ドリーム小説
蒼紅華楽 小話三


海水浴 その七



隼がカナヅチと判明して早30分が経過していた。
相変わらず浦原は砂の下に非情にも埋められたままで、それを一護とルキアに(半ば楽しげに)命じ続けている夜一と、そして零番隊隊員達は泳ぐこともせず砂浜で海の方を眺めて悦に入っていた。
否、正確には海の方というよりもそのある一点をだ。
「しかし隼がカナヅチじゃったとは以外じゃったな」
「そうですね。俺もすっかり失念していました」
「いや、いや。しかし欠点の1つくらいあったほうが可愛いさが増すとは思わんか?」
「確かにそうですね。でも隊長は完璧でも常にお可愛いらしいですが」
「うむ。その通りじゃ」
「でも良いですね〜。泳げない隊長に泳ぎを教える日番谷十番隊長の図」
「時雨、後でこれも焼き増ししろ」
「勿論です。夜一様」
などと隼論議に花を咲かせ最後のほうでは少し前にやったのとほぼ同じやり取りをご機嫌でしている2人に対し、砂に埋もれた浦原は悲痛な声を漏らしていた。
「ちょっ・・・十番隊隊長さん、隼さんにくっつきすぎですよ!っていうか、夜一さんも呑気に話してないでこれいい加減にしてくだっ・・・ああ!だから十番隊隊長さん、隼さんから今すぐ離れてください!」
「五月蝿いの〜」
実際には手を握って隼が沈まないようにしている程度なのだが、それでも浦原には必要以上に引っ付きすぎだと判断できるらしくいてもたってもいられないというように声を上げるが、それを言葉とはうらはらに迷惑というよりは寧ろ楽しげに指を鳴らすと嬉々としたルキアともう完全に諦めきったを通り越してどこか(精神的に)疲れているような一護が何度目になるか解らない砂と水を追加していた。
「浦原さん・・・大人気ないしもう諦めろよ」
「無理ですよ!黒崎さんもそう言うくらいなら助けてください!!」
「・・・無理」
浦原の言葉に少しの間の後に小さくそう言って徐に指差すその先には、やけに黒いといって良い笑みを浮かべている夜一とルキアの2人がいてさすがの浦原もそれ以上何も言うことはできなくなってしまった。
その姿に一護は哀れさと明日はひょっとしたら我が身かもしれない、そんな不吉な予感が一瞬よぎって暑いはずなのに背筋を震わせた。
「しかし、お2人とも本当によろしかったのですか?」
「なにがだ?朽木」
「いえ、お2人も他の零番の方々も、どちらかというとご自分達で神芽隊長に泳ぎ方を教えて差し上げたかったのでは、と」
そう言ったルキアの言葉に2人は何やら頷いた後、その目をきらりと光らせていた。
「確かにそれもそうなんじゃがな・・・」
「でも1番は隊長がとにかく幸せであってくださることですからね」
「その通り。あんな嬉しそうな隼の顔を引き出すには奴に任せるのが1番じゃからな」
「そうですよね」
そう言いながらしっかりと時雨は持っているカメラで忙しなくシャッターを切り続け、2人は相変わらず彼らから見て戯れていると言っても過言ではない隼と日番谷を見て完全に悦に入ったままの状態である。
ちなみに時雨以外の零番隊の隊員達も時雨と夜一の2人というまでもなく同じ状態で、石田、茶渡、織姫、乱菊の4名もそれに巻き込まれているといった状況だ。
もっとも後者2名は結構楽しんで手伝っていたりする。
「協力者もたくさんいますし、良い写真が今回もたくさん手に入りそうですね」
「そうじゃな。時雨、感謝するぞ」
「いえ、いえ。こちらこそ」
などと互いに相打ちしてふふふっと笑いあう2人を見て一護はふと思ってしまった。
誰かこの状況を打破する人物が運よく現れてはくれないものかと・・・・・
もっともそんな物は夢のまた夢と思いながら、一護は遠い水平線を虚しく見つめるのだった。






