お題ログ 「ヒーロー養成ギプス」
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「わにちんはね、悪のヒーローだから。」
エイミは、のんびりと微笑んだ。今、下貫の横を歩く思い人は、それはそれは男子寮寮長に首っ丈なのだ。
「ヒーローでカックイーんだけどね、そんでも、闇の支配者だから。」
果たして「ヒーロー」と「闇の支配者」は同列に並ぶべきものなのか、下貫は逡巡した。しかし彼女の、思ったことを思ったまま、彼女の言葉で伝える口調は愛する事柄の一つなので、相づちを打った。
「だからね、わにちんは、悪のヒーローなんだよね。」
子供の好きな飴よりも、甘い笑顔が浮かぶ。
「ねぇ、俺は?」
彼女は彼に視線を合わせ、俯き、思案する。少しだけ寄せた眉根が、彼女が必死に考えているようで可愛かった。
「シモーヌは、赤レンジャー。うん。」
「赤。主役?」
「ん。」
下貫を見上げる彼女はご満悦そうに頷く。下貫も微かに笑い、彼女のセリフの意味するところは細部までは分からなかったけれど、悪意持って言葉を操る人ではないから、褒め言葉のつもりなのだろうと解釈した。
「じゃあ、エイミちゃんはヒロイン?」
下貫は多少の下心と、誠実な恋心の元、何気なさを装い尋ねる。エイミは再び顎にその小さな手を添えると、瞬きをする。
「んーと、よく分かんないけど、ミドリガメって言われたことあるよ。」
「誰に?」
「わにちん。」
予想した通りの返答に、少しばかりへこむけれど。
「シモーヌは、面白いこというよね。」
彼女は下貫にとって、確かにヒロインその人なので。
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