酒は飲んでも・・・・・・



あれは5年前・・・
そう、アイスがちょうど10歳になったお祝いの誕生式典の時・・・
あの時、うかつにもアイスの秘めた特性(?)を
目覚めさせてしまった者・・・
それをより促してしまった者・・・
総じて『被害者』とも呼べる彼らは語る・・・
あの日のことを・・・



奈落の第一王子にして唯一の王位継承者であるアイスリーズの誕生を祝う10回目の式典は10歳という節目もあり、例年より華やかに行われていた。
ただ、そんなこと祝われているはずの当の本人には同でも良いことで・・・
「・・・・・ひま〜〜〜だな」
人の波から隠れるように外れて段差のある場所に腰掛けて頬杖をついてアイスはふてくされている。
昨日は昨日でこの式典の準備のために、今日は今日で式典中の手伝いで、幼馴染たちは全員どこかにいってしまったため話をする相手も特にいない。
否、話をする相手ならいくらでもいる。
今日城に来ている貴族やその他関係者たち・・・
毎年のことでこちらから何もしなくても話しかけてくれることだろう。
が、アイスにはそれが鬱陶しくて仕方なかった。
毎年のことでパターンが知れているし。
というか、アイスは貴族とかそういう無意味に偉そうにしている奴らがあまり好きではなかった。
子供心に、特に何をしたわけでもないのに民に対してなんでああまで優越感に浸れているんだろうと、内心では思っていた。
元々、アイスの両親にしろ、その周り高官8人にしろ、気さくで本当に王族やそれに仕える高官なのかと疑うような(失礼)感じの者ばかり。
人の上に立つのにそれをあまり感じさせない。
それは周り、とりわけ民というものに対する思いやりなりがあるためだろうとアイスは思っている。
だから貴族というだけで民を見下している多くの貴族が許せない。
中にはそうでもないものがいることもアイスはきちんと知っているが。
しかし1番の原因は自分をよくも知らない、自分が知りもしない相手にお祝いを言われてもあまり嬉しくないということ。
アイスとしてはどちらかというと内輪だけで誕生日を祝って欲しいのだが、これの一応『王子』としての務めと、子供心に悟って諦め、妥協している。
「・・・父上と母上のところにいてもいいんだけど」
どうせ、どうなろうといちゃつく場面を見せられるんだし・・・と溜息をつく。
本当にお前は10歳なのか?と、誰かから突っ込みが入ってもおかしくない。
「ん?あれは・・・」
特にする事もないので、何か面白い事はないかと辺りを見渡しているとき、ふとアイスの目に止まったもの。
じーっとしばらくそちらを見つめていたかと思うと、アイスは立ち上がってそちらの方に歩き出した。


「ベリル・・・何してるんだ?」
「あれ?アイス、また今年もサボってるのかい?」
自分を笑顔で見下ろしてくる人物の言った言葉にアイスは多少むっとする。
「うるさい・・それに、お前に言われたくない」
ベリル達高官も挨拶回りや、なにやらで忙しいはずなのである。
なのに、今のこの状況はどう考えてもサボっているとしか思えない。
要するにお互い様なのだ。
「・・・・・・・・・」
「なんだい?」
「それ・・・・」
アイスが指差したのはベリルが持っているワインの入ったグラス。
というより、性格にはワインそのものを指したのだろう。
「ワインがどうかした?」
「・・・・・・くれ」
右手を差し出して堂々と言ってくる10歳児に多少面食らった『青の賢者』(元奈落王)だが、すぐに平静を取り戻す。
「あのね、アイス。お酒に興味持ってくれるのは僕としては嬉しいけど・・・君はまだ10歳なんだよ?それに、きみにお酒なんか飲ませたら、僕がプラチナとアレクにおこられるじゃないか」
「くれなきゃ、サボってること父上と母上に言いつけるぞ」
さすがにそれはそれでやばい。
お酒を飲ませてもそれがばれれば怒られる。
かといって、飲ませなければサボっている事がアイスの口からばれて怒られる。
普段の事ならあの2人に怒られても堪えないのだが、愛息子の事となると2人とも本気で恐い事は城中の誰もが知っている。

そして、ベリルの出した結論・・・
「・・・少しだけだよ」
「やった!」
こちらは飲ませたのがばれなければいいこと。
しかし、飲ませなければ確実にアイスの口から伝わる。
一杯くらいなら大丈夫だろう・・・そう思った・・
しかし・・・その考えが甘かったことをベリルは後に思い知ることになる。


