ドリーム小説
蒼紅華楽 小話一
占い(ニ) その四
場所は十番隊隊舎執務室。
と日番谷を待つ時雨はぽつり真顔で一言呟いた。
「・・・遅い」
何時まで経っても姿を見せない2人にいい加減遅すぎると思い始めていた。
逆に一緒に待っていることになっている松本は、日番谷が帰ってきたら色々(仕事しろ)と五月蝿いので、時雨とは対象的に少し悠々としていた時だった。
「あ〜〜・・確かに遅いわね」
時雨に合わせてそう言うものの、口調はまったく気にしてない様子だった。
しかし時雨はそんなことには気づかなかった。
「幾らなんでもあまりにも遅すぎる・・・・・まさか!」
何かに気づいたようで、時雨は松本からは大袈裟とも言える勢いで立ち上がった。
「まさか、途中で鉢合わせして、そのままそこでらぶしーん展開してるのでは!?」
でたらめな勘だが、時雨大正解。
「確かにありえるかもね〜」
時雨の言葉からその状況を想像し、松本は納得したようにうんうんと頷いた。
一方、時雨の方はショックで身体を震わせているようだった。
「何てことだ・・・俺としたことが・・・」
ラブシーンを拝めず、写真に収められないこともショックのようだが、それ以上にの行動パターンを読み違えたことが相当ショックのようである。
その様はまさに、隊長に従う副隊長というよりは、娘のベストシーンを撮り逃した、重度に過保護な親ばかといった感じだった。
すでにその姿は見慣れているのか、松本は「あ〜またか」というように特に気にした様子もない。
そうして油断して手近にあったお菓子を口に運ぼうとした時、突然襟首を掴まれた感覚の後、すぐに自分の身体が引き摺られているのが解った。
引き摺っているのは他の誰でもない、思いっきり慌てた様子の時雨だった。
「・・・ちょっと羽鳴、何するのよ?」
「良いから一緒にこい!今なら隊長と日番谷十番隊長のらぶしーんに間に合うかもしれない!」
「あんた1人で行けば良いでしょうが!」
そう言って抗議の声を上げる松本に対し、時雨は真顔できっぱりとおかしな発言をした。
「ノリだ」
「・・・・・ノリって」
どうやら相当なショックで頭が多少混乱しているようだ。
松本は普段からでも厄介なのに、この状態の時雨からさらにどう逃れようかと考えていたが、ふと部屋の中を見てふとあることを思いついた。
このままここにいてもあの山のような仕事に取り掛からなければならない。
しかし自分はやりたくないが、やらなければ確実に日番谷の雷が落ちる。
だがこのまま時雨と一緒に行けば、時雨に無理やり拉致されたことにして、堂々と仕事をサボれるのではないかと。
その考えに至ってからの松本の態度はあっさりとしていた。
彼女はこのまま勢いにのる時雨についていき、堂々と仕事をサボることを完全に決めた。
「隊長と日番谷十番隊長のらぶしーんは絶対に撮るぞーー!」
ただ、物凄く変なノリになってきている時雨と一緒なのは多少不安になりながらだった。
写真が無事撮れたのかは当人達のみぞ知る。
『今月の天秤座は暴走しがちな蠍座に振り回されることがあるかも』
松本所有、雑誌の占いより抜粋・・・・・
占い(ニ) その三
松本にバレバレな嘘をついて出てきた日番谷は、松本の予想通り大福を買うべく歩みを速めていた。
それでもやはりあれを本当に信用すべきなのかと多少迷ってはいたが、もしもあれが当たったらという思いから徐々に歩くのが速くなっていた時であった。
「あ・・・冬獅郎くん」
「・・・?!」
角を曲がったところで何か風呂敷に包んだものを抱えているに遭遇した。
そしては日番谷の急いでいた様子を察してきょとんとした表情をして尋ねる。
「・・・冬獅郎くん、どうしたの?そんなに急いで」
「えっ・・・いや・・・」
にそう尋ねられた日番谷はどう答えるべきか焦ってしまった。
まさか占いの結果で恋愛運が悪かったので大福を買いに行くところだなどと、とても相手当人である自身に言えるわけがなく、日番谷は徐々に顔を赤くしていった。
そしてがそんな日番谷の様子に首を傾げ、暫しの沈黙がさらに流れた後、は思い出したようになんの脈絡もなく突然手に持っていたそれを差し出した。
「これ・・・冬獅郎くんのところに持っていくところだったから、会えて丁度良かった・・・」
「あ、ああ・・・」
そう言ってその後は先程の質問など忘れたように、いそいそとその場では風呂敷を解き始めた。
こういうのはの独特のテンポで本当に彼女は天然だと日番谷は思った。
しかし今回はその天然さ加減に救われたことに日番谷は胸を撫で下ろした。
「・・・それ?なんだ」