海水浴 その六


様々な準備を整えた一同はついに、某月某日某所の海に海水浴に来ていた。
そしてその海に突然一斉にとてつもない歓声が上がった。
「隊長!可愛いです!!」
「ああっ!やっぱり私の目に狂いはありませんでした・・いえ、隊長は何を着てもやはりお似合いです!」
「カメラーー!全員間違いなく、カメラにおさめろ!!」
そう妙にハイテンションで騒ぎあいながら、全員すかさずカメラを構えての水着姿をおさめていく零番隊隊員達の姿に、日番谷が半ば怒りのまま顔を引き攣らせて止めようとした時だった。
「・・・冬獅郎くん」
「えっ・・・?」
いつの間にか歩いて近づいて来たの水着姿を間近に見惚れる日番谷に、は少し不安そうな表情をしながら尋ねた。
「・・・私の格好どう?変じゃない」
「・・いや、良く似合ってるぞ」
「・・本当?」
頬を赤くしながらはっきりと告げた日番谷の言葉に、は心底嬉しそうな表情をして日番谷に抱きつく。
その行動にさすがに日番谷も固まり、零番隊隊員達の間からはまた高い歓声と共に、先程よりもさらにシャッターを押す速度が上がっていた。
そしてそんな零番隊隊員達のすぐ近くで、と日番谷の様子を笑顔で見守っていた夜一は、時雨に向かって上機嫌に口を開いた。
「・・時雨。後でその写真、儂にも焼き増ししろ」
「勿論です。夜一様」
顔は合わせてはいないが、互いに相手に向かって親指を立てあい、何やら時雨と夜一の2人はまるで何かの同盟でも結んでいるようだった。
そんな中ただ1人、場の空気とは違った声を上げている人物がいた。
「ちょっ!十番隊隊長さん、何さんにくっついてるんですか?!すぐに離れてください!!」
「・・・五月蝿いぞ、浦原。ルキア」
「了解」
娘は嫁にやらないならぬ、義妹は嫁にやらないという思考の浦原が1人抗議を上げるが、夜一の冷たい言葉と彼女の指示によって動いたルキアの行動でそれは一旦中断させられてしまう。
それというのも彼は海に到着早々にもと日番谷の邪魔をしようとしたということで、夜一の手によって大量の砂を浴びせられ、更にそこに水を追加して固められ、以降は夜一指示の下の(崩玉を埋め込まれた恨みと乗り気の)ルキアと(何故か貧乏くじをひいて巻き込まれた)一護の手により、2人の仲を邪魔するような発言をするたび、砂と水を追加されてより身動きが出来ない状態にされ続けていた。
そのため、現在埋まってないのは顔だけの状態となっていた。
ちなみに当初心配していたには、「ああやって砂に埋まって日光浴したかったらしい」などという適当な言い訳を夜一がしたため、以降は砂に埋まる浦原のことは気にしないようになってしまっていた。
そして次々に砂と水を追加される浦原から当然の如く非難の声が上がる。
「・・いい加減にしてくださいよ!私になんの恨みがあるっていうんですか?!」
「・・・・勝手に崩玉とやらを埋め込まれた恨み」
にっこりといったように顔は笑っているが、明らかに出ている黒いオーラに、さすがに浦原も恐怖を感じて顔を引き攣らせる。
そして今度は夜一の方を見上げて悲痛な声を上げる。
