Puzzle game9
8:Bruise

-完全版-




「うわ〜〜・・・もう着てるし・・・」
セントビナーの近くの茂みの中、街の門前を伺いながらルークがゲッソリと言った言葉はこれだった。
六神将を始めとする神託の盾騎士団の襲撃から一夜明け、野宿で簡単に休まった身体で歩いてきた一同は最初のアニスとの合流地点であるセントビナーの目前で足止めを食らっていた。
その理由は門前で明らかに誰かが来るのを待ち構えているような神託の盾兵。
どう考えてみてもその狙いはルーク達であるのは明確だった。
「・・・リリスの術、解けるの意外に早かったんだな」
訳が解らないとはいえそれでも実質神様の使う術。
それなりの効果と威力はあるのだろうと考えていたルークは期待を裏切られて思わず肩を落とした。
「いえ・・・おそらく彼等は昨日我々を襲った神託の盾や、ラルゴ達とはまた別部隊でしょうね」
「何でそう言い切れるんだ?」
「・・あのカバラ少佐の謎の術。以前、不覚にも私と陛下・・・とどうでもいいですがどこかの馬鹿がかかってしまった事がありまして。その時はもっと長い時間閉じ込められてましたから・・・」
ジェイドのその言葉に思わずその場にいたリリス以外の人間は思わず引いてしまった。
この際少し引っかかりを覚える『どこかの馬鹿』の事は頭の片隅にでも追いやうことにして、さらにジェイドはまだともかくとして、自分のところの国家元首を術にかけるなど、一体リリスの感覚はどうなっているのかと。
その中でもリリスの正体を知るルークは、正体を知るがゆえに余計に顔を引き攣らせていた。
本当に神様というのは皆こんなのばかりなのだろうかと。
そう考えてみると以前着ていたリリスの妹のイブもかなり怪しい。
リリスは『良い子』だといっていたが、リリスの言う事であるからどこまで信用していいのか解らない。
「おそらく・・・そうですね。あの時あの場にいなかった『烈風のシンク』あたりがあの4人とまったく連絡がつかないことを不信に思って手元に残っていた兵を回した・・・というところではないですか?」
「・・・ジェイド。六神将って、もう1人いたよな?」
「あれにそんな頭はないですから。数えなくて良いんですよ」
ジェイドの当然とでも言うその言葉に、「仮にも幼馴染だろう」とルークは内心少しディストの事が哀れになっていた。
「ですが見張られているのは事実です・・・」
「そう、ですね。どうやって街の中に入りましょう」
困ったように神託の盾兵を見つめながら告げるイオンに、ティアも神妙な面持ちでそちらを見ながら同意した。
「あ、それなら大丈夫よ」
そんな2人とは対照的に非常に楽観的で明るいリリスの言葉に続き、場所の音がどこからともなく聞こえてきたのだった。











「じゃあ、私達はもう行くけど、気をつけるんだよ」
「うん。ありがとう、ローズさん」
セントビナーに荷物を届ける用事で通りかかったローズに頼み込み、ルーク達は無事街の中に入り込む事に成功した。
神託の盾騎士兵に見つからないよう、広場でローズ達と礼を言って分かれてすぐ、ティアがルークに小声で耳打ちしてきた。
「ねえ、ルーク・・ひょっとして貴方達は、こうやって街の中に入れる事解ってたの?」
「ん?ああ・・・前の時もそうだったからな。あっ・・・ティアには要所要所を簡単にしか説明してないから解らなかったのか・・・ごめんな」
「えっ・・・い、良いのよ。気にしないで」
首を傾げて可愛らしい仕草で謝ってくるルークに、ティアは顔を少し赤くさせて目線を逸らした。
そのティアの行動を不思議に思っているルークが気づくはずもなかった。
まさか自分がティアの可愛いものリストの中に今まさに加えられたなどとは。
そしてそれをすぐさま悟ったリリスは1人必死に笑いを堪え、ジェイドは目ざとくそれを見つけて溜息を漏らしていた。
「はい、はい皆さん。こんなところでゆっくりしてないで早く行きますよ」
「は〜い」
ジェイドのあからさまなこの場の現在の空気から脱したいという意図を読んで、リリスは非常に楽しげな返事を返した。
