ルークは手持ち無沙汰に足元の草を引っこ抜いた。思いの外ぶちっと大きい音がしてルークは驚く。指を離すと草は落ちていき、その手を見ればほんのり緑色に染まって青臭さが鼻についた。 火は起こしたし薪も集めた。荷物の整理はとうに終わっている。あとは水を汲みに行ったティアとガイを待つばかりだ。 (暇だ・・・・・・) 他に何かする事はないかと考えたけれど、特になかった。動いている間は気にしなくて済んだ。しかしやることがなくなると途端にこの空気が痛い。向かいに座るジェイドは涼しい顔で本を読んでいるというのに。 (イオンとナタリア大丈夫かな) 今はまだ遠いダアトに思いを馳せる。アクゼリュスを消滅させてから会っていなかった。気まずい別れはルークの心に深くのし掛かる。 それでも大切な仲間だ。助けなければならない。 そんな事を考えていると不意に視線を感じた。反射的に顔を上げるとジェイドがこちらを見ている。 「な、なんだよ・・・・・・」 「いえ? 別に」 そう言ってジェイドはまた本に目を落とす。まじまじとルークがその端正な顔を見つめても視線が交わる事はなかった。少し前の自分なら食ってかかっていたかもしれないが、今はただその視線に萎縮するだけだった。 ティアは見守っていてくれると微笑んでくれた。ガイは昔と変わらずに接してくれた。ひょっとしたらという考えがなかった訳ではない。 ルークは期待していた。 当然そんなに現実は甘くなく、ジェイドから手厳しい挨拶を受けたのが数時間前。 ある程度は覚悟していたけれど下手に期待していただけに辛かった。もしかしたら今までどおりに、と。 (バカだな、俺) 立てた膝に顔を埋めてそっと溜息をだす。うじうじしてる暇も資格もないのに心は折れていく。横暴なまでに自信過剰だったあの頃の自分を殴り倒してやりたい。 思えばあの頃は恵まれていた。あんなおぼっちゃまに皆は呆れながらも、それでも一緒にいてくれた。それがどれだけ幸せだった事だろう。 (遅ぇなあいつら) 頭から考えを追い出そうと首を捻って二人が向かった先を見つめる。そのときにまたピクリと肩が震える。そっと目だけを動かすとジェイドの強い視線が突き刺さっていた。 バッチリ目が合ったにも関わらず、ジェイドは焦る事なくそのまま見続けてくる。居心地が悪くなったのはルークだった。 「・・・・・・何か用でもあるのか?」 「まさか」 意を決して声をかけてみるも、ジェイドは鼻で笑って視線をそらした。さっきから意図的に見られている気がしてルークは息が止まりそうになった。 また何かやらかしたのだろうか。さっきの戦闘でミスをしたのか、ガイとの会話でまた俺様発言をしたのか、もしやこうして向かい合ってることすら不快なのか。 なばら視界から外れようとルークはもそもそ動き出した。真向かいにいるのが悪いのかもしれない。 「どこに行くんです」 「え、あ、いや・・・・・・ちょっとケツが痛くて」 言ってから口を抑えたものの遅いに決まっていた。これじゃあまた親善大使様の再来じゃないか。ルーク様は地べたに座る事も出来ませんかそれは失礼。 またジェイドにネチネチ・・・ではなくストレートに言われる嫌味に身構えたけれど予想外に辛辣な言葉は飛び出てこなかった。 「そうですか」 そうしてまた本に目を戻す。一体なんなんだこの男は。 面と向かって言われるのも辛いが、何も言われないのも不気味すぎて恐ろしい。かと言ってルークにそれを聞く勇気がある訳もなく。ガイとティアが戻ってくるまでの数十分間ひたすら耐えるしかなかった。 やっと戻ってきたガイにほっとした笑顔を向けた瞬間、それまで以上に視線を感じたのは気のせいではないはずだ。 |