ドリーム小説
蒼紅華楽 小話二


花太郎の探し物・零 トラック7



琥珀と霧生の少し(かなり?)ずれた2人と別れ、脱衣所である意味漫才とも思える浮竹、京楽、伊勢の3人の言動を見終わった一護と花太郎は、十番隊舎での汚れとこれまでの疲れ(?)を落とすべく、瀞霊廷大浴場に入浴していた。
するとそれまで彼等だけだったその場所に、良く見知った顔の人物が現れた。
「あ、阿散井副隊長」
「あんだてめぇら・・・まだこんなところでうろうろしてたのか?」
「いちゃあわりぃのかよ。そっちこそまだ勤務時間じゃないのかよ?さぼってんじゃねぇぞ」
「今日は早番だったんだよ・・・それに・・・・」
途中まではっきりとした口調で言っていた阿散井だが、なにやら暫くして顔を少し青褪めさせ、口ごもって続きを言うのをためらっていた。
その様子に当然一護は怪訝な表情をした。
「ん?なんだよ?どうかしたのか?!」
「・・・うるせぇ!大体お前のせいみたいなもん何だよ!俺まで巻き添え食らったんだぞ!!」
「・・・はっ?」
殆ど八つ当たりといっても言い阿散井の発言は、勿論先程一護達が隊舎から去ってすぐに受けた時雨からの報復のことだった。
しかし当然そんな事は勿論、あの場に時雨が居たということすら知らない一護には、阿散井の発言はただのわけの解からないものだった。
そして冷静になってそれに気づいた阿散井は、なんとか平静を取り戻して話を元に戻した。
「・・と、とにかく・・・俺は年中暇してるお前とは違うんだ!」
「なんだとてめぇ!」
しかし結局のところ些細なことから2人は激しい口論となり、間に挟まれた花太郎がおろおろと困り果て、一護が風呂から上がろうという事態にさえなったその時だった。
「なんだ?誰か来たみたいだ」
一護が脱衣場の方から聞こえてくる小さな声に気づき、他の2人も耳をすませてその声を聞こうとする。
そして聞こえてきたのは、明らかに女性、それも複数名と思われる声だった。
その声に驚いて、慌てる一護と阿散井をよそに、1人納得した様子の花太郎が呑気に結論を呟いた。
「ははぁ〜。こっちは今日は女湯だったようですね。日替わりなんですよ」
その花太郎の発言にますます慌てだした一護と阿散井だったが、ついに外の女性陣がその扉を開けて入ってこようとした時、3人はとっさに近くに会った岩の影にその身を隠していた。
そして入ってきた女性陣に気づかれていない事にほっとしながら、3人(というよりも主に一護と阿散井)がなんとか湯気にまぎれて脱出しようと静かに動き出した時、女性陣の気になる会話が耳に聞こえてきた。
「乱菊さんの胸・・本当に大きいですよね・・・」
「まあ、ちょっとね」
「すっごい羨ましいです」
「ふふふっ。じゃーーん!実はうちの姉さんも隠れ巨乳なんですよー」
「清音やめてよ!」
「本当だ!服の上からじゃ目立たないわよね」
「そんなじろじろ見ないでください・・・・そ、それに!そういうことなら・・・私よりも隊長の方が・・・」
「・・・私がどうかしたか?」
勇音が呼んだ名前と、あまりにもその名前と一致する聞きなれた声に、一護と阿散井の2人が硬直した。
「い、今・・・の・・・」
「まさか・・隊長も一緒に入ってるのか?!!」
2人が先程よりも更に危機感を募らせ、冷汗を流しながらまさかと思っていると、その確信とも言える会話の内容が聞こえてきた。
「ああ・・確かに隊長。身長の割りに胸大きいですよね」
「それに、腰も細いし・・・スタイル良いですよね〜」
「・・・そうか?」
自分では自分の体型が解っていない、というよりもそういう知識もなければ無頓着すぎるは、小首を傾げながら不思議そうに周りの女性陣の発言を聞いていた。
