軽く拭いただけなのにすっかり汚れてしまった一枚目のタオルが乱雑に打ち捨てられている。その横で新しいタオルにくるまれながら子供は大人しくしていた。先程のティエリアの一撃が余程利いたのだろう、あれから反抗はしないが喋りもしない。
騒がしくなくて良いことだ。
子猫の騒がしさは好きじゃない。
ティエリアはぺろりと子供の鼻を舐めあげた。

「わあ、随分綺麗になったね」

アレルヤが覗き込んだ先には、ティエリアの努力の甲斐あって漸くボロ雑巾から子猫の姿を取り戻した子供がいた。黒ずんでいた毛は濃淡二色の柔らかな灰色で、ちゃんと洗ってやれば綿毛のようになりそうだ。
ティエリアはやっと終わったとばかりに子供の隣で丸まる。ずっと舐めてやっていたせいで舌の感覚がほとんどないが、すっきりした子供の姿に、満足そうに咽を鳴らした。

「僕も毛繕いしていいかな」
「好きにしろ」

ティエリアが伏したまま動かないのでアレルヤは二匹へ近付いた。恐る恐る子供の背中を舌でなぞると、微かに震えたが嫌とは言われなかったので上機嫌で続行する。ティエリアは薄目でその様子を見ていた。

「ねえねえ、ティエリア」
「なんだ?」
「こうしてるとさ、僕達夫婦みたいだよね」

他意はない。本当になかった。
しかしアレルヤは思ったことをすぐ口に出してしまう猫だった。
心底嫌そうに歪められた顔のティエリアに容赦のない蹴りを浴びせられたアレルヤは、その後どんなに謝っても口を利いてもらえぬどころか子供にも一切触らせてもらえなかった。