Angel evil




何故こんなことになったのか、詳しいことはエドとアルにも解っていなかった。
ただ久しぶりに東方司令部に報告に訪れようと、イーストシティに入った直後、2人は謎の人物達に拉致されてしまった。
そして錬金術を何らかの方法で封じられ、2人仲良く縛られている。
何故拉致されたうえにこんな無体な扱いを受けなければいけないのか2人は納得がいかなかった。
そのうえ、拉致される直後に見たその謎の人物たちは、とても人間とは思えなかった。
翼の生えている人間などいるわけがない。
その人物たちはというと、エドとアルを縛っておきながら、先ほどとは少し違う翼のない姿で悠々とお茶をしている。



「ん〜〜・・・で、これどうする?」
「どうするって言われてもなぁ。見られちゃったし・・・・・・」
「いっそのこと、何もかもぱ〜〜っと闇に葬っちゃいますか?」
金瞳・金髪ツインテールの12歳くらいの少女がそう告げると、16歳くらいの碧髪・蒼瞳の少年が顔を引き攣らせた。
「ケレス・・・・・いくらなんでも、それはないだろう」
「そうですかぁ?」
「あたしは良いと思うけどね〜〜」
ケレスと呼ばれたツインテールの少女に同意した、白金髪・紅瞳の16歳くらいの少女の言葉に、碧髪の少年はさらに顔を引き攣らせる。
「とーにかーく!普通にいけば記憶消すのが上等手段だろうが!法に触れたくなかったら、その悪魔的発想はやめろ!」
「「だって悪魔だしね(ですから)〜〜」」
2人の少女の反省のない発言に少年の沸点はかなり高いところまできているようだ。
そしてその会話内容にエドとアルが思わず声をあげる。
「「悪魔?!!」」
「そうそう。あたしとケレスは悪魔なのよ。種族はちがうけどね。ちなみに、あそこの神経質になってるシンクは天使ね」
「・・・誰のせいで神経質になってるんだよ」
シンクと呼ばれた碧髪の少年はすでに色々な事が重なりすぎえて我慢の限界のようだ。
そしてエドとアルはというと、その少女の発言に更に驚く。
「悪魔と・・・天使・・・・・?!」
「お前ら・・・・・冗談を言うにも限度があるだろう?」
錬金術師であるエドとアルがそんな非現実的な存在を信じるはずもなかった。
「だいいち、それが本当だとしても、天使と悪魔が仲良くしてるなんてありえないだろう?」
「失礼ね〜。あたし達本物よ〜〜。それに、悪魔と天使の争いは、もうず〜〜っと前に終わってるのよ」
「魔王様と神が和解しちゃいましたからね〜〜」
「おかげで今は天界も魔界も平和そのものだな」
3人のその発言に唖然としながら、やはりまだ信じられないといった様子のエドとアル。
しかしそれは当然のことと言える。
そんないつまで経っても納得しようとしない2人の姿に痺れをきらした白金髪の少女は立ち上がり、エドとアルの2人に挑戦的な目を向ける。
「よ〜〜く、見なさいよ。これでもまだ嘘だって言うんだったら承知しないから!」
そう言った途端白金髪の少女を黒い光が覆い、次に現れたその姿は、服装は妙にファンタジーなものになっており、更には背中に大きな蝙蝠状の黒い翼を生やしている。
その姿に驚くエドとアルを見ながら、シンクは溜息を漏らした。
「ユマ・・・・・さっき、闇に葬るとかまで言ってたのはどこの誰だった?」
「それはケレス。あたしは同意しただけ」
シンクの言葉にもユマと呼ばれた白金髪の少女は全く悪びれもなく答える。
その言葉にまたシンクは顔を引き攣らせた。
「んで、信じた?」
挑戦的に笑うユマの表情に少し気分を害しながらも、決定的なものを見せられてはエドとアルは納得するしかなかった。
「・・・とりあえず信じてやるけど・・・じゃあ、その天使や悪魔がなんでここにいるわけ?」
エドの質問にユマとシンクは少しの間顔を見合わせると、シンクはここまできたら仕方がないというように溜息をついた後答えた。
「それは俺たちが、ハンターだからだ」