「夜一さん!・・・夜一さんはいったい、私と十番隊隊長さんと、どっちのみかたなんですか?!まさか、あっちだとか言いませんよね?!」
そう言って明らかに必死な要すな浦原に、夜一は少し考えるような素振りを見せた後、にっこりと微笑んで口を開いた。
「そんなの決まっておるじゃろ。儂は・・・・・・・何時でもの味方じゃ」
きっぱりと告げられたその言葉に、浦原は複雑な心境の中全ての希望が打ち砕かれた事を悟った。
そして更に笑顔のまま告げられた夜一の次の言葉が絶望に追い討ちをかける。
「砂と水、追加」
「ふふふっ・・・了解」
「・・・ま、諦めてくれ」
やけに楽しそうに指示を出す夜一と嬉々として砂を水を追加していくルキアに対し、この2人に何故か逆らってはいけないと本能的に察している一護も半ば同情の目を浦原に向けながらも砂と水を増やして行く。
ちなみにと違ってこの状況をしっかりと理解している時雨始め零番隊隊員達は、本来なら止めに入っているのだろうが、今回は夜一の指示の下行なわれているということで見てみぬふりをしていた。
そんな状況だとも知らないは、いつの間にか織姫に誘われるまま一緒に海に泳ぎに入っていた。
しかし誰がその後に起こる状況を予想しただろうか。
まともに泳ぐ気配もなく海の中をまっすぐ進み続けたは、足が着かなくなるくらいの深さの所に到達すると、あまりにも意外にもいきなり溺れ始めていた。
「「「「「「「「うわ〜〜〜〜っ!!隊長〜〜〜〜〜〜〜!!」」」」」」」」」
「「「っ!!?」」」
悲鳴を上げてパニックになる零番隊隊員達と、それ以外の面々も悲鳴に近い声を上げる。
そしてすぐさまパニックを抜け出してを助けるために動いたのは、夜一、日番谷、時雨の3人だったが、速さでは瞬神の異名を取る夜一が真っ先に駆けつけて溺れるを抱え上げたすける。
続いて日番谷と時雨も駆けつけ、3人がかりで溺れていたを砂浜に上げた。
どうやら水はそんなに飲んでいないようだったので大丈夫そうだが、一同は比較的何でもこなせが突然溺れてしまったことを不思議に思っていた。
「隊長!いったい、何があったんですか?!」
「そうですよ!隊長らしくない・・」
「・・・・・1つ聞いていいか?」
心配そうに尋ねてくる隊員達に対し、逆に少し首を傾げながらが不思議そうに尋ねた。
「・・泳ぐのって・・・・・どうすればいいんだ?」
「「「・・・・・・・・えっ?」」」
尋ねてきたの言葉の意味さえ一瞬解らず、一同が一斉に呆けていると、突然時雨がぽんっと手を叩いた。
「ああ、そうか。ずっと産まれてから御所から出たことないうえ、死んで尸魂界にいっても八十地区にいたりで大変だった隊長に、泳ぐという機会なんてなかったですからね。泳ぎ方を知らなくても当然ですね」
そう言って少し呑気に1人納得している時雨に対し、暫くしてその内容を整理した一部の者のから激しい声が上がった。
「「「それを早く言えーーーーーーー!!」」」
そんな一部の者の激しい叫びと共に、がカナヅチであることがこの日初めて判明した。



