Retaliation
plan
ばきっ、ぼきっ、べきっ・・・
そんな音が一定の間隔をあけて先程から部屋に響いていた。
「あ〜あ・・・これで何本目ですか?」
行き場のない力に折られた哀れなペンの残骸の山を見て、ジェイドは溜息をつき呆れながらそう言った。
「プラチナ様、物は大事にしましょうね」
「・・・うるさい」
眉間に皺を寄せて、完全に不機嫌モード全開のプラチナがそんな一言を聞くはずもなく、ジェイドは怒りに震え手に力が入ったがためにまた折られてしまったペンを見て、またしても溜息をついてしまった。
「アレク様とこのところろくに話してないからって、なにも物にあたることないでしょうが」
「・・・別にあたってなどいない」
「・・・それ、この残骸をちゃんと見て言ってます?」
ペンの残骸を前にして、2人の間に微妙な空気の元、部屋の中に沈黙が訪れた。
このとことプラチナはアレクとろくに話をしていない。
それというのも、すべてはそれを邪魔する人間がいるからであった。
アレク本人が自覚してはいないとはいえ、プラチナに対してアレクは兄弟以上の特別な想いを持っている。
そしてそれはプラチナも同じである。
2人が完全に両想いになってしまう前に、なんとかアレクのプラチナへの意識をそらそうと、他のアレクを想う面々の間で硬い結託がなされたのである。
そのせいでプラチナは邪魔をされ、このところアレクとろくに話ができていない。
アレクと話ができないでいるだけでもプラチナにとっては不機嫌な要素に変わりはないのに、自分が話ができないにも関わらず、他の面々がアレクの気を引くためアレクと仲良く話をしているであろうことが予測できてより不機嫌なのである。
おかげでここのところ、この力が入りすぎてペンを折りまくるのは勿論、他にも色々なものにあたったり、興味がなくて作戦に参加していないジェイドは八つ当たりを何度もされるという損な役回りなのである。
いい加減にしてくれないと自分の身がもたないと、ジェイドも己の保身に危機を感じていた。
「まぁ、首謀者は坊ちゃんでしょうけど・・・まぁ、坊ちゃんの場合は他と違って『親心』でしょうけど」
「お前のモノだろうが。なんとかしろ」
「そうは言われましてもね・・・私だって坊ちゃんがそのせいで構ってくれなくて不満なんですよ」
「お前の事情はしらん」
「・・・あのですね」
「そんなことはどうでもいいから、とにかくなんとかしろ」
あまりにも自分勝手な発言に多少顔を引きつらせるジェイドだったが、ここで反論してまた八つ当たりされるのはたまったものじゃないとじっと耐えた。
「プラチナ!」
ノックもせずに元気な声の主が部屋に入ってきた。
この城でプラチナの執務室や自室にノックもなしで入ってくるような人物は1人しかいない。
それにこの声をプラチナが聞き間違えることなどなかった。
「兄上!」
先程までの不機嫌さがまるで嘘のように徐々に薄れ、すぐには解らないがプラチナの顔は緩んでいる。
おそらく心の中は現在薔薇色だろうとジェイドは安堵にも似た溜息をついた。
八つ当たりされる可能性が少しでも減ったのだから。
「なんか最近話できてないよな」
「そうだな・・・」
それは周りの連中が邪魔をしているせいなのだが、それを言うくらいならもっと別のことを話たいと思ったプラチナはあえて口にしなかった。
そして今は執務中だということも、これまた八つ当たりされたくないという思いから、ジェイドは突っ込みをいれようとしなかった。
むしろお邪魔だろうとその場から退散しようとした矢先・・・
「アレク様!こんなところにいらっしゃたんですか!!」
あちらこちら探し回っていたのであろう、息を切らして汗までかいて、何気に「こんなところ」を強調してサフィルスが現れた。
その登場にプラチナは苦虫を噛み殺したような表情をし、ジェイドは額に手を当てて溜息をついている。
「あれ?サフィ、どうしたの?」
「ケーキが焼けましたから、そろそろお茶にしようと思いまして」
「えっ、ケーキ?!」
サフィルスのその言葉にまだまだお子様思考のアレクは一気に瞳を輝かせる。
「おーい。準備できたぞ〜」
「アレクー、行くのデス〜〜」
どこから現れたのか次々と出てきて、アレクをこの場から連れていこうとしている。
「あっ、ちょっと待って。プラチナも・・」
「プラチナ様は執務がお忙しいでしょうから」
「そうやで〜。邪魔したらあかん」
そう言いつつ嬉々としてアレク本人が気が付かないでいるが、アレクを強制連行していく中で、アレクを連れ去っていくその全員が振り返り、まるで勝ち誇ったかのような表情でプラチナを一瞬だけ見た。
