お題ログ 「日常風景」
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「も、ホントにさぁ! 困るんだよ、シンジが居ないと! 俺の生活侭ならねぇんだよ!」
「だからさ、神尾がずさんだったんじゃないの?」
 彼は不満を滲ませた声音で、朝からそればかりを繰り返す。
「んなわけないだろ! 誰にも盗られないように鎖付けてたんだぜ?!」
「諦めて、さっさと代わりを見つけなよ。」
 彼は苛ついたような口振りで、聞き飽きた力説に返事をする。
「簡単に言うな! あいつとはもうすげー長い付き合いでシンジじゃないと上手くリズムに乗れねぇんだよ! そういう身体になっちまってるんだよ!」
「随分と不便な身体だね。」
 彼は提言を突き返すと、訴えるように拳を握った。
「そりゃぁシンジは格好良いぜ? 俺だって一目惚れだったんだから! でも人の物盗るのは犯罪だっつーの!!」
「あぁ、もう。五月蠅いなぁ。」
 彼は今度こそ立ち上がると、顔を顰めて歩き出した。
「え?! シンジっ。」
 彼は今度こそ困ったように、友人の名前を呼んで引き留める。
「何?」
 彼は今度こそ呼ばれた名前に、いつもの様子で振り返ってやる。

「あいつらは何の話をしてるんだ?」
 遠巻きに2人を見守っていた男が、疑問符の浮いた声で尋ねた。
 今月の鍵当番である神尾と深司は、随分と前から彼にしてみれば不可解この上ない会話を繰り広げている。しかし、見るにその応酬は、彼等の間ではちゃんと成立しているようであったのだ。
 掛けられた言葉に気が付いたのか、森は扉から出ていく件の2人を眺め遣る。
 そうして視線を橘に向けると、至極当たり前のような口調で答えた。
「橘さん、知らないんですか? 神尾の自転車、「シンジ」って名前なんですよ。」
 不動峰中男子テニス部は、今日も平和だ。


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