる。膝の上の身体は、ほんの少しだけ身じろいだが、それも大した抵抗ではなかった。したくともできないのか、する気がないのかは、察するのも野暮に思える。
「……っ、ん…ぅン」
ふくらみを指先で覆い、揉みこむ。そうして、手探りで見つけた乳頭を抓りあげると、首筋へ額が擦りつけられる。
彼女の言った通りなのだ。男であれば、元就の周囲には、それこそ掃いて捨てるほどいるだろう。多分、元就のすることであれば、多少の無体には目を潰れる自身と、彼女の言葉は、同じ意味を持っていた。
「なァ、元就。嫁に来いよ」
擦り寄せられる頭部に唇を寄せ、裸の胸を可愛がりながら、懐かしい言葉を吐く。
春の風と、春の花と、春の月だ。そして水面に落ち、浮かび、沈んでいく花。遠くに灯る、木蓮の白い炎。
元就は、また、何か言葉を紡ごうとして、口を開く。それを抱きしめることで促す。相手の唇からもれた吐息は、感情的なものだったのか、それとも、与えられる愛撫に耐えるためのものなのか、妙に熱を持っていた。
「……何を、馬鹿なことを」
四年前と違ったのは、そう返した相手の表情に、苦痛がなかったことだろう。見下ろした彼女の顔には、相手を小馬鹿にするような小さな笑みが浮かんでいて、どこかほっとする反面、ひどくもったいないことをしたものだと、過去の自分に悪態を吐いた。
あのとき、もう一押ししておくべきだった。
そんなことを考えていると、気位の高い微笑を刻んだままの唇が、ふんわりと首筋に押し当てられる。ねだるような、甘えるような、とにかく艶のある仕草だったので、「どうした」と、相手の腰を引き寄せた。
相手か被っている着物の中、内腿へゆっくりと手のひらを這わせる。元就は、声を喉で殺す。つれない女だが、本当に、可愛い女だ。そう思って、機嫌が直っている己の現金さに、苦笑を浮かべた。どうしようもなくなったら、そのときは、攫ってしまえばいいと、胸中で呟く。
脚を撫でられ、元就は、両膝を擦り寄せることで耐える。そうすると、いまだ、愛液と精液を注ぎ込まれたままの入口から、小さな水音が聞こえた。
ふんわりと、甘い馥気を漂わせる木蓮の花が、過去と同じ春を見せている。もう暫く眺めていたい気もしたが、元就が、己の一物をゆっくりと撫でたので、まあいいかと視線を逸らした。悪さをする彼女の右手を捕まえて、細い身体を抱え上げると、室の中へと入り込む。
「閉じてくれ」
「あの夜を思い出して、心が揺らぐから」。小さく囁いてきた元就は、顔を隠すように、こちらの胸へと頬をすり寄せる。
障子を閉ざす瞬間、視界の端に池が映った。そこに浮かんだ夜半の月が、風に吹かれて、ゆらりと歪んだ。
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