雪合戦
ベッドから出ようとしてみたら、そこは予想に反してとても寒かった。
「うわっ!寒い、さむい!!」
慌ててベッドの中に逆戻りし、ぎゅっと羽毛の掛け布団を握り締めて丸くなる。
「なんで、なんで?!昨日は暖かったのに?!!」
すでに季節は冬から春へ・・・・・
そんなわけで数日前から、奈落の気候は穏やかに暖かくなっていた。
その代わり、冬の風物詩である雪が溶けてしまい、奈落王とはいえまだまだお子様思考のアレクはとても残念がっていたのはついこの間のことだ。
それなのに、今朝は冬の朝のように寒いのか。
「あ、アレク様!大変です!!」
慌てて部屋に駆け込んできたサフィルスがその答えを持ってきた。
城の庭園に集まった一同はぽかんっと真っ白に染まった庭園をただ見つめていた。
見渡す限りの、白、白、白、白銀の世界。
春になったばかりだから、などと言うには生易しすぎるくらいの量の雪が城の庭園に積もっていた。
その厚さ、5メートルは積もっているだろうと思われる。
城の1階の窓からは完全に外の景色を伺うことなどできなくなっていた。
「ど、どうなってるの?これ」
「さあ・・・・・」
呆然として立ち尽くす中、朝早くからこの騒動で城下に出ていたルビイとカロールが帰ってきた。
「城下もほぼ同じ状態やったで」
「ええ・・・見渡す限り一面、氷雪です・・・・・」
雪の中を往復して歩いてきたためか、さすがに2人の息も上がっていた。
「しかし、何が起きたんでしょうね・・・・・」
春先に雪がこれほど積もることなどまずないだろう。
しかし、『王の石』なら天候を操れるから可能だろうが、当の『王の石』の持ち主であるアレク自身がここで呆然としているのだから、その可能性はまずない。
となると・・・・・・
「アレク〜〜〜〜♪」
そこに突然現れたのは雪と変わらぬ白さを持つ少女の姿をしたスノウだった。
現れるなり、一同が呆然としていることさえも気にもせず、誰に遠慮することもなくアレクに抱きつく。
その瞬間、プラチナのが抜刀した。
「スノウ・・・・」
「あっ!いたの?ってきり、寒さでダウンしてると思ったのに」
ちっと舌打ちして見せたところを見ると、本当にプラチナに気づいていなかったようだ。
いかにも、残念といった様子でプラチナが抜いた剣にひるむことなく、火花を散らしあっている(雪の守護王なのに・・・)。
そして、火花を散らしあっているプラチナとスノウ、その間に挟まれている『賞品』よろしくのアレク以外がスノウ出現とほぼ同時に感づき、一斉に心の中で思った。
『こいつが犯人だ!!』
なにしろ、スノウはこんなのでも『冬の守護王』。
雪をこれだけ積もらせることなど大したことではないのだろう。
「・・・スノウ、君が犯人かい?」
「そうよ」
疑問系の聞き方ではあるが、ベリルのそれは確信をもっての問いかけだった。
そしてスノウはそれにあっさりと答える。
「どうしてこんなことしたんですか?!」
「だって、アレクが雪が溶けてつまらなそうだったから・・・それに」
スノウはにやりと極悪非道そうな表情を作り、怪しげな笑みをこぼした。
「プラチナ寒いの嫌いだから、嫌がらせになると思って」
一同呆れて物が言えない状況にたたされてしまった。
たったそれだけの理由で自分たちは朝から慌てふためいていたというのか。
「スノウ・・・貴様・・・・・」
この雪が自分への嫌がらせを含んでいることを知ったプラチナは先ほどにも増して怒りを露にした。
「まあ、いいじゃん」
しかし、その禍々しい空気をあっさり打ち破ったのはアレクだった。
「あ、アレク様・・・」
「ありがとな、スノウ。俺もう1回くらい雪で遊びたかったんだぁ」
「うん♪どういたしまして」
おそらく、プラチナへの嫌がらせという部分は聞いていなかったのであろうアレクがスノウの手を握り締め、満面の笑顔でもってして礼を言う。
そしてスノウは、アレクからお礼を言われたことでその期限のよさが最高潮に達しているようだった。
その様子(というよりもアレクのご機嫌ぶり)に一同はスノウに対する怒りや憤りが失せてしまったようだった。
