お題ログ 「箱の中身」
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不二はそれを見たとき、慣れた嫉妬に指の先が冷たくなるのを感じた。
日直で遅くなると、昼休み笑って見せた彼を待つ。初夏の夕刻に染まる玄関口から、定期試験前の密やかな校庭を見ていた。
ふと耳に届いた物音に視線を遣ると、少女が挙動不審に右往左往していた。暇つぶしに見つめる。少女は、かたりと1つの下駄箱を開けると、白い封筒をまるで無垢な鳩を扱うように入れた。
彼女の用事を不本意ながら解してしまい、軽くため息を吐く。嫌なものを見たと、率直に感じた。己に気付かなかった少女の足音が消え件の下駄箱の前に立つと、そこには記憶に違わず「河村 隆」とあった。
名も知らぬ少女が羨ましくなった。羞恥に打ち震え、期待と不安におびえるか弱い乙女が、くびり殺したいほど自身の羨望を煽った。
蓋を開ければ、生真面目に揃えられた革靴の上に行儀良い手紙。
告げることの叶う少女の紙切れを捨ててしまおうか。下駄箱の中、自身の中にはそんな悪趣味なものしかなく、突然、子宮を持たないこの身体が悔しくなった。
ぱたりと、精神を逆撫でる元凶を閉ざす。先と同じように解放されている玄関に立つ。
「不二?」
投げられた問いの穏やかさは、未だ彼がその中身を知らないからだ。
「うん、一緒に帰ろうと思って待ってたんだ。迷惑かな?」
「まさか。」
教室に来れば良かったのに。タカさんが笑って言った。
もうすぐ彼は、蓋を開ける。
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