その瞬間、ジェイドは確かに動揺した。
ネビリム先生が死んだ時だってこんなに思考がかき乱された事はない。キムラスカへ親書を届けるために立ち寄ったエンゲーブでこんな思いをする事になるとは考えもしなかったのだ。

「離せよ! 俺はやってねえ!!」
「うちの林檎を盗んだのはお前じゃないか!」
「金はちゃんと払っただろ!」

ここ数日発生している食料泥棒の犯人だと村の男は私の前に青年を突き出した。足元でギャンギャンと吠える青年は背後から腕をねじ上げられて痛みに顔を歪ませていた。
ジェイドは体の中心が疼くのを感じる。
女性よりも長く赤い髪はよく手入れしているのか絡まることなく床に広がる。ふとジェイドの頭の中に白いベッドの上に横たわる青年の姿が思い浮かんだ。まるで娼婦のように艶やかな表情で誘って―――――





「何見てんだよ・・・・・・!」

噛みつくように青年がジェイドを見上げる。いつの間にか妄想に耽っていたらしい。口調や態度は子供のように生意気だが不思議と不快ではない。ギラギラと敵意剥き出しの視線にジェイドは胸が高鳴るのを感じていた。自然と口元が笑みを形作る。

「あなた、名前は?」

はやる心を抑えいつもどおり静かに尋ねれば、青年は訝しげに首を捻る。しかし自分からは答える気はないのかジェイドと視線を逸らした。反抗的な態度に男がルークに体重をかけて圧迫する。

「大佐が聞いてらっしゃるんだ! 答えろ!!」
「いっ、つ・・・・・・!」

変な角度に腕が曲がったのか青年が眉をしかめる。
それを見た瞬間ジェイドは動いていた。

「おやめなさい」

無理矢理男を引き剥がして、青年を庇うように間に入る。他人が青年に触れるのが何故か許せなくなった。男は動揺したように目を見開いて、しかし反論する事もできず渋々と後ろへ下がった。足元では呆然と青年がジェイドを見上げる。

「私はマルクト軍第三師団所属ジェイド・カーティス大佐です」

ジェイドがすっと手を差し出せば青年は少しの間逡巡して、仏頂面で手を持ち上げた。

「ルークだ」

ルーク、と口の中で何度も反復する。それはまるで砂糖のようにジェイドを蕩けさせた。
ルークの手がジェイドのグローブに触れると、そこから熱が伝わってくるかのようにジェイドの鼓動が早くなる。空気に晒された彼の腹部は見事に割れていたけれど、この年頃にしては細いのではないかと思った。むき出しの腕は傷一つない肌理細やかな肌で、襟元から覗く鎖骨は白くそこに噛み付いたらさぞかし美味しいのだろう。
ごくりとジェイドは唾を飲む。





どうしようもなくジェイドは欲情していた。