Encounter of destiny
1
その日とはとても天気が良かった。
そのためウィンフィルード王国第一王子兼王位継承者であるシルフは城の裏庭でのんびりと昼寝をしていた。
別に天気が良いから昼寝日和だというわけではない。
彼に限ってはまったくその言葉は当てはまらない。
雨が降れば五月蝿い幼馴染や両親の側近の目の届かない屋内で昼寝を決め込む。
とにかく面倒くさいことが大嫌いな彼は、毎日のように人目を忍んでは昼寝ばかりしているのだ。
しかし今回その選択肢は大きな間違いであった。
だがそんなこと誰も考えつくはずもない。
寝ている自分の上に人が落ちてくるなど。
「・・・・・・・・・・」
「あいたたっ・・・もう!なんであんな所に開くのよ」
「・・・アクラ」
「おかげで落っこちるっていう到着の仕方・・・」
「アクラ・・・」
「まあ、下になんか柔らかいものがあったから怪我はなかったけど・・・」
「アクラ!」
「なによブリック!?さっきから」
「下・・・・・はようどけたり」
顔を引き攣らせながらそう忠告するブリックに、アクラは怪訝な表情をしながら下を見る。
そして見た瞬間に思わず固まってしまった。
「ちょっ!誰よ?こいつ」
「・・・どう考えてもこの世界の人間やろ」
「そうじゃなくて!なんで不届きにもあたしの下にいるのよ!?」
「お前が俺の上に落ちてきたんだろうがぁ〜〜!」
自分の上に乗ったまま身勝手なことを言うアクラに、下敷きとなり状況把握に苦しんでいたシルフはついにきれたのだった。
着いてすぐ気が付いた人数の足りなさに、アイスはただ顔を引き攣らせていた。
「なんで別の場所に落ちるんだ?あいつら・・・」
「あ〜〜・・・そういえば、姫が直前まで何かやってたような・・・」
「・・・アクラ」
ルシアの言葉に今ここにいない双子の妹に、アイスはさらに顔を引き攣らせて頭を痛くさせた。
「ブリックとシャルトは巻き込まれたんだね☆」
「・・・みたいですね」
楽しそうなシエナに対してテールはアイスと同じで顔が引き攣りぎみである。
「仕方ない・・・俺の『知詠』で・・・」
「・・・貴様らここで何をしている?」
アイスが『知詠』を使って3人の居所と現状を『知ろう』とした時、後ろの方から鋭い声が聞こえてきた。
そこには普段はあまり変わらないその表情を、少し眉を吊り上げることで変えているクレナがいた。
「貴女は・・・・・」
「見かけん顔だな。ちゃんと許可はとって入ってきたのか?」
「い、いや・・・」
「・・・・・それでは不法侵入者というわけだな?」
言葉と同時にクレナは腰からトンファーを抜き戦闘体制に入る。
クレナの行動の意味を察したアイス達はぎょっとする。
「ちょっと待て!確かに許可はとってはいないが・・・俺たちは」
「問答無用!大人しく捕まるならよし・・・さもなくば・・・・・」
「って、こんなところで捕まってたまるか!」
クレナの台詞が終わるよりも早く、一同はあまりの急な展開に困惑しながら逃げ出した。
そしてすっと目の据わったクレナがその後を追う。
「もう!なんなのよ、あれ?!」
「アイス様・・・応戦しましょうか?」
ウォールの冷静だが物騒なその言葉にアイスは首を横に振る。
「駄目だ。余計な争いでややこしくすることはできない」
「解りました」
そんな話をしていると徐々にクレナはその距離を確実に縮めてきた。
「待てといっておるだろうが!」
そう言いながら片方のトンファーを勢いよく投げつけてくる。
テールに向かっていたそれをアイスがぎりぎりのところで小刀で払い落とす。
それを見たクレナはアイスがかなりできると瞬時に察して警戒の色を強した。
「・・・なかやるようだな」
「あのなぁ・・・話を聞けよ。俺たちは・・・・・」
「あれ?クレナ、そんなところで何してるんだ?」
聞きなれた声にはっとしてクレナが振り返るとそこには予想通りの人物が不思議そうな顔をして立っていた。
「王妃様・・・!なぜここに?!」
「えっ?だって、お前が慌てて走ってたから、なんだろうなとおも・・・」
状況を把握していない翔は平然とそう話していたが、やがてアイスに視線をやると、驚いたようにアイスの顔を凝視して言葉が途中で止まる。
「・・・王妃様?」
その様子にクレナが怪訝そうに眉を潜めた次の瞬間、意外にも翔は嬉しそうな表情と声でアイスに駆け寄った。
「アレク!?」
「へっ・・・?」
突然母親の名で呼ばれたアイスは間の抜けた声をあげ、それ以外の面々は驚いたように呆然としていた。
「久しぶりだな!いつこっちきたんだよ?連絡してくれれば良かったのに」
「いや、あの・・・・・」
「あれ?でも髪の毛染めた?」
ふとアイスの髪の色を見て、ようやく金ではないことに気が付く。