海水浴 その五



「海へ行きましょう」
にこやかな笑顔を浮かべて、時雨は以前零番隊の隊舎でに言ったのと同じ台詞を口にした。
ただし今回言った場所と相手に関しては全く違う。
そこは十番隊の隊首室であり、唐突にやってきた危険人物に唐突に告げられたその部屋の主である日番谷は、一瞬何を言われたのか解らず時雨の方を向いたまま動きを止めた。
「・・・何をいきなり」
そしてようやく反応を示した日番谷は、こちらも以前が時雨に返したのと同じ言葉を返していた。
「今度、零番隊全員で海水浴に行くことになりまして」
「・・・本当に暇なんだな。てめえら」
時雨の言葉に零番の暇さ加減を連想した日番谷は、目の前に積まれている大量の書類をちらりと見た後、世の中の理不尽さを恨めしげに思い顔を引き攣らせていた。
「あら。良いわね、海水浴」
「だろ?あ、松本も別に着て良いぞ」
「本当?じゃあ、一緒に行かせてもら」
「・・・松本、勝手に決めるな。っていうか、そういうことは仕事をやってから言え」
あっさりと笑顔で時雨の誘いに了承する松本に対し、日番谷は眉間に皴を寄せて静かに怒りを含んだ声で告げた。
もっとも、仕事が片付かない最大の原因が、松本のさぼり癖にあるのだから仕方がない。
「いいじゃないですか。日番谷十番隊長」
「断る。俺は忙しい」
「じゃあ、私だけ・・・」
「余計に却下だ!寧ろ、お前の仕事量の残りの方が多いだろうが!」
そうはっきり断言され、それ以上迂闊に喋れなくなってしまった松本に対し、時雨は何かを企むような笑みを浮かべて口を開いた。
「・・・良いんですか?日番谷十番隊長」
「・・何がだ?」
隊長の水着姿・・・見たくありませんか?」
時雨のその一言に、即座に反応した日番谷は、思わず椅子ごと倒れそうになったがかろうじてそれは免れた。
しかしその様子は明らかに動揺していた、ゆっくりと時雨の方を再び向くその顔は少し赤くなっていた。
「なっ・・・なっ・・・」
「この間現世に行ってしっかりと買ってきました。ちなみに選んだのは牡丹と湖帆と井上なので、俺達はまだどんなのか知りませんが・・・隊長は何を着ても似合われるので、絶対に可愛いはずです!」
そうはっきりと自信満々に告げる時雨はどこか楽しそうに親指を立てて見せた。
そしてすかさず先程と同じ質問をする。
隊長の水着姿・・・見たくありませんか?」
その告げた彼の目が一瞬きらりと光ったように見えた。
「お・・・俺は、別に・・・」
「・・・正直になれば良いのに」
松本がぼそりと告げたその言葉の通り、顔を赤くして声をどもらせ、思いっきり動揺しきっているその様子を見ても、見てみたくないはずがなかった。
そしてその日番谷の様子から、時雨は後一押しだなと思い内心にやりと笑うと、日番谷を後押しするようにさらに言葉を口にした。
「日番谷十番隊長、隊長の水着姿は絶対に可愛らしいですよ」
「なっ・・だから、そういうこと・・・」
「良いんですかね〜、一緒に来なくて。隊長、絶対現世の男共にナンパされますよ」
時雨のその言葉にそれまで動揺していた日番谷はぴくりと反応した。
「でも日番谷十番隊長が来ないんじゃ仕方ありませんよ。それじゃあ、俺は・・・」
「待て・・」
わざとらしく告げてその場を去ろうとした時雨を、日番谷の低い声が呼び止めた。
その声に内心「作戦成功」と思いながら、後ろを向いたままにやりと時雨は笑った後、わざとらしく振り返って見せた。
「えっ?何か言いました?」
「・・・誰が・・・行かないと言った・・・」
時雨の言葉から何を連想したのか、完全に目の据わった日番谷は、地を這うような声で呟き、そしてその後きっぱりと告げた。
「俺も行くぞ。海へだろうが何処へだろうが、連れて行け!」
「ありがとうございます」
はっきりと声を上げて告げた日番谷のその言葉に、時雨は健やかな笑顔を見せて礼を言った。
その右手の親指が密かに立てられているのをみた松本はぼそりと告げた。
「・・・普通に考えて、隊長をナンパする連中を羽鳴達が放置しておくわけなにのに。・・・うちの隊長、すっかり操作されてるわぁ」
そんなことを思いつつ、便乗するつもりの松本は自分まで海水浴に行けなくなるのは嫌だと思い、日番谷にこの事実を告げる事は絶対になかった。




