この文章は、某団体の某印刷物用に書いたWordのファイルに加筆修正を加え、HTMLに変換したものです。
フォントサイズが違ったり画像の位置がまちまちだったりするのはWordの変換のせいということにさせてください。
「Goluah!!」が流行らない理由
1.
はじめに
Goluah!!とは、Windowsで動くフリーの格闘ゲームです。
そのままタイプすると「ごぅあh」となりますが、読み方は「ごるあ」です。
アペンドファイルの作成が可能なため、ステージやBGM、キャラクターなどを自由に追加することができます。
M.U.G.E.NやKFXの類似品みたいなものです。
このゲーム、実は最初の公開時からかれこれ10年以上続いているのですが、プレイヤーが全然いません。
ということで、「このゲームを流行らせるにはどうすれば」という発想を逆転させ、「なぜこのゲームは流行らないのか」について考えます。
ぜひ検索してDLして遊んでみてください。これ読んでる暇あったら。
2.
製品ライフサイクルで現状を把握する
まず現状を把握するために、製品ライフサイクルについて考えることにします。
製品ライフサイクルとは何かというと、
「製品というのは 導入期→成長期→成熟期→衰退期 の4段階に分けられる」
という物事の仕組み、よくあるパターンのことです。
例)一発屋芸人
導入期:あの芸人がなかなか面白い奴らしい。ギャラ安いし起用してみよう
成長期:急速に流行、あちこちで引っ張りダコに。先を見据えて新ギャグも投入
成熟期:徐々に飽きられる。新ギャグでも苦しくなりキャラを変えて粘る
衰退期:あの人は今
さて、これをgoluahに当てはめるとどうなるのか?
ここでgoluahの歴史を簡単に振り返ってみましょう。
2001年12月:初公開。完成度は低く、ゲージ技も投げもなかった
〜2003年2月:頻繁にバージョンアップ。格ゲーの要素をひと通り搭載
〜2004年4月:仕様がほぼ固まる。更新の内容はバグ取りがメインに
2004年5月:Ver.1.00(完成版)公開とともに製作者引退。有志(1名)が引き継ぐ
2010年11月:やっと別の有志が現れたので前述の有志も引退宣言
2013年現在:数人が週末にチャットしてる
どう見ても衰退期です。本当にありがとうございました。
商品の場合は衰退期に入ったらもう諦めて新商品開発に取り組むのが普通ですが、そういうわけにもいかないのでこのまま分析を続けます。
3.
コンセプトが悪い
いきなりもう全否定するようでアレなんですが…
先述の通りgoluahはアペンドファイルが誰にでも作れます。しかし、だからといって何でも作っていいのかというとそうではありません。
キャラクターを作成するときに明文化されていないコンセプト、暗黙の了解が1つだけあるのです。
「追加キャラクターはAA(アスキーアート)をもとにすること」
この縛りのもと多くのアペンド制作者(通称「職人」)が様々なAAを参戦させました。
モナーやギコ、しぃといった有名どころはもちろん、調べても詳細がよくわからないAAやgoluah発のオリジナルのAAまで、その数なんと約150体。
goluahは2chのモナー板のスレッド(通称「本スレ」)で発表されたということもあり、この不文律は自然にでき上がりました[要出典]。
プレイヤーからすれば制作者の好みがはっきり出るオリキャラよりも設定が固まっている既存のAAの方が親しみやすく、
また職人からすればオリキャラを考えるよりも既存のAAを使う方が楽、敷居が低かったのです。
AAが好きな人が集まる板で発展したのですから、当然でしょう。
しかし、時代は変わるものです。長年続いたモナー板の時代もついに終わりを迎え、ニュー速VIPが2chの代表板となりました。
多くの人がモナー板を去った結果、モナー板にあったgoluahの本スレを見る人も激減したのです。新規ユーザーが増えなくなりました。
そして、この後AA界に発生した大革命により、goluahはまた違う方向からダメージを負ってしまいました。
ではそのAA界の大革命とは一体何なのか?