「あの・・・王妃様。これはいったい・・・」
今まで自分が追いかけていた相手に翔がとても親しげに話していることに普段冷静なクレナは混乱してしまった。
「ああ、そういやクレナは知らないんだよな。こいつはアレクっていって、昔・・・」
「・・・・・・違います」
「えっ?」
「俺は貴女の言っているアレクサンドル=パストゥールではありません」
「ええっ?」
冷静さを取り戻したアイスは溜息をつきながらも、自分と母親の顔が似すぎているせいで明らかに勘違いをしている翔に告げる。
「俺はアレクサンドル=パストゥールではなく、その息子です」
「・・・えええぇぇぇ〜〜〜っ?!」
事実を知った翔は信じられないというように叫び声をあげた。
「アイス?!」
翔の叫び声のすぐ後に後ろから聞こえてきた声に一同は振り返った。
そこにははぐれていた3人と、そしてもう1人シルフもいた。
「3人とも無事だったか?」
「っていうか、そのアクラとじゃれあってるの誰〜〜?」
シエナの呆気羅漢とした言葉に、アクラとシルフの2人が同時に反応した。
「ちょっとシエナ!誰と誰がじゃれあってるですって?!」
「それはこっちの台詞だ?!お前いい加減自分が悪いって認めろよ!」
「なんですって?!」
現れていきなりけんかをしているアクラとシルフに一同は呆然とする。
一緒にいたうちのブリックは顔を引き攣らせて無理やり笑顔を作り、シャルトは目に涙を溜めていた。
その中でアイス1人だけがシルフを凝視し、信じられないものを見るようにぽつりと呟いた。
「白勇だ・・・」
アイスが口にしたシルフへの呼び方に、その名の意味をしる全員が一斉にアイスと同じようにシルフを凝視した。
謁見の間にてウィンフィールド王国の現王であるクリスとその王妃の翔、王子のシルフ、王の側近にあたるシオンとレイヤード、そしてその側近の子供であるクレナとリオに見つめられながら、アイス達は恭しくその膝をおっていた。
もっともプライドが多少高いアクラは不満を持っているようだ。
そしてもう1人、奈落王家絶対崇敬者であるウォールは、自分たちはともかくとして、アイスやアクラが膝を折ることに納得がいかないようだった。
しかしアイスの「礼儀だ」の一言によって2人は黙ってその言葉に従うしかなかった。
「お初にお目にかかります。ウィンフィールド王国現国王クリストファー陛下、ならびに翔王妃」
それはいつものアイスからは考えられないような凛として礼儀正しい挨拶だった。
初めて見る兄のその姿にアクラは目を見張る。
「俺は現奈落王プラチナ=パストゥールと、その王妃アレクサンドル=パストゥールの第一子アイスリーズ=パストゥール。こっちは妹のアクラフレーム=パストゥールです」
アイスに目線で合図されてアクラは思わず頭を下げる。
さらにアイスの言葉は続く。
「以前は両親と・・・その側近の1人が大変お世話になったそうで。感謝いたします」
「いや・・・まあ・・・そう硬くならないでくれ」
知り合いの子供にここまで堅苦しくされることに違和感を感じ、クリスも翔も苦笑を浮かべていた。
そしてその横の方でぼそりとクレナが一言呟いた。
「同じ王子でも・・・殿下とは雲泥の差だな」
「クレナ!」
「ちょっ・・・クレナ殿?!」
その言葉に父親であるシオンとリオは慌てた声をあげる。
そして恐る恐るシルフの方を見てみると、そこには予想通り不機嫌そうなシルフがいた。
「普段どおりで良いからさ・・・」
翔がそう言った瞬間、アイスはすくっと立ち上がった。
そこには先程までの恭しい雰囲気は消えていた。
「それじゃあ単刀直入に言いますけど。俺達は探し者をいて色々な世界を行き来してる」
「・・・・・探しもの?」
「そう・・・で、今回はその世界に来たんですけど。どうやら、貴方達の息子がその探しものの1つらしい」
言われた事が理解できずきょとんしているシルフに視線が一斉に集中する。
やがて言われた事が理解できたシルフは、告げたアイスに対して思いっきり食って掛かった。
「んな・・・なんで会って間もないのに、そんなこといってるんだよ?!」
「そうよ、兄上!あたしもあんな奴が白勇だなんて納得いかないわ!!」
シルフの言葉に続いてアクラまでもがアイスに意義申し立てた。
その言い方はシルフの癇に障り、アイス以外の奈落の面々は「何を言ってるんだ?!」という表情になっていた。
「・・・アクラ様。アイス様が間違えるはずがありませんよ」
「そうようね〜〜・・・アイスがそう感じたなら、あいつが白勇よ」
「・・・嫌よ・・・・・あんな奴と仲間なんてやっていけるわけが・・・・・・」
「アクラ!」
仲間達からもっともな意見が帰ってきて不貞腐れながら、アクラはそれでも認めようとはせず癇癪を起こしたが、アイスの鋭い言葉にびくっと身体を震わせると大人しくなる。