そしてさらにそれを察したジェイドは今後のからかいのネタに追加されそうだと気を重くし、また溜息をついてセントビナーのマルクト軍基地入り口へと足を速め扉の前に立つ兵に声をかけた。
「マルクト軍第三師団長ジェイド=カーティスです。マクガヴァン将軍にお会いしたいのですが」
「申し訳ありません。ただ今将軍は来客中でして・・・」
「来客って、どうせマクガヴァン元元帥でしょう?気にしない、気にしない」
兵士の言葉など全く気にも留めず、そう言って普通に扉に手をかけようとしたリリスを、当然その兵士は慌てて止めた。
「ま、待ってください!勝手に入られては困ります」
リリスの腕を掴んで必死にそう言う兵士だったが、その肩をぽんっと軽く叩かれるのを気づいてそちらを向くと、どこか哀れむように首を横に振っているルークが目に入った。
「止めとけ・・・リリスに逆らっても人生いいことないぞ」
「そうですよ。貴方の人生のためにも、カバラ少佐の邪魔はやめておいたほうが懸命です」
「・・・ルーク、大佐・・・・どういう意味?」
にっこりと微笑んでそう尋ねてくるリリスの言葉は無視し、というよりも寧ろ視線をそらしたルークとジェイドに対し、暫しの間の後に何かに気づいたのか兵士は突然「ひっ」と小さく悲鳴を漏らした。
「か、カバラ少佐・・・?!ま、まさか・・あ、あの・・・将軍が仰っていた・・・」
「ああ、多分そのカバラ少佐なんじゃない?私」
そのリリスの答えを聞くと哀れにも恐怖からか兵士は立ったそのままの姿で気絶してしまった。
その姿を当然リリス以外の全員は哀れむばかりだった。
「しかし・・・どんな噂になってるんだ?リリス」
「さあ・・ですが確実にろくな噂ではないでしょうね。それは私達が1番良く知ってるじゃないですか」
「そうだな・・・」
「2人とも・・・そこまで言わなくても・・・」
しかしなんとかフォローを入れようとするイオンからも乾いた笑いが漏れていた。
ティアにいたっては額のこめかみを手で押さえていた。
「じゃ、文句言う人もいなくなったし・・・行きましょうか」
これくらい神経図太かったら人生楽だろうな、とその場にいた殆どの人間が思う中、ただただ普通にそう言ってのけたリリスはやはり普通に扉を開いた。
建物内に足を踏み入れてすぐのところにまた扉があり、その扉越しになにやら中から声が聞こえてくる。
しかしやはりそれにも全く動じず、リリスはまたも扉を開いて見せた。
「ですから父上。神託の盾騎士団は・・・」
「こんにちは〜〜。お話中失礼しま〜〜す!!」
明らかに話の途中であったにもかかわらず、まるでそれをわざと中断するように、否実際わざと中断させたのであろうリリスの声に、中にいた2人の人物がこちらを振り返り、1人は一瞬の間の後にさあぁと顔色を悪くしていった。
「・・か、カバラ少佐!何故ここに?!」
「おおっ、リリス嬢ちゃん!それにジェイド坊やにルナ嬢ちゃんも!」
「お久しぶりです。元帥」
「マクガヴァンさんの久しぶりです」
息子とは対照的にリリスを含めた3人の出現に、マクガヴァンは手放しで喜んでいる様子だった。
「そうじゃ。ジェイド坊やは陛下と幼馴染じゃったな。陛下に神託の盾騎士団を街から追い払うように頼んでくれんか?」
「彼等の狙いは我々です。我々が居なくなれば、彼等も引き上げますよ」
「なに・・・?・・・そうか、ではついに」
「はい・・・」
ジェイドの言葉で全てを察したマクガヴァンはそこまで言って口篭った。
その意味がこの場にいる人物の中で解らないのはイオンとグレンの2人だけだった。
「・・ところで将軍。こちらに導師守護役が1人訪ねてきませんでしたか?」
「ん?あ、ああ・・確かに1人訪ねてきたが、神託の盾騎士団がうろついているからとすぐに街から出て行ったが・・・」
「そうですか・・・」
「あああ、そういえば手紙を預かっている。悪いが中を確認させてもらった」
「構いませんよ」
