それはほんの些細なことです
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デスマスクには、アフロディーテを受け入れる瞬間がある。
正確に言うなら、その現象を受け入れるという言葉で表すのはどうにも不似合いなのだけれど、しかし強いて言うならば、やはりそれはデスマスクがアフロディーテに気兼ねしない瞬間を指した。
デスマスクは、特殊な出で立ちと数奇な人となりにしては凡庸な男だ。彼はそのことを気に留めないし、また、そもそも彼自身について大した興味も持っていないように見受けられる。デスマスクは、様々な人が感情や精神や本能や思考回路と呼ぶところで、彼の好きに判断や好悪をしていて、そしてその判断や好悪はとても一般的だった。
彼は子供のようにあまり考えないし、子供のようにあまりに手が付けられない。とても単純で、しかし意図的に単純であろうとする、良い表現をすれば、信念といわれるものも、もしかしたら持っているのかもしれなかった。けれど結局彼は、そういった細やかな配慮を彼自身に与えるほど生真面目でもなかったから、デスマスクの行動には一貫性がなく、無意味なものも多々あった。
アフロディーテはデスマスクを見ている。仕方ないのだ。アフロディーテの恋情は、それを強制する。だから、デスマスクが彼自身の様々な面を特に感慨も理由もなく覆い隠さないのを知っている。彼のてらいのない欲求や、掲げる物事は、多くの人の共感を呼ぶものではなかっただけだ。アフロディーテの見る彼の一般性は人間としてまったく自然で、確かに他人の視線を避ける必要などない。
デスマスクの開示するほとんどは、隠匿こそが花だった。アフロディーテから見れば、先の通り、彼は特に何も考えていないだけように思える。しかし、わざとらしいそれを、デスマスクなりの皮肉、もしくはたちの悪い嫌がらせと取るものもいる。
つまるところ、デスマスクは多くの人に対して、悪感情を芽生えさせるほどに素直だった。悪意ある素直さであり、実直と言われれば、それもまた頷ける性質の代物だ。
けれど、アフロディーテは気付くのだ。
アフロディーテの繊細で、それこそ心の切っ先のさらに端まで気を巡らすような恋心は、その鋭敏さで嗅ぎ分ける。
デスマスクが、ほんの時折匂わせる彼の向こう側の気配に、アフロディーテの耳や目や肌や感覚は、ひくりと鎌首をもたげ反応を示す。
デスマスクの向こう側が果たして醜悪なのか、それとも美しいのかは知れない。瞬きにも満たない時間、砂粒よりも小さな何かがアフロディーテのどこかに触れるだけで、その全貌がわかるはずもなかった。しかし、デスマスクがまったく興味を持たない彼自身の一端は、アフロディーテにとってとても重要なものなのだ。それはアフロディーテの恋が求める複数の何かを満たし、そして恍惚とさせる。
彼の何が要因であるのか、その匂いの漏洩は多くない。けれど、その瞬間アフロディーテは、確かにデスマスクの気の緩みを見る。デスマスクが、アフロディーテに向ける何かしらの特別を見る。
それは顕現しないだけだ。しっかりと、存在するのに。
途中まで書いていて、そのあと間を置いて書き進めたせいか何か微妙な代物になった。うん、…何度読み返しても微妙。
ただデスマスクの向こう側は美しくはないと思うよ。
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