「お前とあいつの相性が悪くても・・・これは覆らない事実だ」
「・・・・・・・・・」
「そして、シルフとか言ったな。俺がそう感じた以上、お前はまず間違いなく白勇だ」
「んな、説明もなっていないようなことで納得い・・・」
「守護精霊は金の精霊。白い翼の勇者の生まれ変わり。趣味は昼寝と脱走。面倒くさがりで、一部から怠慢王子と呼ばれている」
アイスのその言葉にウィンフィールドの一同はただ目を見開いて驚いた。
それは先程きたアイスが知っているはずのないことだった。
アイスの両親がウィンフィールドを訪れたのは、アイスもシルフも生まれる前の話だ。
それ以来互いに世界の行き来も特に連絡も取り合っていない状況だった。
だからアイスが知っているはずがないと彼らは思っていた。
不思議そうに自分を見ている一同に、アイスは至って冷静な言葉を投げかける。
「俺には『知詠』という、『知るはずのないことを知る能力』がある。まあ、それ以外にも色々あるが・・・」
「その『知詠』とかで、シルフのことを・・・?」
「ああ。もっとも『知詠』を使わなくても、白勇であるなら俺はすぐさっせる」
「どうして・・・?」
「・・・・・・・・・運命としか言いようがないな」
アイスのその言葉でシルフ、クレナ、リオの3人ははっとする。
かつて太陽神の扉の前で白い翼の勇者の霊体に言われたことを。
『いずれ、お前達は自分達のもう1つの運命を知ることになる。ある方との出会いによって・・・・・』
白い翼の勇者の霊体が言っていた『ある方』というのが、この目の前にいるアイスなのではないかということを。
「ああ、そうだ・・・」
「っ!」
自分達の頭の中を読んだようなアイスのその言葉に3人は息を呑んだ。
そして実際『知詠』によって読んだということを理解した。
「お前・・・・・」
「あ〜〜!いたいた〜〜!!」
シルフが緊張して喉を鳴らして何事かアイスに告げようとした時、後ろの方から場違いな声が聞こえてきた。
それはシルフ達にとってはとても聞きなれたものだった。
「雛様・・・それに美流架さんに、真理くん・・・・・」
呆然としたリオの声が聞こえていないのか、雰囲気の読めていない2人と残り1人の計3人は謁見の間の扉付近に立っていた。
「す、すいません・・・お城の方達に聞いたら、皆さんここにいらっしゃると聞いたのもで・・・」
「な〜〜に遠慮してるよ、真理」
「だって謁見中じゃないですか!なのに、僕達が・・・・・」
「雛ちゃんが来たいって言ったんだから、そんなの気にしないのよ」
相変わらずの美流架の横暴さに真理は泣きたくなり、リオはそれを見ながら同情していた。
そしてテールも初対面だが、なんだか真理に同類意識を感じていた。
「ね?雛ちゃ・・・・・」
「雛さん・・・」
雛に話を振ろうとした美流架だが、その雛がぼーっとしていることに気が付く。
遅れてそれに気がついた真理も心配そうに雛を呼ぶ。
そしてやがて雛はふるふると身体を震わせたかと思うと、両方の掌で自分の赤く染まった頬を包みこんだ。
「・・・かっこいい〜〜」
うっとりとしながら小さく感嘆の声を上げたその視線の先にはアイスがいた。
雛のその言葉をすぐ近くにいたため聞き取れた美流架と真理は、あまりにも驚きすぎて間の抜けた表情でアイスと雛を交互に見続ける。
「アイス、どないした?」
突然現れて何事かしている3人を呆然と見ていた内の1人であるブリックが、アイスだけが自分達と違う反応をしていることに気が付いて尋ねる。
しかしアイスはそれには答えずずっと一点を見つめている。
そしてようやくアイスは口を開いてぽつりと呟く。
「いた・・・・・」
「えっ・・・・・?」
「星妃・・・・・」
アイスのその言葉にその名を予め知る全員が一斉に反応して正気を取り戻す。
そしてその名を告げたアイスの視線の先には、彼らが今まで呆然と見詰めていた雛がいた。
あとがき
ようやく本題スタートといった感じです。
そして予測されていた方も多いとは思いますが、星妃は雛で白勇がシルフでした。
雛はアイスに一目惚れで万事上手くいきそうですが、シルフはアクラととっても険悪のせいで周りに迷惑かけそうです;(初対面があれだからな・・・)
アクラ微妙にプライド高いですからね・・・
ところでここの翔や来栖達と、アレクとプラチナが過去に接触していると今回明かしましたが、そこらへんの詳しい話はまた別に書きますから。
でも少しこの話の次回で明かすつもりです。
ちなみに私的に今回アイスの珍しい王子らしいところをかけてよかったです。
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