そう言ってグレンからジェイドが手紙を受け取る姿を見て、ルークはどんな事が書かれているのかと少し興味があった。
前の時間では自分に対して目のすべる文章を書き連ねていたからである。
しかし今回自分は公爵家の人間ではなく、ましてや当初こそ不満であったが今ではすっかり慣れてしまった女の性なのである。
自分に向けてアニスが手紙を書くということはまずありえない。
その為、その部分は全く違うであろう手紙の内容がどんなものか興味がある。
ダアトでのアニスのジェイドへの反応を見る限り、少し想像はできそうな気はするが。
「・・・はあ・・・目がすべりますね」
そう思わず漏らしたジェイドの言葉に、やはりと自分の予想が当たっていたことをルークは確信した。
「・・とりあえず親書は無事のようです。我々も急ぎ次の合流地点に向かいましょう」
「次は・・カイツールだよな」
「そうです。では将軍、元帥。失礼します」
ジェイドのその言葉で一同はマクガヴァンとグレンの2人に挨拶をすると各々退室していった。
その様子にほっとグレンが安堵の溜息をついたのをまるで見計らったかのように、まさに今出て行く直前に立ち止まったリリスが楽しげに振り返って口を開いた。
「じゃあ、お2人とも。また、絶対、何があっても、きますので〜〜」
そう言って楽しげにひらひらと楽しげに手を振るリリスの姿に、マクガヴァンは普通に好意をもって返事を返したが、グレンはそれとは対照的に声も出ないほどに絶望的ともいうような雰囲気を漂わせていた。
「・・・グレン。いい加減リリス嬢ちゃんに慣れんか。あれでなかなか面白くていい子じゃぞ」
「・・・絶対に、無理・・です」










基地から出て街の入り口付近まで近づいたところで、聞こえてきた声に一同は身を潜めて門の様子を伺っていた。
そして良く見てみるとそこには昨日あったばかりの人物達もいた。
「あ、どうやら抜けてきたみたいね〜」
そう言って楽しげに言うリリスの視線の先には、昨日リリスの術に閉じ込められていたラルゴ、リグレット、アリエッタの他にもう1人他の神託の盾騎士とは明らかに違う雰囲気の人物がいた。
「あれが『烈風のシンク』ですね」
「でしょうね〜。サフィっちなわけないですしね〜」
しきりに頷くリリスの姿に、「サフィっち」とは誰のことなのか解らないティアとイオンが首をかしげる中、六神将達の声がまた聞こえてきた。
「導師イオンは見つかったか?」
「発見できませんでした。セントビナーには訪れなかったようです」
「導師守護役がうろついて立って話はどうなったのさ?」
「マルクト軍と接触していたようです。もっともマルクとの奴らめ、機密事項と称して情報開示に消極的でして・・」
「あの時我々が妙な術に足止めを食らっていなければ・・・・・すまん」
「まあ・・そのことについては気にしなくて良いよ。・・・なんか・・本当に原因不明の妙な術みたいだし・・」
そう言って仮面で顔の半分しか見えないが、シンクの表情が面倒そうなものになっているように思えた。
そしてシンクの言葉を聞いたルークは思わず小声でリリスに話しかけた。
「・・・言われてるぞ。リリス」
「いや〜〜、注目あびて嬉しいわ〜」
「もう・・・少佐もルナも少し黙ってください。話が聞こえないじゃないですか」
「そうですよ・・・特に少佐は悪ふざけ過ぎです」
「・・・悪い」
「え〜〜?そうですか〜〜〜?」
それでもなお悪ふざけしようとするリリスを今度は完全に無視し、一同はまた六神将達の話に耳を傾けた。
「いや・・しかし今回は完全に俺の落ち度だ。死霊使いにせっかくの封印術をかけることすらできなかった」
「ああ、それも聞いてるよ。・・・でも妙な話だよね。まるでこっちが封印術をしかけるのを知ってたみたい、なんて」
「ハーッハッハッハッハッ!」
何やら高々として声が聞こえてきた。
その声に一瞬ルーク達の時間はぴしりと止まったようだった。
そして次に彼等の注目する六神将達の目の前に現れたのは、宙に浮かぶ椅子に乗った妙な人物だった。
