お題ログ 「外つ国の遺産」
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 近づいてくるその匂いに、殺生丸は目をやった。川の中流は涼やかな空気に覆われ、先ほどまで水遊びに興じていたりんの高い声が彼の名を呼び、幼子は殺生丸の足元に走り寄る。木陰の岩石に座った彼は、彼が座ってなお対等になり得ない目の高さに、いつの間にか慣れたようだった。
 それは苦しそうな浅い呼吸を繰り返し、しかし言葉のない殺生丸の側を離れる素振りもない。殺生丸は脆弱な体力にほとほと呆れたが、りんは息が整うと無邪気に笑んだ。
「殺生丸様。」
 りんが何を望んで彼を見上げるのか分からず、そもそも理解する必要性も感じなかったが、一抹の興味で、彼は幼女の次の言葉を待った。
「花が流れてきたんです。」
 要領を得ないセリフに、彼は珍しくも先を促すよう視線を絡ませたまま沈黙を守る。それが嬉しかったのか、りんははしゃいだ。
「向こうから花が流れてきたんです。阿吽と見に行ってきて良いですか?」
 りんの背後ではびしょ濡れた邪見が双頭竜を引いている。以外にも子供を甘やかす従者に、彼は一瞬自身の事は棚に上げて辟易した。
「あの山に、日が掛かるまでには帰って来い。」
 輝いたりんの瞳に妙な高揚感が植え付けられ、彼は彼さえも気付かぬ内にその異様さに思考を奪われていた。
 あの幼女は、愛玩されることでしか生きられない生き物だった。どこまでも愛され、それが人間の子供の生き方なのだ。
 殺生丸は阿吽の背で笑うりんを見た。
 あれは殺生丸の世界には決してなかった、しかし、多分宝だった。


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