「着痩せするタイプか・・それに胸はさらしをしているとしても・・・ふむ」
「乱菊さん・・どうかしました?」
なにやら考え込んでいる松本に雛森が声をかけると、松本はぼそりと呟くように考えていることを漏らした。
「・・・この身体を好き勝手できるのか・・・・・隊長も幸せ者よね〜〜」
「・・・ちょ、ちょっと!何言ってるんですか?!乱菊さん!!」
「そ、そうですよ!」
松本の発言に一瞬思考を奪われた一同だったが、やがて雛森と勇音が真っ赤な顔をして抗議の声を上げた。
「・・・別に私は、冬獅郎くんになら・・何されても良いし・・・・・」
しかし当事者であるが頬を薄く朱に染めながら呟いた一言によってまた一同は静まり返ってしまった。
そして暫くしてまた松本が確信をついたようにぼそりと呟いた。
「・・・・・あ〜〜・・・これはもうとっくに食っちゃってるわね・・・」
「〜〜〜乱菊さん!!」
松本の真顔での発言にまたも雛森がまたも顔を真っ赤にしながら抗議の声をあげる中、脱出を試みていた一護達の方は更に顔を青褪めさせていた。
「・・・やばい・・・この展開は非常にやばい・・・」
「何がですか?!」
「馬鹿野郎!わかんねえのか!まったく見てないとはいえ、と同じ風呂に入ったなんて事が時雨始め零番の連中に・・否、あいつ等はある意味まだ大丈夫かもしれねえが・・・問題は冬獅郎だ!!」
「あ〜〜・・日番谷隊長ですか・・・・・」
「そうだ!知られたら確実に俺達殺されるぞ!!しかも今の会話の内」
「ぶはっ!!」
一護が話を続けようとした時、後ろの方からなにやら嫌な音が聞こえてきた。
見てみると多少の時間差はあるが、どうやら先程の女性陣の話から阿散井が鼻血を吹いたようだった。
「なんだ?恋次・・鼻血出てんじゃねえのか?!」
「出てねえよ!」
「出てるだろ・・・お前、そればれたら・・ますます本気で冬獅郎に抹殺されるの決定だぞ!」
「嫌なこというな!」
「待ってください!今治療しまっ・・・ありゃありゃありゃ・・・」
阿散井の治療を慌てて行なおうとした花太郎だったが、案の定足を滑らせてその場に転んでしまう。
その音に当然気づいてしまった女性陣に慌てて、気づかれまいと(特にには)阿散井は誤魔化すために近くにあった何かでとっさに桶を倒してこの危機を何とか回避した。
「あっぶね〜〜。どうやったんだ?恋次」
「へっ!ゴミ箱に入ってた髑髏のマークのついた玉を、咄嗟に投げつけて桶を崩した」
「グッジョブ!」
阿散井の行動を称える一護だったが、逆に何かに気づいた花太郎は、みるみる哀愁の篭った表情になる。
「それって・・僕が捜していた滋養強壮剤じゃ・・・・・あ〜〜・・ここにあったなんて・・・」
「諦めろ・・・お湯に流されれば、証拠ものこらねえ。拾いに行くには、あまりにもデンジャラス・・・」
「あ〜〜でも、折角先輩達が、卯ノ花隊長に頼んで作ってもらったものなのに・・・」
「また作ってもらえよ!」
何時まで経っても諦めきれないといった様子の花太郎と、それを説得しようとする一護の2人に少し呆れ、阿散井は2人に一言告げて先に脱出すべく出口の方に向かった。
そしてようやく脱出できると扉に手をかけよと思ったその時、何故か扉が勝手に開いた。
否、扉が勝手に開くはずもなく、彼の目の前には扉を開いた張本人である伊勢が立っていた。
そして暫しの間の後、伊勢の悲鳴が高々に大浴場に響き渡った。
それに気づいた大浴場の中にいた他の女性陣一同も慌てて駆けつけ、阿散井の姿を確認した途端伊勢同様悲鳴を上げるものが殆どだった。
そして阿散井の弁明など通るはずもなく、主に松本によって成敗される阿散井を犠牲に、一護と花太郎は彼が女性陣によって成敗される中、大浴場からなんとか脱出に成功したのだった。






