お料理教室
「わわっ!アクアさん、それ塩です!お砂糖じゃありません」
ありがちな間違いをおかしてしまったアクアを、マリンはぎりぎりで止めることができた。
あと少しでも遅かったら、甘いはずのお菓子は塩の味でしょっぱくなっていたことだろう。
「・・・同じようにしろいから・・・見わけがつかなかったわ」
「そ、そうですか?・・・後でラベルでも貼っておきましょうか?」
「そうしてくれると・・・助かるわ」
昨日、大量のお菓子を作ったマリンとプルートは各所にそれを配りにいった。
魔法院にも当然それを持っていったのだが、その時にアクアにある頼みごとをされ、昨日に引き続き朝から奮闘しているのだった。
相違点はマリンと一緒に奮闘しているのが、プルートからアクアに入れ替わっているということだけ。
その頼みというのが・・・・・
『・・・アークに“美味しい”と言わせたい』
このアクアの一言からだった。
昨日持っていったお菓子が配った各所でとても評判で、魔法院でもかなり誉められたものだった。
料理をするのは好きだが、味に関しては誉められたことがない。
だから絶対に「美味しい」と言われてみたいと思っている。
特にあの毒舌な恋人に、なにがあっても自分の料理を「美味しい」と言わせたい、言って欲しい。
そんなことを常日頃から考えていたアクアの元にマリン達がお菓子を持ってきた。
そして、白羽の矢というものがマリンにたったのだ。
以前、日本料理もどきを作り、葵に絶賛されたくらい料理が上手なマリンにどうすれば「美味しい」と言われるものが作れるのかと、その方法を教えてもらおうと思ったのだ。
そして現在、マリンはアクアと一緒にケーキを作りつつ、作り方をアクアに教えている最中だった。
「良いですか?アクアさん。お料理に魔法は使っちゃいけません」
「・・・なんで?そのほうが楽なのに・・」
確かにアクアの魔法の腕は凄いのだが、魔法は本来料理に使うものではない。
それに、以前目玉焼きを作ろうとした時にも、魔法を使用して焼こうとしたため、大爆発を起こした経験があるのだ。
「また、ああいうことになったらいけませんでしょ?」
「・・・・・・それもそうね」
さすがに煙にまかれ、煤だらけになり、口の中を苦くした経験が堪えていたのか素直に頷いた。
「それに、料理は食べてくれる人のために気持ちをこめて作るものです。楽に終わってはそれができません」
「そう?」
「そうなんです!料理を美味しくする1番の調味料は、食べてくれる人が幸せな気持ちになってくれるよう願いながら作ることです」
力説するマリンの言葉をアクアは大人しく聞いている。
「アクアさんも、アークさんに自分の作ったものを食べて貰って、幸せな気持ちになってほしいでしょう?」
マリンのその言葉を聞いてアクアはふと思い浮かべる。
自分の作った料理を食べて「美味しい」と言いながら幸せそうな表情をするアーク。
「・・・・・うん」
なかなか素直じゃない恋人だからこそ、素直にそういった言葉と表情をさせてみたいを思う。
なによりもそう言った恋人の反応は自分が嬉しいから。
「そうですよね♪」
アクアの返事にぱああっと表情を明るくさせるマリン。
「・・・経験あるみたいなせりふ」
アクアが少し頬か赤くしながら確信を持って言ったであろう言葉に、マリンまでもが頬を赤に染め上げた。
「ふ〜〜ん・・・・・・プルートにいわれたこと・・あるんだ」
さらにその言葉で頬をますます赤くするマリンをアクアが無意識的にからかう時間がしばらく続いたという。
差し出された1つのケーキを前に、アークは少し緊張していた。
無言のアクアが「食べろ」と言っているのがその瞳で解る。
食べなければ「絶対にゆるさない」と語っているのも読み取れる。
味にこだわって食べず恋人の怒りを買うか、それとも食べて恋人に満足してもらい円満に終わらせるか。
当然のことながら、アークは後者を選んだ。
そもそもアークにとってはアクアが作ったということに意義があるのであって、味はまた別の問題なのだ。
