ゆきばのないひだりて
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ミーノスはあんな性格であったし、ルネはそんな性格であったから、概ね二人の意思疎通は難航するのが常だった。
彼らは俗に言う恋人同士である。俗でなくとも、立派な恋人同士である。だが、それらしい睦み合いがなされるよりも、ミーノスがルネから避けられていることの方が多かったし、ルネがミーノスに苛立っていることは、それよりさらに日常的なことだった。
思惑の不通という問題においてなら、多分、非は双方に存在するのだ。ただ、ミーノスはルネの機嫌などまったく介さなかったし、その上猫可愛がりをするものだから、もとより神経の細かいルネは、捨て台詞もそこそこに、仕事場へ籠ってしまうのである。
「あなたは私のことを愛玩動物か何かだとでもお思いではないか?!」
今回のルネの怒り所は以上である。
頭を撫でられ、耳の後ろをこすられ、さらには胸に抱き込まれると言うセクハラ紛いの行為に、作りの弱い堪忍袋の緒がぷちりと景気よく切れたのだ。
ミーノスにしてみれば、総毛立って嫌がる姿はまったく愛玩の対象でしかなかったのだが、彼がそれを口走るよりも、ルネの退室は素早かった。静寂を愛する彼自ら足音も荒々しく、乱暴に閉められた扉の悲鳴は振動を連れてミーノスに届く。取り残された立場であるミーノスは、それでもルネの不機嫌の理由が分からず、顎に手を置き僅かな時間考える。
彼にとって、ルネは可愛くて可愛くて仕方がないのだ。強いて言うなら、可愛い方が悪いのである。眉間に皺が寄っているのを見れば構い倒したい衝動に駆られるし、苛立ったように両眼がすがめられると問答無用で撫で回したくなる。それはミーノスにはどうにもできない部類の感情だったし、堪え性もそんなに持ち合わせているわけではなかったから、彼はいつもルネが距離を置くまで自分の欲を満たすことに専念してしまう。彼にとって、それは愛情表現である。だから、ルネがそんなミーノスに必死の抵抗を示すのも、まったく理由が掴めないのだ。そのくせ、これら不理解をルネほど深刻に受け止める性格でもないから、彼らの距離感はまったく縮まらない。
「さて、今度はどうしたものか」
つい先ほどまで、ルネの髪を撫で梳いていたミーノスの両手にはもはや何もなく、そればかりが寂しさを誘う。ただ、ルネのミーノスに向けている愛情を疑わないのは、ミーノスのふてぶてしいところだったし、ルネが地団駄踏んで悔しがるほど、真実に即した強みでもあった。愛情の確信は彼らの間でミーノスを上位にしたし、ルネの怒りはどれも一過性で、やりすごしてしまえばなんてことはないのだ。ミーノスはただ、次の恋人の来訪を待っていればいいのである。
それでも。
ミーノスはじっと手を見つめると、なんだかつまらない気分になった。だから、彼は席を立った。
個人的にルネはミーノスを避けるぐらいでいい。愛情表現愛情表現。
ちなみにミーノスがルネにしたことは私がよく愛猫にしている愛情表現。
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