やる夫が誕生したのです。
AAが誕生する事自体は別に大したことではありません。自然淘汰されますし。
厳密には、やる夫が受け入れられ、普及したことが大革命なのです。
百聞は一見にしかず。ということで、モナーとやる夫を並べてみました。
どうでしょうか?喜びのようなものを感じられたのではないでしょうか。
しかし、どちらもモナーの通常のAAと表情は変わっていません(2つ目のAAは厳密にはモナーではないのですが)。
この喜びは、動きとセリフとトーンで表されています。
全身で感情を表現してきた旧型。これに対し、新型は違う方法を選びました。
「基本的に顔だけ」「顔が大きい」という特徴を活かし、旧型では困難だった表情だけでの表現をメインとしたのです。
これだけ多彩な表情をモナー系AAで作れるでしょうか?(反語形)
そしてやる夫系AAも、体を使って表現することができます。やる夫自体は顔しかありませんが、他の大型AAからパーツを流用することで様々な手足が作れます。
サイズの問題を除けば、表現の幅に関しては完全にモナー系AAの上位互換品となりました。
小型で基本的に無表情であることを強いられているモナー系に替わり、大型で自由自在に表情を変えられるやる夫系が普及したというのは大革命なのです。
従来の大型AAは一発ネタがメインで、モナーのように喜怒哀楽を表現し、かつ動きが出せるほどバリエーションがあるものはありませんでした。
そして個性的なものが多かったため、他の大型AAと組み合わせてバリエーションを作ることも困難でした。
しかしやる夫は大型なのに無個性、一般的でした。確かに多少ムカつく表情をしていますがそこまでアクは強くありませんし、形もとてもシンプルです。
また個性が出やすい手足や衣服については、顔しかないことが好転し存在ごとスルーできています。
このおかげで他の個性的な大型AAとの組み合わせが簡単にでき、様々なバリエーションが生み出されました。
モナーもやる夫もいわばAAの素体でs…そろそろ話を戻しましょう。
この変化、goluahに大打撃を与えました。
やる夫が普及した影響からか、最近のAAのサイズは大型が主流となりました。
そして上の方でも少し触れましたが、大型AAというのはその多くにおいて全身を描いた立ちAAが存在しません。
…全身が描かれてないんですよ?
いくら表情が多種多様に存在していても、顔しかないのでは相手を殴れません。というか、そもそも移動すらできません。
最近のAAは格闘ゲームとの相性が最悪なのです。
フリーダムなアイディアを上手くまとめられれば某ゆっくりのようにうまいこと参戦できるかもしれませんが、それができる人はほとんどいません。
その結果、最近流行っているAAをキャラクター化して「○○を格ゲーに入れてみた」的な
スレや動画を作成して新規ユーザーを開拓する、ということが事実上不可能になったのです。
大型AAによる悲劇はこれだけではありません。
新キャラクターを作成するときの選択肢が増えなくなったのです。
キャラクター職人だって別に金や名誉が貰えるわけではありません。
それでもAAをキャラクター化する、その動機としては「そのAAが好きだから」というのが一番でしょう。
キャラクター化すること自体が好きでやっている人は多分いません。
しかし、goluahも14年目です。めぼしいAAはもう全てキャラクター化されており、残っているのは数だけは潤沢なニッチなAAばかり。
AAの文化が変化し格闘ゲームには不向きなAAが主流となったことで、新キャラクターを作ろうにもネタがなくなったのです。
こうして、やる夫の台頭の影でgoluahは息の根を止められました。
分析はこれぐらいで十分でしょう。ここからは対策について考えます。
といっても答えは単純明快。キャラクターをAAに限定しているせいでキャラクターがネタ切れになっているのですから、その限定を解除してしまえばよいのです。
M.U.G.E.NやKFXと同様に人間キャラを制作することを認めましょう。
権利的にグレーなキャラクター移植が行われるかもしれませんが、人気再燃するならそれぐらいへっちゃらです。
M.U.G.E.Nとかグレーどころか超ブラックなのに未だになんの動きもないし。
もともとこれは暗黙の了解です。破ろうとした人を批判する声が多少あったためにこうなっていったのです。
しかし幸か不幸か、ユーザー数が少ない今のgoluah界には批判する人がいません。
もうこの暗黙の了解は消滅しかけているのです。
とはいえ、実際そのようなキャラクターが公開されたときに批判が絶対に来ないとは思えません。
権利関係がクリアなのもgoluahの特徴ですし、少なくとも疑問を持つ人は現れるでしょう。
4.