花太郎の探し物・零 トラック6




牡丹共々暴走状態になってしまった捺芽を十番隊隊舎に取り残し、一護と花太郎は引き攣ったような顔をしながら廊下を歩いていた。
「あーー・・酷い目に合った〜〜・・・・・体中ゴミくせぇ〜」
「あははっ・・・・・・次は瀞霊廷の大浴場・『瀞霊廷大温泉物語』です。お風呂はいりましょうか?」
「・・・どっかで聞いたことあるような名前だな・・・」
お風呂に入ること自体はとても有難いことなのだが、その名前のセンスにはどうも突っ込みをいれたくなってしまう。
「この巨大温泉施設は、戦いで傷ついた死神の湯治場として建設されたもので、傷を癒してくれる湯が沸いています」
「浦原さんが双極の丘の地下に掘ってた修行場所にも、傷を治す温泉があったな・・・」
「それはここの源泉からこっそりひいてたらしいです」
一護が不意に思い出して口にした言葉に、花太郎が乾いた笑いを漏らしながら事情を説明していく。
「一時期湯量が少なくなって、問題になってたみたいですね」
「・・・犯罪だよ。それ」
「喜助様だから良いんですよ」
花太郎の口にした衝撃的な一言に、顔を引き攣らせながらぽつりと一護が漏らしたその一言に、やけに楽しげに返してくる第三者の声が突然聞こえてきた。
その声に一護と花太郎が真顔のまま後ろを振り返ってみると、そこには声から予想していた人物と、それに加えてもう1人の人物が立っていた。
そしてそこでようやく時間が動き出したかのように、一護と花太郎はまともに驚いた様子を見せた。
「こ、琥珀に、霧生!」
「うわわわっ!明塚六席に、岬杜七席!」
「あの・・・何もそこまで驚かれなくても」
「そうそう。別にとって食うわけじゃないんだし」
「あったりまえだ!っていうか、気配もなく後ろに立たれれば、誰でも驚くだろ!!」
一護の言い分は当然の事なのだが、顔を見合わせている2人の様子から察するに、おそらくは一護の言っている事に対して否定的な思考を巡らせていることが伺える。
考えてみれば彼等が気配もなく人の後ろに立つことはあっても、人に自分たちの後ろに立たれることはないのだろう。
なにしろ最強の零番隊だ。
一護がその考えに至って、また顔を引き攣らせていると、花太郎が不思議そうに2人に尋ねていた。
「あのーー・・・お2人はここで何をしていらっしゃるのですか?」
「ん?俺たちか?良く聞いた!俺たちはな、瀞霊廷温泉巡りの真っ最中だ」
「・・・・・はいっ?」
霧生の言った謎の一言に、一護が思わず呆けた声を漏らした。
すると霧生の言葉を補足するように琥珀が口を開く。
「僕達、温泉大好きなもので。それで、たまにこうして2人で瀞霊廷内のあちこちの温泉廻ってるんですよ」
「一護殿たちが今向かわれている大温泉物語にはもういってきましたし。後は今回の最大の目的である、先程一護殿達も仰ってた、喜助様が作られた修行場の温泉を残すのみです!」
「あそこは隊長の許可がなければ行けませんから。今回は久々に許可が下りたので楽しみなんですよぉ」
そう言って本当に心底楽しそうにしている2人を見て、本当に温泉が好きなのだなと、なんだかある意味意外な一面を垣間見た気がした。
そしてそこでふと一護はある事に思い至った。
「・・・って、なんでその大浴場から出てきたところなのに、俺達の後ろに立ってたんだよ?」
「あっ・・そうですよね・・・普通は僕達の進行方向から現れるはずですけど・・・」
一護の私的に花太郎もはっとして、不思議そうに2人揃って琥珀と霧生を見たが、琥珀と霧生はまったく動じることもなく、寧ろ当然というように笑ってきっぱりとある意味答えになっていない答えを言った。
「決まってるじゃないか。普通に現れたんじゃ面白くないからな!」
「・・・僕は霧生に付き合ってですけど。でも・・・確かにそうかもしれませんし」
「そういうわけだ。じゃ、俺達はもう行くから」
「大浴場の入り口付近に、京楽八番隊長と浮竹十三番隊長がいらっしゃいましたから、変に絡まれないように気をつけてください」
「なんか伊勢の奴微妙に大変そうだったしな〜。じゃ、そういうことで」
「失礼いたします」
そうして一方的に話を進め、一方的に去っていった2人を暫し呆然と一護と花太郎は静かに見送った後、不意に先に口を開いたのは一護の方だった。
「・・・なんていうか、本当に変な奴ばっかだな。零番」
「・・あ・・あはっはは・・・・・・」
思わず引き攣った顔でぽつりと思ったことを漏らした一護に対し、花太郎は肯定も否定もせずに乾いた笑いを漏らしただけだった。
しかしこの乾いた笑いは何よりの肯定の証だと一護も解っていた。
そして2人は複雑な心境のまま大浴場に辿り着き、そこで琥珀が告げたとおり、ある意味一護にとっては妙な光景を目の当たりにするのだった。