それが誰だか解っている3人はそれぞれ、ジェイドはこめかみを押さえ、リリスは腹を抱えて笑いをこらえ、そしてルークは未だぴしりと固まっていた。
そんな中、その人物はやけにパフォーマンスが過ぎるといっていい素振りで高らかに語り始めた。
「だーかーらー言ったのです! あの性悪ジェイドを倒せるのは、この華麗にして優雅なる神の使徒、神託の盾騎士団六神将・薔薇のディスト様だけだと!」
「薔薇じゃなくて、死神でしょ。馬鹿馬鹿しい」
「馬鹿馬鹿しくなーい! 大体、どうしてこの美し〜い私がっ、薔薇じゃなくて死神なんですかっ! 納得いきません!」」
そんなディストの主張虚しく、その後彼の言い分を無視して他の六神将達はさっさと話を進めていた。
「しかし死霊使いに封印術をかけれなかったのは正直痛い。しかも死霊使いや我々にあの妙な術をかけた女だけでなく・・・もう1人、俺の攻撃をあっさり凌いだ厄介なのがいた・・・」
「・・・ルナお姉ちゃんは敵じゃない・・です」
ラルゴの言葉の最後の方に出てきた人物の話題にぴくりと反応したアリエッタが口を開いた。
「ルナお姉ちゃんはアリエッタのママと弟達を助けてくれた恩人・・です。・・お姉ちゃんとは、戦いたく・・ない」
「アリエッタ・・・事情は聞いたし、お前の気持ちも解っている。お前も気持ちをなんとか汲みたいとは思っているが・・・」
「・・お姉ちゃんは悪くない、です・・・」
そう言ってルークの言葉を庇いながらぎゅっと人形を握り締めるアリエッタの姿にリグレットは軽く溜息を漏らした。
「まあ・・とにかく、エンゲーブとセントビナーの兵は撤退させるよ。これ以上は時間の無駄だ」
「・・・わかった。伝令!第一師団撤退!!」
シンクの言葉にラルゴは少し不満そうではあるものの、先に失敗もあるため黙って頷き同意すると、すぐに撤退指示を神託の騎士団に送ると次々と神託の騎士兵が引き上げて行く姿がルーク達の目に映った。
「きぃぃぃっ! 私が凡人のあなた達と違って美と英知に優れているから、嫉妬しているんですね―――ッ!!」
周りに人がいなくなり、ただ1人虚しく取り残されたディストは、ただ悔しそうにそう叫ぶとそのまま椅子に乗って飛び去っていった。
そしてそれを当人には知られずとも見送ったルークはぼそりと言葉を漏らした。
「なあ・・・やっぱ、あれとも戦うことになるんだよな?」
「そうですね・・はあ、面倒で先が思いやられます」
「そうですか?ぷちっと倒した時の反応が楽しくて最高ですけど」
そのリリスの言葉から完全に予想でなく確定だなと、その場にいたジェイド以外の一同は敵ながらディストの事が心底哀れに思えたのだった。











その日はイオンの体調を気遣いってセントビナーの宿屋に一泊し、翌朝セントビナーを出発することになった。
そして全員が静かに寝静まる深夜、ルークは突然襲ってきた頭痛によって強制的に目を覚ました。
「いっ・・・」
覚えのあるその頭痛にルークは、先日の事から嫌な予感をしながら小さく口を開いた。
「あ・・・っしゅ・・・?」
ルークが頭痛の原因であろう人物の名を呼ぶと、ルークの予想通り、否それ以上に不機嫌そうな声が頭の中に直接響いた。
『今すぐ指定した場所まで来い』
ただそれだけ告げるとそれっきり一方的に回線を遮断されてしまった。
しかし先程の口調とその態度だけでルークにはアッシュが本当に心底機嫌が悪いという事が手に取るように解る。
出来ればそんな状態のアッシュとは会いたくはない。
会えば一体何をされるのか解らないからだ。
否、何をされるか漠然とした想像は出来るのだが、おそらくそれ以上の事をされる可能性もあるため逆におそろしいのだ。
しかしルークにアッシュの呼び出しを断れるはずがない。
何よりもアッシュがルークに拒否権など与えてくれるはずはない。
そう考えて溜息をついて半ば諦めたルークは気を重くしながらベッドから抜け出した。
そして簡単に外へいくための着替えを済ませ、同室で寝ているリリスとティアの2人を起こさないように窓から部屋を抜け出していた。