「・・・・・・・・あい・・ス?」
「ん?」
「君・・・いった・・」
そう言いかけてベリルはテーブルにもたれる形で倒れ気を失ってしまった。
原因・・・飲みすぎ・・・・・・
あの後、酒があまりにおいしかったのかアイスは追加を要求。
さすがにこれ以上は駄目だといったが、脅され・・・
ワインだけでなく、他のアルコール度の高いものまで与えてしまった。
それを繰り返していくうち、いつの間にかベリルもつられて飲みつづけ・・・・・
何故か平然と飲みつづけているアイスの横でベリルが酔いつぶれた。
「なんだよ・・・ベリル〜〜」
ぺちぺちと頬を叩いても起きないのを確認すると、どうしようかと暫し迷ったあげく・・
「まあ、良いか」
あっさり過ぎるその台詞と酔いつぶれたベリルを残し、まったく酔った素振りなど見せないアイス(10歳)は次の酒を求めて消えていった。


第一の被害者:ベリル撃沈・・・


場所を変え、なるべく人がいない場所で今だあきもせず酒を飲んでいたアイスは大人達の中でも両親の次に見つかりたくなかった人物に見つかってしまった。
「あ、アイス様!!何してらっしゃるんですか?!!」
「げっ・・・サフィ!」
自分の教育係であるその人物に見つかってしまいアイスはどうしようかと悩む。
両親の傍にいる高官の中でも1番、言いつけそうな人物であり、しかも彼の息子にこのことが耳に入るとはっきり言ってもっと厄介なのである。
テールは説教が長い・・・・・
そして、悩んだ末アイスの出した結論・・・
「お前も飲め」
「そうじゃないでしょ!ああ、全くお酒なんか口にされて・・・とにか」
「母上にあることないこと吹き込むぞ!!」
アイスの早口の言葉にサフィルスの言葉がぴたりとやんだ。
そして、その時のサフィルスの頭の中というと・・・
『あ、あることないことって・・・なんでしょ・・?!アイス様には『あの能力』もあることだし大抵の事は解るでしょうし・・・でも、何?何ですか?!特に何もないはず・・・でも・・・ああ、ないことってのも気になるし・・・』
サフィルスが1人アイスの言葉で心の葛藤を行っている間に、当のアイスはさらに酒を飲んでいた。
「坊ちゃん・・・何そこで悶えてるんですか?」
はっと、後ろから聞こえた同僚の声にやっと我に帰るサフィルス。
「も、悶えてなんかいませんよ!」
「いや、でもねぇ・・・おや?アイス様、お酒飲んでらっしゃるんですか?」
「ジェイドも飲むか?」
「そうですね・・頂きましょうか」
ジェイドのその言葉にサフィルスは本気で慌てた。
「ちょ、ジェイド!アイス様が飲むの止めないと」
「良いじゃないですか、こういうのは将来の良い勉強になりますし」
「どんな勉強ですか?!!」
「まあまあ、あなたも飲んではどうですか?」
「断ります!」
きっぱりと言い切り、ジェイドを無視するようにサフィルスはアイスに近づくとグラスを取り上げようとする。
「・・・逃げるんですか?」
ぴたっと、後ろから突き刺さったジェイドのその言葉に反応してっサフィルスは機械音のような効果音がする様に首を回すと顔を引きつらせながらジェイドを見た。
「私が・・・逃げる?」
「ええ。酔うのが恐くてお酒飲みたくないんでしょ?」
「そ、そんなことありません!!」
そして・・・どういうわけかむきになったサフィルスとそれをからかうジェイドの2人は、アイスのことを忘れいつの間にか競うように酒を飲み始めていた。
しかし、2人とも限界がきてもアイスが平然と隣で飲んでいるため、「子供に負けてたまるか」(酔いが廻って思考能力低下)という勢いでさらに飲みつづけ・・・
その3分後に先程のベリルと同じ状態になり倒れた・・・


第二の被害者:サフィルス=ホーソン
第三の被害者:ジェイド=ディヴィウス
共に撃沈・・・・・


さらに場所を移動したアイスはジルを発見する。
近くにはシエナもいた。
「お父様、お父様。はい、これ♪」
「すまん・・・・・」
父親にべったりとくっついて料理を盛り付けた皿を渡す娘。
それを普通のものなら無表情と思うだろうが、親しいものには嬉しそうな様子が手にとるようにわかる父親。
言い換えれば、超ファザコンな娘と、城の三大親ばかの1人、である。
「シエナ〜〜〜」
「あっ!王子☆」
「アイス、こんなところをうろついていて良いのか?」
「そう言う2人は?」
問われて逆に問い返してくるアイスにこの親子は先の質問など忘れたように答える。
「今は、きゅ〜け〜ちゅ〜だから☆お父様とお食事中」
「そういうことだ」
「ふ〜〜ん・・・ん?」
呆れたような生返事をするアイスの目にとまったのは今まで出会わなかったラベルのお酒だった。
「よいっしょ」
「・・・アイス何をするつもりだ?」
「ん?飲む」
「馬鹿な真似はよせ」
「王子〜〜☆それ飲みたいの?」
そう言いながら、コルクを引き抜き、コップに注ぐ愛娘を見てジルは慌てた。
「シエナ・・・それは!」
「えっ?お父様ものみた・・・」
ばしゃあっと、シエナの手を離れたまだ大量にお酒が入っていたビンは宙を舞い、ジルの頭上に到達し、ジルはその全身にお酒を浴び、その瞬間倒れた。
「お、お父様!!」
珍しく慌てるシエナを倒れたジルを横目に、「何が起こったんだ?」と思いながら、アイスは1人呑気にジルを一撃で倒したお酒を飲んでいた。
そして、床に転がるその酒のビンのラベルには・・・・・
アルコール度:95
と、書かれていた。
そんなものが本当に存在するのか?!
というか、誰がこんなものをここに置いていたのか?
それ以上に、こんなものを式典に出すな!
ともかく・・・・・