安心したところで風呂敷の、さらにそれに包まれた箱の中身が気になって日番谷はに尋ねた。
するとは箱を開ける前に簡単に説明しだした。
「えっと・・今日の午前中に作ったお菓子・・・」
「菓子・・?」
「うん・・・冬獅郎くん、何時も忙しいでしょ?松本がほとんど仕事サボってるから」
「あーーー・・・」
日番谷のその言葉は肯定でもあったが、同時ににもやはりそう認識されている自分の副官の怠慢ぶりに呆れる意味もあった。
そしてふと同時に、そう言えばちゃんと仕事しているのだろうかと日番谷は段々不安にもなっていた。
「で、疲れてると思うから・・・甘いものでも食べたらどうかな、と思って・・・」
のその言葉と気遣いになんだか日番谷は感動を覚えていた。
そして同時に、やはりあの占いは外れだと思った。
何時もこういう風に自分の事を考えてくれているとの間に倦怠期などあるわけがないと。
考えてみれば、確かに自分は何時も忙しいが、始め零番隊はその性質上、何時も暇だ。
彼女達が動く任務など早々あるわけがないし、書類整理なども滅多に回らないといっていた。
その時点ですでにあの占いは外れているのだ。
あの時はあまりの悪さに動揺して思考能力が落ちていたが、よくよく冷静に考えてみれば解ることだった。
「・・・?どうしたの?冬獅郎くん」
「いや、なんでもない」
少し日番谷の様子を不思議に思って尋ねるに、日番谷は安心したように笑ってはっきりとそう返した。
はそんな日番谷に一瞬きょとんとして首を傾げたが結局その後は何も聞かなかった。
「で、菓子ってどんなのだ?」
「えっと・・これ」
日番谷に尋ねられては箱の蓋を開けた。
そしてその箱の中身を見た日番谷は、一瞬の間の後に少し顔が引き攣っていた。
「・・・」
「ん?なに・・・?」
「お前・・・まさかと思うけど、現世の本に載った占いとか・・・見てないよな?」
引き攣りながらそう尋ねる日番谷の質問の意図が少し解らず、はまたきょとんとした表情になった。
その様子からどうやら見てはいないということは解ったが、日番谷はそれでもそのお菓子を信じられないというように凝視していた。
箱の中身は、大福だった。
占い(ニ) その二
「・・・あれ?やっぱり」
何の断りもなく戸を開けて入ってきた時雨の第一声はこれだった。
その声に反応して松本が少し驚いたようにそちらを見る。
「あれ?羽鳴じゃない。どうかしたの?」
「いや・・・うちの隊長・・・着てない、よな?」
まるで確信があるようなその聞き方に、松本は手を目の前で左右に振ってみせた。
「来られてないわよ」
「だよな・・・先程、妙に殺気だった日番谷十番隊長とすれ違ったから、そうじゃないかと思った」
はあっと何故か残念そうに溜息をつく時雨に対し、松本は日番谷が殺気立っているその原因が、先程の星占いの内容にあることなど容易に解った。
それと同時に、その様子なら帰るまでに仕事していなければ、ひょっとして本気でやばいのではないのだろうかという思考に発展する。
しかし仕事をできるだけしたくない松本は、ものの数秒ですぐさまその考えを抹消することを決定した。
「・・・で、なんで隊長がここにいるって思ったの?」
確かに出現率はかなり高いが、必ずここにいるとは限らない。
時雨がそれなのに何故ここだと確信を持っていたのか、それが松本には気になった。
そんな松本の疑問に時雨は隠すでもなく語りだした。
「・・・隊長がお菓子を作られてな。それを日番谷十番隊長のところに持っていくと言われていたから」
「へ〜〜〜」
時雨のその話を聞いた時、松本はの料理の腕とその味を思い出し、絶対お裾分けに肖ろうと内心かなり喜んでいた。
そして当の時雨は何故かまた溜息をついた。
「・・・折角、良い画が撮れると思ったのに」
心底残念そうにそう言いながら、懐から取り出したのは見紛うことなき、カメラだった。
そして何を撮るつもりだったのかは言わずもがな、松本には瞬時に解ってしまった。
しかし人の趣味をどうこう言うつもりはないし、松本もそれはそれで結構楽しんでいる。
「残念だったわね」
「まったくだ・・・折角の隊長と日番谷十番隊長の新しいらぶしーん入手できると思ったのに・・・」
ちなみに彼を始め零番隊の隊員は、某現世組経由で調達している本等で、現世の言葉や文化を勉強中である。
時雨の微妙なひらがなの横文字使用もそのためである。
「でも、隊長もまだこられてないし・・・日番谷十番隊長は後で絶対帰ってくるし・・・」
そうぽつりと呟くと時雨は松本の目の前に遠慮なく座った。
「ここで待たせてもらう」
「別に構わないわよ」
