花吹雪



かなり広いといえる神社の境内に、それでも足りないといわんばかりに、たくさんの着物を纏った人々が集まっていた。
強固の日だけの出店もあったりして、一種のお祭り状態になっていた。
否、尾松入りといっても過言ではないかもしれない。

新年1月3日。
今日は、年に1度催される一族の『武芸会』の日である。
その会場となっているのが、本部である山影町に唯一存在するここ『花桜神社』である。
ここに各地からの『武芸会』の代表者や、幹部、見物人(限定人数)が集まっているのだから、それはかなりの数になっても仕方ない。


「今年も随分と多いな〜〜」
「ざっと、見積もっても520人は居るわよ」
その人ごみを鑑賞物のように観察しながら、出店で買ったたこ焼きや、焼きそばなどを食べている人物が2名。
「お前も能力無駄な事に使うなよ、知由」
「あら?あたしの能力をどう使おうと自由でしょ?旋旗」
「俺には能力の無駄使いしてるとしか思えないけど・・・」
「年上の言うことは聞くものよ♪」
そう言って、再びあの人物はどこの誰だの、こっちの人物はどいう人だのと、同でもいい事を再会する知由に、旋旗は呆れながらたこ焼きを1つ口に運んだ。
「ん?」
「どうした?」
ふと何かを『知った』のか知由は一瞬大きく目を見開くと旋旗の言葉を無視して後ろを振り向く。
「茗峯?、擂祢?」
そこに居ないどころか、2人の視界にすらいない人物の名前を知由は呼ぶ。
しかし、知由のその行動を意味あるものだと経験上知っている旋旗も知由に習って彼女の見ている方向を見る。
やがて、2人の視界に2人の人物が姿をあらわした。
「茗峯、擂祢」
今回呼んだのは旋旗のほうである。
旋旗の声を聞いてか、もしくは2人の姿に気がついたからなのか、茗峯と擂祢は笑顔でそれに答える。
「やっと見つけましたよ・・・知由お姉さんに旋旗お兄さん」
「うっわ〜〜い!知由姉さん☆旋旗兄さん☆ちゃお〜〜♪」
茗峯はにっこり微笑み、擂祢は容赦なく2人に抱きつく。
というよりも、2人に向かってダイビングしたといった方が正しいかもしれない。

ちなみにこの場合茗峯の「お姉さん、お兄さん」と擂祢の「姉さん、兄さん」は親しみを込めて呼んでいるものであって、実際に4人にも、他の者達にも血の繋がりは全くない。
それどころか全員種族も違う。
それでも、彼らは仲間であり、家族なのだ。
彼女のおかげで・・・

「よっ!・・・狐曜は?」
「狐曜はね〜〜『気持ちが悪くなるから人ごみから離れた所に居る』だって〜〜☆」
「・・・お兄さん、解ってらっしゃるくせにわざと仰いましたね?」
楽しげな擂祢とは対照的に、旋旗に対して茗峯は苦笑をもらす。
茗峯のその言葉を聞いて旋旗はまるでからかうようにけらけら笑い出す。
「良いじゃね〜か、これくらい」
「それにしても狐曜の人間嫌いは相変わらずね・・」
「・・・仕方ないですよ・・事情が事情・・・・・ですから」
「そうそう・・それに俺たちにだって、苦手なものがあるんだからな。あいつばかりじゃないってことだ」
「うん☆うん☆」

極度の人間嫌いである狐曜は、少数人数ならともかく、多数の人数がいる場所では気持ちが悪くなり、吐き気を起こす。
また、酷い頭痛に襲われたり、精神的な不可から高熱を出して寝込む事もある。
ましてこれだけの人ごみなら仕方のない事だろう。

「ねえ、ねえ☆年少組の3人は?」
いつも能天気で元気な擂祢がいきなり話題転換して、知由に尋ねた。
それをいつもの事とでもいうように、すぐさま対応してみせる知由。
「えっと、3人とも出店めぐりしてるみたい」
「大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だろ?形はあんなのでもあいつらここに居る『一族』の人間より年上だぜ」
確かに、と他の3人は三者三様の納得の仕方を見せる。
「ねえ、ねえ?これから面白い事しない?」
そう話を持ちかけてきたのは知由だった。
それに対し、またも三者三様の反応が返る。
瞳を輝かせたもの。
興味深そうに笑んだもの。
そして、嫌な予感を感じて退いたものと・・・



本来重たく、身動きがしにくくなるはずのそれを、慣れたように平然と簡単に、しかしどこか鬱陶しそうに扱いながらその場に座り込む。
冬だというのに、風もなく、自分を照らす陽の光がとても暖かく心地好い。
その心地好さに身を任せていると、ふと光が1つの影によって遮断された。
それと同時に頭上から声が降ってくる。
「こんなところにいてまた怒られますよ」
「思ってもいないこといわないでよね、紅葉」
上を見上げると、にっこりと微笑んだ良く見知ったこの神社の1人娘がいた。
普段の巫女の衣装とは少し違うものを着用している。
それは正月用のものらしい。
「まあ・・でも、実際怒られますよ」
「構わないわよ。適当にあしらうだけだし・・・それにあそこにいるのかったるくって嫌なのよね」
「・・・頭領様達、ですか?」
「正月でもなければ帰ってきて欲しくないわね」
自分の親に対するものとは思えないほど皮肉げに麗は紅葉に告げたが、紅葉もこの答えはあらかじめ予想している。
「でも、本当にそろそろいったほうが良いですよ。もう少しで、弓道が終わって剣術が始まります・・それまでには帰っていたほうが」
そこまで言って紅葉はそういえばと少し目線を斜めにして今思いだしたかのように言う。
「剣恙だけいませんけど・・・どうしたんですか?」
「ああ、所用で後から来るって」
「そうですか」
紅葉の言葉とほぼ同時に麗は立ち上がって伸びをする。
「それじゃ、仕方ないけど戻りましょうか」
にこっと笑い、やはり鬱陶しそうに正装を扱いながら歩いていく麗の後に続いてく紅葉もその場を後にしたのだった。



