それもまたいわゆる一つの
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 キッチンには魚の焼ける匂いと、バターの焦げる匂いが漂っている。メニューについての論争が魚に落ち着いたからで、肉を所望していた人間はベーコンをつけることを条件に折れたのだ。
 フライパンとフライ返しの装備に身を固め、逆賊・非道と罵られた男が気分良さそうにヒラメを焼いている。デスマスクは料理が上手だ。そして楽しそうだ。その横で卵を割っているムウは、そんな彼をまったく知らなかった。
 聖域の空は晴れている。キッチンの小窓からそれを窺い、ムウはボウルに割りいれた卵をかちゃかちゃとかき混ぜる。彼は、ふと既視感に襲われた。しかし、ムウはとても頭のよい青年であったし、また不可解な能力の所有もしていたので、それがデジャ・ビュといわれるような現象でないと気付くことも、まだ自分が幼い頃にこういった状況下にいたことがあったと思い出すことも、ほぼ同時に認識することが出来た。
 平和だった頃、という言い方はなんとも可愛くないとムウ自身思うのだが、しかしやはり平和だった頃、どちらかといえば内的世界を好んだムウは部屋にこもることが多かった。それはシャカも同じことで、シャカにいたっては今もあまり変わりない。しかし、そんな彼らを「暇なら手伝え」とキッチンに連れ込んだ男が居た。その男は今ヒラメを焼いていて、そのあんばいはムウが盗み見なくともとても素晴らしい。
 彼が初めてキッチンに立ったとき作ったものはオムライスだった。やはりムウは卵を割っていて、シャカが少しだけ不機嫌にかき混ぜていた。そこに、塩とブラックペッパーを入れるんだと、デスマスクがチキンライスにケチャップを入れながら言っていた。ミロがなんとも美味そうに食べて、アイオリアが「おいしい」といったのを、ムウは鮮明に覚えている。ムウは、自身の記憶力の良さが好きだ。
 ムウは青年になったし、あのとき彼らの食事を賄っていた男もやはりそれなりに変わった。料理のレパートリーは二人とも増えたし、技術も台所での立ち振る舞いも板に付いた。
 ムウは一回死んで生き返り、周りには平和だった頃と同じ人々と、新しい人々がいる。聖域の空はなんとも晴れている。
「へーわですねぇ」
 「何が平和なもんかよ」と、人数分12匹のヒラメを焼いているデスマスクが、言葉とは裏腹、やはり気分良さそうに笑った。

 聖戦後。生き返るのはなんともずるいかなぁ思うけれどやはり生き返っていただきたいファン心理。
 「それもまたいわゆる一つの」平和な情景ということで。しかしチビムウとチビシャカと10歳とかの蟹がキッチンでみんなの昼飯作るって超可愛いと思うんですがどうですか。


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