What day




「うちは仏教ですから」
リョーマが開口1番口にした言葉に、部室は一気に静まり返っていた。





それはクリスマスも近づいたある日の部活の終わりのことだった。
すでに引退した3年レギュラーが勢ぞろいで顔を出したのだった。
引退しているにも関わらずよく顔を出す彼らだが全員が揃ってくるということは珍しい。
そんな中で、菊丸があることを口に出した。
「12月24日にクリスマスパーティーしにゃい?」
満面の笑みでその日がすでに楽しみと言わんばかりに言う菊丸の言葉に、最初に同意したのは桃城だった。
「いいっスね!それ」
「だろ、だろ?!」
かなり乗り気で息の合っている2人を見ながら、手塚は1つ溜息を吐いた。
「・・・菊丸。自分が受験生だということを忘れてないか?」
「うっ・・・・・」
「それに桃城も、部活を怠るな」
「ううっ・・・・・」
さすがは元部長兼生徒会長だけのことはある手塚の厳格な一言に、2人は一気にはしゃぐのをやめ顔を引きつらせている。
だが今回はそこに助け舟が入った。
「良いじゃないか手塚。たまには息抜きも必要だし」
「そうそう。それに夕方から始めれば部活に支障はないんだし」
元副部長である大石と河村のありがたい言葉に、菊丸と桃城の2人は表情を輝かせた。
それでもかなりしぶっていた手塚だったが、その後も続いた説得に結局折れてしまった。
手塚のお許しも出たことで先程以上にはしゃぐ菊丸はリョーマの手を取った。
「おチビ〜24日が楽しみだね〜〜」
だがリョーマは無言のままだった。
「どうしたの?」
「・・・俺、行きません」
リョーマのきっぱりとしたその言葉に菊丸はリョーマの手を握ったまま固まった。
そして明らかに驚いた表情でリョーマを凝視する。
「にゃ、にゃんで?」
「うち仏教ですから」
この一言に菊丸だけでなく、部室にいる全員が固まった。



「ぶ、仏教って・・・」
「関係ないんじゃ・・・・・」
暫くして元に戻った一同が次々とリョーマの言葉に冷汗を流しながら突っ込みに近い言葉を口にする。
だがそれに対してもやはりリョーマはまったく動じていなかった。
むしろ無関心に近い様子で淡々と語る。
「関係あるっスよ。だってクリスマスは本来キリストの誕生を祝う日なんすから。なのに他宗教の人間がクリスマスするのはおかしいっスよ」
「いや・・・けどさ・・・」
「『けど』なに?」
菊丸がリョーマを説得しようとしたその時、男子テニス部一同にとって世にも恐ろしい声が聞こえた。
そうここに皆が集まっている中、彼1人だけは用事があって一時場を空けていたのだった。
「・・・ふ、不二!」
音も気配もなく部室に入ってきたその人物を確認すると、リョーマ以外の全員がかなりの逃げ腰になっていた。
「まあ、それは一先ずおいておいて。英二、余命短くしたくないのなら、僕のリョーマくんから手を今すぐ放してくれない?」
にっこりと微笑んではいるものの、それは明らかに魔性の微笑だった。
「は、放します!はなします!!」
その様子があまりも恐ろしすぎて、菊丸はコンマの速さでリョーマから手を放した。
その行動の速さには満足したようで、不二は首を静かに縦に1度振ったが、完全には機嫌が直っていないようで、周りの者は緊張状態が続いた。
「ああ、それから。リョーマくんは24日僕と2人っきりで過すから、どの道パーティーには参加しないよ」
不二の「2人っきり」の部分を強調するその一言に、一同驚いたように目を見開き声を漏らした。
一方リョーマも「何言ってるんだ」と言ったように驚いた表情をしていた。
「じゃあ、僕達はこれで帰るからね」
それだけ告げると不二は何やら文句を言っているリョーマを彼の鞄ごと、まさに攫うという表現が当てはまるように連れて部室を出て行ったのだった。



