デバガメ




「リョーマくんv今度の日曜空いてる?」
極上の笑顔を浮かべながら、不二は愛しい恋人にそんなことを尋ねた。
「・・・・・特に、何もないけど」
少し考えてからリョーマは素直に返事を返した。
「じゃあ、デートしない?新しくできた遊園地があるんだ」
「周助のおごりなら・・・・・」
顔を真っ赤にし、照れたように俯かせながらOKを出してくれたリョーマに不二は満面の笑みを浮かべながら「もちろんv」と答えたのだった。



そんな2人のやりとりを物陰からこっそり伺っている者たちがいた。
「おチビちゃん、耳まで真っ赤にしてかわいいにゃ〜〜v」
「は〜〜・・・デート、越前とデート・・・・・いいっスよね、不二先輩」
「まったくにゃ」
「英二・・・お前には大石がいるだろ・・・」
「だから!デートが羨ましいの!!大石ってば、ここ最近忙しくてお互いの家行ったり来たりだけなんだってば」
菊丸たちに無理やり連れてこられ、結局一緒に様子を伺っている手塚が菊丸に呆れながら突っ込み(?)をいれたが、菊丸は不二たちに聞こえない程度の声で熱くのろけ話に近いものを語った。
「しかし、越前と不二のデートか・・・興味深いな」
「そうだね〜〜。あっ!じゃあ、日曜日2人を尾行しようか」
「そうしましょう!俺も気になります」
「まあ・・・今度の日曜は練習が休みだから良いが・・・」
「ようっし!それじゃあ、俺たちで不二とおチビのデートを観察しよう!」
菊丸のその言葉に手塚ははっと気が付いた。
「ちょっとまて・・・その中には俺も含まれているのか?」
「もちろん!!」
「・・・・・断る」
「いいじゃないっスか、部長。それに部長も越前のことまだ好きなんでしょう」
桃城にそういわれて手塚はぐさっと胸をえぐられる思いだった。
だからこそ、リョーマと不二がいちゃついているところはなるべく見たくないというのに・・・
桃城にしても未だリョーマが好きなくせにどうして平気なのかと思い悩んでしまう。
「残念だが、英二。俺はいけないぞ」
手塚がショックで打ちひしがれている時、1番以外な人物・乾が声をあげた。
「えっ!どうして?」
「俺はその日、海堂と用があってね。と、いうわけで、これを預けておく」
そういって渡されたのはどこに持っていたのか、デジカメだった。
「なるべく、状況を事細かに写しておいてくれ。あと、月曜に話も聞かせてくれよ」
そういうなり、さっさと乾はその場を離れていった。
「・・・・・乾たちもデートなわけね」
「いいっスよね」
「ホントににゃ・・・・・」
菊丸と桃城では羨ましがっていることの種類が明らかに違うのをこの時の本人たちは乾の早すぎる行動に考えの大半をとられて気が付いていなかった。






そして日曜日、デート当日。
駅前の待ち合わせ場所に時間よりやや遅れてリョーマが現れた。
「ごめん!周助、また遅れた」
「遅れたといっても2分じゃない。別に良いよ」
「ごめん・・・・・・今日こそはって思ってたんだけど」
「気にしなくて良いから。じゃ、行こうか」
そう言って微笑むとぎゅっと自分の手を握ってきてくれた不二に、リョーマは頬を赤く染めると俯いてもう何も言わなくなった。



「真っ赤なおチビちゃんかわいい〜〜♪それに、あの服装もかわいいにゃ!」
「そうっスね〜〜・・・やっぱ、不二先輩が羨ましいっス」
そんな感想を言い合いながら、菊丸と桃城は2人のデートの様子を早速カメラに収めたり、乾のようにデータを取っていた。
「しかし、不二の奴は30分前から来ていたじゃないか・・・」
そんな2人を横に、なんだかんだ言いながらもやはり来た手塚が呆れたように言葉を漏らした。
「何言ってるんだよ、手塚!デートってのはそういうもんなの!!」
「そうなのか?」
「そうっスよ。待ちきれなくて早めに来るなんて、珍しいことじゃないっス」
「しかし、越前は2分とはいえ遅刻してきただろう」
「おチビちゃんだから良いの!!」
「そうっスよ!その方が、シュチュエーションとしてはおいしいじゃないっスか!!」
なぜこの2人はここまで他人のデートの話題で熱く語ることができるのだろうと、手塚は不思議で仕方がなかった。





