華空の出会い 後編




夏だというのにそこは吹雪に覆われた雪山。
それを見て呆然とたたずむ2人と溜息をついている数名。
「ここ・・・なの?」
「ああ・・・」
「なんだよ・・・これ?」
「見てのとおり雪山です」
きっぱりと答えてきたウォールに「それは解る」と言い返したかったがその気力すらない。
尋ねたのはそんなことではない。
この山の現状である。
今が夏というのを疑いたくなるような吹雪・・・それもおそらく超という単語が10はつくのではと思えるような吹雪である。
少し離れたこの場所から見てもその凄さが解る。
というか、その余波なのか離れた場所にあるにもかかわらず彼らがいる現在地の湖は完全に凍りついている。
分厚い氷が張っているのではなく、湖が完全に巨大な1個の氷と化していた・・・
周りの植物も凍ってしまっていて、少し触れれば崩れそうである。
これで現地に行けばどれほどのものなのか・・・・・・
北に行くにしたがい段々と少なくなってくる街、村。
そして今居る場所から見渡す限り人はもちろんどんな動物も見かけない。
「・・・ひ、引き返そうかな・・・・・あたし」
ポツリと呟いたアクラの腕を「お前も道ずれだ」と言わんばかりにラスが掴んだ。
もっとも、その後きっちりウォールの制裁を受けたという。


現地にやってきた一同はまず結界・治癒を得意とするシャルトを中心として火属性のメンバーで結界を張り、それを風属性のメンバーで増幅させていた。
それで何とかしのいでいるという状態だろうか。
この雪山を結界も無しに突き進めというのは即死しろということに等しい。
もっともこの雪山だけでなくこう言った自然の厳格と脅威の化身といえる山はこの奈落にあと3種類存在するらしい。
この山以外がどんなものかは全員実物を見たことがないが、スノウに聞いた限り全てろくなものではなかった。
結界は吹雪を何とかしのぎ、寒さを多少和らげるだけで十分寒すぎるぐらいだし、足は雪に埋まって歩きづらいうえ視界は一面真っ白で結界の中にいなければ手を繋ぐほどすぐ近くにいても仲間の姿を確認できないと推測できるほどだ。
兄が必要以上に防寒着等を渡しまくってくれたことに今ようやくアクラは感謝していた。
荷物になるからいらないとばかりに押し返してけんかになった挙句、攻撃魔法をまた炸裂させたことを誤りながら・・・・・
「最低山の中腹まで行かないとスノウは現れませんからね」
そう言ってやけに1人平気そうな・・・しかも1番防寒着の着ている量が少ないウォールが率先して登るように言った。


奈落のとある一室で小さな女の子、もといメリィがずっと窓の外を見ていた。
「メーリィ〜☆あそぼ!」
「あっ!しえなおねえちゃん」
いきなり部屋に現れた少女に満面の笑顔でメリィは応える。
「うん、あそぼ」
「じゃあね〜、トランプしよう」
嬉々としてポケットにしまわれていたトランプセットを取り出す。
「何する?」
「ん〜・・・ばばぬき♪」
メリィの要求に従いばばぬきをしようとトランプを混ぜ始めるシエナ。
トランプを混ぜ終わりカードを配ろうとした時、いつも明るいメリィの表情が少し沈んでいることに気づいた。
「メリィ?どうしたの?」
「・・・んっとね・・・らすやあくらおねえしゃまたちだいじょうぶかなって。それに・・・」
「んに?」
「おとうしゃまやおかあしゃまたち・・・しんぱいしてるかなぁ?」
心配していないはずがない、もう一週間も経っているのだ。
ラスから聞いた話によると、時空間転移のアイテムを作れるのは有翼種の血を受けた魔鳥だけでらしい。
ゆえに上手くこちらの世界にあちらの世界の者が助けにくるには『時空間の歪』・・・それもこの世界に繋がったものが偶然出現するしかない。
しかし、結局は助けにきた者も戻れなくなる。
それでは本末転倒ゆえ結局ラスがアイテムを作るほか方法はない。
どれほどあちらの世界の者達が不安になっているのか、それをこの幼子はしっかりと理解していた。
まだ理解しなくても良いくらいの歳なのに・・・
突然何を思ったかシエナは配ろうとしていたトランプをその場に置いた。
シエナのその行動にメリィがきょとんとしていると。
「トランプは大勢でした方が楽しいからラス達が帰ってきて、王子の勉強が終わったら皆でしよう?」
それまでは2人でお城の探検でもしようか?
シエナの申し出の意味を理解したメリィの表情はぱあぁっと明るいものになった。


一方そのラスたちはというと・・・・・・
雪に足をとられているためかなり遅いペースで雪山を登っていく。
どの方向に向かって歩いているのか解らないが、とりあえず登っていることだけは確かのようだ。
体力はどんどん落ちていく。
特にブリックは体力のないシャルトを引っ張っている状態だから2倍に体力を減らしていた。
「ご・・・ごめん・・・・ブリック」
「気にすんな・・・・・シャルトは元々こういうの苦手なんやから」
謝る自分に優しく応えてくれるブリックにシャルトの頬が少し赤くなった。
「この状況でよくもまあ・・・良い雰囲気作れるな」
「母さんこそくだらないこと言ってないでさっさと歩いてください」
即座に息子に冷たく突っ込まれて情けなくも素直に返事をしてしまう。
この寒い中で彼の毒舌の威力は数倍にも膨れ上がっているようだ。
「何しにきたの?」
その時、ラス以外の一同に聞き覚えのある声がした。
「スノウです〜」
全員の心の声を代表するようにプラムが嬉しそうな声を上げる。
ただ1人、ラスだけがどうも鳩に豆鉄砲を食らったような表情をしている。
おそらく、スノウの姿が予想よりもかなり幼くて驚いているのだろう。
「だれ?それ」
スノウが尋ねるとここ一週間に起こったことやアイテムのことなど全ての事情を説明する。
それと同時にプラムの手からスノウに用事があってこられなかったアレクからの手紙が手渡された。
そして、雪の結晶に関してのスノウの返答は。
「良いよ別に、減るもんじゃないし。何よりアレクの手紙届けてくれたし♪」
嬉しそうに手紙に頬擦りをしたりするスノウに相変わらずと多少呆れる一同。
こうして無事雪の結晶は手に入り、スノウの力を借り登って来た時が嘘のような速さで下山したのだった。


アイテム完成の翌日早々にメリィとラスはあちらの世界に返ることになった。
「それじゃあ、元気でな」
「うん、あいすおにいしゃまたちもげんきでね」
アイスが頭を撫でてやるとやはり撫でられるのが嬉しいようでとても喜ぶメリィ。
それを見て多少眉間にしわを寄せつつもラスは何かを取り出した。
「・・・・・これっ!」
受け取ったテールが見て驚いたそれは時空間転移の為ラスが造っていたアイテム。
「やる」
「やるって・・・あなた達が帰れないじゃないですか!」
「ああ、それなら心配ない。それはお前らにやるためついでに造ったのだ。俺らのは、ほらこれ・・・」
そう言ってもう1つ、テールの掌にのっているものと同じ物を取り出した。
「今度はお前らが俺らの世界にこいよ。メリィもまた会いたいだろ?」
「うん!またみんなでとらんぷしようね♪」
結局はメリィのためかと全員溜息をつくが、また逢えるならそれでも良いかと笑って言葉を飲み込んだのだった。
そして異世界からの来訪者2名は早々と帰っていったのだった。


ちなみに、アイス達がメリィ達の世界に行ったのは2人がこちらの世界を去ってから翌日のことだったという。



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