折角のアレクとの久しぶりの会話を邪魔されただけでなく、その表情にプラチナはますます怒りを増大させる。
「・・・サフィルス・・・・・俺の存在なんて眼中に入れてなかったな」
そしてもう1人、ジェイドも自分に対してのあまりなサフィルスの態度に、「今晩あたりどうしてくれよう」などと考えていたりもした。
「プラチナ様・・・とりあえずどうしてくれましょうか?」
「・・・いっそ亡き者にするか」
「サフィルス以外ならOKです」
「そうか・・・なら、しばらく長期休暇をやるから、どこかにサフィルスと勝手に消えてろ」
「ある意味ありがたい申し出、ある意味感謝します」
「・・・何物騒で微妙な会話してるんだい」
黒い空気が充満する室内に、呆れながらも臆せずに入ってきたのはベリルだった。
ちなみに彼はアレクとプラチナの仲を邪魔するメンバーの中には入っていない。
「他にも色々やりようはあると思うけど?」
その発言もある意味では怖いと思うのだが、当人達は別に気にしてなかった。
「他にもとは?」
「そうだね・・・例えば、君もアレクと長期休暇をとってしばらくどこかにばっくれるとか。その間の仕事を今回の件を仕掛けた連中に押し付けるとか」
「・・・なるほど」
ジェイドの発言にプラチナの瞳が光り輝いた。
それなら自分もアレクと時間を取り戻せるうえ、アレクと会話さえろくにさせなかった者達にも仕返しができるという寸法だ。
「それにアレクがちゃんと信じるように本当のことを話すのも良いね」
「この城・・・いや、奈落で1番恐いのは、本気で怒った時のアレク様ですからね」
確かにそれはいいお灸になるとジェイドも思っていた。
実際に様々な理由でアレクを本気で怒らせたいと思うものなど1人もいないのだ。
「それじゃあ、僕は長期休暇の件をアレクに言っておくよ。サフィルス達も僕ならそんなに警戒しないだろうし」
「頼むぞ」
プラチナの言葉に応えるようにひらひら手を振りながら、にやりと明らかに企みを持った笑みを浮かべて出て行くベリルに対し、ジェイドは多少恐ろしくなってしまった。
見てみればプラチナも似たような笑みを浮かべていて、「さすが生みの親」とベリルの消えたその場を見つめながら呆然と思ったという。
「さてと・・・ジェイド」
突然かけられた180度変わって怖いくらいに上機嫌な声にびくっとジェイドは反応した。
「な、なんでしょうか?」
自分にどんな白羽の矢が立つのかと思うと、心配でジェイドの声は上擦っていた。
「とりあえず、俺はこれから兄上と休日を過ごすプランをたてなくてはならないから、ここにある書類はお前がやっておけ」
「・・・・・これを、全部ですか?」
机の上にある機嫌が悪かったがだめに手付かず状態にあった膨大な書類をみてジェイドは顔を引きつらせる。
「安心しろ。俺がしなくてはいけないものは一応片付けてある。それにこれくらいはましだぞ。なにせ・・・」
そこまで言って一時言葉を切ると、口許をつり上げるとその綺麗な顔が性質の悪い何かを考えているような表情になる。
「俺と兄上の仲をを邪魔した他の連中には・・・俺と兄上が長期休暇を取っている間、馬車馬以上に働いてもらうからな」
おそらくこの場にその張本人達がいれば、土下座でもなんでもして誤ったであろうと予測できるような黒いオーラを背負ったプラチナの笑みを見て、ジェイドは今この場から逃げてしまいたいような心境になる。
それと同時に「どこかで育て方を間違えたか?」と元教育係らしい疑問を己にぶつけた。
「そういうわけだからジェイド。あとは頼むぞ」
「・・・解りました」
嬉々として去っていく主人の後姿を見ながら、ジェイドはこうなる原因になった面面々を恨みながらもほんの少しだけ同情をし、泣きたい気持ちにも少しだけなった。
後日、本当に馬車馬以上に働かされ疲弊しまくったうえ、真相を知らされそれを信じたアレクの怒りをかった面々は当分の間立ち直れないほどのダメージをこうむったという。
あとがき
100Hitゲットされたお松様に捧げます。
しかし長く待たせたうえ(ゆうに半年以上[汗])、こんな内容で申し訳ありません。
アレクの出番がほとんどないですけど・・・(ちょっと心残り)
とりあえずリク条件は満たせているかどうかのご判断はお任せします。
本当にこんなのしか書けないくて申し訳ありません!m(_ _;)m
そしてベリルの役回りがああなのは、ベリルはうちのサイトではどうあってもアレクとプラチナの良いお父さんですので。
そしてジェイドをなんとなく酷い扱いにしてすいません。
ちなみに彼はプラチナ&アレクの長期休暇が終わった後、しっかりとサフィルスと一緒に長期休暇もらってます。
本当にろくでもない駄文で申し訳ありませんでしたm(_ _)m