第四の被害者:ジル=ヒイラギ撃沈・・・・・


「ロード〜〜」
「ん?なんだ、アイスか・・・今、俺疲れ」
他の者達と比べ物にならないくらい疲れた様子のロードの口が開いた瞬間を見計らい、何かをその口に流し込む。
それはやがて、食堂を通過し、胃を通過し・・・
そして、ジルと同じようにロードは倒れた。
「やっぱこうなるのか・・・どうしてだろ?こんなにおいしいのに・・・」
そう言って、アイスが今飲んでいる酒はロードに飲ませたものと同じもので、付け加えて言うならそれはジルを撃沈させたものと同じものだった・・・


第五の被害者:ロード=クロサイト早々に撃沈・・・


「君(あなた)達の息子(ご子息)はどうなってるんだ(ですか)?」
式典を終えて数時間後のこと、王と王妃の部屋に今日の被害者の抗議の声が木霊した。
しかし、言われた当の2人は何のことか解らずそろってきょとんとしている。
「なんのこと?」
「そういえば・・・お前達、式典の最中に倒れたらしいな?」
「あれは・・・君達の息子がお酒・・」
そこまで言ってベリルは我に帰り、口を押さえたがとき既に遅く。
しっかりと『お酒』という単語を聞き取った2人の表情は先程までとはうって変わって完全に「怒っています」と主張するように据わっていた。
「ベリル・・・アイスにお酒のませたの?」
「まさか・・・お前達もか?」
「わ、私は違いますよ!」
「そ、そうですよ」
「そうでもないですよ」
必死になって否定しようとするサフィルスとジェイドに絶望を告げるような恐怖の声が扉の外から聞こえた。
「失礼いたします。陛下、王妃様」
現れたのはやはり、城の中で知らぬ者はいないほどのプラチナ・アレク崇敬病及び10歳にして既に究極の精神破壊兵器とまで言われる毒舌家、ウォールであった。
「話によりますと、ジェイドさんは『お酒を飲むのは良い勉強になる』と仰ったそうです」
「ほう・・・」
「い・・言ってませんよ!」
嘘である。
「さらに、サフィルスさんはジェイドさんの挑発に乗ってお酒を飲み、アイス様がお酒を飲むのを放っておいたらしいです」
「あ、あれはジェイドが・・・」
「解った・・・」
慌てるサフィルスや他の2人の言葉をさえぎってプラチナの凍るような声が響いた。
「報告ありがとう。ウォール」
「いいえ、当然のことをしたまでですから。それでは俺はまた母さんの看病をしながら説教もしなければならないので失礼させていただきます」
そして再び開かれた扉はまた静かに閉まった。


その後、王と王妃の部屋で起こった出来事を誰も知る術はない。



後日、アイスは両親にしっかり怒られた。
しかし、酒の美味しさを知ってしまったアイスは懲りるわけもなく、スノウの協力などで何とか週3回以上は酒を飲みつづけていた。
ジルはシエナの献身的な看病(シエナ珍しい半泣き)で何とか復活し、ロードはというと、ウォールに看病されたにもかかわらず、何故か逆にやつれている様子だったと言う・・・




後に、2度と近くに酒のあるアイスに近づくものかと固く誓う5名がいたという。







実は12月24日はアイスとアクラの誕生日で何かアップしたいなと思っていたのですが・・・・・
その結果がこれです。
アクラ出てきてないし・・・・・・
子供よりも親の出番が多いような・・・(?)
とりあえず、誕生式典という名目で、いかにアイスが酒に関して強い(というか強すぎる)のを知って頂きたくて書いたもの・・・になってしまいました(汗)
アルコール度95の酒なんてあるのでしょうか・・・
私はお酒はだめですから良く解らないんです。
「良く解らないものを書くな」と妹に言われましたが・・・
それにしても・・・ウォール最後に大(?)活躍だな・・・


BACK