花太郎の探し物・零 トラック5




食堂で氷室と湖帆の異常なまでの食欲と底なし胃袋に顔を引き攣らせながらも、結局夜一によって強制的に頼まれた料理を完食した一護は、膨れすぎたお腹に苦労しながら廊下を歩いていた。
「い、一護殿・・・大丈夫ですか?」
「食べすぎですよぉ・・・」
その一護の状態を哀れそうに見る捺芽と、事情を知らないため呆れたような花太郎。
この時、捺芽は事情を知らずにこういうことを言える花太郎は、ある意味幸せなのかもしれないと思った。
そんな状況の中、3人は次の目的地に到着していた。
「ここが隊員の控え室です」
花太郎がそう言って立ち止まったのは、十番隊の隊員控え室だった。
「お邪魔します」
そして花太郎が手をかけて扉を開いた瞬間、まさかの事態が3人の目の前で起こった。
それは溢れかえって崩れ出てくる、ごみの山だった。
一護と花太郎は見事にそれに巻き込まれ、捺芽だけは瞬時の判断力でかわしていた。
「だ、大丈夫ですか?一護殿、花太郎」
「・・・1人だけかわしておいてそういうこと言うな」
「・・・・・すいません」
「何やってるの?そっと開けないと崩れちゃるでしょ」
捺芽と一護の2人が微妙な会話をしていると、中からあまりにも不条理な呆れた声が聞こえてきた。
そして部屋の中を見た瞬間、3人は顔を引き攣らせた。
「うおっ!きったねえ部屋。食い終わったお菓子の袋とか、床においてあるぜ」
「・・・どう考えても、俺達のせいじゃないだろ。松本」
その部屋を見て一護は素直に引き攣った様子で感想(?)を言い、捺芽は突っ込みとも抗議とも取れる事を松本に向かって言った。
「何か用?」
一護の台詞が原因か、捺芽の突っ込みが原因か、少し不機嫌そうに尋ねてくる松本に、花太郎は事情を素直に説明していく。
それを聞いた松本はあったかどうか解らないと答えたが、そのすぐ後に好きに探していっても良い言ったので、花太郎は喜んで礼を言った。
しかし素直に喜ぶ花太郎以外の2人は、現状を把握して引き攣った表情になっていた。
「こっから探すのか?」
「すっごい大変そうですね・・・」
「大体どこ歩けばいいんだよ?」
「失礼ね。ここに人の通り道があるじゃない」
「獣道かよ・・・」
「っていうか、松本・・・そもそも室内で『人の通り道』って言う事からしておかしいだろ・・・」
松本の言葉に突っ込みを入れる2人だったが、当の松本は全く気にした様子もなかった。
これ以上討論しても仕方がないと判断した2人は、深い溜息をつきながら、先に探し始めた花太郎を手伝うべく、半ば片付けながら滋養強壮剤を探し始めた。
その間色々と平気で要求してくる松本に、何だかんだと言って3人とも聞き入れていた。
もっとも花太郎だけは素で聞いていたが。
「・・・俺、立場的というか権限的には松本よりも上なんだけどな・・・」
そういうぽつりと捺芽がこぼした台詞の通り、余談になるが零番隊の副隊長から四席までは、十三隊の隊長並の権限を持っていた。
しかし現状を見てみれば言うだけ虚しいだけとも思われた。
そしてついに我慢が出来なくなってきたのか真っ先に一護が松本に突っ込みのような抗議を始めた。
「俺等あんたの雑用係じゃねーよ」
「いいじゃない。ついでなんだし」
「良くない!だいたいあんた、俺達に雑用させて、ずっと動いてねえじゃねえか」
「あははっ・・それはそれ」
「・・・どれ?」
あまりにも悪びれた様子のない松本に、一護も次第に突っ込む気力さえなくなってきていたその時、突然部屋の扉が開かれて雛森が姿を見せ部屋の様子を見て声を上げた。
「なんですか?この部屋」
「おほほっ、ちょっと散らかしちゃって」
「ちょっとじゃないでしょ・・・シロちゃ・・・じゃなかった。日番谷くんが帰ってきたら、また怒られますよ」
「それまでには片付けるわよ」
「もう帰ってきてるぞ」
松本のその言葉に捺芽が「ひょっとして俺達がか?」と言おうとした時、部屋の入り口に先程雛森が懸念していた人物が現れ不機嫌そうに告げていた。
そして暫く論点のずれた会話を日番谷と雛森がしていると、松本は上手く誤魔化してその場を立ち去ろうとしたが、当然日番谷がそれを許すはずもなく呼び止められ、彼女の顔は引き攣っていた。
もっともな日番谷の説教が松本に向かって展開されるのを眺めつつ、捺芽達が滋養強壮剤を探すついでに片づけをしていると、捺芽にとってはとても気になる会話に発展していた。
「で、でも隊長・・・私がさぼるとか言ってますけど・・・隊長だって、隊長と執務中によくいちゃついてる事あるじゃないですか」
「なっ!」
「この間も、隊長に擦り寄られてるところとか、膝枕してもらってるところとか目撃しましたけど」
さすがにこの反撃は予想外だったのか、顔を真っ赤にして半ば言葉を失う日番谷。
一方、多少呆然とする一護は捺芽に話しかける。
「・・・そうなのか?」
「はい。隊長、よく日番谷十番隊長の所にお出かけになりますから。内容まではしりませんでしたけど」
「はぁ〜〜・・・あまり想像できねえんっだけど」
「まあ、普段の隊長しか知らなければそうでしょうけど・・・あ、ちなみに引っ付いていくのは大抵、うちの隊長かららしいですよ」
「ますます想像できねー」
「・・・っ、そこの2人!何勝手なこと喋ってやがる!特に燈空・・・その手に持っているものはなんだ?!!」
我に返った日番谷がこそこそと話す捺芽と一護を怒鳴り、さらに捺芽の持っているそれを問いただした。
すると時雨は隠すでもなく素直にそれを突き出して答えた。
「これは、喜助様が開発されたらしい・・・超高性能拾音機・おとひろいくんです!」
「・・・またそんな名前なのかよ・・・・・っていうか、お前はの部下だが、やっぱり間違いなく時雨の部下でもあるな」
嫌な確信の仕方だか、そう思わずにはいられないような捺芽の行動だった。
さすがにこれには一護も顔を引き攣らせている。
「ったく、松本もだが、お前も何考え・・」
「きゃーーーーーーー!!」
日番谷が松本共々捺芽を説教しようとした時、扉付近から激しい悲鳴が聞こえてきた。
「牡丹?!」
突然の牡丹の登場に驚く一同だったが、そんな事には一切関知せず、牡丹は身体を震わせていた。
「な、なんですか?!この部屋の有様は?!!」
「ああ・・・これは・・・」
「ここは十番隊の隊舎ですよ!?日番谷十番隊長のおられるところですよ!?つまりは、隊長の良くこられるところですよ!?」
その繋げ方はどうかとも思ったが、事実なので誰も言い返せなかった。
「それがこんな・・・こんなごみだらけの所に、隊長がこられるなんて、あってはならないことですわ!!」
「ぼ、牡丹・・・?」
あまりの普段ののほほんぶりからの変貌振りに、さすがに一護を始め誰もが引いていた。
捺芽以外は。
「大掃除ですわ!はっ!捺芽四席、丁度良い所に・・・この部屋の掃除のお手伝いをお願いいたします!!」
「そう・・・だな・・・」
「捺芽・・・?!」
なにやら横でぼそっと呟いた捺芽に一護は反応した。
「牡丹・・・お前の言葉でようやく気づいた。確かに、こんなごみが散乱どころか、山済みの場所・・隊長がこられては一大事だ!」
「捺芽四席!掃除しましょう」
「ああ、隊長のために!」
何かの芝居でも始まったかのような2人(しかし2人とも本気で真剣)に、一同が呆然とする中、花太郎が平然とここにはないと告げたので、他の呆然としている面々や、牡丹と共にまるで糸が切れたかのように別の世界にいってしまった捺芽を置いて、一護と花太郎はあっさりと次の場所へと向かったのだった。






