お題ログ 「空想」
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 多分これは、私の空想でしかないのだろうけれど。
 その日の文芸部の部室には、稜子を含めた3人しかいなかった。稜子の右隣に腰掛ける麗しい才媛木戸野亜紀、そして闇色の沈黙を守る我らが魔王陛下空目恭一。
 稜子はひっそりと息を潜め、双美の友人を眺め遣る。一方、二人は同席する気配に興味の欠片さえも抱かないのか、黙々と手元の活字を追っていた。空目はいつものように稜子にはよくわからない専門書を抱え、亜紀は親書サイズのそれを手慣れた様子で読み進めている。
 稜子は想像する。例えば美しいこの二人が付き合っていたらどうだろう? 皆はとんでもないと戦くだろうか。稜子はそうは思わない。知的で素敵なカップルだ。文庫の中に押し込められた机上のロマンティックより、ずっと画になる二人である。
 今、亜紀の読んでいる書物は空目が彼女に貸し与えたものだ。稜子はそれに気付いている。亜紀が理解しにくい点があったのか、空目に質問している姿を見かけた。
 なんて似合いの二人だろう。稜子はほう、と感嘆する。
 多分これは、私の空想でしかないのだろうけれど。
 亜紀は稜子の視線の意味を図り切れずにいた。空目も彼女のそれに気が付いていたのだろう、亜紀の表情を問うように見る。しかし、亜紀に彼女のピンク色をした思考回路を理解できるはずもなく緩く首を振る。
 亜紀は稜子の考えそうな空想を予想した。
 そして、何となく辟易した。


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