別天地午後



青い空、青い海、『青』という言葉が何よりの象徴であるこの世界は、ある神族が統制をとっていた。
神族の中でも王家を除いて最強と謳われる竜神族の中でもさらにもっとも強者ぞろいといわれる青竜の一族。
この一族は一万年もの昔に魔族との戦いで勝利し、現在の争いのない世界を作り上げた。
世界の中心に本拠たる『神殿』をおき、東西南北には『竜殿』という建物をおき、世界のバランスと、結界の維持と強化を促している。
また『竜殿』には青竜の長直属の4人の竜王をそれぞれ1人ずつ配置し、それぞれの『竜殿』エリアの人間の国々に対し、さまざまな援助や指導等を行っている。
醒覇第四時空『青の世界』。
神族と魔族の戦いの後、荒廃しきっていたこの世界は、現在神族の手によって、とても豊かで平和な世界になっていた。








広大な『南の竜殿』の中でも特に広いその室内に、変わらない音程でペンを走らせる音が規則正しく響いていた。
「タルス様、こちらもお願いできますか?」
「いいですよ」
「それから、カミール公国から書簡が届いているみたいなのですが」
「ではそれもしっかり目を通しておきましょう」
にっこりと微笑んで副官の持っていた書簡を受け取った。
青竜のは人型である時、髪と瞳の色がその種族の名を関するに相応しい、とても澄んだ青の色をしている。
そしてこの2人もその色をしていた。
青竜の最高幹部である、青四竜王のリーダー及び、『青の世界』の南の守護神である大竜王タルスと、その副官であり、青四竜王の副官衆筆頭でもあるカインの2人である。
「本当にタルス様はご立派です。きちんと仕事もこなされることはもちろん、周りへの気配りも相当なものです」
「誉められるようなことではありませんよ」
「いいえ。そうでもないです・・・・・・この間またライトに泣きつかれました」
「・・・ルートですか?」
肩を落とすカインにタルスが確信を持って言った言葉にカインが肩をこくこくと頷く。
「まあ・・・・・ルートはもともとデスクワークは苦手ですからね」
「タルス様、何かルート様に一言おっしゃって下さい。ルート様もタルス様の言うことなら聞くはずです。・・・・・このままではライトが哀れすぎて」
溜息を深くつくカインに対し、タルスはどうしたものかと苦笑していた。









長い青の髪を1つに纏めて結っているその人物は、意気揚々と『南の竜殿』ないを闊歩していた。
「さ〜〜て、早くタルス様に会いに行こう。確かもうすぐ午後のお茶の時間だよな!」
鼻歌でも歌いだすのではないかというくらいにその人物は至極ご機嫌だった。
「ここの菓子は美味いんだよな〜〜」
「確かにね〜〜」
「『北』で出されるのも美味いけど、やっぱりここのが1番美味いよな」
「へ〜〜、そうなんだ〜〜〜」
そこでその足は青髪の人物はぴたりとその足を止めた。
確かに今まで自分は1人で歩いていて、周りには特に誰もいなかったはずだと。
しかし、確かに自分に相槌を打つようにその声は聞こえてきたと、ゆっくりと振り返ってみる。
そこにはいつの間にか見知らぬ黒髪の少女がいた。
「うわぁぁぁ〜〜お前、いつか・・・っていうか、誰だぁ〜〜〜?!!」
「うわ〜〜、すごい見事な反応!」
そう言って少女は質問に答えず、楽しげにぱちぱちと拍手をする。
「だから!誰なんだよ?!それにお前気配からして人間だろうが!!ここは基本的に人間は立ち入り禁止に・・・」
「ルート!」
混乱して次から次へと言葉を思いのまま口にしていると、突然よく知った声が後ろから聞こえてきた。
「タルス様!」
ぱああっと先ほどまでの混乱が嘘のようにその表情を明るいものにする。
しかし・・・・・
「あっ!タルスさん、久しぶり」
「おや?麗さんもご一緒でしたか」
にっこりと顔見知りといわんばかりに微笑んで挨拶をする2人に、取り残されて放心する人物が1人いた。