無論、プラチナも・・・・・
雪も明日には溶けるというスノウの話で、せっかくなので本日の職務は休みにし、一同そろって雪合戦をすることになった。
チーム構成はといとサフィルスが審判でぬけ・・・
アレク、ルビイ、プラム、ベリル、スノウのチームとプラチナ、ジェイド、カロール、ロード、ジルののチームである。
ようするに、アレク側にスノウが入り、サフィルスが審判で抜けた以外は、継承戦争の時のメンバーということになる。
それではただいま準備中の各チームの会話をお聞きください。
誰が誰かはご自分で判断してください。
プラチナチーム
「なぜ、俺と兄上が別チームなんだ・・・」
「っていうか、むこうにスノウがいる自体が反則だよな・・・・・・」
「まぁ、皆さん頑張ってください」
「おいっ!ちょっとまてよ」
「あなたもちゃんとやってくださいよ」
「いえ、いえ。私はこういうのには不向きですから。坊ちゃんでもかまっておきますよ」
「「ちょっとまて(ください)」」
「おまえ達・・・・・」
「「「「えっ?」」」」」
「スノウを集中攻撃するぞ」
「ぷ、プラチナ様・・・?」
「完全に目が据わってるな」
「おい、おい、おい・・・」
「ジェイド、お前もまじめにやれ」
「りょ、了解しました・・・・・」
「ただし、兄上だけには当てるなよ・・・」
「「「「・・・・・・・はい」」」」
アレクチーム+α
「アレク、頑張ろうね♪」
「うん♪」
「それにしても、君が審判をするべきではないのかい?」
「だって、見てるだけじゃつまんないもん」
「まあ、スノウがおったらこっちは勝ったも同然やし。ええやん」
「ルビイさ〜〜〜ん・・・・・」
「うふふふっふ〜〜♪たのしみです〜〜〜」
「ねえねえ・・・作戦でもたてようか?」
「おおっ!ええなそれ」
「さっすがアレク〜〜〜」
「そうだね・・・じゃあ、サフィルスにジェイドの気でもひきつけておいてもらおうか」
「いいね〜〜それ〜〜」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ!なんで、そんなこと・・・それに私はチームからはずされてるんですよ!!」
「んで、あたしはプラチナを集中攻撃するね」
「スノウ・・・・・」
「君はそれがやりたいだけでしょ」
「まあね!!」
「君は、玉作り専念して」
「え〜〜〜〜〜〜」
「君が攻撃に入ると怪我人出る恐れがあるからね」
「たしかに・・・・・・ありえるな」
「あの・・・皆さん、少しは私の話を聞いてください・・・」
各チーム、各人の思惑をよそにいよいよ雪合戦が開始された。
雪球が大量に空中を乱舞して、それぞれのチームには開いてチームにいる1人を集中攻撃しようとするものがいるので、ある意味とても醜い争いになっていた。
「こらっ!スノウ、卑怯だぞ!!」
「自分の能力を有効活用してるだけじゃない!!」
スノウはその能力で持ってして、実際に積もっている雪から雪球を精製するのではなく、雪球そのものを新たに出現させていた。
その為、アレクチームのほうが攻撃する回数が断然に多くなっていた。
「・・・やはり、スノウは潰しておくべきですね」
「そうだな。プラチナの思惑は別として」
「ロードの言うとおり、あれははんそ」
カロールが話している途中で、その顔面に雪球が見事なまでにクリーンヒットした。
やったのはルビイだった。
「あっ・・・・・えっと、すまん」
さすがに顔面直撃だったのは悪いと思ったのか、すぐさま素直に苦笑しながらルビイは謝った。
しかし、カロールからの返事はなく、その場に静かに佇んでいるだけだった。
しばしの重たい沈黙の後、ようやく顔を上げたカロールの顔には満面の笑顔が張り付いていた。
そして次の瞬間・・・
「ぐあっ!!」
カロールが手に持っていた雪球を物凄いスピードでルビイの顔面に確実に狙ってなげ、それは見事に命中し、ルビイは奇妙な声を発してその場に倒れた。
「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」
一同はカロールの鬼のような形相を見て完全に固まってしまった。
