たまに後ろを振り向いて
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アフロディーテのデスマスクに対する恋を、デスマスク本人は当初から気付いてた。アフロディーテの求愛は非常にわかりやすく、またデスマスクへ隠さない方法で行われたので、気付かないという選択肢がまず彼には与えられなかった。
デスマスクの前で、アフロディーテのきれいな顔が歪められることはそう多くない。アフロディーテは気丈な男だったし、一途な男だったから、デスマスクの視界へその身を躍らせるとき、彼は彼の美的センスにそぐわないことを決してしなかった。故意的な素振りは多くあっても、計算染みた仕草は匂わせもしない徹底した男なのだ。
彼らはよく酒を飲み交わしたし、シュラも加えて遊ぶことが多かった。年齢の近さがそうさせていた時期から何年経っても、その関係は僅かな危うげも内包せずに繋がっていた。アフロディーテの恋は場をしらけさせず、まるで音楽のように紡がれ、多くの人に不快感を与えない美しい好意だった。結局のところ、それは他者への常識的な隠匿でしかなかったのだが、それを行えるアフロディーテはやはり美しく頭のいい男なのだ。
デスマスクは、彼自身があまり人間として上等の部類に入らないことをちゃんと理解している。そんな彼は、自分自身のそういった人となりを気に入っているのだが、それはつまりデスマスクがいわくゲテモノ食いと言うだけの話でしかない。そんなデスマスクにはどうにも信じられないのだけれど、そんな彼をアフロディーテは愛して止まないらしいのだ。デスマスクはアフロディーテの友人であるので、その好意を感じ取って以来、アフロディーテのことがどうにも不憫で仕方がなかった。
アフロディーテはあまり聞こうとしないが、デスマスクはそれなりにアフロディーテのことを好んでいる。アフロディーテがデスマスクに乞うている愛ではなかったが、愛していなければ許容しないだろうことをアフロディーテはデスマスクにしている。とはいっても、結局アフロディーテが受け流さざるをえないことを、デスマスクは彼に繰り返し行っているので、第三者に叱られるのはやはりデスマスクなのかもしれない。
アフロディーテは前を見据え、花一輪の気高さを忘れず歩いていくような人間だった。デスマスクが考えるに、アフロディーテにとって、恋とは行く先も来た途も一本道でしかなく、振り返る動作など億劫でしかないのだ。
だからデスマスクは、彼のことがかわいそうでならなかった。アフロディーテには、振り返りさえすれば、優しい誰かがいる。
「もちろん、俺だって」
最後に呟いてんのはデスマスクですよ。
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