ゆっくりと行ってアッシュを待たせるわけにも行かず、足取りは重いながらもなるべく早足でセントビナーの街を出てアッシュが指定した場所までやってきた。
そこは街から少しは離れたなんの変哲もない森の中だった。
しかしアッシュが確かに指定したはずのその場所にも関わらずアッシュの姿は見当たらなかった。
まさか場所を間違えたかとルークが少し心配になり、きょろきょろと辺りをすこし見渡していた。
すると後ろから人の気配がしたためアッシュかと思い後ろを振り返ろうとしたその瞬間、突然有無を言う暇も与えられず足払いをされ受身をとる事も出来ずにルークはその場に倒れこんでしまった。
そして倒れこんだ時に痛めてしまった箇所に耐えながら起き上がろうとしたところで、上から誰かに覆いかぶされ手首を強く掴まれて地面に縫いとめられて拘束されて身動きが取れなくなってしまった。
驚いて目を大きく見開いて自分に覆いかぶさったその人物を見ると、そこにはルークの想像通りアッシュの姿があった。
しかしその表情は無表情で、それが逆に不機嫌だという事が手に取るように解ってルークは一瞬恐怖で固まってしまった。
「アッシュ・・・」
名前を呼ぶルークを無視してやはり無表情のままルークの顔を見ていたアッシュは、突然ルークの手首の拘束を解いたかと思えばその手はルークの片方の足に伸ばされ、簡単に着替えたためストッキングを履いていない足を掴みあげてある一箇所を不機嫌そうに見つめていた。
そこは先日ルークがティアを庇ってライガにつけられた傷のあった場所だった。
状況が状況だったために歩くための最低限の治療術しかかけず、その後もずっとそのままにしていたたため未だ多少痕が残っているその場所を見つめるアッシュに、ルークは先日の襲撃時のアッシュのあの時の反応から自分が予想が当たっていた事に徐々に顔を蒼くさせていく。
そんなルークの様子などアッシュが気にするはずもなく、目線はそのままに不機嫌そうな声でルークに尋ねた。
「・・これは、どういうことだ?」
その声にびくっとルークは無意識に身体を震わせたが、アッシュがそんな事を気にするはずもなく不機嫌そうな目を今度はルークに向けた。
「俺以外の奴に痣をつけられるなと・・・言っていたはずだが」
「こ、これは・・・」
「しかもまだ痕が残っているな・・・」
「アッシュ・・・」
「・・・破ったな」
そう言ってぎろりとルークを睨みつけると、アッシュは懐から突然ナイフを取り出した。
その行動にルークが嫌な予感を感じたその直後、アッシュはルークの脚の傷痕に向けてそのナイフを振り下ろしていた。
「いっ・・っぁ!」
それほど深く斬りつけられたわけではないが、感じた痛みに思わず声を上げる。
そしてアッシュのその突然の行動の意味が解らず大きく目を見開きアッシュの方を見ると、アッシュは先程自分がつけたルークの傷に舌を這わせてそこから出てくる血を舐め上げた。
「んっ・・・」
その舌の感触にぞくりと背筋に何かが這うような感覚が走ったルークは思わず声を漏らした。
その間にもアッシュはルークの傷を、血を舐め続けていた。
「あ・・・っシュ・・?何・・・」
その感触に耐えながらルークが必死に声をしぼり出すと、アッシュは顔を上げて自分の唇についたルークの血を見せ付けるように舐めとり口を開いた。
「俺が・・他の奴がつけた痣をそのままにしておくと思うのか?」
「えっ・・・?」
「他の奴に痕をつけられるなんて許さねえ・・・そしてもしつけられたなら、俺の手で上から俺の痕をつけて全て消してやる。傷だって同じだ・・・」
アッシュにそう告げられてまたルークは目を見開いた。
アッシュがまさかそこまで自分に固執しているとは思っていなかったためだ。
その自分に固執する理由も解らないし、そのあまりに強すぎる執着に半ば恐怖も感じるが、アッシュが自分に執着してくれることに喜びも感じていた。
しかしそんなルークの想いも束の間、突然アッシュがルークの服に手をかけ始めた。
まさかと思いルークはさっと顔を蒼くさせて焦り始めた。
「あ、アッシュ・・ちょっと待って・・まさか、ここで・・」