花太郎の探し物・零 トラック4



六番隊の隊舎を(捺芽だけは阿散井と白哉の身に起こっているであろう事を少し哀れに思いながら)後にし、3人は食堂にやってきていた。
そしてそこで尋常ではないものを目撃した。
山のように積まれ、物凄いスピードで空になっていく皿と、それをたった1人で行っている人物だった。
「おいっ。漫画みたいに皿を積み上げてる奴がいるぞ・・」
「あれは砕蜂様。隊長クラスは巨大な霊力に比例して食欲も増すんでしょうか?」
「あの身体のどこにあんだけの量が入ってんだ?つーか、身体の体積より、食ったものが多くねえか?」
「きっと消化も早いんすよ」
そんな2人の会話を聞き、砕蜂の大食いっぷりを見ながら、何故か捺芽は意味ありげなように遠い目をし、更には心の中で苦笑していた。
そんな捺芽の様子に気づかない2人、花太郎は平然とした様子で滋養強壮剤を探しにいき、一護はそのまま呆然とした状態で砕蜂と一緒にいる大前田の様子を観察していた。
砕蜂と大前田の間で交わされる話の内容は、どこか大前田には少し怒りがこみ上げてき、砕蜂は言っていることはもっともなのだが、目の前に繰り広げられる光景を合わせてみるととっても突っ込みたくなるようなものだった。
実際一護は「アホだ」と突っ込み、捺芽もそれに頷いて賛同した。
そんな2人の様子を一護と捺芽のが少し呆れたような表情で見ていると、突然後ろから知った声が聞こえてきた。
「一護と捺芽ではないか」
「あ、夜一さん」
「夜一様」
「2人ともこんなところで何をしておるのだ?」
「・・ちょっと見学を」
「・・・付き添いといったところです」
その微妙な2人の返答に夜一が首を傾けていると、先程一護と捺芽が目をやっていた方向から心底嬉しそうな声が聞こえてきた。
「夜一様!」
「おお。砕蜂か」
「お食事ですか?よろしければ、ご一緒させていただけませんか?こちらに、席をご用意させますので」
「そうか。よしっ、一護に捺芽。貴様等も来い」
「おっ?」
「えっ?」
「・・・・こやつ等もですか?というか・・・なんで、零番の燈空までここに・・・」
夜一の誘いに驚く一護と捺芽に対し、砕蜂は心底嫌そうな顔をしたが、夜一の一言でなんとか丸く収まった。
もっともそれでもやはり砕蜂は嫌そうではあったが。
結局、捺芽は軽く言い訳をして丁重に断り、結局食事には一護1人が付き合うことになった。
「さて、何を食すかのう・・・まず、餃子、レバニラ炒め、回鍋肉、鳥の唐揚げ・・・・・」
どこまで続くか解らない、しかも注文する種類が増えていく度に早口になるその様に、一護はぎょっとしていた。
「まだ注文するのかよ?・・・?」
「各十人前に、お櫃で白米を十合」
「さすが夜一様。見事な食欲!」
唖然とする一護に対し、砕蜂は何故か夜一に尊敬の念を送っていた。
一護にしてみればそのすぐ後、同じだけのメニューを自分も同じたけの量を頼まれそうになったため即座に慌てた。
「そんな量食えるか!」
「貴様ぁ!夜一様の好意を無にするつもりか?!」
「・・・・・っていうか、まだましな方ですよね・・・・・・」
一護の突っ込みに対して先程から何故か複雑そうな顔で明後日の方向を向いていた捺芽がなにやらぼそりと呟いた。
しかしその一言は一護の言葉に過剰反応した砕蜂の声でかき消されていた。
そして一護のメニューは夜一と同じだけというのは回避できたが、それでもその半分(ご飯は普通盛)という一護にとってはかなりシビアなものになっていた。
それを食べなければいけないと思って一護がげっそりとしていると、また知った声が一同の下に近づいてきた。
「あっれ〜〜?夜一様に、一護殿に、捺芽に、砕蜂二番隊長。珍しい取り合わせっすね・・・・あ、後おまけも1人いたか」
「誰がおまけだ?!」
「お前以外に誰がいる?」
「氷室三席に、湖帆」
少し驚きながらかなり酷いことを言ってのける氷室に対し、当然の非難の声をかける大前田だったが、湖帆によってあっさりばっさり斬り捨てられた。
「・・・どうして、今日はこんな所に零番がぞろぞろと来るのだ?」
「今日はって・・・捺芽は知らないっすけど、俺と湖帆は結構前からここきてたっすよ」
「そうですね」
「えっ?」
氷室のその言葉と湖帆の肯定に、砕蜂だけでなく捺芽以外のその場にいた全員が驚く。
「前から・・・私は見たことないぞ?!」
「そりゃあ、変装してきてましたから・・・もうする必要なくなったけど」
「久遠の妙な変装道具の数々がここぞとばかりに役にたってましたね・・・」
湖帆のその言葉を聞いた瞬間、久遠のあの収集品の数々を見たことのある一護と夜一は、「今まであれに頼っていたのか」と少し顔を引き攣らせていた。
「隊で食べる飯は当然上手いんっすけど・・・時々小腹がすくんで」
「それで私と氷室三席はよくここを利用しているんです」
そう言って2人は席に座るとすぐにメニューを眺めたが、少ししてから氷室はメニューを見るのをやめた。
「あ〜・・今日はめんどくさいから、とりあえずメニュー全部20人前ずつ」
さすがにその台詞には一護を始め、ほぼ全員が顔を引き攣らせていた。
「お、多すぎじゃないか・・・?」
「まあ、氷室三席のは少しそうですね・・・」
「だよな・・・」
「じゃあ、私はメニュー10人前ずつ・・・あ、やっぱり焼き魚定食と鯖の味噌煮と、レバニラ炒め定食だけ15人前で」
「あと、食後にみたらし団子と、杏仁豆腐と、大福、桜餅、柏餅を、5人前ずつ」
「基本ですね」
一護の言葉に賛同しておきながら、その後すぐに頼んだ湖帆の注文も半端ではない量だった。
さらに食後のデザートまで追加するあたりで、全員顔を引き攣らせたままで何も言えなかった。
ただ捺芽はとても遠い目をして、それが全て知っていたという様子だった。
そしてそのままの状態でぼそりと呟いた。
「ちなみに・・・隊長以下俺達他の零番隊員は全員、一般人と同じ量しか食べれませんので。どうか勘違いしないようにお願いします」
なんだかその捺芽の言葉が何故かとても哀れに思えて、一同はただ黙って首を縦に振ったのだった。





