おやすみかわいいこ
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夜のしじまが彼の身を包み、ゆっくりと、ゆっくりと、穏やかで優しい世界へ誘っている。
そこは動かず、そこはうつろわず、そこはまほらで、そこは美しい。そこは、世界は彼のためにある世界。
細く繊細な女性の手が、瞬の目蓋を閉ざし、笑っている。彼女の呼気すらも漏れない貞淑な笑みは、しかし喉の震えが空気を震わせ、伝わっていく。優雅な微笑み。
瞬は僅かに抗おうとする。けれど、彼には自分が抗おうとする理由がわからない。だから、結局その抵抗は弱弱しい。瞬の抗いが彼女の憂うつを呼ぶのだから、彼は悲しくなり、沈黙するしかない。首元を探り、金の飾りに触れる。握る。
供物のように、瞬は眠ろうとしている。四肢を無抵抗に投げ出し、首飾の冷たい感触だけ指先に覚え、眠ろうとしている。彼は愛らしい。彼女にとっては、殊更愛らしいのだ。
「おやすみ、かわいいこ」
瞬は答えられない。彼は攫われようとしている。ぬばたまの闇や、月や、夢に。
攫おうとしている。夜が。
何か文字が書きたくなっただけなので特に言うこともなく。
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