挑戦状




「おや?冷えてきましたね」
室内の気温が急に下がったことに気がつき、プラチナの執務室に書類を持ってきたジェイドはそんな言葉を呟いた。
「・・・・・・・・・・」
その一言か、室内の温度がいきなり下がったことに対してなのか、はたまたその両方なのか、とにかくプラチナは無言であからさまに嫌そうな表情を作った。
「ゆ〜〜き〜やこんこ〜あ〜られ〜や〜こんこ〜♪」
扉の向こう側、まだこの部屋の前に来るまでは多少距離があると思われるが・・・
その徐々に近づいてくる本来楽しいはずの歌が2人には不気味なものに聞き取れた。
それ以前にプラチナ達にはなんの歌なのか理解できなかったという説もあるが・・・
「ふっても〜ふってもまだふりやまぬ〜〜〜〜♪」
近づいてくる声・・・
それと同時に室内の温度もさらに下がっていく。
「い〜ぬはよろこびにわかけまわり〜〜ね〜こはこたつで」
部屋の真正面までその歌声が到達した瞬間、バシンっというもの凄い音が部屋に響いた。
「まるくなる〜〜♪とっ!」
最後の部分だけ妙に早口で歌いながら、激しい音と共に扉を開いた人物が遠慮なく部屋に1歩踏み入った瞬間、部屋の気温が激しく急降下した。
「ふっ・・・ふふふっふふふ」
楽しげとでも言うように、意図的にこの部屋の気温を下げてくださったその人物は、何かを企むような目でしっかりとプラチナを見ていた。
「・・・・・・・・・・・・」
それをさらに無言で、さらに嫌そうな瞳でプラチナは見る。
ちなみに、気温が下がってきたという時点で、こうなる事を予想し結界を張っている。
決して酷い寒さでないと言えなくはないが、以前の雪山に比べればこの程度はなんてことはない。
「何の用だ?」
「別に〜〜。あたしだって、できればあんたとは顔合わせたくないんだけど、こればっかりはね〜〜」
まるでさも、プラチナの方が悪いかのように言ってのける。
この状況から考えて、どう見ても、100%、完全に、悪いのは自分だというのにそれを認めようとはしていないようだ。
と、言うよりもそれは眼中にないと言ったほうが良い。
「単刀直入にいえ・・・・・」
血管が切れる寸前・・・いや、すでに切れていっていると言っても過言ではないであろう、半ば殺気を発しているプラチナは今すぐにでも抜刀できますといった状態だった。
それを横で「あ〜あ」と、慣れたように傍観を決め込むジェイド。
「そうね・・・用件はこれよ!」
ばんっ!というような効果音でもつきそうな勢いで取り出したのは白い紙に包まれて、これまた白い紙に書かれた手紙・・・のようなものだった。
そしてそれをプラチナの前に突き出す。
「読んでみて〜〜」
ニヤニヤと勝ち誇ったように笑うその様子に尚も内心腹を立てつつ(表にもれているということは突っ込まない)もそれを素直に受け取って読もうとした。
が、そこでプラチナはあることに気がついた。
手紙らしきものを包んでいる白い紙の表面に書かれているその文字・・・
それは奈落で使われている、プラチナの見知っているものではなかった。
さらに一応中身のほうも開いてみてみるが、同じように知らない文字だった。
そこでプラチナの困ってしまった。
字が読めないといって渡した当人に聞けば馬鹿にされるのは明白、しかし1度あけてしまった手前このまま読まないままというわけにはいかない。
見ればこうなる事が解っていたかのように笑みを深めているそれが憎らしくて仕方なかった。
そうこうしているうちに、突然ジェイドが横からひょいっとプラチナが持っているそれを取り上げて、「ああ・・」と1人納得したかのように呟いて、笑っている人物を見た。
「これ、プラチナ様に解らなくって当たり前ですよ。スノウ、わざわざ天界の言語で書かなくても良いんじゃないですか?」
それを言われてプラチナは多少驚いたような表情を作るが、そういえば以前カロールの持っていた天界の本にも同じような文字が載っていたことを思い出した。
「い〜〜じゃん!これくらいの意地悪」
「・・・・・にしても、汚い字ですね」
「放っておいてよ!字なんか書く必要性が今までなかったんだから!!」
今まで勝ち誇っていた笑みをいっきに崩して怒鳴るスノウ。
どうやらこれが初めて書いた文章らしい。
「はいはい、それは置いておくとして・・・これ、本気ですか?」
「本気も本気!」
胸を張って自身満々に言うスノウにジェイドは半ば諦めの気持ちで溜息をついた。
そして、自分を恨めしげに見るプラチナの視線にも気づいた。
その視線の指すところの意味は「早く読め」。
「え〜と・・・良いですかプラチナ様、こう書いてあります。『プラチナ、アレクを賭けて正々堂々勝負しろ』だそうです・・・ちなみに、こっちの包み紙には『挑戦状(果たし状)』と書いてあります」