花太郎の探し物・零 トラック3


中央四十六室の警備詰所を後にした捺芽は、先に出て行った一護と花太郎の霊圧を辿って六番隊の隊舎に辿り着いた。
するとそこでは唖然とした様子で執務室の扉近くに佇む2人の姿を見つけた。
「あれ?一護殿、どうかしたんですか・」
「あ、ああ・・捺芽か・・いや、ちょっとあの2人の会話がな・・・」
引き攣った顔をしながらそう言う一護に従ってその2人、阿散井と白哉の会話に耳を傾けてみた。
「こればっかりは幾ら隊長相手でも譲れません!なんなら、実力を見てもらいましょうか?」
「まさか・・・貴様・・・」
「ちょ、ちょっと待ったぁ!」
さすがにやばいと思った一護が飛び出し2人の間に割って入った。
少ししか2人の会話を聞いていない捺芽にも、この一護の判断は的確に思えた。
あれだけの会話を聞いただけでも、どう考えても一触即発の内容だったからだ。
しかしその後の一護の当然といえる説得に対し、逆に今度は阿散井と白哉が不思議そうな表情で一護を見ていた。
そして阿散井の呆れたような声に一護の方が逆に罰の悪そうな声になる。
「いや、中からお前らの言い争う声が聞こえてきたからよ」
「言い争う?何のことだ?俺は今度の隊の演習に持っていく弁当の仕出しを、どこに出すか隊長に説明してただけだぞ」
「えっ?だって、実力を見せるとか見せねえとかって・・・」
「見本を取り寄せて、味見するって話だ」
そう言って話の内容を説明した阿散井に対し、一護だけでなく捺芽も引き攣った顔になっていた。
一護に関しては紛らわしい会話に少し怒りすら湧いているようだった。
「てめえら、紛らわしい会話してるんじゃねえよ」
「同感です・・・・・というよりも、よくもまあその程度のことであれほど熱く・・・」
一護の言葉に賛同する捺芽は首を縦に振り、完全に呆れたような物言いだった。
「うるせえ!だいた、てめえこんなところに何しに来た?!しかも燈空まで同伴かよ!」
「落し物を探しに着ました」
互いに挑発しあっているともいえる一護、阿散井。
呆れ果て遠い目をしている捺芽。
そんな中ですでに空気が読めないのはある意味1つの才能なのか、花太郎はその場の空気をものともせずあっさりと口を出して見せた。
「かっこいい髑髏のマークの入った、滋養強壮剤なんですけど」
「かっこいい髑髏・・」
「そこに反応すんのかよ・・」
一護が飛び出して以来、今まで終始無言だった白哉がようやく口を開いたのがそこだったことに、一護はすかさず突っ込みを入れたが、捺芽は自分もそこ(かっこいい髑髏)に突っ込んだ身のためなんとも言い難かった。
結局、花太郎の探している滋養強壮剤はここにもなく、阿散井から支給された血止めの薬が足りなかったという話になっていた。
そして花太郎が新しく置いていくといった血止め薬の話は、なんだかどこかの訪問販売の営業員の話か何かのようにも聞こえたが、そんなかなりどうでも良い考えは次の白哉の言葉で吹っ飛んだ。
「ならば貴様でその効用を試してみよう。そこを動くな」
そう言って斬魄刀を構えた白哉に対し、一護が冗談だと笑い飛ばし、花太郎も一護のその言葉に素直に納得して2人揃って笑いとばすという、ある意味とても肝の据わった事をしてのけていた。
しかしその中で捺芽だけが何かに気づいたような様子だったが、それに対して他の誰も気づいてはいなかった。
「ここにはねえみてえだし。次行くぞ」
「すみません。お邪魔しました」
「捺芽も行くぞーー」
「あ、はい・・・」
一護に呼ばれて返事をした捺芽だったが、先に2人が出て行くのを確認した後、阿散井と白哉の方を振り返り、神妙な面持ちで意味深げに告げた。
「・・・2人とも、気をつけた方がいいと思いますよ」
「なに・・・?」
「じゃ、俺はちゃんと忠告しましのたで」
それだけ言って詳しいことは告げずにさっさと部屋を後にした捺芽を見送った後、少ししてから阿散井がふと白哉に尋ねた。
「・・・冗談だったんっすか?今の・・・」
「なんの事だ?」
「へ〜〜・・やっぱりそうだったんですか」
白哉の言葉にやはりと阿散井が一護と花太郎の鈍さにある意味賞賛を送った瞬間、突然2人の背後から聞き覚えのある声がした。
その姿をしっかりと確認した瞬間、その人物の出現にさすがの2人も顔が引き攣った。
「は、羽鳴?!お前、いつ・・・」
「捺芽がこの部屋に入ってきて少ししてからだな。捺芽の奴だけは途中から気づいてたみたいだけど」
それを聞いた瞬間、相変わらずなんてでたらめな気配の消し方だと、阿散井だけでなく、白哉も思っていた。
「え〜〜っと、それよりも。朽木六番隊長」
「なんだ?」
「さっきのが本当だったってことは、一護殿も巻き添え食らわせる予定があったって事ですか?」
時雨のその言葉に対し、彼が何を言いたいのか瞬時に察した阿散井の顔は青くなっていた。
しかし解き既に遅し・・・
「もう皆さん、ご存知だと思いますけど・・・一護殿って、うちの隊長の弟弟子殿なんですよね・・」
「ちょ、ちょっと待て・・・羽鳴、落ち着け・・」
「・・・・・・待てると思うか?」
慌てる阿散井に対し、にっこりと邪悪な腹黒い笑みを時雨は浮かべていた。
その瞬間、阿散井と白哉は彼が何を言いたくて、そして何をしようとしているのかを悟った。