デザインが悪い
goluahのゲームシステムは成熟しています。もし足りない要素があったとしても、大半はキャラクター側で実装できます。
しかし、デザインに全く気を使っていません。一応要素は全て揃っていますが、そのクオリティーは酷いです。いくらフリーゲームとはいえ。
以下に実際のスクリーンショットを並べてみました。
タイトル画面
まずタイトル画面ですが、全体的に白・青系の色で構成されており、格闘ゲームの「興奮」とか「戦い」とかそういった要素が見られません。むしろ冷めてしまいます。
フォントは読みやすいといえば読みやすいですが、色も単色ですし何か無機質な感じと言うか、「とりあえず読めればいいや」感がします。初代スト2より地味です。
また、この画面の背景画像は自由に変えることができるのですが、STORY〜MOVIEまでの文字の位置が微妙なため、変えることはないでしょう。
この背景に対してはこの位置が確かにベストですが、この位置ではカスタマイズ性を活かせません。
戦闘画面
次に戦闘画面ですが、まずとにかくキャラクターが小さすぎます。こんなにコンパクトではキャラクターが印象に残りません。
龍虎の拳ぐらいまでやれとはいいませんが、2倍に拡大してもいいと思います。
2段ジャンプ持ちのキャラでも上端まで使い切れないのに、こんなに上部を空けておく必要はありません。
これが引き金となり、ほかのところにも影響が出ています。
上部左右の顔アイコンと体力バーが小さく感じます。格闘ゲームの体力バーというのは一瞬見ただけで把握、というか視界の隅に常にあるべきなんですが、
キャラクターが小さいせいで目線が下がってアウトオブ眼中です。最近は細めのが主流っぽいみたいですが、このゲームで今のバランスでは寂しさが増すだけです。
なお、体力バーは単独での問題点もあります。色がタイトル画面同様青系で、「命」を感じさせません。
自分が知っている限りでは最悪でも青緑ぐらいで、ここまで青いのは他にないと思います。
ダメージを受けたときの赤いゲージがとてもよく目立ちますが、そんなに強調するようなところではないでしょう。
円柱型に見えるようなテカりがあればまだ少しは…
タイムを表示する部分は横長の楕円ですが、間延びした感じがして引き締まりません。
そして地面。低すぎます。ただでさえ自機が小さいのに下端近くに配置されていることで、さらに小さく感じてしまいます。
低すぎて必殺技ゲージの太さも細くせざるを得なくなっていますし、せっかく実装されたキャラクターの影も必殺技ゲージに重なって隠れてしまい、よく見えなくなっています。
何もかも全体的に小さすぎます。そんなに背景が大事なゲームでしたっけこれ。
また、この画像1枚では分かりませんが、必殺技ゲージはMAXだと2枚の画像でアニメーションするようになっています。
それ自体は別に悪いことではないのですが、fpsが50→60に向上したときに速度調整がされなかったために単純に1.2倍速で切り替わっていて、とてもチカチカします。
何度でも言いますが、とにかくgoluahはデザインを軽視しています。
いかに意識が低いかを表すその最たるものが、このキャラクター選択画面でしょう。
右下になんて書いてあるか読めますか?
キャラセレ画面
ちなみに正解は「COM/Wait: std」です。
こんなにぐちゃぐちゃに表示されていたのにもかかわらず、この状態で9年以上放置されているのです。
ではなぜ放置されているのか?技術的に難しいから?面倒だから?
…なんと信じがたいことに、誰も気づかなかったのです。
いや、本当は気づいていたのかもしれません。しかし、「酷いことになってるよ」という報告が関係各所のどこにもないのです。
おそらく「これ酷いな、修正依頼…いやいや、この程度のことで作業を増やさせては申し訳ない」とみんな考えたのでしょう。
開発者を思いやる優しい心の持ち主がとても多かったようです。追加キャラクターのグラフィック叩くんならこういうとこも叩いていいと思うんですが。
格闘ゲーム界も成熟しました。ゲームシステムはもう完成しています。そして、今重視されているのはグラフィックです。
そんな時代に逆らってこのままデザインを軽視する姿勢を続けるようでは、どうあがいても絶望でしょう。
絵師不足の現状では改善は望めませんが、意識は変えなければなりません。
5.
おわりに
私は別に「goluahはクソゲーだ!止めとけ!」と言いたいわけではありません。
散々貶しましたが、最初に書いたとおりこれは「このゲームを流行らせるにはどうすれば」ということを分析するためにやった結果です。
このゲーム大好きだけど改善点がまだまだあるよね、ということです。
ボロクソに書きましたが、面白いのでぜひ一度プレイしてみてください。
…検索するだけでもいいんで。
6.
