トレミーに着艦した刹那を迎えたのは懐かしい感覚だった。あの時のプトレマイオスではない、似たようなもの。己の中にも感傷というものがあったのかと軽く驚きつつ、しかしコックピットから降り立つと見慣れぬ景色ばかりでやはり四年前とは違うことを思い知らされた。
エクシアも力を失った。否、時代が力を得たのだ。量産型の機体にさえ敵わず手足をもがれたこのエクシアはもう動けないだろう。たった四年。四年もあれば世界は変わる。刹那が手に入れられたものは何もなかった。

「刹那・F・セイエイ」

エクシアを見上げる刹那の背に声を投げかけたのは、ぱっと見は変わらないがあの頃より精悍さが増したティエリアだった。隣に並ぶ事無く、ドアの前に立ったまま刹那を見つめる。

「来い、この艦でその格好は許されない」

言われて自分の姿を見下ろす。潜入目的であったため、地味な配色の凡庸としたスーツだった。一つ頷くとティエリアは背を向けて歩き出した。再びエクシアを見上げて刹那は続く。
プトレマイオスよりも広いだろうか。まるで案内でもしているかのように彼にしては殊更ゆっくり進む。昔は遥か見上げていた背中が近くなったような気がした。
やがて辿りついた部屋は出撃準備用の更衣室だった。ロッカーは四つ。

「これが君の新しいスーツだ。以前の物より耐久性、柔軟性ともに優れている」
「分かった」

わざわざ中からスーツを取り出したティエリアから受け取ろうと刹那は手を伸ばす。ふ、と彼の目がこちらを見ているのに気付いた。きゅっと眦を寄せて唇を噛み締めるその表情を刹那は知っている。あれはロックオン・ストラトスが、

「!」

伸ばしたままの腕を引かれて刹那は前へ体勢を崩した。立て直す暇もなくティエリアに被さられるが如く抱きしめられる。拘束するかのような力の入りように一瞬だけ目を丸くするが、肩口に埋められたティエリアの口から零れる吐息が余りにも苦しそうだったので、刹那はそっとその背に腕を回した。

「・・・・・・温かいな」

呟かれた言葉は耳元でさえも聞き漏らしそうなほど小さかった。刹那の方が若干小さいとはいえ、昔ほどの差はなくなった。こんなにも細い人だったか。

「生きているものはみな温かい。お前だってそうだろう」
「俺は・・・・・・こんな世界で生きていけると思わなかった・・・」

引きつる声が聞こえた。刹那は堪らなくなってティエリアの背を優しくさする。かつての大きい掌を思い出しながら、壊さぬようにそっと。
更に力が込められて体が軋む。この男は細いくせに貧弱ではない。
肩に食い込む指が痛かった。

「それでもお前は生きている、ティエリア」

じわりと肩が熱くなる。

「生きてるんだ、今も、俺達だけ」





ああ、ニール。お前の愛しい子が泣いてるよ。
この子は伝えられないまま生きてしまったんだ。
変わることも許されず、あの日のまま。ずっと。