読み上げられた内容にプラチナは内心呆れ半分で、多少引きつった表情になる。
「・・・・本気か?」
ようやく搾り出した言葉がそれだった。
何をどうしたら、そういった内容を書くに到るのか・・・
そもそも、アレクは『モノ』でないのだから『賭けて』などということができるはずもない。
この様子だとアレク本人の了承すらもないようだし・・・
そらにいえば、アレクが好きなものは他にもたくさんいるということは、内心ではかなり気にかかっているが、一応認識はしている。
なのに、なぜあえて自分なのかがいまいちプラチナは良く解らなかった。
兄弟だから、という理由からかもしれないが。
「本気も本気!!」
しかし、そんなプラチナの心など知る由もなく、スノウは先程ジェイドに言った言葉をさらに強調させてもう1度言った。
「勝負するって・・・何するんですか?」
「もちろん戦うに・・・」
「貴方が勝つに決まってるじゃないですか!!」
これにはさすがのジェイドも慌てた。
仮にも(真実だけど)『冬の守護王』相手に戦って勝てるのか?
否、勝てるわけがない(反語)
それは前回の雪山の件でもほぼ実証済み。
「ジェイドには関係ないでしょ!!」
「・・・・・あのですね」
「なんかここ寒くない?」
スノウが強行の姿勢を見せ、ジェイドがあきれ果て、当のプラチナが眉間に皺を寄せるという状況下の中、突然聞こえたその場の雰囲気(謎な雰囲気)をぶち壊す呑気とも言える声が聞こえた。
「兄上!」
「アレク様・・・?」
「アレク〜〜〜♪」
突然の来訪に、プラチナが驚き、ジェイドが何故という表情を見せ、そしてスノウが嬉しそうな声と満面な笑みでもって飛びついた。
「わっと・・スノウ来てたのか?」
「うん!」
「どうりでここ寒いはずだな・・・けど、いつもは真っ先に俺のところ来るのにプラチナのところにいるなんて・・・少しは仲良くなったのか?」
なったどころか・・・初っ端なから今の今まで、けんかしていらっしゃいましたよ・・・奈落王・・・・・
「仲良くなったどころか、今までスノウはプラチナ様にけんか売ってました」
包み隠さず今までの事態を簡潔に短く説明するジェイド。
その言葉に反応してスノウがジェイドを睨もうとしたその時、アレクの声がスノウに降ってきた。
「駄目じゃないかスノウ。いつも言ってるだろ?仲良くしないといけないって」
「・・・・・・・・・・・う〜」
「第一、 なんでプラチナばかり目の仇にするの?他の皆とは仲良いのに」
「そ・・それは・・・」
「それは?」
そう・・・最初はアレク以外とはほとんど口もきかなかったが、いまやスノウはアレク以外とも仲良くなりよく遊んでいる。
しかし、どういった訳かプラチナだけはいまだ目の仇にし続けていた。
「それは?」
「うっ・・・」
他の者にはいくらでも強気な姿勢を見せられるスノウでも、アレクにだけはそうはいかなかった。
だから、アレクに尋ねられて真剣に困り果てていた。
答えるわけにはいかない・・・しかし、アレクに尋ねられて答えないままというわけにもいかない。
しかし、『助け舟』とは本当にあるもののようで、この押し問答なのか良く解らない間は5番目の人物によって打破された。
「スノウちょっといいかな?」
「あれ?ベリル」
5番目の人物であるベリルは尋ねたのとほぼ間髪入れないタイミングで、返答をまたずしてスノウを『猫を掴む』ような持ち方をして「じゃ」とすかさず告げると颯爽とスノウと共に退出していった。
「「「・・・・・・・・・・・」」」
2人の姿が消え去った先の扉を暫し呆然とする3人。
「・・・それじゃ、私はこの辺で失礼します」
そう言って1番最初に正気(?)に戻ったジェイドが2人に軽く会釈して退出した。
しかしその前に小さな声でアレクにだけ聞こえるように「ごゆっくり」と多様含みのある言葉を告げてから。
「・・・・・・・・・っ」
ジェイドが去った後ようやく落ち着いたというようにプラチナが軽く溜息をつき、肩の力を抜く。
まるで・・・というかそのまま嵐が去った後である。
「・・・・・あいつを相手にしていると疲れる」
「そう?俺はそうでもないけど」
きょとんとして自分のもらした独り言にアレクが返した返事の内容に、プラチナはまた溜息をつく。
ここ最近スノウが来るようになってからと言うもの、プラチナの疲労はたまる一方である。
その中には、スノウが遠慮なくアレクにべたべたくっついくのを見て腹が立つが、それを大っぴらに止める事ができないという事も入っている。
「・・・・・?」
プラチナの心知らずなアレクはなぜそこまで疲れるのかと頭に?を浮かべて、疲れきった弟を見ていた。