味を誉めたことは1度もないが、やはり恋人が自分のために料理を作ってくれるのは嬉しいのだ。
それも性格上言った事はないが。
もとより差し出された時点で食べるのだが、今回はどうもいつもよりも相手の「食べろ」という感情移入が大きいようで、それが緊張している理由だった。
「・・・・・美味い」
口に一口運んだ瞬間にまともに驚いた。
お世辞抜きに今回は本当に美味しいくて、少し面食らってしまった。
「・・・・・・これ、本当にお前が作ったのか?」
疑ってみれば、少し不機嫌そうな表情を作った。
「しつれいね。・・・アークに“美味しい”っていってほしくて・・・・・がんばったのに」
頬を膨らませながら言われた言葉に、アークは一瞬思考が停止してしまった。
無意識的に嬉しいと深く感じたために。
「・・・じゃあ、また俺に“美味い”って言わせられるようがんばれよ」
微笑んでぽんぽんとアークが頭を撫でてやるとアクアが一言。
「言いかたがえらそーー。おねがいしてるんだから・・・もうすこし言いかたがるとおもう」
「お前な・・・・・」
「はい、言いなおし」
頑として譲らないアクアに、アークは諦めたように溜息をついた。
「・・・・・言わせてください」
「よしっ」
アークのその一言にアクアは満足そうに微笑んだ。
「プルート様〜〜ケーキ持ってきましたぁ」
今日も上機嫌に扉を開けて室内に入ってきた恋人の来訪に、プルートは仕事の手を休めた。
「ありがとうございます、マリンさん」
「あっ、お仕事ちゅでした?」
「いえ、ちょうど休憩しようと思っていたところですから」
ほのぼのとした空気が流れる中、マリンはテーブルの上に持ってきたケーキを置き、紅茶を淹れる準備を着々とこなす。
プルートも手伝おうとしたが、マリンに軽く待つように言われ、大人しくマリンの姿を微笑みながら待っていた。
「今朝から奮闘していたみたいですね」
「はい。でも、アクアさん飲み込みが早かったですよ・・・っと」
2つのカップに紅茶を注いぎ、2人そろってケーキを食べ始める。
「美味しいですね」
「プルート様にそう言ってもらえて良かったです」
プルートのその一言に本当に嬉しそうな笑顔をマリンは浮かべた。
アクアも今ごろアークにこの言葉を言ってもらえているのだろうと思うと、まるで自分のことのようにさらに嬉しくなった。
「・・・・・・そういえば、マリンさん。この紅茶、今まで飲んだことないですけど・・・葉はどうしたんですか?」
「それはさっきシリウス様に・・・」
ぴしっと、マリンのその言葉にプルートの周りの空気が固まった。
「し、シリウス殿・・・が、どうしたんですか?」
「さっきここにくる前に会いまして、ケーキを見て“欲しい”と言われたので、お裾分けしたらお礼にとくれたんです」
シリウスは、現在自分がマリンと晴れて恋人同士になれた後もマリンを狙っている筆頭というようにプルートは認識していた。
「そうですか・・・シリウス殿が」
プルートの周りの空気の変化には気づかず、マリンはいつもの笑顔で返事をする。
とりあえず、この後猛スピードで明日の分の仕事まで終わらせたプルートの明日の予定は決まったようだ・・・・・・・・
あとがき
ファンタスティックフォーチュン2の初SSはプルート×マリン+アーク×アクアでした。
これはマリン編のプルートED後の話ということで多少ネタバレしてるかもしれません。(マリン編のアクアイベントに関しても少し)
私はまだアクアでプレイしてないので(したいけど)彼女の性格が完全につかめてないので、どうかご容赦くださいm(_ _)m
ただ、私が書くアクアは相手がアークかユニシスで多少性格が変わりますが、マリンは誰に対しても天然推奨です。
なので、マリンの相手は本当に大変です。(今回のラストも)
アーク×アクア部分までいい感じ(?)だったのに、プルート×マリンでギャグに終わって申し訳ございません。
ちなみにこれは、「Angel's Feather」で相互リンクさせて頂いている市瀬様がアーク×アクアがお好きということなので、市瀬様に(迷惑にも)勝手に捧げさせて頂きます。