あれから結構経ったけど
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麗しきは5月の昼下がり。空は青く風は甘く、花は咲き鳥が舞い、人々は陽気に歌を歌う。何をするにも好ましい美しい季節が訪れており、日々は長閑という幸福に満ち溢れ、まったく世はこともない。結構なことである。だがしかし。だがしかし。
なぜ自分は大馬鹿相手に教鞭を振るっているのだろうか。
デスマスクにとって、目下最大の疑問点はそこにあった。
彼は未だ七つを数えたばかりであって、対してデスマスクは今年十二に手が届く。彼らを取り巻く環境的、また人員的問題から、聖域では年長者によって後輩である少年達の養育あるいは教育がなされるが、それでも若干理不尽さを覚える状況に、年若いデスマスクはもう一度だけゆっくりと問い掛けた。
「1+1は?」
「ちょびっと!」
「2+3は?」
「すこし!」
「7+2は?」
「いっぱい!」
「9+8は?」
「たっくさーん!」
「よーし、耳かっぽじって脳髄に叩き込めこのウルトラミジンコ野郎がー」
青空教室の個別授業には聴講者を含め3人しかいない。つまり、教師であるデスマスクと、生徒であるミロと、ミロに付き合わざるを得ないカミュだ。
嘆かわしきは二地点の往復活動である。まず、元気だけは良く答えるミロの右隣で、カミュは親友に耳打ちをしようと身を寄せる。だが、彼の友情が報われる前にミロが方向性の違う答えを叫ぶ。さもありなん。
最初にミロへの教育を諦めたのはアフロディーテだった。次にシュラが疲れ果て、ついにはお鉢がデスマスクに回った。デスマスクに見限られれば後がない。恐怖のサガによるスニオン岬勉強合宿だ。それを明らかにわかっていないミロの横で、むしろカミュが必死になっている。
デスマスクは眉間に皺を作ると、まずはりんごを二つ取り出した。
「こっちの皿にりんごが一つ。もう一皿にもりんごが一つ。ミロ、りんごはいくつある?」
さて時過ぎて幾余年。
ミロの真紅がとどめをさすと、デスマスクの中にはなんともいえない感慨が浮かぶ。激痛に泣く哀れな人々を尻目に、傍観の体勢を崩さずにいれば、ミロが腹立たしげに彼の右腕を引っ張った。
「…ミロ、1+1は?」
デスマスクは問い掛ける。ミロは僅かに顔を顰めると、「2だろう」と簡潔に答えた。
ああ、諦めなくてよかった。
デスマスクは、思わず浮かんでしまった一粒の涙をぬぐう。その喜びは、真実彼にしか分かるまい。
「デスマスク!お前も働け!」
ミロは「わからない」という表情で、とりあえずデスマスクを急かした。デスマスクが思わずがしがしとミロの髪を撫でると、スコーピオンの尾がゆらゆらと揺れた。
結構な間温めていた話。バカミロ書けて満足ですよ。
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