Return Child





とんでもないことになってしまった・・・と、しかけた張本人以外のその場にいる誰もが思った。
金の精霊のいる廃校の入り口付近で現れた、寝屋川(幽霊)との戦いが終わり、多少の話を終えたあと、大人しく成仏(?)してくれるものだと思っていた。
しかし、まさかこんなことを仕掛けてくるとは誰も思わなかった。
「消えてあげるんだから、これくらいはさせてよね」
「・・・どういう理屈ですか?!」
「大丈夫よ。明日の朝には元に戻ってるから」
「今すぐ戻す方法はないのかよ?!」
「そうね〜〜〜」
明らかに怒り心頭の状態にある櫂と来栖の様子に寝屋川は少し考える。
「あっ!誰かがキスしたらすぐに戻るわよ」
「・・・・・キス?!」
寝屋川のその言葉に純粋な杏里は顔を真っ赤にして呆然としている。
「・・・なんでキスなんですか?」
「私が面白そうだと思うから」
「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」
その呆れて物がいえない理由に一同は眩暈がした。
「それじゃあ〜ね〜」
「あっ、こらっ」
全員の静止空しく、寝屋川はあっさりと成仏(?)してしまった。
あとに残された一同は呆然とする。
「・・・・・・とりあえず、今日の探索は打ち切りですね」
「・・・そうだな」
どこか遠い目をしながらセナとシオンの2人はそう告げた。
他の面々もそれが妥当だろうと、首を静かに縦に振った。
「みんな〜〜」
今にも泣き出してしまうのでは、と思うくらいの弱々しい声に、全員が一瞬動揺した。
「・・・俺、どうなるんだ?」
全員がその声に反応し、ゆっくりと振り返った先には、瞳を潤ませた子供の姿に戻ってしまった翔がいた。








とりあえず一同は宿泊先に帰ってきた。
いくら最長でも明日の朝には戻るといっても、服のサイズが合ってないことには元に戻るまで動きにくいということで、シオンが子供用の服を調達してきた。
そしてその服を翔が着ると、誰がどう見てもただの子供に見えた。
「うわっ〜〜・・・翔くん、可愛い〜」
「・・・杏里、誉め言葉じゃない」
落ち込む翔の姿を見て、杏里は何度も「ごめんね」と誤る。
ただその落ち込む姿は、子供の姿のせいでいつもの数倍可愛さが増していて、1部の人間がかなり頬を緩ませているようだった。
「あ〜、早く戻りたい・・・今すぐ戻りたい・・・」
「それなら誰かにキスしてもらうしかないだろう?」
「・・・・・セナ、真顔で言うな」
しかしセナの言葉にまともに反応した者が2名ほどいた。
「な〜、羽村・・・」
なにやら意味深な笑みを浮かべて来栖が翔に近付く。
「早く戻りたいんだよな〜?だったらキスするしかないよな?」
「ちょっとまってください、逢坂さん」
翔に詰め寄る来栖の肩をがしっと掴んだ櫂は、どこか不穏な空気を纏っているようだった。
それに対し、来栖はちっと舌打ちをする。
「・・・なんだよ?御園生」
「なんだじゃありませんよ!翔から離れてください!!それと、自分が翔にキスするつもりですね・・・?」
「悪いか?俺は早く戻してやろうと・・・」
「よくそんな嘘が言えるな・・・・・」
「・・・なんか言ったか?」
「い〜え、何も」
とぼけてみせる櫂だったが、すでに2人の間にはいつものワンパターンな状況が作り出されていた。
「いいですか?あれが『醜い争い』というものですよ」
「へ〜そうなのか〜」
「勉強になるね、翔くん」
「・・・お前たち」
おそらく意図的にボケているのであろうセナと、素でボケているのであろう翔と杏里の2人に、シオンはただ1人この状況を憂いて遠い目をした。



