「苦しいですか」

ぜえぜえと荒い呼吸が響く中、ジェイドはベッドの端に座っていた。柔らかい布団に身を沈めているルークは辛そうに眉を寄せている。熱のせいで赤みの差した頬をそっと撫でれば、自分の指との温度差にジェイドは静かに驚いた。

「大丈、夫」

放たれた声は掠れていてとてもそう思えるものではなかったけれど、ルークが気持ちよさそうに目を細めたのでジェイドは何度か撫で続けた。
窓の外ではしんしんと雪が降り続けている。月明かりが白い雪に反射して暗い部屋の前まで微かに明かりが差し込んできた。

「もう大丈夫だから、ジェイドも休めって」
「貴方が寝たら戻りますよ」

肩まで布団を掛け直してやると暖かさにルークは目を閉じる。不思議なもので人の体温で暖められた布団には眠気を誘うものがあった。うつらうつらとし始めたルークを見てジェイドは笑みを漏らす。
ふと変な事を思った。
もし自分に子供がいたらこんな感じなのだろうか。病気で伏せった子供のために夜通しで看病してやるのだろうか。こんな風に心配するのだろうか。
年齢から考えればおかしな話ではない。しかしジェイドにはいまいち分からなかった。そもそも家庭を持つなど自分にはありえない話なのだ。

「なあジェイド」

すっかり寝たものだと思っていたルークが口を開く。思いの他はっきりとした口調だったのでジェイドはまじまじとルークの顔を見た。しかしルークは視線を合わさずに天井をじっと見上げている。

「俺、ジェイドには生きていてほしい」
「なに、を」

声が震えた。
息を細く吐いて平静を取り戻そうとする自分が信じられなかった。
何を動揺することがある。

「生きてきっと世界を見届けてくれよな」
「ルーク、貴方は・・・・・・」

はっとしてジェイドは口を噤む。言うだけ言って満足したのかルークはもう寝息を立てていた。相変わらず苦しそうだったけれどその表情は少しだけ和らいでいた。
戦闘時とは違うあどけないその顔にジェイドはやりきれなさを感じた。

なぜこの子供だけがこんなに辛い思いをしなければならないのだ。
世界から隔離され、人々から見放され、明日にでも訪れる死に怯え、それでも未来のために命を削らなければならない。
この熱だって音素乖離で死んでいく細胞が原因だった。
なのになぜこの子供は私の心配などするんだ。
全ての苦しみは私が作り出したものなのに。

それでもジェイドは思う。
ルークと家庭が作れたらと。
叶わないのなら自分を殺そうと決めていた。
彼が息絶える時には共に世界の音素となりたかった。