遊園地に到着してすぐリョーマはまずどれに乗ろうかと迷って辺りをきょろきゃろと見渡していた。
さすがにまだオープンしたばかりのため、客の入りも通常よりも多く、パレードなどもして華やいでいるようで、自然と乗り物よりもそれのほうが目に入った。
そんなものを少し面白そうに眺めていたリョーマの前に突然不二が右手を差し出してきた。
彼の顔を見てみればにっこりと微笑んでいて、言われずとも何を要求しているのかは明白である。
「・・・・・・・しょうがないな」
そうは言ったが、頬を染めて不二に自分の手を絡ませるリョーマはどこか嬉しそうだった。
それを感じ取って、不二の笑顔にも深みが増す。
「じゃあ、何から乗る?」
「んっとね・・・・・」
リョーマが指差したのは遊園地の定番ジェットコースター。
ちなみに、観覧車は最後の楽しみにとっておこうと、ここに来る前に決めているのだ。





午前中まわれるだけまわり、休憩をかねた昼食をしていると、不意に不二が立ち上がった。
「?どうしたの?」
「ん?・・・ちょっと、ジュースでも買って来ようと思って。リョーマくんはファンタだよね?」
「グレープね」
くすくすと笑って不二はリョーマを残してその場から離れた。



「あっ!おチビちゃん1人になった」
「えっ?ほんとっスか?!」
こちらは現在も尾行の真っ只中。
刑事ドラマの張り込み捜査でおなじみのパンと牛乳ではなく、ハンバーガーとコーラで昼食をとりながら器用に写真をとっていたりする。
「しかし、不二も越前を1人にするなど不用意だな」
「ほんとっスね。いつ誰が越前にちょっかい出すのか解らないのに」
「ご忠告ありがとう。でも、その言葉は君たちにも当てはまると思うけどな、桃」
背後からしたその声を聞いた途端さーーっと3人の血の気が引いた。
聴き間違えであって欲しい。
そう思うが、思うだけなら楽で、体は正直に後ろを恐怖のあまり振り向こうとはしない。
「こんなところで何してるのかな?手塚、英二、それに桃」
無理やり後ろを向かされていやでもその現実を目の当たりにしてしまった。
そうそこには、今の今まで楽しげにリョーマと共に居て、ジュースを買いに行ったはずの不二が笑顔で立っていたのだ。
ただし、その笑顔はリョーマに向けているような性質の良いものではなく、まさに魔王の名を冠するにふさわしい黒い笑顔だった。
「ふ、ふ、ふ、ふ、ふ、ふ、不二〜〜〜〜?!」
「人のデートを尾行して覗き見なんて良い度胸してるよね」
「ど、どっから気づいて?」
「駅前でリョーマくんを待ってる時から」
「・・・・・最初から気が付いていたんじゃないか」
手塚は思わめまいを起こしそうになって、皺を寄せた眉間を抑える。
やはり来るべきではなかったといまさら思っても後の祭りだ。
「別に見逃してあげないでもないけど・・・」
「お、ほんとっスか?!」
「うん。ただし、そのカメラを渡してくれたらね」
そう言って不二が示したのはから預かり、今日の2人の今までの行動を事細かに収めたデジカメだった。
「こ、これは乾からの預かりもので・・・・・・」
「へ〜〜〜乾も噛んでるんだ」
ばらしてから菊丸は乾に心の中で平謝りした。
それと同時に現場の自分たちばかりが酷い目に合わされるのは理不尽だし良いか、という気持ちもどこかにあったのだが・・・
「ちょっと、かしてくれるだけでいいんだよ。メモリのデータ消したらカメラは乾に返すしさ」
その言葉の中には「大人しくそのカメラを渡すのとこのまま地獄を見るのどっちがいい?」という、不二の思惑が潜んでいたのを3人は感じ取った。
こうなってしまっては、不二に逆らうことなどできるはずがなく、菊丸は大人しくカメラを渡した。
他の2人も自分の命にはかえられないと、この行為を責めるはずもなく、3人揃って「乾(カメラの持ち主)も許してくれるだろう」ということを考えていた。
「ふふっ、賢い選択だね」
そう言って満足そうに笑うと不二はカメラを自分の服のポケットにしまい込んだ。
しかし、その満足そうな表情も束の間でなぜか不二が開眼した。
その様子に3人はまだなにかるのかと身構えていたが、よく見てみると不二の視線の先は3人を突き抜けてその先にいるリョーマのほうに向いていた。
そして、そろりと菊丸がそちらを見てみると、リョーマが数人の男に囲まれてナンパされていた。
「ほんと・・・命知らずが多いよね」
「ふ、不二・・・・・・・・・?」
「あっ、そうそう。3人とも、この後の彼ら見たくなりたくなかったらもう尾行して覗き見なんてしないことだね」
そう言い残し、さっさとリョーマの元に戻る不二をまさに魔王を見る目で3人は見送ったという。



