地下散策




黒紫の鳥が一羽、大空を羽ばたく。
何かを探しているようにあちらこちらを行っては旋回し、また旋回するような行動をずっと続けている。
森の中にある滝の上に差し掛かった時、黒紫の鳥の瞳が輝いたようだった。
お目当てのモノを見つけた彼は急いでそれの元へと急降下していった。


ぽてぽてと・・・
特定の相手なら可愛いと言うであろう足音をたてて滝の裏側を歩いていると、ぽっかりとそこには穴があった。
屋敷の裏にある神社のさらに裏にある野原に行こうとしていたはずなのに、いつの間にここに着いていたのか考えて小首を傾げる。
それでもやはりお子様の彼女は考えるのを止めてその穴の中に入っていった。


中に入ると階段があり、そこをとことこと降りて行く。
灯りもついてあって、足元を見失う事はないが、下に行く度に暗さは増してきているようだった。
「ふえ?ここなに?」
階段の終着点に着くとまず飛び込んできて目の前にあるものに大きな瞳をより大きく見開く。
それは一般的に祭壇と呼ばれている物なのだが、幼い彼女にはそれが解らなかった。
その時、後ろでばさっという音友に小さな気配が生まれて振り返ってみる。
そこにいたのは黒紫の鳥。
「らす〜〜〜v」
ぱああっと表情だけでなく、体全体で喜びを表現するのと同時にその鳥の体が光に包まれてあっという間に人間の姿に変わる。
すると、今まで鳥の姿だった彼は急いで駆け寄って抱きしめる。
「メリィ〜〜!捜したぞ〜、こんな所に来て〜〜〜」
「んとね〜〜、ほんとうはのはらいくつもりだったの」
それを聞き、相変わらず方向音痴は健在だなとラスは心の中で思った。

メリィの暖かい手をぎゅっと握るとにっこり微笑む。
「それじゃ、帰るか」
「んねー、ねー、らすー。ここってな〜に?」
階段のほうに行こうとしたが少しの力で手を引っ張られたのでラスは何だと立ち止るとメリィが不思議そうな表情で質問してきた。
が、その質問にはなんと言って答えればいいのか少し迷った。
「え〜〜っとな・・・ここは祭壇だ」
「?なにしゅるとこなの?」
「・・・え〜〜と・・・前にここでいろいろあって事情が複雑なんだ。メリィが大きくなったら、プラチナやアレクが話すと思うから」
ラスは少し苦笑してそう言ったが、メリィは逆に明るい表情で何故か喜んでいた。
「おとうしゃまとおかあしゃまが?」
喜んでいる理由が両親の名が出てきたことだということに気がついてラスは少しむっとする。
所詮、メリィにとっての現在の1番はあの両親で自分は何番目かに過ぎないという事をひしひしと痛感させられた。
絶対勝ち目のない相手にしっとを感じつつも、メリィが嬉しそうににこにこ笑っていたのでまあ良いかという気持ちになり、改めて階段を上ろうとした瞬間・・・
「えっ?!」
ガラガラと崩れる音と共にそこが抜け、ラスとメリィは2人そろって落ちていった・・・


淡い光が差す中、ごしごしと目をこすってメリィは目覚めた。
まだすこしぽや〜んとするが、本人はその自覚すらしていない事だろう。
そして、下には何かやわらかい感触が・・・
「ふにゃ?・・・らすぅ!」
下敷きにしていたのは、一緒に落ちたラスだった。
どうやら、空中で体勢を変えて自分がメリィの下敷きになるようにしたらしい。
「・・・らす〜〜、だいじょうぶ?」
潤んだ瞳でぺちぺちを軽く頬を叩くとラスは少し痛そうに顔をしかめながら目を覚ました。
「ん?・・・メリィ・・無事か?」
「らす・・・・・ふ、ふえぇぇ〜〜ん」
「め、メリィ?!」
ラスが無事だった事に安心したのか、緊張の糸の切れたメリィはを突然泣き始めてしまった。
それにおろおろとしていたラスは、とりあえずメリィの好きな、頭を撫でるという行為をしてやる。
「ほら・・俺は大丈夫だから」
「えっぐ・・ほんと?けが・・・ない?」
ラスの「大丈夫」という言葉に少し安心したのか、メリィは多少泣き止むがまだ少し心配そうに尋ねてくる。
「ああ、平気、平気。それに、メリィが無事ならそれでいいから」
ぽんぽんとさらに優しく頭を撫でてやるとようやく完全に落ち着いたようだ。
「よかった〜〜v」
「・・・でもまさか、地下の下に地下があるとは・・・」
帰ったら報告するべきかどうか迷っていた。
別にどうでもいいいと言われて無下にされそうだが、場所が場所の下だけに悩む。
それに、ここをどうやって抜け出すのかが問題である。
人間の姿のままでは飛べないし、かといって鳥の姿になるとメリィを持ち上げて運べない、鳥の姿になって飛んで助けを呼ぶという手もあるが、その間メリィをこの薄暗い、しかも安全かどうかも解らない中に1人にして置けない。
2つの内部葛藤で苦しむラスを横にメリィはなにやら話をしているようだった。
「うん、うん・・・らす〜〜こっちだって」
「えっ?」
方向音痴でしかもここは初めてにもかかわらず、まるでメリィは知った場所のように先に歩いていく。
それを内部葛藤していたラスも慌てて追いかけた。