海水浴 その四




本題の店にやってきた一同は、男女に分かれて各々の水着を物色(?)にかかっていた。
そんな中、現世男組はかなり居心地が悪そうな様子を見せていた。
「・・・やっぱ、別に俺たち来なくても良かったんじゃないのか?」
「同感だよ・・・」
「ああ・・」
「何言ってるんですか、一護殿。こうやって十分役に立ってるじゃないですか」
一方まったく何故かまったく動じていない時雨は、項垂れる3人を見て飄々とそう告げた。
そして彼がちらりと目線をやったその先には、既に大量に買い込まれた現世の物資(土産等)があった。
その時雨の一言に茶渡はともかく、一護と雨竜はさすがに顔を引き攣らせた。
「お前、良くそういうことが平然と言えるな・・・」
「そうですか?それに、そうやってると、逆に挙動不審で怪しいですよ」
「俺としては、お前が何でそんな平然としていられるのかが不思議だよ」
男物の水着も確かにあるのだが、この店の比率としては明らかに女物の水着が多い。
女物の下着を一緒に買いに行かされる・・というのよりは遥かにましにしても、やはりこの中に長時間いるというのはまともな神経の者は耐えられない。
「・・・時雨さんって、やっぱり普通じゃないな」
「・・何か言ったか?雨竜」
ぽつりと小さく独り言を漏らしたつもりが、しっかりと時雨には聞き取れていたらしく、目の笑っていないにっこりとしたその笑顔から、恐ろしいオーラが滲み出ていて、言った張本人の雨竜だけでなく、一護や茶渡も巻き添えで顔を引き攣らせていた。
男達がそんな事をしている中、何やら女性人の方から歓声が上がった。
「隊長、なんて可愛らしい!」
「さすが隊長。何を着てもお似合いです!」
「本当!ちゃん、良く似合ってる〜」
「次!次はこれなんてどうですか?!」
「良いですね、牡丹五席。その後はこちらなんていかがでしょう?」
「あ、それも可愛い〜〜。じゃあ、その後はこれでっ!」
「あら、織姫ちゃん。なかなかの選択ね」
「うむ。実に良い趣味をしているな」
「・・・・・・・お前たち」
目の前で楽しそうに騒ぎまくる3人に、着せ替え人形状態になっているは、疲れとも呆れともいえる溜息をついた。
そのの言葉に即座に反応し、牡丹と湖帆はそちらを向いた。
「はい?なんでしょうか?隊長」
「・・先程から私ばかり着替え続けているではないか。お前達自身のを選んだらどうだ?」
の当然とも言えるその言葉に、しかし牡丹と湖帆の2人は大きく首を横に振った。
「とんでもありません!」
「私達などは、適当に選べば良いのです!適当に!!」
「・・・あのな」
あまりの自分達を蔑ろにした言葉に、は何か言いたそうだったが、それをすぐさま2人の勢いのある言葉が塞いだ。
「隊長にこそ、1番素敵なお衣装を着ていただかないと!」
「隊長の事で手を抜くわけにはいきません」
「いや・・しかし・・・・・」
さすがにもう着せ替えされるのも疲れてきたが、2人に向かってなんとか断ろうと言葉を一瞬選んでいたその時、牡丹は満面の笑顔で、湖帆は至って真剣な表情できっぱりと同時に告げた。
「「隊長の水着姿を見て、日番谷十番隊長により喜んで頂くためにもです!」」
「・・・・・解った」
2人が出した日番谷の名に、はまた今度もあっさりと頷いて言葉を返した。
「じゃあ、次はこれね〜〜」
楽しそうな織姫の言葉にも、は先程の一言が本当にかなり利いたのか、少し顔を赤くした状態で黙ってまた着替えに取り掛かった。
その女性人の一連の会話を聞き、一護がぽつりと言葉を漏らした。
「・・なんか、・・・・・上手い具合に操作されてないか?」
「・・・されてる気がするよ」
「っていうか。あいつは冬獅郎が喜べばそれで良いのか?!」
「良いんですよ」
自分に賛同してくれている雨竜や茶渡とは対照的に、ただ1人満足そうに満面の笑顔ではっきりと肯定する時雨に、一護はもちろん雨竜も茶渡もただ顔を引き攣らせて密かにこう思っていた。
『駄目だ。こいつ等(この人達)・・・』



