TERROR OF SWEET 2


5月5日・子供の日は、アイスにとって年間行事ワースト1にランクされていた。
それは単に、彼の心底大嫌いなあんこの入った柏餅を無理矢理食べさせられる(られそうになる)ためである。
そして、それ以外にもワースト3として君臨するのが、10月31日・ハロウィン。
お菓子を貰い歩きに行く(と、ここでは解釈されている)日など、甘いもの嫌いなアイスにとって面白くも何ともない日である。
そして、ワースト1とワースト3に挟まれる形で存在するワースト2・・・
これこそが今日この日、2月14日・バレンタインデーである。



自分の部屋のベッドで顔色を少し悪くさせながら、アイスは静かに眠っていた。
ぐったりと、まるで病人のような様子で時折溜息をついてはどこか落ち着かないように、身体の体勢を変える。
「・・・空気が甘い」
ぼそりと呟いたその言葉は誰もいない室内に空しくその言葉は響いて消えた。
明日はバレンタインデー。
毎年の事ながら、このアイスにとっては迷惑極まりない行事の1週間前からは城の厨房の空く時間を見計らっては、城中の女性という女性(一部男有り)が
立ち代り、入れ代わりに来るバレンタインに向け各々のチョコレート作りに専念している。
しかも、そこからは恐ろしい一種の執念というものが感じ取れて恐い・・・
こういうときの女性はとにかく敵に回すべきではないということをアイスは本能的に察しているため何もいえない。
第一、父王公認で行われている彼女達のこの行為を止められるわけがない。
もっとも、あの父親は単純に母親からのチョコレートが欲しいから、他の者だけ駄目だと言う訳にはいかないからいっていることは息子として良く解っている。
それに何より、自分の幼馴染の中にいる少女2人もそれに参加しているので止められない。
普段から感情豊かで、行事事が大好きなシエナはもちろん、シャルトもバレンタインはかなり楽しみにしている。
それを止めるほど薄情には出来ていない。
それに、2人も母親も自分の分はチョコレートはもちろん、お菓子類ではない別のものを毎年用意してくれている。
甘いものが嫌いな自分に対する配慮にアイスは少し嬉しかった。

「でも、この匂いだけはどうにか・・・できないかな」
城中に充満したチョコレートの匂いは嫌でもアイスの頭痛の種だ。
当日前1週間・・・
それも日に日に強くなっていくその匂いに耐えられなくなり、それと前後して寝込むのも毎年のことだった。
そしてその匂いにいい加減うんざりしながら、アイスは夢の中へと逃げた。



どうんっ!!
あまりに大きな音にアイスは目を覚まし、反射的に羽毛の掛け布団を払いのけて起き上がった。
何か、とてつもなく嫌な音がしたきがした。
寝つきが良く、1度寝たら決めた時間まで起きない自分の睡眠を中断させるほどの鈍くて大きな音。
「・・・本当、嫌な音」
今だ充満している・・・否、眠る前よりもよりいっそう酷くなっている匂いに頭を抱えながら、アイスは思い足取りで自室を後にした。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・はっは・・やっちゃった」
ぺろりと舌を出す仕草が可愛らしくも思えるが、今そんなことを思う余裕はなかった。
はでに吹っ飛んだのは、厨房の調理器具。
ふっ飛ばした犯人は、この城で破壊魔として名高い姫君だった。
「王女凄い☆」
「そ、そう言う・・場合では、ない・・ので、は?」
ぽかんと口を開けて驚いた表情ではあるがどこか楽しそうなシエナに対して、おろおろと事態の深刻さを理解しきっているシャルト。
そして、どうしようかと冷や汗を流しながらきょろきょろとする当事者のアクラ。
「あああああ〜〜〜!!なんですか、これは〜〜〜〜?!」
そこに最初に到着した・・・してしまったのはやはりというかテールだった。
厨房のあまりの悲惨さに、第一声を張り上げた後は言葉がない。
それから順にブリック、ウォールと現れる。
「うわ・・・なんやこれ?」
「何があったのですか?」
「うんとね、王女が吹っ飛ばしたの?」
テールとブリックは目を丸くさせてアクラの方を見て、数秒後に上手い具合にはもらせてこう言った。
「「攻撃魔法つかったん(ですか)?!」」
「使ってないわよ!!」
「じゃあ、どうして・・・」
「・・・チョコ、溶かしてたら・・・こうなっただけよ」
何かをふっきったように堂々とアクラは2人の質問に答えた。
「と、溶かしてただけで・・・こないに、なるもん?」
「なったんだから、仕方ないでしょう?!」
既に逆ギレでの状態になり、アクラは自分がしでかしたことなどすっかり忘れ、ブリックにつかかっていった。
「いや、しかし・・やな」
「アクラ様がそう仰るんだからそうなんですよ」
反論しようとしたブリックの後ろから間髪いれずにしたウォールの声で辺りの空気が氷点下まで低下した。
それに伴って、ブリックはこのことを有耶無耶どころか寧ろ納得しなければいけなくなった。
「ああ・・・こんなにしてどうするんですか・・?」
「・・・いや、確かに作り直すのに困るけど」
「「まだつくるつもりなん(ですか)?!」」
アクラの反省していないどころか、驚くことにこの悲惨な状況を作っておきながらまだ続ける気満々の様子にブテールとブリックの声は再びはもった。

ちなみに、シャルトとシエナは既に作り終えているので念のため。

「よし、母上から瞬間修復のアイテム貰って」
アクラが意気込んだその瞬間、ぞくりとその場にいる全員の背中を悪寒のようなものが駆け抜けた。
そして恐る恐る、黒くなった厨房の変形した扉部分を見てみると、そこにはもの凄い形相をしたアイスがたっていた。
「あ、アイス様・・・」
部屋で寝ているはずなのに何故ここにと聞こうとしたが、その言葉はテールの喉の奥に押し込まれた。
アイスの尋常でないその様子から本気で起こっていることが解ったのだ。
そして、本気で起こったアイスはウォール以上に恐ろしい・・・

「お前ら・・・・・」
自然、その言葉にびくっと反応し、恐怖にかられながらも次の言葉を望まないが待つ。
「気分悪いんだから、静かに寝かせろ〜〜〜!!」

この日、1番の災害はアクラの厨房ふっとばし事件ではなくアイスの魔法による一撃だったという・・・



この日、下手に動いたことと、翌日のバレンタイン本番もあり、アイスの体調は1週間ほど回復しなかった。



あとがき
また、訳の解らないものを仕上げてしまいました。
どこかバレンタインネタなのか?
すいません、今度きちんとしたのかきます・・・・
きれたアイスはウォールでも勝てませんが、そもそもウォールがアイスに敵対することはありえませんね。
このサイトで1番の料理下手はアクラです。
しかし、チョコレート湯銭にかけた程度でふっとばすなんて・・・(自分で書いたのですが)、ウチの某古株オリキャラのようです・・・・・

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