「道・・解るのか?」
「んとね・・このこけくんたちがおしえてくれてるの」
メリィが歩きながらみた足元にたくさん生えている苔にラスも目をやる。
「光苔か・・どうりで薄明るいはずだ」
苔が教えてくれること葉自体にはまったく驚かない。
普通ならそんな嘘つくなとか突っ込みが入りそうだが、メリィをよく知っている者なら当然という感覚だ。
メリィの特技は植物に干渉し、こうして植物と話すことや、植物の持つ能力を借りたり、植物の生長を促進させたり、遅くさせる事もできる。
「・・・らす〜〜あれなに?」
突然メリィが足を止めて何かを見上げるように視線を一定に定める。
ラスもそこを見てみるとそこには薄い青色の巨大な柱が上のほうまで伸びていた。
「・・?なんだ・・・これ?」
近くまで着て触ってみるとどこか妙な感覚に包まれる。
それは昔ラス自身が受けた感覚に少しにているような気がした。
その柱の正体に気がついたラスは驚きを隠そうともせずに急いで柱から手をひく。
「これ・・・『精水の結晶』?!」
あまりの事に驚いて呆然と立ち尽くしているとくいくいっと低い位置で服の袖をひっぱられた。
「らす〜〜?『しぇいしゅいのけっしょう』ってなに?」
メリィがまた瞳を大きくして、不思議そうにラスに尋ねる。
ラスはメリィの頭を撫でながらも『精水の結晶』と呼んだその柱を見て冷や汗を流しながら説明をする。
「俺たち魔鳥や、亜種族なんかの能力値を高めてくれる『精水』が自然に固形化されたもので、通常の『精水』の数倍の効き目がある、めったにはお目にかかれないお宝中のお宝だ」
簡単に説明したつもりだがメリィはよく解っていないようで可愛らしく小首を傾げていた。
それにラスは少し苦笑する。
「もう少し大きくなったらわかるかもなv」
ラスにそう言われるとメリィはにこりと小さな子供独特の笑顔を見せた。

良く見てみると結晶なのは外郭部分だけで中は『精水』のままのようだった。
『報告するのに決定だな・・・』
こんな大層なものがあったこをを報告しておかなかったら絶対後々自分の身に何が降りかかるか解らない。
命が危ないくらいの事はあの主ならするかもしれないと、ラスは表情を蒼白にしながら考えていた。
「らす〜〜、あっち」
メリィに声をかけられてようやく思い出したのだが自分達はここから出ようとして歩いていたのだった。
そして2人は再び出口目指して歩き出したのだった。


木の蓋のようなものを壊し上がってみると一瞬どこか解らなかったが、よくよく冷静に考えてみるとここは屋敷の土蔵の中だった。
「何でここに?」
頭をかしげるラスとは対照的にメリィは知った場所に出れたことが嬉しいらしくご機嫌だった。
「え〜と・・・何故かあった長〜い階段を上ってきたら木の蓋があって・・それをぶち破ったら・・」
ここに何故か出たという結論にしか辿り着けずラスは葛藤を始めそうになった。
しかし、メリィの声によって何とか阻止される。
「らす〜〜でれないよ?」
鍵がかかってるのは当たり前なのだが、メリィはそれを理解していない。
ここの鍵は確かルビイが持っているが、めったにここは使われないため来るのを待っていては手遅れになる危険性がある。
そう判断したラスはとんでもない行動に出た。
「メリィさがってろ」
「ふえ?」
よく解らないが、なんとなく言われた通りメリィが後ろにさがったのを確認すると、ラスは魔法で思いっきり扉をぶち壊した。
「よっし!開いた」
開いたというよりは・・・壊して開けた・・・
「ふわ〜〜しゅごい〜〜〜v」
ぱちぱちとメリィが嬉しそうに拍手をしてくれたので少し得意になってしまう。
しかしその数秒後、それを壊す絶叫が響き渡った。
「あああ〜〜!なんやこれ〜〜!!」
「あっ?ルビイ??」
「るびいおにいちゃん!」
土蔵のあまりの凄惨さに固まるルビイに2人はそれぞれの反応を返す。
「・・・これ、誰がやったん?」
多少、正気に戻ったルビイはそう言って尋ねるが既にラスがやったと肯定するように彼の方を睨んでいた。
「俺」
あっさりと自分を指さしてそう言ったラスにぶちっというなにかが切れる音がした。
「それが壊した奴の台詞か!!」
「仕方ないだろ!ここから出るためだったんだぞ」
「そもそも、なんでそん中におんねん!!」
びっしと指と彼の持っている土蔵の鍵を突き出されてらすは言葉につまってしまう。
なんと説明すればいいのか迷っていたのだが、それをルビイは単に言い返せないだけとにらんでにやりと笑う。
そして・・・
「弁解は・・プラチナらのとこでしてもらおか」
「って、ちょっと待て!!」
「待ったなしや!」
「この場で弁明させろ〜〜〜!!」
ルビイに引きずられて恐怖のレッドゾーンに連れて行かれるラスを1人取り残されたメリィは不思議な表情で見送っていた。


ちなみに、ラスは土蔵の破壊、その他色々あり、1ヶ月の給料(?)停止と1週間メリィに近づかないという、本人には死にも等しい罰(後者の方)を与えられたという・・・





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