「はっ!何を今更言ってやがんだ」
アッシュに嘲るような笑みを浮かべながら言われ他言葉にルークは半ば愕然となった。
ルークも別にこの事態は予想していなかったわけではない。
今までのアッシュに呼び出された時は必ずしてきた事だし、今回予想できたアッシュの不機嫌さからも予想できることだった。
だが今までは屋内でしかしてきたことがなかったため、今回は屋外ということもあって少しだけ今回はないかもしれないと思ってしまっていたのだ。
しかしアッシュ相手にその期待は甘かったと、今更ながらルークは自覚せざるを得なかった。
「誓いを破った仕置きをしねえとな・・・」
そうはっきりと宣告されてルークは最早逃げ道など完全にない事を悟り、諦めると同時に身体から自然と力を抜いて覚悟を決めた。





さすがに外ということもあってか全裸にされる事はなかったが、それでも前は肌蹴られスカートは完全に取り払われてしまった。
そしてアッシュは何時もなら執拗に触ってくるルークの胸には今回は何故か触れず、脚の傷から未だ流れ出ている血を掬い取ると、それをまるでオイル代わりにでもするようにしてルークの秘所にいきなり指を挿れた。
「いっ・・・やぁああっ!」
血がオイル代わりとはいえ、いきなり侵入してきた指に痛みを感じたルークは悲鳴を上げた。
そんなルークの様子にも当然というようにアッシュは気にする事もなく、なおもずっとルークの内部に指を挿れたままかき回し続けていた。
そしてそこからは愛液に混じって内部からの新しい血なのか、それともアッシュがオイル代わりにつけていた血なのか、どちらか解らないが血も一緒に流れ出てきていた。
やがてルークが痛みのためのの悲鳴から快楽のための甘い嬌声に声色を変えた頃、ようやく内部を掻き回していた愛液と血のついた指をアッシュは引き抜いた。
「んんっ・・」
ずるりと引き抜かれた指の感触に思わずルークが短く甘い声を漏らしたのも束の間、先程まで指の入っていたそこに今度は自分の舌を這わせ始めた。
「んっ・・・ふぁぁ・・やぁっ・・」
「嫌なんじゃなくって好いんだろうが・・・・・てめえは淫乱だからな・・」
「・・・あ・・・っしゅ・・・」
「ああ、そうだな・・・最初からこんなんじゃなかったな・・・・・俺がそうさせたんだったな」
まるで確認するかのように、しかし確信をもってそう口にした瞬間、アッシュは狂喜に歪んだ笑みを浮かべた。
その笑みをルークは何度アッシュに抱かれる度に見たか解らない。
そしてその笑みを見る度にルークはアッシュに逆らう気力が失せていってしまう。
歪んでいるとはいえアッシュが機嫌を良くしているのを悪くさせて自らより手酷い目にあう必要などないのだ。
「・・・あっしゅっ・・・・・・」
「もっと呼べ・・・」
甘えるような声でアッシュを呼ぶと、アッシュは笑みを深めてルークの顔を眺めた。
「・・あ・・・っしゅ・・・」
「俺だけ呼んでいろ・・・俺のモノなのだから・・・俺だけ呼んで、2度と俺以外に痕をつけられるな・・・」
そう告げるとアッシュは自分の指についたルークの愛液と血の混じったものを見せ付けるように舐めとると、ルークの髪を強く掴んで無理やり起き上がらせようとする。
「・・っぁ・・・」
「立て・・・立って後ろを向いてそこの木に手をつけ・・・」
髪を掴まれた痛みにルークが小さく呻くが、それもアッシュは気にすることなくルークに一方的な命令を下す。
そしてそれにルークは逆らう事などなく、アッシュに言われたとおり必死に身体を起こして立ち上がり、アッシュに背を向けて近くにあった気に手をついた。
その直後アッシュはルークの腰を掴んで自分の方に引き寄せたため、ルークはアッシュに秘所を突き出すような態勢をとる事になった。
さすがにルークもアッシュが次に何をしようとしているのか気づき、振り返ろうとした瞬間想像は現実のものとなってルークの秘所に突き刺さった。
「んぁあ・・あああっ!」
高々と嬌声を上げるルークにアッシュは笑みを零して動き始める。