「ああ〜〜!穂麗様、どこにいってらしたんですか〜〜?!」
一族の幹部陣がいる場所に帰ってきてみれば、予想していた通りまず渓紹の非難めいた言葉を聞かされた。
それを麗は適当にあしらい、自分の席に座る。
紅葉は父親である花方から麗を連れてきたことに対するお褒めの言葉を貰ったりしている。

武芸会に参加する事の出来ない幹部人が全員そろったところで、次の競技である剣術が始まろうとしていた。
その矢先・・・
突然、大量のそれが会場を覆い尽くした。
「こ、これは?!」
思わずその場を立ったのはやはりというか渓紹で、その場に起きた事に驚いている様だった。
麗をはじめ他の幹部や、紅葉は少し驚いたような表情をしているが渓紹程は動じていない。
そこを覆い尽くしたのは桜の花びらだった。
本来この季節に咲くはずはない花。
日本の最何である、沖縄であるならともかく、ここは中国地方、この時期に桜が咲くはずがないのである。
これは、この正月3日のためにわざわざ花方とその家族一同が術を使って強制的に咲かせていたものである。
他にも、たくさんの季節はずれの花を術で咲かせている。
その中の桜の花がなぜか会場中を覆い尽くし、異常の塊ともいえる呪術師一族の者達をパニックに陥れていた。
「あはははははーーーーー!!」
麗は突然堪えきれなくなったのか声を押さえようともせず、お腹を抱えて笑い出した。
どうやら驚いていたのではなく、したのパニックの様子に笑いを堪えていたらしい。
ちなみに、紅葉は最小限には留めていたがやはり笑っていた。
「はあ・・・」
このパニック状態と笑っているメンバーに溜息を漏らしたのは、麗と同じく正装姿の颯だった。
ちなみに、笑っているメンバーは他にも若頭領内に2名いる。
その他の若頭領は、颯のように呆れている者もいれば、渓紹と一緒に混乱しているものもいた。
「きゃはは〜〜!大成功!!」
突然楽しげに声をしたほうを見てみれば、そこにはVサインなどしてこの状態を喜んでいる今回の緑髪の首謀者がいた。
「いや〜〜、本当に大成功だな♪」
「すご〜い☆すごい♪」
「ああ・・・すいません・・・剣恙お姉さん」
そして、同じように楽しそうにしている水色髪と黄色(一部ピンク)髪の共犯者2名と、3人のたくらみをしていながら止める事の出来なかった薄緑髪の傍観者。
ちなみに剣恙だけに誤り、麗に謝らなかったのは、麗がこういうことを喜ぶと解っているからである。
現に・・・
「麗様〜〜vどうですか〜〜?」
「あはは!最高よ、知由、旋旗、茗峯、擂祢」
「やっぱ、姫さんは見る目あるよな〜〜」
「わ〜〜い♪御主人様に、御主人様に誉められた〜〜〜〜♪♪」
「・・・僕は何もやっていませんけど」
もちろんそんなことは麗は良く解っているが、とりあえず言ってみただけ。
ともあれ、これで完全に武芸会はめちゃくちゃになったことに違いはない。
が、ここで全てが終わるほど世の中上手くは出来ていない。
「「「ぎゃうっ!」」」
なにやら鈍い音と共に、変な声を上げて倒れる首謀者と共犯者、計3名。
「いた〜〜〜・・・あっ」
頭を抑えながら、自分達の後頭部を思いっきりなにか硬い棒のようなもので叩いた人物を見上げた知由はその瞬間固まり、油断しきっていて自分の能力を発動していなかった、発動できなかったことを酷く、恨めしく思い、同時に酷く恐怖に慄いた。
それは、後半部分他の叩かれた2名も同じようだった。
「「「け、剣恙(姉さん)・・・・・」」」
そう、そこに逆光を背負い、バックに稲妻でも走らせているのではと思いたくなるような雰囲気と形相で佇んでいたのは遅れてくる予定だった剣恙だった。
良く見てみると、3人を叩いたのは剣恙愛用の刀を収めたまま黒塗りの鞘であった。
「・・・け、剣恙?」
恐怖のあまり表情を強張らせながら旋旗が名を呼んだその瞬間、まるで火山でも噴火するがごとく剣恙は怒鳴り上げていた。
「お前達は一体、なにをしているーーーーー!!」

後日、傍観者・茗峯談・・・
「やっぱり、本気で怒った剣恙お姉さんは・・・本気でお怒りになった麗様の次に恐いです」


さらに余談で・・・
この後、麗は主・・・訂正、家長の責任という事で、渓紹から延々3時間に渡る長い説教をされた。
もっとも、左の耳から入り、右の耳から見事に抜けていた。
さらに麗が渓紹に説教を食らう原因となった事から、剣恙の3名に対する説教その他は、勢いを増した事はいうまでもない・・・





あとがき

これだけ読むと・・・武芸会はいったいどうなったのか?
まあ・・・この一族のことだから適当に片づけて、適当にまた再会した事でしょう。
なにせ、この一族の人間で普通じゃないのはいないですから(苦笑)
ええ、渓紹も実際普通ではありません。
それにしても相変わらず、わけが解らない・・・
今回は、知由、旋旗、茗峯、擂祢、そして紅葉と出せました。
あと、霊従は4名、次で全員出します。
あと、プロフィールに紅葉追加してますのでそちらもよければ見てください。
今回は以上で、逃げます!!



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