この後、六番隊のツートップがどうなったのか、知るものは多分いない・・・・・




花太郎の探し物・零 トラック2


花太郎の探す特別性の滋養強壮剤を求めて3人がまず最初に訪れたのは、中央四十六室の警備詰所だった。
しかしその場所の事をこの中で唯一知らない一護は説明を求め、花太郎がそれに対して簡単に説明をした。
「中央四十六室に、関係者以外が入れないよう、各隊が持ち回りで警備しているんです。ここは、その警備詰所です」
そして花太郎のその説明を聞いた瞬間、捺芽は密かに目線をあさっての方向にそらして複雑そうな表情をしていた。
なぜなら、関係者以外が入れないように、と花太郎は説明したのだが、零番の隊員達は必要に応じて思いっきり無断で密かに出入りしているためだった。
そんな事実は当然当人達意外知る由もない。
言う気も勿論ない。
「今週は十一番隊が担当なんですよ」
「ああ・・あいつらか。あの戦闘馬鹿達に警備なんて勤まるのか?」
一護のその言葉に思わず捺芽も反射的に頷いてしまった。
そしてその2人の心情を肯定するかのように、扉を開けた先では十一番隊の隊長含む四名が、警備をサボって思いっきりばば抜き大会(?)していた。
その光景に呆れる一護と、やはりというような捺芽、そして花太郎は特に突っ込みはないようだった。
「・・・なんというか、予想通りの展開ですね」
「ああ・・・っていうか・・・」
「はい・・・更木十一番隊長。ばば抜き弱すぎです・・・」
「今時あんな見え透いた手を使う奴がいたとはな・・・」
「・・・いたみたいですね」
などと十一番隊のばば抜き(主に更木に関して)何故か一護と捺芽が遠い目で批評を言い合う中、更木の七十連敗という結果でばば抜きは終わった。
「・・・っていうか、七十」
「なんて突っ込みどころ満載なんだ・・・」
さすがにその事実には一護と捺芽は信じられないといったように呆然としていた。
そしてそんな2人とは裏腹に、十一番隊の面々がの場の空気が悪化していく中で、花太郎がとんでもないことを言い出した。
「僕の落し物を見なかったか聞いてみましょう」
さすがにこの言葉には2人も反応し、すぐに我に返っていた。
「あ、待て、止めろ!てめぇ、今この場の空気読めねえのか?!」
一護が必死にそう言うが、どうやら花太郎には読めていなかったようだ。
あっさりと自ら死地といって良い場所に足を踏み入れた。
そして案の上というか、花太郎にあは十一番隊の面々の鋭い眼光を浴びせらた。
しかしそれにはまったく気づいていないのか、平然と聞きたいことを尋ねる花太郎に対し、不機嫌が頂点に達したような更木が刀に手をかけたところで、やばいと感じた一護が焦って花太郎を回収した。
「なんでもないです!失礼しました〜〜!」
彼もあまりにもこの場の空気が恐ろしかったのか、普段はあまり使うことのない敬語に自然となってしまっていた。
そして手早く花太郎を回収して去っていった一護に、暫し呆然としていた一同だが、最初に我に返った一角がぽつりと口にした。
「あれ?今の、一護じゃなかったか?」
「どうでもいい。今日は勝つまでやるぞ!」
「なら、一つ言いたい事があるのですが・・・・・」
更木が叫んだ瞬間、突然気配もなく背後から現れた捺芽に、当然その場にいた全員が驚いた。
「って、うわ!零番の捺芽四席?!」
「い、いつから・・・」
「いつからというか・・・一護殿達とずっと一緒にいたけど・・・」
一護にしろ捺芽にしろ、今の今まで気づかないほど自分達はばば抜きに集中していたのかと、なんだか少しだけ切なくなった者が半分ほどいた。
もっとも捺芽の場合普段からほとんど気配を感じさせていないというのもある。
「で、言いたいことってのはなんだ?!手短にいわねーと斬るぞ」
「それは大丈夫です。俺、更木十一番隊長より強いですから」
普通言い憎いようなことをさらりと言ってのける彼は、やはり零番隊なのだと一角と弓親は感じていた。
しかし今の更木はばば抜きのことで、特にそのことについては気にしていないようだった。
「えっとですね。更木十一番隊長、下手に駆け引きを持ち込もうとするから駄目なんだと思いますよ。なんていうか、それをやめて、もっと自分が1番勘の働く時みたいな感覚でやってみたらどうですか?」
「なるほど・・・一理あるな」
「じゃ、俺はそれだけ言いたかっただけですので。後は御自分で頑張ってみてください。俺は一護殿達を追いますので」
どうやら少し納得したような更木を見届け、そう告げると捺芽は早々に詰所から出て行き扉を閉め、そしてそこで1度立ち止まりぽつりと告げた。
「・・だって、見てられなかったもんなぁ・・・七十連敗だなんて・・・」
そう言ってはあっと溜息をつくと、捺芽はすでに逃げるようにこの場を去っていった2人霊圧を辿って後を追った。