そして暫くしてルークの腰を掴んでいたその手は徐々に上に上へと動き、ルークの胸まで辿り着くとその乳房を掴み動きながら揉み始めた。
「んぁっ・・ふぁっ・・・ああっ・・・」
胸を揉むたび、腰を動かすたびに甘い声を漏らすルークは、やがて自分からもアッシュの動きに合わせて動かし始めていた。
そしてその声を聞きながらアッシュはぼそりと小さく残念そうに漏らした。
「・・・少し失敗だったか」
この態勢は今までしたことがなかったため、試してみるのも悪くないと思いしてみたのだが、最初は悪くないと思っていたがどうもルークの善がっている表情を見ながらできない事がアッシュには多少不満のようだった。
しかし嫌いとまではいかないので、今回はこのままで済ませることにした。
「んっ・・やぁあ・・いっくぅ・・・」
限界を訴えるルークにアッシュは笑みを深めると、ルークの耳元に唇を寄せて囁いた。
「ならもう2度と俺以外の奴に痕をつけさせないと誓え・・・」
「・・はぁあっ・・ちかう・・からぁ・・」
「・・・それだけじゃ信用できねえなぁ」
そう言って無言のまま何か代償を差し出せて眼で語ってくるアッシュに、ルークは我慢の限界から無意識のうちに必死の言葉を口走っていた。
「なにしても、かわまない・・・・・やぶったら・・・なんでも・・俺の事、好きなようにしていい、からっ・・・」
「はっ、てめえは俺のモノなんだから、そんなの最初から当然だ・・・・・けど、まあ良いだろう・・・」
今でも事実アッシュはルークを好きなように扱っているため、ルークが差し出した代償に多少不満はあるものの、ルーク自身の意思でそんな言葉を聞けただけでも良いだろうと、アッシュはとりあえず今回はこれで許してある事にした。
「今自分で言った事を絶対に忘れるな・・・・もし、またやぶりやがったら・・・・・今度はてめえを攫って閉じ込めてやる・・・」
アッシュが一方的に告げたその言葉も、もはや快楽に染まりきりただ嬌声を上げるルークには届いてはいなかった。
そのルークの姿にアッシュはまた深い狂喜の笑みを浮かべ、よりいっそう強く腰をうちつけるとルークの中に自身の熱いものを全て注ぎ込み、その瞬間ルークは殊更高い嬌声を響かせてそのまま意識を失った。
そしてそのままずるりと崩れ落ちたルークの身体を反転させ自分の方に顔を向けさせると、アッシュは取り出した小瓶の中の液体を口に含んでそれを気絶したルークに口付けて飲ませた。
気絶しながらもごくりと喉が動いて全てルークが飲み込んだのを確認すると、アッシュはそのままルークの身体を暫くただ抱きしめていた。
その時自分がどんな表情をしているのか全く気づく事もなく。












意識を失ったルークを抱きかかえ、アッシュはルークが泊まっているセントビナーの宿屋まで彼女を運んできていた。
ルークが気絶した後に口移しで飲ませたエリクシールで自分がつけた脚の傷は完全に治っているが、あのままあの場に放置して帰るのはどこか躊躇われたのだ。
この様子ではおそらく朝まで目を覚ますことはないだろうから、朝ルークがいなかった時にルークの仲間達に騒がれては厄介だと思ったためである。
それ以外にもアッシュにはルークを放置できないわけがあったのだが、そのことについてはアッシュ自身まるで気づいてはいなかった。
3つ並んでいるベッドの中、扉付近のものと真ん中のものは既に占拠されている。
唯一空いている窓側のベッドがルークが寝ていたものなのだろうと思い、アッシュは他の2人を起こさないようにそのベッドに近づくとルークをベッドの上に寝かせた。
そしてそれが終わればすぐにでも立ち去ろうと思っていたのだが、あれだけの事をされた後にも関わらず、すーすーと寝息をたてて寝ているルークの顔に何故か釘付けになってその場を動く事が出来ずにいたその時だった。
「・・・んでさ、何時のまでルークの寝顔拝んでるの?」
「なっ・・・?!」
突然かけられた声に驚いてそちらを見てみると、そこには確かに先程まで寝ていたはずのリリスがしっかりと起きてこちらを見ていた。
