ひとりぼっちの戦争
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 カミュが守護する宝瓶宮の上隣には、麗人が住んでいる。彼はカミュの先輩に当たる黄金聖闘士で、美醜といったものに比較的鈍重な見識を持つカミュから見ても、それは美しい人だった。
 カミュは何の因果か、その美しい人が恋をしていることを知っている。とはいっても、カミュ以外にもその秘め事に勘付いている人物は多く、そもそもアフロディーテの思い人自身が、アフロディーテの内心を随分と前から悟っていた。アフロディーテの恋に進展がないのは、何のことはない。相手がデスマスクだからだ。
 カミュの口が堅く、そして彼らの間に起きる様々なことについて何の意見も持たないせいか、アフロディーテは酒を入れると、とつとつとカミュに彼自身とデスマスクのことについていくらか言葉をもらした。
「デスマスクはひどい男だ」
 カミュと酒を分け合って、アフロディーテはなんとも切なそうに、いつもそう締め括る。カミュは、思い出せる限り、アフロディーテとデスマスクが共に居るときの会話や、雰囲気や、表情を脳裏に描く。そして、自身では知りえない彼らの会話や、雰囲気や、表情があるのだろうといつもそう納得した。
 アフロディーテが、そういった酒の席にカミュを招くのは、多分もう一つ理由がある。カミュはそれを確かめたことはないし、必至に年下の無知を装って、知らぬふりをしている。しかし、彼よりも年上のアフロディーテは、カミュの内心を知っているだろうし、酒の肴にもしている。カミュはミロが好きだ。
 アフロディーテと同じように、カミュの恋もまた年季が入った代物だった。ただ、麗人のそれと違って、カミュの下心を含む好意は文字通り忍ぶ恋だった。カミュにも思うところはあったし、それに気付いたとしても吹聴する輩は居なかった。ミロ本人は、なんとも屈託なく、カミュを親友だと言った。アフロディーテの注ぐ酒には、同じ穴のむじなへ贈る誠意の形をした酔いがある。
「まったく恋とは孤独なものだ」
 アフロディーテは歌うようにいう。カミュは、恋を孤独とは思わなかったが、しかし触れぬようにしているその行為自体が、ひどくひとりぼっちなことなのだ。そしてカミュは、アフロディーテのように背水の陣を引くことが出来ずにいる。
 アフロディーテは、負け戦が立て込んでいるのか、美しい笑みにも疲れが浮かんでいる。カミュはいつも、戦地を横目に見る。しかし、もしもカミュが争いに出たとして、結局彼らの戦場は別々なのだ。

 彼らは互いに実る確率の低い片恋同士で愚痴りあうといい。なんて豪華な酒の席なんだ!!
 アフロディーテは崖の向こう側に行きたくて、色々と模索してる。カミュは向こう側に行きたいのだろうけど、そう欲望を言い切ることにもまだ躊躇いがあって、崖の淵でじーっと動かず向こう側を見てる。
 そんなイメージ。でも二人とも思い人の趣味は悪いと思う。


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