ところ変わってベリルの部屋では・・・・・・・・
「君もね〜。プラチナにけんか売るのはもう止めたら?」
「い・や!」
「・・・勝ち目がないっていうのは解ってるでしょ?」
「・・・・・・・・・・」
わざとらしく溜息を吐いてそう言ってくるベリルに返す言葉のないスノウはただ無言で下を見て俯いていた。
「君がプラチナを嫌いなのはアレクの1番がプラチナだって知っているから」
「・・・・・・・」
「で、アレク本人もまだ気がついていないから、今なら付け入る隙があると思ってプラチナにけんかを売っている・・・違う?」
「・・・あってる・・・けどぉ」
全くその通りなので、スノウには反論の余地がなかった。
しかし、何かをいわずに入られなかった。
「アレクの魂を抜き取った時、アレクの1番がプラチナだって感じ取る事が出来たわよ・・・それが1番、アレクの中で暖かかったから・・・けど・・・諦められないのよぉ〜〜〜!」
最後の部分は半ばやけになり、こぶしを握り締めて叫ぶスノウ。
「だからってこんなものまで用意しなくてもね」
「言ってくれるじゃない・・・」
スノウはぎろりと恨めしげな瞳でベリルを睨む。
その様子にベリルは多少の危険を感じ取って、少しスノウとの距離をおく。
「あたしなりのささやかな抵抗よ!」
「抵抗・・・というより、嫌がらせだね」
完全に。
ベリルはスノウがプラチナに突き出した件の挑戦状をひらひらと手で玩ぶ。
「ま!どういう方向に向かおうと、あの2人の邪魔は無理だと思うけど?」
「・・・・・言い切るじゃない」
「だって、あの2人の邪魔をするのを僕が邪魔するから」
ふてくされて完全に不機嫌モードのスノウに、こちらは満面の笑みでベリルは言ってのけた。
「〜〜。ベリルはプラチナの見方なわけ?!」
「と、いうよりあの2人の見方だよ。君も知っての通り、僕はあの2人の『親』なんだし・・・子供の幸せを願い、手助けするのは『親』として当然でしょ♪」
楽しげにそうはっきりと告げるベリルをスノウがいっそう恨めしげな瞳で見たことは言うまでもない。


スノウホワイトのプラチナ=パストゥールへの果て無き(無謀な)挑戦は続く。





オマケ

ベリルとスノウが話している時、プラチナの執務室では・・・

プ「そういえば・・・兄上、何か用があってきたんじゃないのか?」
ア「うん!プラチナにお茶煎れてもらおうと思って♪」←満面の笑み
プ「・・・(可愛い)すぐに用意する」
ア「うん♪俺、プラチナの煎れるお茶が1番好きだからさ」
プ「・・・・・お茶が?」
ア「うん♪プラチナが煎れるお茶が1番おいしいもん!」
プ「・・・・・・・」←ちょっと複雑
ア「もちろんプラチナも好きだけど」←注:自覚がないので弟としてという意味
プ「!!!!!」
ア「あれ?どうしたの??」
プ「・・・・・なんでもない///」←兄弟という意味とわかっていても至福
ア「・・・・・?」

こうして、謎の生命体(基『冬の守護王』)がこれからも無謀な挑戦を続けることを決意し、それを阻もうと『青の賢者』が牽制していることも知らず、今はまだ『兄弟』の2人の昼のお茶会は一路平和に催されたという。




あとがき

土下座!!!
スノウ・・・・・暴言吐きまくり・・・・・・・・・・
スノウの役割としては、『はっきりとプラチナにライバル宣言して、周りの迷惑も顧みず表立って(ただしアレク本人には気づかれないよう)アレクの取り合いをしてくれる奴』です。
サフィルスの場合は水面下で争っていそうなので・・・
でも、失礼な奴&わけの解らない奴になってます・・・・・・
はっきりいましょう・・・・・これは完全ギャグです!「雪山」はともかくとして、スノウの役はギャグ担当です。
そして最後に一言・・・
「100の質問」にも書いていましたが、私の中のベリルのイメージは、アレクとプラチナの良いお父さんです!!
以上良い逃げでしたι(逃走!!)




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