海水浴 その三


浦原の暴走を夜一の一撃と、浦原自身の尊い犠牲(?)で回避した一同は、浦原商店を後にして一路水着を購入すべく商店街へとやってきていた。
その道中、普段のしか知らない者には想像さえできないような(もちろんこの場にいる現世男組も)、そんな憂いを含んだ心配そうな表情をしながら、は何度か後ろを振り返っていた。
「・・・きー兄」
「大丈夫ですよ、隊長。喜助様ほどの方ならすぐに起きられると思いますよ」
「そうですね。それに夜一様もついていらっしゃることですし」
湖帆のその発言に、現世男組は「その夜一さんが激しく気絶させたんだろう!」と思ったが、それを言うとまたややこしくなるので、あえて心の中に留めた。
実際、それが功を奏したのか、はまだ心配そうではあるが、頷いたところを見るとなんとか納得したようだ。
「・・・しかし、なんで僕らまで付き合わされたんですか?」
「そういや、そうだよな・・・女物の、ましてや水着なんか買うなら、寧ろ俺達いないほうが・・・・・」
「うむ・・・」
浅野辺りなら嬉々として着いていくかもしれないが、ここにいる3人はそういう事にかけてはいたって真面目というか、普通の感覚を持つ部類の人間である。
引き攣りながら疑問視したそれは当然といえる。
するとにっこりと、しかし明らかに腹黒い微笑を浮かべながら時雨は告げた。
「それはですね。隊長だけでなく、俺達の水着も買うからです」
「いや、でもそれこそ俺達いなくてもいいだろ。男の水着なんて、ほとんど似たり寄ったりだし」
一護のこの発言はある意味自分もその男として悲しくならないか、と誰かが思ったがあえて突っ込みは入らなかった。
「そんなことありませんよ〜〜それに・・」
「それに?」
「俺達めったに現世にはこれませんし。他にも色々と買いたいものあるかもしれませんしね・・・」
「・・・ようするに荷物持ちかよ!!」
激しく的を射った一護の突っ込みに、時雨が何も反論してこないということは、これは明らかに無言の肯定だった。
その時雨のいつも通りの態度に、どうしようもないと一護はそれ以上何か言う気は失せた。
「しかし・・・現世のお金はあるんですか?」
ずっと気にかかっていた事を雨竜が口に出し、それに現世組一同が反応して彼と同じ視線の先である零番隊一同を見た。
「まさか・・それも俺らに出せって言わないよな?」
「ああ、ご心配なく。ちゃんとこちらのお金に換金してもって来てますから」
「そうか・・よかっ」
「何しろ朽木六番隊長のところから結構拝借してきましたから。軍資金はかなり豊富ですよ」
「「ちょっと待てーーー!!」」
時雨のそのとんでもない発言に、一護だけでなく雨竜まで一緒になり、息のあった突っ込みを2人でいれた。
その様子を見てまるで予想の範疇だったかのように笑いながら、時雨は手をぱたぱた左右に振りながら口を開いた。
「冗談ですよ。本当は、琥珀と霧生の実家の財産の一部を2人から預かってきたんですよ」
「あの2人は貴族の家出身ですからね。家自体は諸事情で両方とも潰れてますけど、財産は2人の私物管理として残ってますから」
なるほどと納得しつつ、先程の発言が冗談で本当に良かったと一護や雨竜は思っていた。
何しろ相手が幾らあの朽木白夜といえど、時雨なら本当にやりかねないからある意味恐ろしい。
「あの〜〜・・・ところで、琥珀さんと霧生さんのお家が潰れちゃったってのは?」
先程の牡丹の説明から織姫がとても気になった事を尋ねると、零番隊の一同は少し困ったように苦笑した。
「それは・・まあ、本人達に黙っていうわけには・・・」
「そっか・・そうですよね」
それでこの件の話は短く終わり、零番隊の一同はほっと胸を撫で下ろしたのだが、その矢先に茶渡が告げた言葉ですぐさま慌てることになる。
「ところで・・・さんはどこに言った?」
「えっ・・・?」
茶渡のその言葉に辺りを見回してみると、先程までいたはずのが何時の間にかいなくなっていた。
「た、隊長〜〜〜!」
「どこですか?!隊長〜〜〜〜〜〜!!」
「返事してください!隊長〜〜〜」
「わ!馬鹿・・・ちょっと静かに・・・」
「呼んだか?」
五月蝿い3人を一護が慌てて止めようとした時、すぐに当のの声がして同時に姿を現した。
「隊長〜〜どこに言ってたんですか?!」
「ああ・・すまんな。ちょっと・・・」
「その手に持ってる物はなんですか?」
突然消えてまた現れたはその手になにやら紙袋を、正確には何か長方形のものが入った紙袋を抱えていた。
見ると彼等のいるのは本屋の目の前だった。
「・・隊長、何か本買われたんですか?」
「ああ・・・」
尋ねられて肯定の返事をしたが取り出したのは料理の本だった。
それも1冊だけでなく何冊もあり、それら全てが洋食の料理やお菓子の類の本だった。
「南蛮系のものはほとんど作り方を知らないからな。丁度良い物があって助かった」
「そうですか・・・」
そのの発言に、それでなくても料理上手の彼女のレパートリーが増えると嬉々としていた零番の3人だったが、彼女の次の発言でさらに喜ぶことになる。
「・・・冬獅郎くんが飽きないように、もっと色々なもの作れるようにしたいしな」
頬を少し赤く染めながら小声で言ったその言葉を、しっかりと聞き取った零番の3人が、密かに拳を握り締めてガッツポーズのような事をしているのを、以外の全員はしっかりと確認したのだった。
3人のうち2人に対してはキャラが違うんじゃないかと思いながら。


