お題ログ 「光りさす庭」
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幼い彼の頭一つ分上に、芽吹いたばかりの柔らかな緑が揺れていた。綻ぶようなイエローの花陰は、芝生に彩りを見せていた。
水撒きをし終えたばかりの空気が涼しい風を作り出し、陽射しに暖められた彼の手足を冷やす。
カタツムリの歩みにも似た春の庭園の緩やかさ全てが、つい先日、日本から訪れたばかりの葉月に小さなデジャブを感じ取らせた。
葉月は、芝生へ隠れ損ねたその根が濡れていないことを確かめ、座り込んだ。そして、彼の琴線に触れたそれらを、年齢にそぐわないどこか沈鬱な瞳で眺めやった。
葉月は元よりわかっていた。何が彼を引き留めたのかも、彼自身の晴れない憂いも。
簡単なことだった。春の季節は、彼の記憶に鮮明な一人の少女に似ているのだ。
泣いてはいないだろうか。
何度となくよぎった不安を、葉月はまた抱え込む。愛らしい幼さで次をせがんだ彼女の瞳が濡れてはいまいか、彼はそれだけが気がかりだった。
暖かな陽光は、若葉を通して緑色をした影を作る。まるでそれはステンドグラスのように神聖な静けさをはらむ。葉月の側を風が通る。
花壇の中で咲きこぼれるパンジーやスミレの花が華やかだ。しかし、葉月はそこから視線を外すと自身の膝へ額を乗せ、足を抱いた。
泣いてはいないだろうか。
決して彼を放そうとしない、何よりもの悪夢が葉月を苦しくさせる。
泣いてはいないだろうか。
それでも、庭は静かだ。
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