「それじゃあ、翔に決めてもらいましょう」
櫂と来栖が『醜い争い』を続ける中、いきなり真顔に戻ったセナのその一言に、全員がぴたりと動きを止める。
もちろん、櫂と来栖も即座に反応している。
「決めるって?」
「翔は明日の朝まで待てないのでしょう?でしたら、誰かにキスしてもらうしかないでしょう?」
「えっぇぇ〜〜!」
まさかセナに言われるとは思っていなかった翔は顔を真っ赤にしながら、動揺の声をあげる。
そして別の方では、セナに対してガッツポーズまでして「良く言った」と褒め称える某2名がいた。
「それしかないのですから仕方ないでしょう?それなら、せめて翔が自分でしてもいい相手を決めるんですよ」
「そっ、そんなこといわれても・・・」
未だ顔を真っ赤にしたままの状態で、辺りにいるメンバーを見渡しながらどうするべきかと悩む。
「翔が1番、遣り易いと思う相手で良いんですよ」
優しく微笑むセナの言葉を聞きながら、しばらく考えて翔はおずおずと口を開く。
「じゃあ、櫂」
翔からのご指名を受けた櫂の頬は自然に緩み、その周り一体に明るい色の花が咲き誇っているように見えた。
しかし、そこで黙っていない人物が1人いた。
「ちょっと待て!羽村、どうしてあいつなんだよ?」
「大上際が悪いですね、逢坂さん」
「お前は黙ってろ!!」
勝ち誇ったように笑う櫂を気に入らないと思いつつ、来栖は決断を下した翔に詰め寄る。
すると翔は子供特有の大きくなって可愛らしさの増した瞳をきょとんとさせながら、あっけらかんと答える。
「えっ?だって、兄弟だし・・・」
「キスに兄弟は関係ないだろう?!」
「う〜ん・・・そうかもしれないけど。それ以外にも、櫂とは1度前にしたことあるからしやすいかなっ、て」
翔のその衝撃の一言で、来栖だけでなく、当の言った翔と櫂以外の全員がぴしりっと固まった。
そして暫く経った後、いち早く正気に戻った、戻らざるを得なかった来栖が拳を震わせ、櫂に怒りの罵声を浴びせる。
「御園生!どういうことだ?!!」
「あっ・・・でもその理屈なら、逢坂先輩ともしたことあるんだった」
また櫂と来栖の口論になると思いきや、翔が今思い出して言ったその一言に、今度は翔と来栖以外が固まってしまった。
「・・・逢坂さんこそ・・・・・どういうことですか?」
櫂は顔を引きつらせながら、その表情は笑顔なのだが、どう考えても眼が笑ってないし、背後に黒いオーラがでている。
「クリストファー様・・・いつの間に・・・・・」
そしてその事実を知らなかったことに保護者兼従者として多少のショックを覚えているシオンがいた。
「ん〜、でも1番外見で遣り易いのは杏里かも。女の子に見えるし」
「翔くん、僕男の子だよ・・・・・」
そう言って反論しつつも、頬を染めて杏里はどこか嬉しそうだった。
そんな杏里の肩を背後からがしっと掴む黒いオーラを発する人物たちがいた。
「千倉・・・・・」
「まさか、君までってことはないよね?」
櫂と来栖のその尋常ならない雰囲気に多少怯えながらも、杏里はやはりここは譲れないと勇気を出す。
「だ、誰とするかは翔くんが決めることだし・・・。それに、僕だってやっぱり翔くんの事好きなんだから!」
杏里がはっきりと勢いの任せて言ったこの一言により、新たな波乱が起こったことはいうまでもなく、三つ巴にまで発展していた。



「・・・なあ、水落先生・・・・・」
「なんですか?翔」
「俺・・・やっぱり、朝までこの姿でいいや」
「・・・・・それが賢明でしょうね」
目の前で繰り広げられる、本日何度目かの『醜い争い』・・・しかも、さらに人数が増えたそれを翔とセナは見守っていた。
「翔、こんな所にいて巻き添え食らってもなんですし、外出でもしましょうか?」
「えっ?でも、俺こんな体だし・・・」
「構いませんよ。それに子供の姿だと色々得だと思いますよ」
「・・・そうかな?」
「ええっ。実際に行動してみれば解ります」
「・・・じゃあ、行く」
そう行ってにっこり微笑む翔の今の小さな子供の手を握り締め、セナは翔と2人で未だ争う3名と、呆然としているシオンに気づかれることなく、街に出て行ってしまった。





結局けんかは朝まで続き、一同はセナにしてやられたと遅くながらも気がつき、悔しさのあまり櫂と来栖はシオンに八つ当たりしていた。
セナはというと、役得とでもいうようにその日はかなりの上機嫌だった。
事情がさっぱり飲み込めていないのは、無事元の姿に戻った翔だけだった。






あとがき

久しぶりにしてまた訳の解らないギャグの塊を書いてしまいました。
シリアスな部分なのに、あのシーンを無理やりギャグに持っていってしまいました。
寝屋川先生ごめんなさい・・・(結構あの性格好きですけど;)
翔のお子様部分をあまり強調できなかったのが悔やまれます。
どうもウチにサイトでは櫂と来栖は仲が悪いようです・・・(^^;
んでもって、セナは結構やり手というか、他よりも1枚上手。
シオンは哀れなキャラになってしまってすいません;
そして翔と杏里は完璧な天然です・・・(^^;






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