そのことに驚いて目を見開いたアッシュだったが、すぐに自分の上げた声に慌てて寝ているルークとティアを確認した。
「ああ、大丈夫よ。今この宿屋の中、どんなに大声出しても皆起きないようになってるから」
「そういう術をかけたから」とにっこりと微笑むリリスに、アッシュは警戒の色を強めていく。
「てめえは・・・この間俺たちの足止めをしてくれた・・・」
「そういえば今回はちゃんと挨拶してなかったわねぇ・・」
「・・今回は?」
リリスの引っかかる物言いに怪訝そうな表情をするアッシュに、逆にリリスは満足そうな表情を浮かべていた。
以前ルークがアッシュにコーラル城に攫われた時、1度アッシュとリリスは会っているのだが、その時はまだだとリリスがアッシュの記憶を適当にいじったのはどうやら上手くいっているらしい。
そしてリリスは怪訝そうにしているアッシュは無視し、勝手に2度目の自己紹介をはじめる。
「マルクト帝国第三師団副師団長兼カーティス大佐の副官兼ルークのお世話係のリリス=リリン=カバラよ」
「・・・お世話係?」
「そうそう。まあ、それはとりあえず今は置いておくとして。・・・・・あんたに1つ忠告しておくわね」
「・・・忠告だと?」
やはりリリスの言葉に怪訝そうな表情をしているアッシュだが、そこにはどこかリリスへの恐れが感じられた。
おそらく記憶からは消されていても、本能的にコーラル城の出来事からリリスへの強い苦手意識と警戒心が呼び起こされたのであろう。
本人さえ気づいていないその事実に、リリスは気づいてとても満足そうに笑った。
「うん、忠告。あのさ・・幾らなんでも、いい加減気づかないと、嫌われた上に誰かにとられてからじゃ、遅いわよ?」
「・・・何を言っている?」
リリスの言葉にアッシュは本当に解らないといった様子だった。
しかし何故か図星をつかれたように感じ、心のどこかがずきりと痛んだ気がした。
「ん〜〜、自分で考えるのね〜〜。私はあんたの味方じゃないしね。・・・っていうか、基本的には誰の味方でもないし」
「・・お前はマルクトの軍人じゃねえのかよ。マルクトの奴等の、こいつの味方じゃねえのか?」
リリスの言葉の意味をアッシュは完全に理解が出来ないといった様子だった。
しかしそれは無理もなく、マルクトの軍人ならマルクトの味方であるはずなのだ。
ましてやルークとは仲間として旅をしているのだから、普通のものなら当然アッシュと同じ意見であろう。
だがアッシュの言葉にリリスは心底楽しそうに笑って首を横に振った。
「違うわよ〜。ん〜〜、とりあえず面白そうな位置取りだから私マルクトにいるだけだし・・・・・あ、でもマルクトというか、ルーク達の側から離れるつもりは皆無なんでそこのところよろしく」
そう言ってリリスは一概にアッシュ達の側に回るつもりはないと遠まわしに言ってる今回の言葉の意味はアッシュにも良く解った。
そしてそれを察したリリスはまた満足そうに笑うと彼女にとって最大の理由と言える言葉を口にした。
「私は・・私が面白いと思えればそれで良いのよ」
ただただ単純明確な理由ではあるが、そのあまりの言葉に呆然としたアッシュがその場を立ち去ったのは、次にリリスが「帰れ」と楽しげに口にしてからだった。











あとがき

完全版です・・・・・・;
え〜と何といいますか・・・・・・
この話のアッシュはルークの胸を揉むのが大好きな様子です;(おいっ)
そのため随分とルークの胸は成長していたりするのですが・・・・・
それに対してもアッシュさんかなり満足のご様子です;
裏場面今回短くて本当にすいません・・・
暴走するといいながらこの短さでしかもあまり表現がなかったような気がします;(大失敗かも;)
ぬるいかどうかは何時ものように皆様にお任せします。
・・・多分、今回は確実にぬるいような気がしますが・・・(こんなはずでは;)







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