神と魔王が和解したことをきっかけに協力して作られた世界がある。
その世界の名は幻夢界と呼ばれ、天界・魔界の共通領土、基天使と悪魔の自由交流領域となっていた。
ここに居を構えている者達の殆どは、戦争の終結後に天界・魔界各々のルールから外れ、自分達の好き放題な事をする天使や悪魔を取り締まるための機関・警察庁に属する通称・ハンターと呼ばれる者達であった。
そしてそのハンターの最高位である警察庁長官の地位にある、銀髪・紫瞳の外見的には20歳前後のアイルは呑気にお茶をしていた。
「はぁ〜〜・・・平和ですね〜〜」
「・・・よくもそういう事が言えるな」
呆れた声で扉を開けて現れたのは、アイルと同じ銀髪だが瞳も銀の10歳くらいの少年だった。
「あ、父上。どうもいらっしゃいませ」
どう見ても外見10歳くらいの少年に対し、アイルは「父上」と呼んだ。
「この状況下の中、ハンターのトップがそんな呑気では、警察庁の未来が不安になるぞ」
「天界を抜け出されている父上が言う台詞ではないと思いますが」
少年はアイルの言葉にぐっさりと図星を刺され、こほんと咳払いしてその話題を受け流した。
「人間界で戯嬰が錬金術師を襲い、生気を吸収しているそうだな?」
戯嬰とは先に述べた犯罪を犯している天使や悪魔の総称である。
「はい。それもどうやら複数犯の仕業らしいですよ。昨日までにシンクとユマが3人程捕まえて送ってきましたから」
「・・・・・あのラファエルの甥っ子と魔王の義妹か」
少年は何故だか自分で口にしたことに溜息をついた。
「今回はあの2人にとっても結構骨のある相手かもしれませんね」
「・・・そうだな。お前に聞いたところによる今までのあいつらの相手は、壁に派手に落書きする奴とか・・・」
まるでどこかの不良のようだが、これも一応犯罪として数えられる。
「・・・・・・・・・・・・・ニャン太、とか」
「ああ、ニャン太ですか」
少年の上げた名前に思わず笑うアイルだが、その名前は解らない者が聞けばなんだという名前である。
「一応、今はシンクやユマに協力して頑張ってますけどね」
「・・・元戯嬰とはいえ、あいつには同情する」
楽しそうに笑うアイルとはまったく正反対に、遠い目をしながら少年は今この場にいない相手を心底哀れに思った。









軽くくしゃみをした人物の頭には髪の色と同じ黒い猫耳、お尻には2本の長さの揃ってない同色の尻尾が生え、背には少し小さめの蝙蝠形の翼があった。
「・・・風邪?」
「いや・・・これは誰かが俺の噂してるな。手堅いところでユマかシンクかケレスか・・・・・」
先にあげたものさえなければ普通の12歳くらいの少年である彼は、その外見に似合わないげっそりとした表情で呟いた。
「・・・もしくは、あの馬鹿父子・・・・・だな」
「ふむ・・・・・まあ、それは良いとしてニャン太」
「誰がニャン太だ〜〜〜〜〜!!」
呼ばれた名前、否あだ名にニャン太は激しくきれた。
「俺の名前はミケルス=ハリムだっていってるだろうが!!」
「まあ、そう怒るな」
「怒るに決まってるだろうが!!」
「それは解っているが・・・・・・中尉がな・・・」
「あら?可愛い呼び名だと思うわよ」
にっこりと微笑んでニャン太に本心からそう告げたのは、ホークアイ中尉に他ならなかった。
そして彼女とニャン太を見ながら、出来ることなら変えてやりたいが、と思いながらもホークアイ怖さに何もいえないでいるロイとその部下達一同。
そうここは東方司令部なのだ。
「・・・・・なんで初対面の奴にいきなりニャン太なんて命名されなきゃいけないんだよーー!」
そう叫んだかと思えばがっくりと床に手をつき、さめざめと涙を流す。
「・・・・・っていうか、なんでそれ以外皆俺に対しての呼び名が出てこないんだ」
ユマとシンクに捕まった後もあの2人によって何故かニャン太と名づけられ、その後は会う人物全員に自分の本名を教えても、何故かあだ名の方で定着されてしまう。
そのうえまるで何かしくまれていたのではないというこのホークアイの命名。
一方その命名を最初は笑いを堪えながら楽しんでいたロイ達は、あまりにも沈むニャン太が段々と哀れになっていた。
しかしホークアイに「ニャン太」という呼び名について良いかときかれ、咄嗟に頷いてしまったのだ。
よって今更彼に対する呼び方を変えることはできない。
もしそうすればどうなるのかはすでに全員予想がついている。
彼らは心の中でニャン太に謝罪しながら、彼を温かく見守る事にしたのだった。