海水浴 その二




挨拶を適当にして、がらりと扉を開けた先で一護は固まっていた。
「あ、黒崎さんいらっしゃい」
「どうもご無沙汰しております。一護殿」
かけられる声にも状況の飲み込めない一護はまだフリーズしている。
まずこの扉を開けて最初に自分に声をかけてきた人物は問題ない。
彼は名前からも解るとおり、この浦原商店の店長である浦原喜助だ。
問題は次に声をかけてきた人物と、他その周りにいる数人の人物達だった。
どう考えてもここにいない・・・というよりも普通これないのではないだろうかという人物達がいた。
「・・・なんで、お前等がここにいるんだ?!」
びしっと指を指した先には、一護に声をかけた時雨を初め、、牡丹、湖帆の零番隊数名がいた。
しかもしっかりと現世の服着用で。
「・・・黒崎・・・その突込みならもう僕と茶渡くんがすませたよ。テンションは少し違うけど・・」
「・・・井上は無反応だったがな」
「えっ?あたしがどうかした?」
既に集まっていた雨竜と茶渡は少し引き攣った表情をしながらそう言い、織姫に関しては本気でまったくこの状況を不思議に思っていないため何時もと全く変わらなかった。
「彼等がここに来た理由を聞いてみなよ・・・もっと驚くから・・・」
「・・・理由?」
「・・それが俺達が呼ばれた理由でもあるようだ・・」
そう告げた瞬間、雨竜と茶渡が遠い目をしたのは気のせいだったのか・・・
否、次の瞬間時雨から告げられた言葉によってそれは気のせいではないことがはっきりした。
「水着を買いに着たんです」
「・・・はっ?」
「実は今度海水浴に行くことになりまして。それで現世に・・・」
「ちょ、ちょっと待て!」
唖然とする一護に平然と説明を時雨は続けていたが、さすがに混乱した一護は途中で待ったをかけた。
「海水浴・・・?!っていうか、水着って・・・それでなんて俺達が借り出されるんだよ?!」
「だって、俺達現世のお店の事知りませんから。だから一護殿達に案内してもらおうと思いまして」
「それなら俺等じゃなくて、浦原さんとか、夜一さんとかでも良いだろうが!」
確かに尸魂界出身者ではあるが、現世生活が長いのだから出来ないとは言えない。
しかしその一護の言葉をが一蹴した。
「こんなこと夜姉ときー兄の手間をかけさせられるか」
「じゃあ、俺達は良いのかよ?!」
一護の突込みに対し、は無言だった。
それは肯定という意味に取れて一護は顔を引き攣らせていた。
「良いじゃないですか。付き合ってあげて下さいよ、黒崎さん」
「・・・・・」
「ほら、さん現世の服良く似合ってるでしょ?可愛いっスよねぇ」
「うむ、まったくだ。もっとも・・・は何を着ても良く似合うがな」
「・・・浦原さん、夜一さん・・・・・シスコンって言葉・・・知ってるか?」
呆れたようにぽつりと一護は言葉を漏らしたが、浦原と夜一はまったく気づいていなかった。
「と、いうわけで・・・一護殿よろしくお願いします」
にっこりと微笑んで頼んでいるが、時雨は決して断ることを許さないような雰囲気だった。
そして一護は既にそれに関しては断ることを諦めたようだった。
「・・・しかし、他の連中はともかく、はよく水着なんて買う気になったな」
「・・・・・冬獅郎くんが」
「えっ・・・?」
「冬獅郎くんが喜ぶ、らしいから・・・」
少し顔を赤くしてそう語るの言葉に、一同は暫し硬直していた。
やがて、真っ先に正気に返ったのは、先程とは変わって和やかな雰囲気を一変させた浦原だった。
「い、今・・・なんて言いました・・・?」
「あ、まずいな・・・」
瞬時に事態に気づいた湖帆が声を漏らした。
「冗談じゃありませんよ!確かにさんの水着姿は可愛らしくて、見てみたい気持ちは解りますが!彼に・・・彼にだけは見せる気なんてさらさら・・・」
義妹のが可愛いあまり、その恋人である日番谷を認めていない浦原が暴走しかけていたが、なにやら響いた鈍い音によってそれは寸前で阻止された。
「き、きー兄・・・!?」
「まったく・・・素直に義妹の幸せを喜べんのか」
「夜一さんナイス!!」
素早い対応(後頭部への蹴り)で浦原の暴走をなんとか気絶という形で食いためた夜一に対し、一護は賛辞の言葉を自然に送っていた。
・・ここは儂に任せて行ってこい」
「えっ・・・でも・・・」
「浦原のことなら気にせずとも良い。少し頭を冷やさせた方が此奴のためじゃしな・・・」
さすがに倒れた義兄の事が心配で素直にそのまま買い物に出かけようとしなかっただったが、夜一の優しい言葉と半ば強引な他の面々の説得によるようやく買い物に出ることを承諾した。
「・・・それじゃあ、夜姉。行ってくるね。・・・きー兄の事よろしく」
「うむ。お前は此奴のことなど気にせず楽しんで来い」
多少まだ倒れている浦原の事を心配しながらも、は夜一に優しく見送られ、浦原が復活する前に浦原商店を後にすることが出来てほっとしている一同と共に水着を買いに出かけたのだった。