スノウでさえも目を大きく見開いている。
完全に怒っている様子のカロールの背後からなにか黒いオーラが出ているようで、一同は恐怖で震えた。
「なにすんねん!!」
生還したルビイがカロールにすかさず怒鳴りつける。
が、カロールはそれを受け流して言い返す。
「あなたが最初にしたんじゃありませんか」
「誤ったやんか!」
「誤ればすめばいいというものではないです」
「・・・・・こうなったら俺らだけで勝負つけよか」
「望むところですよ。お兄ちゃん」
かくして、チームなど完全に無視したルビイとカロールによるくだらない理由から始まったレベルの低い兄弟げんかが始まってしまった。
ただし、レベルが低いといっても、その理由や勝負方法自体がレベルが低いというだけで、2人の周りには「触らぬものに祟りなし」状態で、誰も近づこうとも止めようとも、声をかけようとすらしないほど激化していた。
「・・・とりあえず、ルビイさんとカロールさんは試合放棄ということで」
「それが懸命だと思うよ、審判」
「あの周辺にだけは行きたくねーな・・・・・」
ロードの言葉に尤もだといって全員頷いた。
しかし、この全員が目をそらしている隙に1人だけいそいそと隠れて行動している人物がいた。
「プラチナ!覚悟〜〜〜〜〜」
「っ!!」
その大袈裟なほどに大きな声に反応して、思わずプラチナは抜刀して身構えた。
すると、スノウが投げた雪球は雪球にしてはありえない音を立てて真っ二つに割れて雪の上に落ちた。
「・・・・・・・・・・・・・おいっ」
「ちっ!防いだか」
「いや・・・そうではなくて、今の音は・・・?」
慌ててサフィルスが確認してみるがそこには形が、崩れた雪球があるだけだった。
「・・・・石とかは入ってなかったみたいですけど」
「いやっ・・でも、今の!普通の雪球きった音じゃないだろ?!」
普通ではやはり普通の雪球だったというのが上等なのだろうが、相手は『冬の守護王』・・・・・小細工くらいなんとでもなる。
一同の白い視線がスノウに降り注がれる。
その瞬間、またプラチナめがけて今度は頭上から雪球のようなものが落ちてきた。
それも何とかプラチナはかわして見せた。
スノウは相当悔しいようで、不機嫌を露にしている。
「・・・・・・・これ、雹です。しかも結構大きい」
ジェイドの言葉に一同の目線がそれに行くが、すぐにスノウに白い視線が再び降り注ぐことになる。
ジェイドの言うと通りそれは確かに雹であった。
ただし、硬度は普通の雹とは比べ物にはならず、石程度の硬さは十分ある。
その事実を知ったあとのプラチナの背後に先ほどのカロールと似て非なるような黒いオーラが出たような気がして一同はすかさず緊急避難を試みた。
「スノウ・・・貴様っ」
「うふふふふふっ・・・プラチナ、『試合』じゃなくて、『死合』の雪合戦してみる〜〜〜〜?」
スノウにも似たようなオーラが出てきて、ますます一同の危険感知能力は危なくなってきていた。
その瞬間、雪合戦と称した、武器持込可、なんでもありの、プラチナVSスノウの何度目かの『アレク争奪戦』が開始された。
結局、プラチナとスノウのけんかは我慢の限界に達したアレクの「けんかするなら当分口利かない」発言によって、一瞬のもとに駆逐された。
ただし、それまで止めなかった被害葉損大で、明日溶ける予定だった雪は1週間後に溶けるであろうという予定になり、寒さも真冬並になっていたという。
春がくるのはまだ先のようだ・・・・・
ちなみに、ルビイとカロールが兄弟けんかを止めたのはさらにプラチナとスノウのけんかが終わった2時間後だったという。
あとがき
今回も意味なし落ちなしの作品が出来上がってしまいました(汗)
スノウは猛吹雪を起こして一晩で雪を積もらせました(爆)
1番迷惑だったのはまったく関係ない奈落の一般人様方です。
今回ルビイとカロールの兄弟げんかが結構お気に入りだったりします。
カロールの「お兄ちゃん」発言やはり好きです。(なのでゲームでの和解イベントはこの2人が1番好きですv)
そして、やはり1番強いのはアレクですね・・・