「ジェイドは俺が嫌いなのか」

ある日思い切ってそう尋ねてみた。
いつのものように殴られて、いつものようにグミを与えられた。日中の戦闘で疲れ果てていた体にはもう力が入らない。ぐったりと床に這いつくばったまま口にした言葉は思いの他すんなりと出てきた。
嫌われるのが怖くて今まで必死に飲み込んできた疑問だったのに、今はどうでもよく感じる。ただ疲れた。

「私が、貴方を、嫌い?」

まるで心外だとでも言いたそうにジェイドは一言一言区切って繰り返す。それが本当にびっくりした風だったからルークはむっとした。

「嫌いだから俺を殴るんだろう」
「貴方は嫌われていると思っていたのですか?」

何を当たり前の事を言うんだ、こいつは。
散々殴られて罵られて、これで嫌われていないと思えるヤツがいたら顔を拝んでみたい。ルークは腹が立った。

「好きな人を殴る馬鹿がどこにいるんだよ」
「では好きな相手にはどうするんです」
「そりゃあ・・・・・・って、は?」

ルークは思わずがばっと起き上がった。体の節々が痛んだけれどそれより今は目の前で優雅に立つ相手が信じられなかった。まじまじとジェイドの顔を見てみても冗談の色はこれっぽっちも浮かんでいない。
更にどっと疲れてルークは後ろにあったベッドに背をもたれかけさせた。地べたに座ったままの下半身が夜の冷気に熱を奪われていく。
そんな事を聞かれても、ルーク自身まだ一般論というものが分からない。だからガイにしてもらって嬉しい事を頭に思い浮かべた。

「普通は・・・・・・抱きしめたり、優しくするもんだろ」
「なるほど」

なんとなく恥ずかしくなってルークは顔を背けようとしたが、それよりも早くジェイドが膝をついて目線を合わせてきた。また殴られると思い体を強張らせると、ほぼ同時にジェイドが両腕を広げた。
今度は往復ビンタでもする気らしい。

「こうですか?」

しかしジェイドはルークに手を上げる事はなく、その胸の中に閉じ込めるだけだった。ルークの体を包み込むようにぎゅっと抱きしめる動きはぎこちなかった。だからルークも何が起こったか分からなかった。
本当になんなんだ、こいつは。俺を馬鹿にしているのか。

「ジェイド、お前・・・・・・」

頭は大丈夫か、という言葉はくぐもった呻きに変わった。確かに抱きしめられるのは殴られるのよりよっぽど良かったけれど、その力があまりにも強すぎて絞め殺されるんじゃないかとルークは不安になった。

「ああ、これはいいですね」

新しい虐め方でも発見したようだ。その声は生き生きとしている。

「好きですよ、ルーク」

愛していますと益々力を込められて、ルークはジェイドの肩口で窒息死しそうになった。