別に待っていても問題はないし、ついでにその優秀さで変わりに仕事をやってもらおうかなどと密かに企む松本。
ふと時雨は松本がそんなことを考えているとも知らず、彼女の持っている雑誌を覗き込む。
「なんだ?それ」
「あ〜〜これ?星占い。現世のお遊び」
「占い?・・・当たるのか?」
時雨のその言葉に松本は以前の大当たりして仕事をサボれた時の事を思い出す。
「まあ、それなりね」
「ふ〜〜ん・・・まさか、日番谷十番隊長が殺気だっていたのは、その占いのせいとか言わないよな?」
「・・・大当たり」
時雨の的確な予想を肯定して、松本は雑誌の内容を見せた。
そしてその雑誌の内容を見た時雨の顔がみるみるうちに不機嫌になっていく。
「・・・これ、占った奴と書いた奴・・・抹消しようか?」
「ちょ、ちょっといくらなんでも物騒よ」
「・・ こんな嘘でたらめな記事当然だろう。うちの隊長と日番谷十番隊長が倦怠期になったり、ましてや別れるなんて断じてない!!」
と日番谷の中を見守り隊隊長、本日の怒りの一言(というか叫び)。
至上主義の時雨としてはこの記事は本気で許せないようだ。
「そもそも、こんな大量生産っぽい占い如きで、うちの隊長の運勢を当てようなどと片腹痛い!むしろうちの隊長の方がこの手の専門家といっても過言じゃないからな。格上の専門家を占えるはずがない!」
「あ〜〜まあ、確かに・・・」
なんだか時雨のその言葉に妙に納得し、そのために目の前にある雑誌の占いの信憑性を少し疑ってしまいそうになっていた。
占い(ニ) その一
ある良く晴れた昼下がり・・・
眉間に一際深い皺を寄せる上司の目の前で、勤務時間にも関わらず執務室で呑気に寝転んでお菓子を食べながら現世の雑誌らしきものを見ていた松本は突然口を開いた。
「え〜〜っと・・・隊長は、射手座でしたよね・・・」
その言葉を聞いた瞬間、日番谷には松本が何を読んでいるのか見当が付いた。
「・・・松本。現世のお遊びはそのくらいにして、さっさと仕事しろ」
「やですね〜隊長、現世の学問ですってば」
しかしそれは日番谷からしてみればただの言い訳であり、どう考えてもただのお遊びである。
ついでに前回の上手く松本に逃げられた時の嫌な記憶まで蘇ってきた。
「お前、いい加減に・・・」
「あっーーーーーー!」
日番谷が文句をいおうとした時、松本があからさまに驚いた声を上げた。
まるで前回の時の再現のような気がして、日番谷の不機嫌さはさらに上昇した。
「大変ですよ、隊長!いや、ほんと大変!隊長にとって一大事!!」
「良いから仕事しろ!」
「今月の射手座。恋愛運はかなり下降気味。特に山羊座の女性を恋人に持つ射手座の男性は要注意。互いに仕事が忙しく、逢えない時間が続いて倦怠期突入の恐れあり。最悪別れ話に発展する可能性も!運気回復には大福を食べる事」
「・・・・・・・・・・・・・・」
松本が星占いの記事を読み上げると日番谷は思わず筆を落としてしまった。
「・・・隊長。確か隊長って、山羊座でしたよね?1月3日が誕生日だし」
「・・・・・・・・」
更に追い討ちをかけるような松本の一言に、日番谷の手は少し震えていた。
「な、何言ってるんだ。そんなもん、当たるわけないだろ・・・」
何とか冷静を装おうとしているが、あからさまに動揺しているのがバレバレだった。
「・・・・・隊長、どちらへ」
動揺を隠せないまますぐ立ち上がり、部屋の出入り口へと向かう日番谷を、松本は冷静に呼び止めた。
その松本の声に少し冷汗を流しながら、やはり動揺の隠し切れない声で日番谷はわざとらしく強い口調で言った。
「しょ、書類を届けてくる・・・良いな!ちゃんと仕事してろ!!」
そう言い捨てて部屋を出て扉を出た瞬間に聞こえてきた慌てた足音が消えるのを確認した後、1人残った松本はぽつりと一言呟いた。
「書類なんて持って出てないし・・・思いっきり動揺してるし・・・・・っていうか、思いっきり信じてるじゃないですか・・・」
くだらないと言いつつ、どう考えても完全に信じている我が上司に松本は、彼が向かった先を予想して少し呆れたように呟いた。
そしてもっとも根本的な事を考えてさらに呆れた風に呟いてみせた。
「・・・倦怠期なんてあるわけないのに。ほとんど毎日、隊長が会いにきてるしねぇ・・・・・・」
それ以前の問題として、あの零番隊は何時も忙しいどころか完全に暇ではないか。
そんな事を考えながら松本は、かなり零番隊の職務事情が羨ましくなっていた。
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