不二の登場から2人が出て行くまでの一連の流れにまだ一同が呆然としている中で、唯一呆然としていなかったといえる人物が思い出したかのように口を開いた。
「そうそう。俺と海堂はパーティーに参加するけど、途中で抜けさせてもらうから」
「ちょっ・・・なに勝手なこと言ってるんスか、先輩!」
乾のその言葉に海堂は反射的に正気に戻って抗議するが、結局は先程の不二とリョーマと同様の状態になり乾に連れられて部室をあとにした。
あとには2つの発言を聞き、嵐の後のようにただ呆然としている一同がいた。






部室を出た後の帰り道、不二が何を話しかけようとリョーマは無視を決め込み、ただ黙々と歩いていた。
「リョーマくん、ずっと黙ってどうしたの?」
あまりにもリョーマが無視を決め込みすぎているので、不二はリョーマの顔を覗き込んで尋ねた。
するとリョーマはため息をついた後、不機嫌そうな表情でようやく反応を返してくれた。
「周助が勝手に1人で決めたからだろ」
「なにを?」
「・・・・・・クリスマスに、2人っきりで過ごすって」
口籠りながら顔を赤くし、目線を不二からそらしながらそう言う。
その様子か、2人で過ごすことに関しては、満更でもないということが不二には伺えた。
むしろ原因は別の方にあるということが良く解った。
「僕はクリスマスに一緒に過ごすなんて言ってないよ」
不二のその一言にリョーマは目を見開いて驚いた。
「えっ・・・・・・だってさっき」
「僕は『クリスマスに』でなく、『24日に』2人っきりで過ごすって言ったんだよ」
「・・・・・・同じじゃん」
「違うよ。だって僕はキリストじゃなくて、リョーマくんの誕生日を祝うつもりだから」
不二のその言葉にリョーマは先程よりもさらに驚いて目を見開いた。
「な、なんで俺の誕生日・・・・・・」
「好きな人のことは何でも知ってるものだよ」
リョーマの言葉を先読みして、不二は満面の笑みで得意げに答える。
「リョーマが不機嫌だった理由は、クリスマスのせいで自分の誕生日の存在がないみたいな感じがしてたからでしょう?」
どうしてこの恋人は自分の本音を探るのが得意なのかとリョーマは多少恨めしく思えた。
だがその質問をしてもまた「好きな人のことはなんでも」と返されそうなのであえて黙っておいた。
「ね?だから君の誕生日は僕と2人っきりで過ごして」
「・・・・・・解った」
顔を真っ赤にさせ俯かせてぶっきらぼうにリョーマは答えたが、その反面どこか嬉しそうだった。







12月24日、リョーマの誕生日当日。
不二がリョーマを連れてきたのは、見ただけでとても高級だと解るレストランだった。
予想外の事態と店の雰囲気に落ち着かなかったり、不安になるリョーマに対して、不二はいつもどおりの余裕の笑みを浮かべていた。
「せ、先輩・・・こんな高そうなところ大丈夫なんスか?」
「心配しないで良いよ。母さんや姉さんに協力してもらったから」
さすがの不二でも自分の持ち金だけでこんな高級なところに来れるわけがないので、事前に母親や姉に協力してもらっていたということにリョーマは不二の母や姉に申し訳ない気分にもなった。
もっとも不二はあえて言わなかったが、今回の件には不二家だけでなく、リョーマの家も全面的に協力しているのだった。
その事実を言わなかった理由はリョーマの母親に口止めされているためでもある。
「だから遠慮せず好きなもの頼んで良いよ。今日はリョーマくんの誕生日なんだし」
不二のその言葉に最初は心配そうにして消極的だったリョーマも、段々と乗り気になって楽しそうに料理を次々注文し始めていた。