このあと、リョーマをナンパした男たちが受けた不二の報復を見て、そそくさと3人は遊園地から立ち去っていった。
そして、あの2人を2度と尾行して覗きなどしないと誓ったのだった。






「リョーマくん。どうしたのさ?そんな不機嫌な顔して」
今日は朝からご機嫌だったはずのリョーマが昼の一件以来不機嫌そうにぶすっとしている。
「僕がいないせいで嫌な思いさせたことなら本当にごめん」
「・・・・・・違う」
リョーマは自分がいないせいで知らない男たちにナンパされて鬱陶しい思いをしたために不機嫌なのだと思っていた不二の勘は外れたようだ。
「じゃあ、どうしたの?僕、何かした?」
「・・・・・・周助、先輩たちが後つけてるってずっと前から気が付いてたでしょ?」
「あれ?ばれてたの?」
リョーマは菊丸たちの存在に気が付いていないと思っていた不二としては意外だった。
「・・・・・周助たち・・・というより、英二先輩たちの声が少し聞こえたの」
「ああ・・・・・僕に驚いて結構大きな声出してたしね」
くすくすと悪びれもなく笑う不二にリョーマはよりいっそう不機嫌さを露にする。
「周助!!」
「ごめん、ごめん。リョーマくんの言う通り、随分前から気が付いてたよ」
「じゃあ、なんでもっと早くに追い帰してくれなかったの?!」
「ん〜〜〜・・・・・・見せつけるためv」
「・・・・・・・・・はっ?」
「英二は大石がいるからともかくとして、手塚と桃には見せ付けて早々にあきらめてもらわないとねv」
「なにを?」
不二のいっている言葉の意味が解らずリョーマはきょとんとして目を大きくする。
リョーマがにとからの好意に鈍いのは不二としても解っていたから何も言わなかった。
自分もそれでだいぶ苦労して、リョーマを手に入れることができたのだから。
「秘密vそれより、リョーマくん。観覧車のろう」
ぐいっとリョーマの手を掴んで早くといったように不二は促す。
「ちょっ・・・・・周助?!」
「ねっ?」
にこっと微笑むその笑顔がとてもとても綺麗で、リョーマはすっかり怒りが冷めてしまった。
しかし、なにもせずにただ許すのは勿体無い気がする。
「ねえ・・・・・周助」
「ん?なに?」
ぐいっと不二の腕を引っ張ると、リョーマは不二の耳元で簿そりと何か囁いた。
その言葉が一瞬信じられなかった不二だが、すぐさま先ほど自分でいった言葉に照れている真っ赤な顔のリョーマに向かって微笑む。
「そんなことならいくらでも」
「一回でいいよ・・・・・」
そう言ったリョーマだったが、その表情はとてもとても幸せそうだった。



『観覧車が頂上にいったら、キスしてね』







後日・・・・・
不二は菊丸から奪ったカメラを乾に返した。
やはり中の画像はすべて削除されていたため乾は多少残念そうであった。
しかし、乾は知らない。
不二が自分の家のパソコンにデートの時の画像を保存していること、そしてその全てをすでにプリントアウトしていることも・・・・・・・







あとがき

なんだこれ?!
私的、砂吐き&リョーマ乙女化!バカップル万歳です!!(←おいっ)
ちなみに書いてませんが、このデートのあとリョーマは不二先輩宅にお持ち帰りされました;
今回、乾海と大菊もサイドカップルとして出しましたが(両組、片方だけですが)、他のカップリングは不二リョをメインをしたSSの中でなら書けます。(メインでは無理)
さて、次回はどうしましょうか・・・・・
どうなろうと私が書くとギャグに走りますが(苦笑)




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