海水浴 その一



「海へ、行きましょう」
表は暑い真夏でありながら、特殊な空間のために年中常春な零番隊隊舎にて、時雨が唐突に告げた一言にその場にいた全員が思わず動きを止めた。
「・・・何をいきなり」
さすがのもこの時雨の前触れもないこの一言には訳が解らないといった様子だった。
しかし時雨はそんなことは気にもせず(気づいてないだけかもしれない)、勢いをつけてさらに話を続けていた。
「海ですよ、海!やはり夏といえば海で海水浴が一番です!」
「そんなに力説されてもな・・・しかもどこで身に着けてきた知識だ?」
ちなみにと時雨が現世にいた頃は海水浴などという習慣はなく(多分)、しかも零番ゆえにほとんど現世に行ったことのない身としては、海水浴などという言葉とその意味も知っているわけがないのだ。
「これです!」
そう言って時雨が取り出したのは1冊の本だった。
その本を見て暫くの間の後、は溜息をついてぽつりと呟いた。
「・・・井上か?」
「はい」
の確信を持った問いはっきりと満面の笑みで答える。
その笑顔がまた何か意味ありげに清々しい。
「夏とはいっても・・・あまり我々には関係ないだろう」
なにしろ先程もあげたとおり、この空間は基本的には常春だ。
「でも、やはり我々も季節の情緒というものは味わいませんと」
確かにそれはそうかもしれないが、海水浴はまともな情緒なのだろうか。
「・・・解った。好きにしろ」
時雨の意見はとても不思議に思えたが、別段反対することでもないとは許可を出した。
「ありがとうございます」
「ま、暇だしたまには良いだろう」
がぽつりと言った言葉は忙しい十三隊の者達が聞けば思わず泣いてしまいそうものだった。
しかしその言葉に当然突っ込みを入れるものなどこの場に誰もいるわけもなかった。
「それでは隊長。水着を見に行きましょう」
「・・・・・はっ?」
時雨の言った言葉が理解できず、は思わず声を小さく漏らした。
「水着・・・?」
「ええ。泳ぐのに必要ですから」
そう言ってやはり織姫から支給されたらしい本を見せる。
「・・・お前達だけで楽しんでくれば良いだろう」
「駄目ですよ。隊長1人を置いて俺達だけ楽しむなんて出来ません」
時雨のその言葉にはその場にいた隊員達全員が無言で頷いて同意した。
「・・・仮に一緒にいったとしても、遊びまわるつもりのない私にはそんな必要ないだろう」
「必要ですよ。泳ぐのにも・・・それに」
「それに?」
「日番谷十番隊長が喜ばれます」
「・・・・・・行く」
時雨の満面の笑みと共に告げられた言葉に、暫し間があいた後だったが、はっきりとただ一言告げたに、時雨は内心してやったり顔でガッツポーズをしていた。
そんな時雨の様子を後ろから眺めていた数名は、狙いはそれかと瞬時に悟って心の中で突っ込みを入れていた。






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