フォロー代わりの宣伝
「オープンソース」「格闘ゲーム」「日本人が作ってる(=ソースの解説文が日本語)」この3点を満たしているのって実はあんまりありません。
「ゲーム作りたい!プログラミングを学ぶぞ!」ってときに、殺風景なコマンドプロンプトで動くじゃんけんゲームを改造するところから始めるのも確かに大事ですけれども、
いきなりこれを土台にした方が多分楽しいと思います。飛び級したせいでメモリリークみたいな難題にいきなりぶち当たるかもしれませんが、
そういうことを早めに知っておくのも悪くはないんじゃないでしょうか。実際に自分でゲームを作るときに、バグについて予め強く意識できるようになると思います。
・Goluah本体
C++の知識必須。Visual StudioのProfessionalを使用することを推奨します。年度は2008以降なら多分どれでも可。推奨は2012。
この関数はPro専用だからこう置き換えて…ってのができるならExpressでも不可能ではないらしいです。DirectXを使っているのでSDKも必要です。
ソースはGitというバージョン管理に便利なシステムで管理されています。これは半自動で更新履歴が残るというすぐれものらしいです。
「Goluah開発に加わりたいけどProfessionalはお金かかるから持ってないわー、Professional有料だからなー」なんて思っていませんか?
DreamSparkというMicrosoftのサービスを利用すると、なんと無料で手に入ります。貰って損するのはHDDの容量だけなので、
とりあえず大学生なら在学している間にインストールしておきましょう。使うかどうかは各自のモチベーション次第。
・キャラクター(絵)
これは別にプログラミングな要素はありません。256色でBMPかPNGに描いてください。透明色の設定も忘れずに。
一応、絵に当たり判定や攻撃判定をつける作業がありますがこれもキーボードを打つ必要はなく、マウスで範囲をドラッグする程度の作業です。
動作しか組めない人に対して絵しか描けない人が不足しているので、絵か動作どちらか選ぶとしたら絵師を選んだ方が多分優遇されます。
・キャラクター(動作)
C++の知識が必要ですが、制作に便利なGoluah用関数がいくつも用意されているので純粋にC++で書くのは一部だけです。大切なのは知識ではなく、熱意と検索力です。
コンパイラはDLLファイルが作れるならVisual
Studio以外でも可。Dream Sparkに頼れない人はBCCがおすすめ。
今となっては相当古いですが、作るときに設定が楽になります。他にもコンパイラはいろいろ存在していますが、この2つ以外を使ったという例は過去にありません。
M.U.G.E.NのようにTXTファイルで作れれば確かにハードルは低くなりますが、Goluahは手軽さより自由度を重要視しています。
DLLファイルを使うことによってC++を限界まで活用できるようにしているのです。
Goluahは2D格闘ゲームに見えますが、DirectXを使っていることもあって内部では3Dで処理しており、Z軸(奥行き)を設定できます。
そしてDirectXで3DといえばXファイル(否モルダー・スカリー)ですが、これも知識があれば読み込めます。
そう、Goluahでは技術的にはバーチャファイターのようなポリゴンで組んだキャラクターを動かすことができるのです。
まだ実用化はされてないので、あくまで技術的には、の話ですが。
・ステージ
最低限でよければ画像を1枚用意するだけでもOKです。BMP、PNG、JPEG対応。
ハイレベルなことをしたい人のために、ステージもDLLファイルを使って絵を制御することができるようになっています。
多重スクロールやアニメーション程度なら既存のDLLファイルを流用できるので、負担は実質ゼロです。お気軽にどうぞ。
技術的制約がほとんどないので頑張ればスマブラ風のリングアウト制をステージ側で再現することもできるはず。
・BGM、SE
使う場所によって読み込める形式が違ったりしますが、基本的にWAV、MP3、MIDIファイルに対応しています。
最近流行ると思ったけどあんまり普及してないOGGファイルは読み込めません。
・ストーリー
格ゲーで一人用モードと言えば「ひたすらCPUと連戦」という印象があるかもしれませんが、Goluahでは紙芝居と選択肢を付けることができます。
これはTXTファイルで作成できるので、誰でも簡単に作れます。