「それで一連の錬金術師失踪事件が、その戯嬰とかいう天使や悪魔の仕業とかいうのは本当かね?」
暫くしてニャン太が落ちついたのを見計らってロイは再度確認した。
「ああ、そうだよ・・・」
「しっかし、天使や悪魔なんて正直まだ信じられないけどな」
「・・・でも、実物が目の前にいますしね」
未だ疑心暗鬼な一同を代表するように言ったハボックの言葉に、フュリーはニャン太の姿を見ながら苦笑を浮かべてそう返した。
「錬金術師である以上、私としても否定したいところだが・・・・・どう見ても合成獣の類ではなさそうだからな・・・・・」
「だから本物だって言ってるだろうが」
好き勝手言う一同にニャン太は頬を引きつらせながら不機嫌にそう言った。
その様子を見かねたホークアイが溜息をつきながらニャン太に声をかける。
「貴方の言葉をすべて信用するとして・・・・・近いうちに大佐が狙われる可能性が高いのね?」
「ああ。この辺りの適当な錬金術師は大概被害にあったし・・・・・今度は質も追及してくるだろうから。こいつは質もよくて手頃だろうからな」
「手頃・・・・・・」
なんだかその言い方はある意味馬鹿にされているようにも思えてロイは方眉を吊り上げた。
「本当は人間に知られずに全部片をつけるべきなんだけど。でも被害に遭う予定の奴がこういう組織の所属なら、協力してもらったほうがいいと思ってな」
「そうね・・・・・私達としても助かるわ」
これでニャン太の言っている事がすべて本当で、事件が即座に解決できれば東方司令部としては願ってもないことである。
「とりあえず、俺の仲間・・・って言えるのかどうかは解らないけど。そいつらに連絡とって事情を説明するからな」
「?・・・・・解った」
今一ニャン太の言った言葉の中に不可解な部分を見つけながらも、とりあえず大した事はないだろうとその時はそのままにしておいた。
その疑問が解決されるのはこの後すぐのことだった。








あとがき

「翼」というお題をどうしようかと思い、頭に浮かんだのは昔私が書いていたオリジナルの1つ、「天魔警察」のキャラ達でした。
「天魔」はシリアスなんぞ片鱗もないまさしくギャグだけで構成されたお話です。
私は基本的に書くのはギャグなんですが、どれだけギャグが強くても、その中に少しシリアスを含むようなことは他の作品ではしています。
しかしこれに関してはまったくそれがない;
今回これでもまだギャグ色は軽いほうです。
四大天使と魔王の妃が出てくるとギャグ度は最高潮です;
そして今回出てきているアイルに「父上」と呼ばれている10歳の少年の正体については多分次あたりで。
そして次あたりでエド達は魔界や天界に連行(違う)されると思います。






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