花太郎の探し物・零 トラック1




何やら慌てて探し物をしている花太郎に、先程から声をかけているがまるで聞いていない為、そろそろ突っ込みの1つでもいれてやろうかと一護が思っていた時だった。
「どうかしたんですか?一護殿」
「うわぁああっ!って、捺芽?!」
突然背後に現れた捺芽に声をかけられ、一護はまともに驚いて声を上げてしまった。
「お、お前・・・いつから・・・?!」
「えっ?先程ですが・・・部屋の前を通りかかったら何やら慌てた声がしたもので」
「・・・・・・気配なさすぎ」
なんでこうも隊長格というものは気配を消して行動するのが好きなのだろうか、という疑問を一護は持ってしまった。
別に好きというわけでもなく、本人達は無意識にやっているだけなのである。
もっとも時雨のようなタイプは例外かもしれない。
「・・・で、花太郎は何をしてるんですか?」
「あーー・・それについて俺も聞こうと思ってたんだが・・・・・・ちょっと待ってろ」
そう言って何やら花太郎に近づいていく一護を、捺芽は少し不思議そうに見ていたが、次の瞬間その目は丸くなっていた。
「はあっ!」
一護による手痛い一撃が花太郎に直撃し、花太郎のその身体はがらくたの中に盛大突っ込んでしまった。
「人の話を聞け!」
「いや、一護殿・・・・・・何もそこまでする必要はないと思いますけど・・・」
変な性格の多い零番隊の中でもっともまともな捺芽としては、さすがに一護の行為に突っ込まずにはいられなかったようだ。
「あ〜〜一護さんに、緋空四席」
しかしまるで何事もなかったかのように呑気にそう言う花太郎に、一護は脱力し、捺芽は少し呆れたような表情になった。
そして花太郎から何をしていたのかという事情を聞くと、卯の花に作ってもらった特性の滋養強壮剤をなくして探しているということだった。
「・・・馬車馬・・・・・かっこいい髑髏って」
何故か捺芽はそこに突っ込まずにいられなかったが、一護と花太郎本人は大して気にしておらず、着々と話は進んでいるようだった。
「僕ちょっと探してきます」
「ようし!解った。どっから探す?」
当たり前のようにそう言う一護に対し、花太郎はかなり驚いたような声を上げた。
「えええっ!一護さんも行くんですか?!」
「ああ、それじゃあ俺も手伝うぞ」
「えええええっ?!」
さらに捺芽までもがこう軽く言った言葉に、花太郎は先程以上に驚いた声を上げた。
「どうせ暇だしな」
「そうですね」
「ああっ・・・でも、瀞霊廷の中は部外者に部外者に見せちゃ駄目なところがいっぱいあるし・・旅禍である一護さんが一緒だとちょっと・・・」
「堅えこと言うなよ」
「そ、それに・・・零番隊の燈空四席にわざわざお手伝いいただくようなことでも・・・・・」
「別に構わないって。俺達零番は表の隊と違って基本的に暇だし。探し物の手伝いくらいした方が丁度良い」
ようするに捺芽としても良い具合で暇つぶしが出来るというのだ。
勿論、捺芽の性格はあの零番の中にいて極めて良識な方であるから、花太郎の事を思って善意でも言っているのである。
そして2人のそれぞれの言葉に、花太郎は諦めたような溜息をついた。
「解りました、ありがとうございます。・・・ああ、でも一護さんはあまり目立たないようにしてくださいよ」
「解った。解った。よしっ!じゃあ行くぞ」
「ああ、待ってください」
早速探しに行こうとしている一護を何故か花太郎は呼び止めた。
「一護さんの斬魄刀は目立ちますから。置いていきましょう」
「えっ?」
「あ、俺もそう思います」
一護の身の丈ほどもある大刀『斬月』を見ながら、捺芽は花太郎に当然の如く同意した。
「それで誰も気づかないはずです」
「ホントかよ?!」
「いや・・・さすがにそれは・・・」
しかし今度は一護の目立つオレンジの色の髪を見ながら、花太郎の少しボケの入った言葉に同意しかねたたのだった。

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