「精龍麗〜16歳、呪術師一族霊従師属若頭領、よろしく!」
「ほら、ルートも」
「・・・『北の竜殿』担当の闘竜王ルートだ」
タルスに促されて名乗ったルートだかまだ少し呆然としていた。
目の前の人物がタルスの知り合いだったことも驚きだが、まさか呪術師一族・・・それも一種属の若頭領ということにさらに驚いていた。
「前にも話しましたが・・・ルートは私の弟子です」
「覚えてますよ〜。タルスさん、毎回来る度話してくれますから」
「・・・そんなに来てるんですか?こいつ」
「ルート様程は来てませんけど」
カインの多少刺のあるその言葉に、ルートは内心ぎくっとなり顔を引きつらせる。
自分の副官であるライトよりはまだカインは融通は利くのだが、一通りの注意は耳にタコができているほど毎回される。
「それなりには来てますよね?」
「今までルート様と鉢合わせになっていないのは凄い確立ですね」
「ルート、麗さんは根はとても良い人ですから、仲良くするんですよ」
「はぁ・・・・・」
「麗さんもルートに良くしてやって下さい。この子はぶっきらぼうですが、本当はとても優しくて思いやりのある良い子ですから」
にっこりと微笑んで本心で言ったであろうそのタルスの自分への評価に、ルートは照れて多少顔を赤くした。
そして自分のことをやはり1番良く解って考えてくれているのはタルスだと、心の底から師であり育ての親でもある彼に感動した。
「解ってますって!タルスさんからさんっざん聞かされてますし」
「タルスさんの話の大半はルートのことですからね〜〜」
あははっと笑いが広がる中、ふとルートは今までこの場にいなかった聞き覚えのない声にはっとした。
そして急いで目をやったそこには見知らぬ緑の髪の少女がいた。
「だ、だれっ」
「あれ、知由〜〜どうかした?」
「知由さんお久しぶりです」
驚くルートに対し、まったく動じもせず当たり前のように尋ねる麗、ほのぼのと挨拶を交わすタルス、そしてカインはじっと場を観察しているようだった。
「タルスお久しぶり〜〜。えっとですね、麗様。そろそろ側近様が限界のようです」
「ああっ、もうそんな時間?っていうか、もうバレたの?」
「どうも逆契若頭領様がうっかり歪君若頭領様にばらしちゃって、そこから側近様に知られちゃったみたいです」
「あらら〜〜・・・まあ、逆は仕方ないとしても、草馬にはきっちり仕返ししなきゃね〜〜」
バレたことなど苦にもしていないようで、むしろこれからどんな仕返しをしてやろうかと、怪しい笑いを浮かべながら考えている麗とそれに便乗して同じような笑みを浮かべている知由にルートは悪寒を感じ、一種の恐怖を覚えたという。
「それじゃあ〜〜タルスさん、ルートさん、カインさん。今日は居られる時間短かったけど、今度はじっくり来させて貰うから」
「はい。今度はぜひ他の霊従の皆さんもご一緒にどうぞ」
「できればタルス様の仕事中は避けてくださいね」
「は〜〜い。ありがとう〜〜〜!それじゃあ、またね〜〜〜。知由いくよ〜〜」
「はい。それではあたしも失礼します」
軽快な足取りで楽しそうに去っていく2人を、慣れているのだろうかタルスは手を振りながら見送り、カインはぺこりと静かに礼をして見送る。
ただ慣れている2人とは対象にルートはあまりの展開についていけず呆然としている。



「タルス様・・・・・あいつらなんなんですか?」
「えっ?さっきも言ったじゃないですか。呪術師一族の霊従師の麗さん。後からきた彼女は麗さんの霊従の知由さんですよ」
にっこりと笑いながら「知由さんは来られてすぐ帰られたので、紹介はしていませんでしたね」と付け加えてくれた。
しかしルートはまだ多少呆然としながら尋ねなおした。
「いえ、そういうことでなく・・・・・俺、あの霊従の気配まったく感じなかったんですが?」
いくら呪術師の霊従がである霊従師から力を多少分け与えられるとはいえ、霊従師本人はともかく、霊従の気配は神族の中でも一応高位のはずの自分が感じ取られないはずはないと、ルートは思っているし自覚もしている。
それがまったく気配を感じさせず近寄られたことに多少のショックを受けてもいるのだ。
「ああっ、それは仕方ないですよ。なにせ知由さんは、呪術師一族最強である麗さんの霊従の1人ですから。まず他の霊従とは質が違うのかもしれませんね」
「はぁ・・・・・って!」
呆然となっていたため、タルスの言葉にただ相槌だけを打ち受け流しそうになっていたルートだったが、寸でのところで言われたことに気が付き、驚いて目を見開いた。
「タルス様・・・今、なんて言いました?」
「えっ?知由さんは他の霊従とは質が違うって」
「その前です!」
「・・・ひょっとして、麗さんが呪術師一族最強ということですか?」
「そう、それです!」
びしっとタルスを指差し、冷汗を流しながらも、まだ驚きは冷めていないようだった。
「あいつが、あんな能天気そうなのが、呪術師一族最強だっていうんですか?!」
「ええ、そうらしいですよ。自他ともに、そう言われてますから」
「・・・信じられませんよ!呪術師一族の最強はそのまま『醒覇』の最強ですよ!?」
「ですが事実なのですから仕方ありません。・・・・・複雑ですが」
カインにまで後押しされた言葉にルートはそのまま風化しそうになった。
それも当然の反応で、現状での呪術師一族の最強であるということは、現状の『醒覇』の命運を1番握っているのは彼女なのである。
それがあんな性格で、しかも好き勝手に呪術師一族の本部から抜け出している状況に、ルートは今後の『醒覇』の安穏が心配になっていた。
好き勝手に抜け出しているという点では、自分も大して変わらないということを棚に上げて。








あとがき

タルス、ルート、カインの登場です。
カインはプロフィールには載せてないんですが、こんど上げるかもです(^^;
本編ではお亡くなりになってしまっているタルスを書けてとても楽しいです(^^)
私的にほのぼので大好きなキャラなので。
奥さんもとてもほのぼのとした人なんですけどね(夫婦で似たもの同士)
ルートはこっち(昔)だとまだこんなに性格がまともな範疇だったとは・・・
書いていて少し自分でもびっくりしました;(←おいっ)
これがそのうち我が家の中でNo.1のブラコンになるんですよね・・・(^^;
ほとんどまるで別人になってますから・・・性格。
それにしても今回私的に主人公の出番少なかった(いつものことですが;)







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