もう少しだけ
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 一番最初に彼の植えた花は、実を言うとばらではなかった。アフロディーテはばらの花をとても気に入っていたし、勿論栽培する算段を彼は立てていたのだが、慣れない土壌に好きな花を植え枯らしてしまうのは、あまり望ましくなかったからだった。
 丈夫な花で様子を見ようと、アフロディーテはギリシャの土でゼラニウムを育てた。ゼラニウムといっても、彼の植えたものはアイビーゼラニウムという。八重の花弁とセイヨウヅタに似た葉を持つ蔦性の花だ。花が育つには気候風土的に手間の掛かるアフロディーテの故郷でも、比較的容易に育てられる花で、暑さにも寒さにも強い植物だった。
 白い花が緑の蔦の中咲いている姿は、清廉で美しいと、アフロディーテは思う。赤や紫も相応に美しいが、それにしても緑が濃い花であるから、白い花のゼラニウムが、彼は一番好きだった。
 花は双魚宮の出入り口に置かれた。数少ない十二宮の住人が教皇宮へ上がる際、それは目に留まり、小さな黄金聖闘士の園芸をサガもアイオロスも楽しんだ。アフロディーテはサガに懐いていた。だから、サガがゼラニウムの花を見てふわりと笑むのが、彼の心躍る瞬間だった。
 ゼラニウムは順調に蔦を伸ばし、柱に絡みついた。白亜の円柱に濃緑の蔦が絡まり、白い花弁の揺れる姿は麗しかった。しかし、その頃からだろう。小さなアイオリアやムウが遊ぶ弾みで床に這う蔓を踏んでしまうことが多くなった。
 アフロディーテは、剪定を怠っているわけではなかった。しかし、蔦を切り落としていないことも事実だった。彼は、子供らしい好奇心で、ただ花の育つまま、緑が這い進んでいく姿を見ていたかっただけだった。
 宝瓶宮へもまだ遠い花は、しかしいつか白羊宮まで下るだろう。山羊座の友人には、この花はいつ届くのか。蟹座の友人には、何年の成長が必要なのか。もう少しだけ伸びれば。
 アフロディーテの楽しい想像は、日に日に育ち伸びていく。
 あと少しもすれば、サガが穏やかな口調で彼を諭しに来るだろう。アフロディーテは、その枝葉を落とすことになる。それでも、ゼラニウムの花は咲く。

 彼は薔薇だけ育ててるわけじゃないんじゃないかなーと。豊穣と創造を象徴する金牛宮の後輩が来たら、その小宇宙を借りて色んな花を育ててるといい。もくれんとか木の花にこって土仕事してるアフロディーテ。も、萌える…!


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