「はい、リョーマくん」
料理が運ばれてくるのを待っている間に、不二はリョーマの前に綺麗にラッピングされた1つの箱を取り出した。
「これ・・・・・」
「誕生日プレゼントだよ」
にっこり微笑むできっぱりとそう告げる不二の言葉がリョーマにはそれだけで嬉し
かった。
今まで24日にもらうプレゼントといえば、『クリスマスプレゼント』、もしくは『クリスマス兼誕生日プレゼント』であって、『誕生日プレゼント』単体をくれたのは両親だけだったからだ。
だからリョーマには不二がはっきりと『誕生日プレゼント』と言ってくれたことがうれしかった。
「あけても良い?」
「どうぞ」
不二の了承の言葉を聞くとリョーマは、明らかにわくわくしているといわんばかりの雰囲気を纏っている。
その様子に不二も満足そうに微笑んでいた。
やがてリョーマが箱を開けて出てきたのは、シルバープレートのペンダント、中央に紫色の石がはめ込んであるものだった。
それもかなり高価そうなものだった。
「周助これ・・・」
「さすがにそれは自分のお金だけでかったよ。」
そういうことを聞こうとしてのではないのだが、不二のその言葉で「まあ良いか」と、リョーマは納得して満足げにペンダントを眺めた。
そして暫くしてふとあることに気が付く。
「周助・・・これ、欠けてない?」
よく見るとペンダントの下の方は不自然な途切れ方をしていて、途中で欠けていることが解る。
「う〜ん・・・欠けてるというか、それわざとだからね」
「えっ?」
「ほら、もう半分はこっち」
そう言って不二が取り出したペンダントはリョーマと似た形のもので、中央にはめ込まれているのは水色に薄い緑を混ぜたような色の石だった。
「この2つはペアなんだけど、もともとは1つなんだよ。リョーマくん、ちょっとそっちかしてくれるかな?」
不二にそう言われてリョーマがペンダントを渡すと、不二は自分の持っていたペンダントとリョーマのペンダントを継ぎ目で合わせた。
「あっ・・・」
「ね?ぴったりでしょ?」
2つのペンダントはパズルのピースのようにぴたっりとくっついて1つになっていた。
そして不二はリョーマに片方のペンダントを渡した。
「リョーマくんの方にはめ込まれている石はアメジストで僕の誕生石、僕の方にはめ込まれてるのはターコイズっていって、リョーマくんの誕生石なんだよ」
「俺と、周助の?」
「うん。いつでもお互いが一緒にいられるようにって」
不二のその一言にリョーマは恥ずかしさのあまり一気に顔を真っ赤にさせた。
「ばかっ」
その一言が照れ隠しだと解っている不二は、リョーマのその様子に満足そうに微笑んでいた。
「Happy birthday, RYOMA」



その後、2人が揃いのシルバープレートのペンダントをしていることがちょっとした噂になったという。









あとがき

リョーマさんお誕生日おめでとうございます!
そしてにもかかわらず中途半端なものを仕上げてすいません!!
行事が誕生日の人の中にはそのせいで嫌な思いをする人もいるということをテーマに今回の話を書きました。
実際に私は自分の誕生日が行事ごとのために、嫌な思いをしている人間です。
それを理由に昔よくからかわれたりしました。
向こうは冗談とかで言ってるんでしょうが、言われる側は本当に腹が立つんですよ。
なので本気でキレたことは多々あります。
今でも触れられたらキレます。
本当にああいうのは皆さんやめてくださいね。
まあ、本物のリョーマさんはそこまで拗ねた性格してないでしょうが、今回はあえて。
世間では『24日はクリスマス・イブ』が常識でも、テニプリファンには『24日はリョーマさんの誕生日』が常識ということで!
ていうか、日本人は本当にお祭り好きな人種だということも踏まえたお話でした。

P.S.乾先輩と海堂先輩はどうなったのか解りません(^^;







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