聖職者の朝は早い。
まだ薄暗い時間に起き出して主への祈りを適当に捧げる。身支度を整えたら眠い眼を擦って朝食とお弁当の準備。良い匂いが漂う頃を見計らったかの如く起きてきた弟子と一緒に頂きます。

「師匠は今日もファーマシーですか?」
「ファーマシーとは違うんだけど、ちょっと作ってみたいものがあってね」
「作ってみたいもの?」
「メンドゴラピンクの染色液」

げ、と弟子の修道士は嫌な顔をする。聖職者はそれに気付かない振りをしながら、ウインナーをフォークの先で転がした。

「意外と難しいのよねぇ、アレ」
「よりによって何てどぎつい色を・・・」
「そーお? 私は可愛いと思うんだけど」
「ヤですよ俺は。 あんな目立つ色」

そう言う修道士の髪色は何処にでもある普通の赤茶だった。顔は整っているというよりも大人しめで、これといって特徴もない。

「貴方地味だもんねー。 羨ましいの?」
「全ッ然!」

食べ終えた修道士はがたっと立ち上がり、食器を片付けて狩りの準備を始めた。のんびり口に運んでいる聖職者は詰まらなさそうにそれを眺める。
修道士が薬品棚からリクシャ類をごっそり持っていくのを見て、益々聖職者は頬を膨らませた。あれだけの量を持っていったら夕方まで帰ってこないつもりだ。それはつまり聖職者にとって、子供が遊び道具を取り上げられた状況と同じ事を意味する。意図的に修道士がそっぽを向いているのも気に食わない。
いい度胸だ。

「あ」

聖職者は口に咥えていたフォークをぽろりと落とす。慌しく席を立つと自室に飛び込んで行った。
行儀悪いなあとため息をついて修道士はフォークを拾う。今の内に出掛けてしまおうかとも思ったが、それをすると後が怖い。程なくして聖職者が戻ってきた。

「これも持っていきなさい」

手渡されたのはヘルリクとステリク。きらきら輝くそれらは市販で売ってるものより透明度が高く、手作りだと予想される。

「師匠、これ・・・・・・」
「気を付けてね」

にっこり微笑まれては先程までの怒りなど吹っ飛んでしまって。つられて修道士も笑った。

「はい、行ってきます!」

機嫌良く飛び出して行った弟子の背中を玄関先まで見送って、聖職者は満足そうに頷く。これで今日一日は退屈しないで済みそうだ。あれを修道士が飲んだらどんな反応を示すだろうか。考えただけで笑いが止まらない。
お弁当にもちょこっと細工したし。

「さーて、ファーマシー頑張りますか」

鼻歌を歌いながら聖職者は空を見上げた。開け放たれた外には光が降り注ぐ。





ああ、今日もいい天気。